昇り竜
山頂は大きく開けていた。
遠足なんかで登った時にお弁当を食べる場所として使えそうなぐらいだ。
周囲には6人ぐらいが入れそうなん山小屋と岩がゴロゴロしているぐらいで、見える景色もそこまで遠くは見えない。
南は街と森と海が見える程度で、東は森、西は草原で、北は崖になってると思うんだけどここからは見えない。
そんな広場だけど戦闘があったのか、地面は抉れ、転がっている岩は削られ、山小屋にも穴が空いていた。
地面にもヒビが入ってるし、殴ったような拳っぽい跡もある。
どんな戦闘をすればこうなるんだろう。
というか、ここに来て大丈夫なのかな。
こんな戦闘をした何かがいるかもしれないよね。
「す、すごいですね」
「そうだね」
周囲を見回していると同じようにしていたミヤビちゃんと目があった。
僕は山小屋と北側に用事があって、ミヤビちゃんは山頂に用事があるんだけど、果たしてこのまま進んでいいんだろうか。
「ミヤビちゃん。シロツキかトバリに頼んで、この辺一帯を上から見てもらえるかな?」
「えっと、わかりました。た、頼んでみます。トバリちゃんお願い」
「キュ!」
トバリが飛び上がり、山頂を周囲から見てくれた。
これで何かがいればわかるよね。
いきなり現れるとしたら別だけど。
「キュウ」
「トバリちゃんありがとう」
トバリがミヤビちゃんの元に戻ってきて1鳴きして、ミヤビちゃんがお礼で返した。
シロツキやトバリと会話できるのは竜騎士の力なんだろうね。
本当に会話してるのか、ニュアンスなのかはわからないけど。
「えっと、6人居るらしいですけど、も、モンスターは居ないみたいです。あと、トバリちゃんは、見つかってないです」
「ありがとう」
ミヤビちゃんは人数を伝える時に少し顔が強張った。
多分PK集団を思い出したんだろうね。
モンスターも居ないらしいし、トバリも見つかってないみたいだし、ここで待っててもらって僕だけで行ったほうがいいよね。
念のためハピネスは収納しておこう。
「人形の館。ハピネス収納。人形の館。一旦僕だけで行ってみるよ。危なくなったらシロツキとトバリにブレスを吐かせてくれる?僕に当たってもダメージは受けないから」
「え?ひ、1人で大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。もしPK集団だとしても2人は操れるし、その2人を盾にすればいいからね」
「わ、わかりました。ここで待ってます」
「よろしくね」
ミヤビちゃんを置いて広場を進んでいく。
山小屋を通り過ぎて岩に囲まれたところに出たけど、そこには誰も居なかった。
しまった。
どこに居るか聞いてなかったよ。
さらに奥へと進み、崖が見えたところで6人組を見つけた。
6人は崖から先に広がる森の方を指差して何かを話している。
パーティだね。
「ん?あ、どうも。ソロでここまで来たんですか?」
1人の男が僕に気づいたみたいで振り返って聞いてきた。
残りのメンバーも僕に気づいたけど、特に武器を構えるようなことはない。
さて、どう答えようかな。
もしもPKだったら1人って言えば襲って来そうだけど、2人って言えばもう1人はどこか聞かれるよね。
そうなると……。
「はい。1人でなんとか登ってこれました」
「おぉ!そうなんですか!イタズラモンキーの作る落とし穴は大変だったのでは?1人だと上がりづらいものもありますし」
「そうですね。ガッチリはまった時は焦りましたけど、装備を解除すれば余裕ができたので何とか抜け出せましたよ」
ミヤビちゃんの話だけどね。
「あー。ウチのパーティもがっつりハマった奴がいますよ」
「おぃ!言わないでくれよ!」
こっちを見ていた別の男性が大げさに動きながら、おどけた調子で言うと、周りのメンバーが笑った。
今のところPKっぽくはないね。
「それで君はは何しにここへ?」
「僕は山小屋の調査クエストを受けたので来たんですよ。その前に周囲を確認しようとしたら皆さんを見つけたんです」
「なるほど。1人だったので実力のあるPKかと思っていましたが違うようですね」
「違いますね。皆さんはここで何をされてるんですか?」
僕がこの人達をPKかもしれないと疑うように、この人達も僕のことをPKと疑ってたんだね。
そして今も払拭できたわけじゃないと。
PKじゃない証明って名前以外にあるのかな。
「俺たちはこの後ここから見える森に行くつもりなんです。それで、東と西にある登山道を使わずに降りる方法がないかと思って崖を見てました」
「なるほど。ショートカットしようとしてるんですね」
「はい。まぁそれも無理そうですけどね」
チラッと崖を見たけど覗き込んだわけじゃないからわからない。
