9人と2頭と4体VSテンペストバード(幼)
なぜかレイドバトルに参加しているナックルはとてもいい笑顔で、右ストレートを放った体勢を崩して僕の方に歩いてきた。
そしてナックルの後を付いてくる赤鬼さん。
ミヤビちゃんは即座に僕の後ろに隠れた。
しかも盾を構えてるよ。
「俺は北の森から街へと帰る途中だったんだけどさ、まさかここでオキナに会うとは思ってなかったわ。それにレイドバトル中だし。参戦してもいいよな?」
「え?あ、うん。よろしく」
「おぅ!任せとけ」
ナックルは嬉しそうに笑うと、赤鬼さん引き連れてテンペストバードに向かった。
どうやらナックルは、崖の先に広がる森に行ってたらしい。
そこに何が居るのかはわからないけど、ナックルが向かうぐらいなんだから結構強いモンスターが居そうだね。
ナックルがどれくらい強いのかわからないけど、テンペストバードを殴って吹っ飛ばせるくらいなんだから、期待してもいいよね。
さっきの6人パーティは強いのかどうかよくわからないし。
もう少し様子を見た方がいいかな。
「あの、オキナさん。さ、さっきの怖い人は、その、お知り合いですか?」
「そうだよ。学校での友達だけど……怖かった?」
「はぃ……その、トゲトゲのグローブで、真っ赤な服ですし、後ろに、その、鬼が……」
「あぁ……なるほど……」
僕から見ても大きくて威圧感のある赤鬼さんだから、僕より小さいミヤビちゃんからするともっと感じるんだろうね。
角があって口から牙が出てるし、顔の作りもゴツゴツしてて厳ついから怖い。
肌は真っ赤だしね。
更に、その赤鬼さんを従えるナックルも服は真っ赤だし、両手は棘の生えたグローブを着けてる。
しかも、現れ方がテンペストバードを殴り飛ばすというインパクトのある方法だったから、ミヤビちゃんも驚いていたし、それが警戒に変わったんだと思う。
「大丈夫だよ。いざとなったらナックルに後を任せて逃げよう」
「え?そ、そんなことをして大丈夫何ですか?」
「ナックルなら『任せろ』って言ってくれるよ」
「わ、わかりました」
ナックルは戦うのが好きなんだから、強敵との戦いは楽しんでくれるよ。
きっと。
もし逃げるとしても、ちゃんと言ってから逃げるし!
「そろそろ僕たちも戦おうか!」
「は、はい!」
テンペストバードに向かっていったナックルは、空を飛ばれたせいで攻撃できていないし、赤鬼さんもドスンドスンと飛び跳ねてテンペストバードを掴もうとしてるけど、全く届いていない。
6人パーティはメイスの人が包丁の人に回復魔法を使ってて、すでに回復が済んだ剣の人と銀太郎さんがテンペストバードに向かって行くところだった。
弓の人と杖の人はポーションを飲んでたから、自分で回復したんだろうね。
まぁ、風を纏ってる状態だと攻撃する手段がなさそうな2人だから、ゆっくり回復すればいいんじゃないかな。
攻撃する手段がないのは僕も同じなんだけどね。
ミヤビちゃんはシロツキを呼んで、その背中に飛び乗った。
空中戦ができる唯一の戦力がミヤビちゃんだから、僕はそのアシストとしてテンペストバードのバランスを崩すことに専念しよう。
「ボール!」
アザレアで光の玉を出しながら呪いも放つ。
合わせてクローバーでパチンコを石を連続で打ち出してみた。
ハピネスは待機だよ。
テンペストバードは石と光の玉を避けずに纏った風で弾いた。
呪いの黒い玉も弾くつもりだったのか、滞空したままだったんだけど、なぜか弾かれることなく直撃した。
しかも、先の2発は何も発動しなかったんだけど、今回は何か発動したみたいだ。
それが何かはわからないけど、テンペストバードが纏っていた風が消えて黒いモヤが出てきた。
何だろう。
魔法を封じる呪いかな?
