ツルハシvsツルハシ
開けた場所からさらに下りる道を進んでいると、さっきの石の人形が現れた。
ただ、その人形はツルハシを持っていた。
3本の指で支えるのではなく、どういう原理かはわからないけど、石にピッタリとくっ付いてるね。
その人形は僕たちに気づいていないので、一生懸命壁に向けてツルハシを振り下ろしていた。
もしかして自分の体の一部になる石を掘ってたりするのかな。
いや、自力調達はないか。
そうなると仲間を作るためとか?
これはありそうだね。
モンスターがどういう原理で生まれるのかわからないけど、たぶん魔力が多いところの生き物がモンスターになったりするんだと思う。
そうなると、この道を下った先には魔力が溜まってて、モンスターがたくさん居る可能性があるよね。
石の人形ばかりだと楽なんだけどね。
モンスターにはそれぞれ弱点や戦い方があるから、石の人形の腕は積極的に奪っていくつもりだ。
一方的に攻撃できるからね。
そしてそれは目の前のツルハシを持った石の人形も同じ。
向こうはこっちに気づいていないので、一方的に攻めることができる。
「僕がやるね」
「はい。お任せします」
「繰り糸」
ミヤビちゃんに一言伝えてから、石の人形の右手に向けて糸を放つ。
問題なくくっ付いたんだけど、光が覆ったのは右腕だけじゃなくて体全体だった。
つまり、さっき腕だけ奪えたのは体から離れてたからだね。
もしかしたら部分ごとで分離できるかと思ってたんだけど、そうじゃないみたい。
ということは攻撃して腕を飛ばさないと一方的に攻撃はできないってことか。
普通のプレイヤーなら。
「繰り糸」
ハピネスを地面に置いて糸を繋ぐ。
もちろんツルハシは持ったままだよ。
ツルハシを持った石の人形と、同じくツルハシを持ったハピネスが対峙した……けど、両方操作してるのは僕なので、ハピネスの一方的な攻撃になるだけだ。
なので、ハピネスのツルハシで石の人形の手足を狙って攻撃してみると、HPが1割ほど減るダメージを受けた時点でその部位が取れることがわかった。
次はどこが本体なのか探ろうと思う。
取れた腕を攻撃してもHPは減らなかったので、取れて居る間はモンスターの体扱いじゃないみたいだし。
両手両足をツルハシで攻撃して分離させ、体と頭だけになった。
右腕を切り離した時に繰り糸が切れた時は慌てて付け直したよ。
分離する敵は意外とやっかいかもしれないね。
残った体と頭をつなぐ部分に石はなく、不思議な力でくっ付いてる感じだった。
なので、隙間を狙ってツルハシを振り下ろしたんだけど、分離することなくHPバーが砕け散って他のパーツと一緒に光になって消えた。
ただ、なぜかツルハシは消えずに残っていた。
放置するわけにもいかないので拾ってみると光になったのでアイテムバッグを確認すると、雑貨屋で買ったツルハシとは別にツルハシのアイコンが増えていた。
どうやら耐久値が違うらしい。
試しにハピネスが持っているツルハシをアイテムバッグに入れてみると、今ある2つとは別のアイコンになった。
やっぱり耐久値が違うからだね。
耐久値のある物は、耐久値によって別々になるんだね。
採取をするときは耐久値が減った道具の分余裕を持たせないとダメだね。
「さすがオキナさん。強いですね」
「ありがとう。でも、囲まれたら対処できないと思うよ」
繰り糸で動きを制限できるのは1体につき1本必要だから、ハピネスを動かしながらだと2体が限界だからね。
その2体を盾に使ってもいいかもしれないけど、それをするぐらいならクローバーとアザレアを出した方がいいと思う。
それでもうまく戦える自信はないけどね。
その点ミヤビちゃんは1人で3人分の動きになるから、操作しないぶん僕より集団戦に向いてるんじゃないかな。
シロツキとトバリがどう戦うかによりそうだけど。
最悪大きくするっていう手段があるし。
そのまま道なりに進んでいると採掘ポイントが2箇所あった。
そこを掘ったら僕とミヤビちゃんの持ってる鉄鉱石の数が5個になったからクエストクリアできるんだけど、探索を続けることにした。
探索がメインだからクエストクリアはついでだよ。
鉄鉱石が5個になってから少し進むと、ツルハシを持った石の人形が3体いた。
3体とも一心不乱に掘ってるんだけど、動きはゆっくりだね。
やっぱり体が重いからかな。
その分力強く見えるけど。
「どうする?」
「えっと、私が1体で、オキナさんが2体でいいですか?道が狭いのでシロツキちゃん達のブレスは使いづらいので、突くしかできそうにないです」
「わかった。一体を糸で動けなくして、その間にもう一体を倒すね。その後は同期操作でハピネスに意識を移して戦うよ」
