岩虫タイヤ
意気揚々と休日出勤中
体をダンゴムシのように丸めて、坂道を転がりながらこっちに向かってくるロックワーム。
ダンゴムシみたいに綺麗に節が別れてないから、ゴツゴツとしたタイヤに見えなくもない。
「ど、ど、ど、どうしたら?!」
慌てるミヤビちゃん。
とりあえずあいつを止めよう。
「繰り糸!」
糸がくっつき回転が止まったロックワーム。
回転は止まっても勢いはそのままなので、地面をガリガリと削った。
でも、これでこっちには来ないからミヤビちゃんも落ち着けるかな。
「い、いっぱい来ます!!」
繰り糸を当てたロックワームが立てた音に反応したのか、新たに2匹がタイヤになってこっちに向かって来た。
とりあえずもう1匹を止めて、後の1匹はシロツキとトバリに任せよう」
「繰り糸!動いてる方にシロツキ達を向かわせて!」
「あ、え、し、シロツキちゃん!トバリちゃん!お、お願い!」
「きゅ!」
「キュゥ!」
ミヤビちゃんはシロツキとトバリに声をかけると、左手に持った盾の陰に隠れた。
攻撃したら中身が飛び出るわけじゃないんだけど、できるだけ見たくないんだろうね。
盾が大きいから完全に隠れれるけど、攻撃は完全にシロツキ達任せだ。
今までも詳細に命令してなかったけど。
「きゅうぅぅぅぅ!」
シロツキが飛び上がり、旋回して勢いをつけてロックワームの側面に飛び付き横倒しにした。
ロックワームは丸まったまま地面を削る。
「キュ……」
その上にトバリが勢いよく降り立ち、噛み付いた。
けど、硬かったのか、あるいは美味しくなかったのかはわからないけど、微妙な鳴き声を出してガジガジしている。
「きゅう!」
シロツキは僕が止めている1匹に飛びかかり、前足の爪で何度も引っ掻いていた。
減っていくHPバーを見ると、シロツキよりトバリの方がダメージを与えてた。
腕より口の方が強いのかステータスの差かはわからないけど、とりあえず追加のロックワームはないみたいだから、ハピネスで戦おうかな。
「後は任せたシロツキ!繰り糸!」
シロツキが引っ掻いているロックワームの糸を外してハピネスのに繋いだ。
シロツキは引っ掻く勢いを増して、ロックワームを動けないようにしている。
倒されるまで噛まれるのと引っ掻かれるのはどっちが楽なんだろう。
シロツキとトバリが抑えてるロックワームのHPは3割を切っているので、残りの1匹も早く倒そう。
どうせだし左手に炎を試してみようかな。
右手で切った場所は赤くなってたし、聞かないわけじゃないと思う。
「左手に炎」
左手を切り外しながらロックワームにハピネスを近づかせ、左手の銃口を向ける。
そして炎を噴射。
「ゴォォォォォ」という音を立てながら放たれる炎と、繰り糸のせいでそれを微動だにせず受けるロックワーム。
ただの拷問だね。
最初は全然減らなかったHPバーだけど、しばらく当てているうちにロックワームの体が赤くなり、それに合わせてHPバーの減りも早くなった。
溶け始めてる?
試しに近くにある石を赤くなってる所に投げてみたけど、「カン」という音を立てて地面に落ちた。
溶けてるわけではないみたいだね。
火傷みたいな状態異常になってるのかもしれないけど、詳細を調べる方法がないからわからない。
炎を当てて10秒ほどでロックワームのHPバーが砕け散った。
消費MP考えると切った方が早いことがわかった。
今後は切っていこう。
シロツキとトバリはすでに倒していたので、ミヤビちゃんが構える盾の横で待機していた。
飛べばこの先のロックワームに気づかれるかもしれないから、その判断はいいと思う。
たぶんミヤビちゃんを気にして集まっただけだろうけど。
シロツキは心配そうにミヤビちゃんをチラチラと見てるし、トバリはいつもより警戒してるのかキョロキョロする頻度が高い。
「さて、これからどうしようか。諦めて引き返してクエスト失敗にする?」
無理やり進んでゲームが楽しく無くなるのは避けたいし、そうなるとクエスト放棄しかない。
僕が1人で倒してきてもいいけど、ある程度近くにいないと倒した判定にならないはずだから、一緒に行くか放棄しかないんだよね。
「えっと、その、が、頑張って進みます。な、なので、戦闘は、お任せしても……い、いいですか?」
「いいよ。それじゃあ頑張って進もうか」
「は、はい」
そういえばミヤビちゃんは、頂上に行かないとダメなんだった。
引き返したとしても別ルートがあるかのかはわからないし、別ルートがあったとしてもロックワームがいないとは限らないから、頑張るのが正解なのかな。
来た道からだと登山道は今の道しか見えなかったし。
回り込めば別の道があるかもしれないけど。
「1匹ずつ倒していくね」
「お、お願いします」
ミヤビちゃんは盾から少しだけ顔を出して、前方を確認しながら進んでいる。
僕から見ると、盾が迫って来てるようにしか見えないんだけどね。
「繰り糸」
1匹だけ離れたところにいたので、糸をつけて引っ張る。