少なくとも登山道はないね。
「あ、そう言えば南側に戦闘の跡があるんですけど、あれの理由はご存知ですか?」
「うーん。俺たちは知らないなぁ。ここに来てからモンスターには出会ってないですよ」
「そうですか。わかりました」
「うん。じゃあ、俺たちはそろそろ行くけど、君も気をつけてください」
「はい。それでは」
6人に背中を向けて山小屋に向けて歩き出す。
夜の闇に紛れてトバリが飛んでたから、安心して背中を見せれるよ。
その心配も無駄だったみたいだね。
軽く振り返ると6人組は西の草原側に向かって歩き始めたところだった。
「お待たせ。男だらけの普通のパーティだったよ」
「そ、そうですか。こっちも特に問題なかったです」
「それは良かった。じゃあ行こうか」
「は、はい」
ミヤビちゃんを連れて入った。
どっちかのクエストを進めることでモンスターが出て来たら困るし、1人ずつやったほうがいいよね。
「ミヤビちゃんの職業クエストを先にしてくれていいよ。僕のクエストは何をすればいいかよくわからないしね」
「え?あ、わ、わかりました。職業クエストは、ここから竜に乗って、雲より高く飛べばクリアです。MPにさえ気をつけていれば、で、できるはずです」
「高く飛べばいいんだ。あれ?そうなると、ここまで飛んで来ても良かったんじゃないの?」
「い、いえ。ここまでは歩いてくるのが条件です。戦う時に乗るのはいいんですけど、で、できるだけ歩くようにと、言われました」
「そうなんだ。戦闘訓練も兼ねているのかな?」
「か、かもしれないですね。では、そ、そろそろやります。シロツキちゃん!自由な翼!」
スキルを発動してシロツキが大きくなる。
戦闘時とは違って、シロツキが地面に伏せるようにして、ミヤビちゃんを乗せた。
「い、行ってきます」
「うん。気をつけてね」
「は、はい」
シロツキが大きく羽ばたいて飛び上がり、ミヤビちゃんの肩にトバリが乗る。
シロツキは周囲を旋回してスピードを上げると、首をも持ち上げてほぼ垂直に飛び上がった。
ミヤビちゃんは大丈夫なんだろうか。
垂直に上昇するってロケットと戦闘機ぐらいだよね。
程なくして、シロツキの白い体が見えなくなった。
途中から夜空に広がる星と見分けがつかなくなって見失ってたんだけどね。
さて、僕はどうしようかな。
ミヤビちゃんが戻ってくるまでに山小屋を調査できたらいいんだけど、正直何をすればいいのかよくわからないんだよね。
今のうちにクエスト内容を再確認しておこうかな。
『調査クエスト:山小屋調査
依頼者:冒険者協会
内容:北の山の頂上に建てた山小屋の様子を確認してください。
山小屋は1つしかないのですぐにわかるはずです。
報酬:2000ゴールド
状況:山小屋発見』
あれ?
状況が『山小屋発見』になってる。
受けた当初は『未調査』だったのに。
でも、これ調査完了になればクリアだろうから、何とかなりそうだね。
クエスト内容も、様子を確認してくれと書かれてるだけだから、壁が壊れてるとかそういうことを伝えればいいと思う。
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁ…………」
「ん?」
内容を確認したのでウィンドウを消してしばらく待っていると、ミヤビちゃんの悲鳴が上から聞こえてきた。
どうやら戻ってきたらしいけど、何で悲鳴をあげてるんだろう。
「うぅ…………ひどい目に……あいました……」
ミヤビちゃんは、着地したシロツキから降りると膝から崩れ落ち、シロツキは元のサイズに戻った。
「ど、どうしたの?空中で戦闘になったの?」
「い、いえ、違います。シロツキちゃんが横に、回転しながら、上昇したんです……。す、少し、目が回ってます」
「そ、そうなんだ」
まさに戦闘機だね。
アクロバット飛行の中に垂直に上昇しながらグルグル回転する技があったと思う。
トバリは平然とミヤビちゃんの肩に乗ってるけど、竜だから大丈夫なのかな。
とりあえず、落ち着くまでここにいてもらおうかな。
山小屋からも近いから、何かあればすぐに来れるし。
「休憩してていいよ。山小屋は僕が見ておくから」
「は、はい。ありがとうございます」
「じゃあ行ってくるね」
「が、頑張ってください」
僕はミヤビちゃんを置いて山小屋に向かった。
ご指摘いただき考えた結果、今話から後書きにステータスを載せません。
載せるのはステータス変動があった場合とします。
※レベルアップ、装備変更など
また、今後は受注クエスト状況を記載する予定ですが、それは土曜日から行う予定です。
また、以前から上がっていた人形一覧や設定などに関しては上期中に投稿する予定です。