「オキナ!ナイス!」
「ガァ!」
「えぇ?!」
ナックルを見ると空を飛んでいた。
背後には左手を振り抜いた赤鬼さんがいるので、おそらくナックルを手に持って投げたんだと思う。
多分、僕とミヤビちゃんが話してる時も試して纏っていた風に邪魔されたから様子見してたんだろうね。
風が消えたことで再挑戦できるから喜んでるんだと思う。
全部予想だけど。
「シッ!シャァ!」
「ピギャァ!」
「はぁ?!」
ナックルはテンペストバードの前まで飛ぶと、空中で両足を広げて一瞬立った。
そしてワンツーをテンペストバードの顔に放つと、落下を始めた。
空中に一瞬立てるスキルなんてあるんだ……。
殴られたテンペストバードは、その勢いのまま地面に背中から落ちた。
そこを狙ってハピネスを投げ、クローバーを投げた。
左右同時に投げられたらいいんだけど、いくら振り回した勢いで飛ばすとはいえ難しいんだよね。
ハピネスよりも早くナックルがテンペストバードの元にたどり着き、ステップを踏みながら左右のラッシュで攻撃し始めた。
その次には赤鬼さんが来たので、投げたすぐに移動してたんだと思う。
赤鬼さんはナックルとは違いステップを使わず、一発ごとに力強く殴っている。
スピード型とパワー型だね。
ナックルと赤鬼さんが殴り出してちょっとしたらハピネスも着いたので、着地の勢いを利用してテンペストバードに右手の剣を勢いよく刺す。
そして左手から炎も出す。
直火焼きだ!
遅れてクローバーがたどり着いたので、慈愛と救済の右手でHPを吸収してMPを回復する。
好奇心で安らぎと苦痛の左手を使って状態異常をチャージしたくなったけど、それをすると纏っていた風が復活して攻撃できなくなるかもしれないから、何とか踏みとどまれた。
「やぁ〜!」
「きゅ!」
「キュウ!」
空からはシロツキに乗ったミヤビちゃんが突撃してきて、テンペストバードのお腹をすれ違いざまに攻撃していった。
シロツキは尻尾をビタンと叩きつけ、トバリは喉元に噛み付き、ガジガジしている。
僕もアザレアで攻撃しないと。
「ランス!ランス!ランス!」
アザレアで光の槍を人が居ないところに放ちながら、呪いも使う。
ちょっと距離があるからボールじゃなくてランスを選択したけど、それは当たりだったかもしれない。
6人パーティの剣の人と銀太郎さんがたどり着いて攻撃を始めたぐらいで、テンペストバードが起き上がって飛ぼうとした瞬間にアザレアのランスが当たった。
多分ボールだと間に合わなかったよね。
アザレアのランスが当たる時に赤いランスも飛んできていた。
杖の人のランスだと思うけど、それも当たり矢も何本か刺さっていた。
向こうも積極的に攻撃してるね。
包丁の人は相変わらずメイスの人の前で中華鍋を構えてるけど。
魔法が途切れた瞬間にテンペストバードはトバリを振り落として飛び上がった。
黒いモヤはだいぶ薄まっていたので、そろそろ風が復活するかと思っていたら、テンペストバードの緑の羽に赤い筋が現れた。
「ギュアアアアアアアアアアアア!!!」
テンペストバードが1鳴きすると、アザレアが呪いで与えていた黒いモヤが吹き飛び、再び風を纏うだけでなく、翼を竜巻が覆った。
よく見るとHPバーがほぼ全快になっていて、控えのバーが1つ減っていた。
1本分減らしたことで、第2形態になったってことかな?
テンペストバードは竜巻を纏った翼を羽ばたかせ、その竜巻を放ってきた。
「うぉぉぉ?!」
「ガァァ!!」
竜巻は水平に飛んできて、直撃を受けたナックルと赤鬼さんが飲み込まれた。
その竜巻は地面をえぐり、岩にぶつかると消えた。
そして残されたナックルと赤鬼さん。
2人のHPは2割を切っていた。
「ピィイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!」
テンペストバードは再度翼に竜巻を纏い、今度は地面に叩きつけるように放った。
竜巻は地面にぶつかった後も消えることなくその場に残り、周囲を切り刻みながら徐々に移動している。
切ってるのは竜巻内部にある緑の風だった。
とりあえずハピネス達を手元に戻して様子を見ると、銀太郎さんが竜巻に飲まれて吹き飛ばされたところだった。
ステータスプレートを見るとHPは0になっていて、プレートもグレーだった。
銀太郎さんは戦闘不能になったってことだと思う。
前衛職でこうなら僕も一瞬で戦闘不能になるよね。
そろそろ逃げることを考えないとダメかもしれない。
テンペストバードが竜巻の数を4つに増やしてるし、ミヤビちゃんも竜巻のせいで近づけない。
どうにかして近づいたとしても、体に纏った風で逸らされて、大したダメージを与えられないはずだし。
あの竜巻をどうにかしないとダメだけど、まずはナックルの回復だ。
クローバーをナックルに向けて投げた。
このメンバーでの最大火力はシロツキとトバリのマーブルブレスです。