手前に来る勢いに合わせてハピネスに切らせてみたけど、HPは1/4も減ってない。
やっぱり硬いけど、何度も切ってロックワームを倒す。
「ひっ?!いやぁ!」
ミヤビちゃんの声が聞こえたかと同時に「ガンッ」という音がして、後ろからロックワームが飛んで来た。
慌てて振り向くと、左手に持った盾を振り抜いたまま固まっているミヤビちゃんがいた。
上からロックワームが落ちてきて、それを盾で弾いたんだと思う。
上には岩場が続いてるからそこにいてもおかしくないし、さらに上には道があるかもしれない。
そこからロックワームが落ちてきたのかな。
視線を吹き飛ばされたロックワームに戻すと、この先にある広場まで転がっていた。
そして運が悪いことに広場にいたロックワームの注意を引いてしまったみたいだ。
広場には飛んで来たロックワームの他に8匹のロックワームがいたので、合計で9匹のロックワームがこっちを見てる。
「あ、う、ご、ごめんなさい……」
「大丈夫だよ。落ち着いて戦おう」
「は、はい。ぶ、ぶよぶよしてなかったので、何とか戦えると思ういます……」
「無理しないでね」
「はぃ……」
ミヤビちゃんは戦えるって言ってるけど、期待はしないでおこう。
その代わりシロツキとトバリには期待するけどね。
ロックワームの数は9匹。
こっちは2人と2頭と最大2体。
6対9だけど、ミヤビちゃんを抜いて5対9。
何とかなりそうかな。
「人形の館。アザレア来い!繰り糸!」
ロックワームの動きを止めるより攻撃の手数を増やすべきなのでアザレアを出す。
弱点はわからないけど、風にしておこう。
「魔法少女の杖・風」
属性を変えたと同時に1番近いロックワームがタイヤ状に丸まり、こちらに転がりだした。
それに追従するように、残りのロックワーム達も順番に転がってきた。
「うぅ……シロツキちゃん!トバリちゃん!」
全力で盾を構えたミヤビちゃんが名前を呼ぶと、2頭が飛び上がりそれぞれ白と黒のブレスを吐いた。
ブレスは空中で合わさり、砂煙をあげながら地面を削り、ロックワームを飲み込んでいく。
岩を削る音が止み、煙が晴れると山道が大きく抉られていて、ロックワームが吹き飛ばされていた。
その数は3匹。
残りの6匹は見当たらないので、ブレスに直撃したんだと思う。
「きゅぅ……」
「キュ……」
シロツキとトバリはミヤビちゃんの近くに降り、力なく地に伏せた。
たぶんMP切れなんだと思う。
「シロツキちゃん、トバリちゃん、ありがとう」
「きゅ」
「キュ」
ミヤビちゃんのお礼に鳴いて答えるシロツキとトバリ。
ミヤビちゃんはアイテムバッグから、水皿とマナポーションを2つずつ取り出し、水皿にマナポーションを注いで2頭に与え始めた。
「お、オキナさん。の、残りをお願いしてもいいですか?」
「うん。任せて」
2頭のおかげで数が1/3になり、残りの3匹も少なくないダメージを受けてるからすぐに倒せそうだ。
「ボール!」
アザレアで風の玉を放ち、ハピネスを振り回して投げ込む。
起き上がったばかりのロックワームが風の玉で吹き飛ばされ、こちらに転がりだしたロックワームがハピネスのヤイバを受けて弾き飛ばされる。
「ランス!」
残りの1匹もこちらに転がってきていたので、風の槍で吹き飛ばす。
2匹が同じ場所に集まったので、そこにハピネスを向かわせて燃やす。
残りの1匹はアザレアで倒そう。
「ボール!」
風の玉を受けた1匹が光になって消え、少しして燃やされていた2匹も消えた。
シロツキとトバリのおかげで危なげなく倒せたよ。
僕の職業クエストは全然進んでないけどね。
ステータス(戦闘で消費)
※各種ステータスの()は防具の効果です
名前:オキナ
種族:人族
職業:人形使い☆5
Lv:6
HP:150/150
MP:337/760(10)
ST:67/115
STR:15
VIT:15
DEF:39(24)
MDF:150
DEX:325
AGI:15
INT:305(5)
LUK:50
ステータスポイント:残り20
スキル
〔繰り糸Lv:2〕〔人形の館Lv:2〕〔同期操作Lv:1〕〔工房Lv:2〕〔人形作成Lv:1〕〔自動行動Lv:1〕〔能力入力Lv:1〕〔自爆操作Lv:1〕〔〕
スキルスロット:空き1
スキルポイント:残り10
職業特性
通常生産系スキル成長度0.01倍
通常魔法使用不可
武器装備不可
重量級防具装備不可
装備
・武器1:装備できません
・武器2:装備できません
・頭:なし
・腕:アニマルグローブ
・体上:グリーンシャツ、ワイルドコート
・体下:ブラウンズボン
・足:ステップシューズ
・アクセサリー1:なし
・アクセサリー2:なし
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盾に隠れるミヤビちゃんは、某ドラゴンなRPGに登場する「シールドを持った小僧」みたいな感じになりました。
シールド娘ですね