「わかりました」
「じゃあ、ミヤビちゃんが出たら僕も攻撃するから」
「はい。行ってきます」
ミヤビちゃんが飛び出し、その後を追うように地を駆けるシロツキとトバリ。
通路だから飛びづらいんだよね。
「繰り糸」
糸を3本出す。
一本はハピネスに、もう2本はミヤビちゃんが向かわなかった方の石の人形に放った。
ミヤビちゃんの出現で動きが止まった石の人形なので、簡単に当てることができた。
そして、ミヤビちゃんが1体と戦い出したのを横目に見て、ハピネスの持つツルハシで動けない一体をボコボコにして倒した。
「同期操作」
一瞬の明滅の後、ハピネスの体に意識が移った。
職業クエストも進めないとね。
糸で動けなくなっていた石の人形は、同期操作を使ったと同時に糸が切れたせいで動けるようになっていた。
ツルハシを持って僕の体の方に向かおうとしていたので、慌てて割って入る。
いきなり出てきたことで驚いたのか、一瞬動きが止まったけど、即座にツルハシを振りかぶり、攻撃してきた。
ハピネスの体から見る石の人形は、身長もほとんど同じで、動きもそこまで遅く感じなかった。
と言ってもハピネスの性能が高すぎるせいで簡単に避けられたけどね。
向こうもツルハシを持ってるし、こっちも持ってるので、機巧を使わずにツルハシで戦おうと思う。
ツルハシを掻い潜って右手で切りつけるのが怖いのもある。
石の人形がツルハシを腰だめに持って近づいてきて、手に持ったツルハシを横に振ってきた。
その攻撃を予測していたので、慌てず避ける。
そしてお返しに僕も横に振った。
石の人形は避けることもできずに、振り抜いた体勢でツルハシを受けた。
バランスを崩しつつも今度は逆方向にツルハシを振ってきたので、ツルハシの腹の部分で受ける。
先じゃなくて腹を受けたよ。
ツルハシを縦に構えているだけで横の攻撃を防げるし、横に構えたら縦の攻撃を防げる。
意外と使えるね。
何度か打ち合った後、いい感じに石の人形の体に当たった。
体だったのでパーツは取れなかったけど、バランスを崩したのかツルハシを手放している。
ツルハシ対決は終了かな。
転ぶことなく体勢を立て直した石の人形は、落としたツルハシには目もくれず向かってきた。
なので足を狙って横に振る。
ツルハシの先が足に直撃したので左足が吹き飛び、地面に倒れた。
背中を上に向けている隙だらけな格好なので、両腕と右足もツルハシで切り離した。
後は体に向けてツルハシを振り下ろし続けるだけだ。
ガッガッと振り下ろしていると、HPバーが砕け散った。
そして残されたツルハシ。
同期操作を終了して、ツルハシとハピネスを拾う。
ミヤビちゃんの方も問題なく倒せたみたいで、ツルハシを拾っていた。
このツルハシはなんなんだろうね。
昔ここで働いてた鉱夫が置いていったのかな。
「終わりました」
「お疲れ様。どうだった?」
「やっぱり狭いので戦いづらいですね。シロツキちゃんとトバリちゃんは壁を伝って移動してくれたのでうまく戦ってくれました」
「へー。壁を伝えるんだ」
「きゅ」
狭い通路だと戦いにくいらしい。
槍だから仕方ないよね。
シロツキとトバリは壁を伝えるらしくて、それに感心しているとシロツキが見せてくれた。
爪で岩を掴んで移動しているね。
岩選びがうまいのか、結構な速さで移動しているよ。
これならミヤビちゃんが盾を構えていても、天井や壁を伝って相手の後ろに回れるね。
僕もハピネスを向こう側に投げて背後を取ろうかな。
「あ。あそこに発掘ポイントがあります」
洞窟内での戦い方を考えていると、ミヤビちゃんが壁を指差していた。
そこは3体の石の人形が掘っていた場所で、剥がれた壁から小さな黒い塊が見えていた。
もしかしてさっきの1体が掘ってた場所も発掘ポイントだったのかな。
倒した後軽く確認したけどそれっぽいのは見えなかったんだよね。
もっと掘れば出てきたのかもしれないけど。
そして、石の人形は発掘ポイントを出してくれる益モンスターなのかもしれない。
今後は倒さず様子を見た方がいいのかな。
偶然かもしれないから軽く様子を見てから倒すけどね。
「掘りましょう」
「そうだね」
ミヤビちゃんが掘った後、僕もハピネスを使って掘る。
するとツルハシが砕け散って光になった。
耐久値が0になったのか……。
ミヤビちゃんの方は壊れてないけど、ハピネスのは攻撃にも使ったからね。
その分早く減ったんだと思う。
アイテムバッグから石の人形が持っていたツルハシを取り出してハピネスに掘らせる。
早速役に立ったよ。
ツルハシ持ちは、ここにツルハシを持ってきていない人の救済モンスターです。
決して鉱山で死んだ人の魂が宿ってるとかではありません。