人形の目線
しらたまに乗ったマサムネちゃんを先頭に、僕、しのぶさんの順で街に向かって歩いてる。
現れるブラックドッグは、マサムネちゃんが斬撃を飛ばして倒してる。
刀のスキルで飛刃というらしい。
「あ、座敷童子さんからメッセージだ。ちょっと待ってくださいね」
西門を出たところに広がる畑が見えた時、マサムネちゃんにメッセージが届いたみたいだ。
座敷童子さんからのメッセージ……。
部屋の隅っこからメッセージを送ってるのかな?
僕としのぶさんはしらたまの後ろにいるから、しらたまが止まれば僕たちも止まる。
僕は左右を、しのぶさんは背後の警戒する。
「オキナさんごめんなさい!用事ができたのでしのぶちゃんと先に行きますね!しのぶちゃん!乗って!」
「え?!はい!」
マサムネちゃんに言われてしらたまに飛び乗るしのぶちゃん。
無駄に高く飛び、ストッとしらたまの背中にのった。
「頑張ってね」
「オキナさんも頑張ってください!」
「突然のお願いを聞いてくださりありがとうございました〜〜〜〜〜!」
しのぶちゃんが言い切ると同時にしらたまが走り出したので、しのぶちゃんの声はドンドン遠くなっていったよ。
結局人形が見たかっただけなのかな。
さて、この後どうしようかな。
街はすぐそこだし、冒険者協会に行けばMP回復できるから、MPがギリギリになるまで練習してもいいと思うんだよね。
そして、どうせ練習するなら職業クエストの条件になっている同期操作の練習をしようかな。
確か、人形に意識を移して操作するスキルだったよね。
何となく想像つくんだけど、どうなるかわからないから、戦闘前に経験しておいたほうがいいと思うんだ。
というわけで早速。
「同期操作!」
ハピネスの背中をこちら側に向けて座らせ、そのハピネスに向けて手を突き出しながらスキルを使ってみた。
結果、手じゃなくて頭から何か出たと思ったら視界が真っ暗になった。
転移は真っ白で、同期操作は真っ暗なんだね。
「!」
うわっ!
びっくりした。
目を開けると、目の前に大きな草が生えていて、葉先が目の前にあったよ。
首を動かして自分の格好を見ると、赤いドレスになっていた。
どうやら同期操作は成功して、今の僕はハピネスになってるみたいだね。
頭から何かが出た時は焦ったけど、成功してよかった。
とりあえず立ち上がろう。
地面に手をついて立ち上がったんだけど、ドレスが邪魔で動きにくいよ……。
あと、今回は人形の館とは違って、説明はないらしい。
まぁハピネスだから武装はわかってるんだけど、使えるのかな?
それに、僕の体はどうなってるんだろう。
気になって振り向くと誰かが倒れてた。
といっても僕なんだけど、うつ伏せに倒れてるから死んでるのかと思ったよ。
使った瞬間に意識がハピネスに移ったから、僕の体は崩れ落ちるしか無いんだろうね。
今度からは座って使ったほうがいいね。
あと、今の僕の体は無防備だから、安全な場所かアザレアで拒絶の壁を使ってからにしようかな。
「!」
視界左上のHPバーを見ると【3000/3000】になっていて、その横に【115/140】という数値と小さいバーがあった。
確か、人形の耐久値がそのままHPになるはずだから、もう一個は僕の体のHPだね。
体のHPがわかるのは助かるよ。
攻撃された時にわかりやすいし。
MPは同期操作を使った時と同じだから、MPが増えることはなさそうだね。
ちなみにSTはない。
人形だからなんだろうね。
さて、これからしばらく動く練習をして、できれば1回ぐらいモンスターと戦っておきたいかな。
そのためには魔道具が使えるか確かめないといけないんだけど……。
「!」
右手に剣を!
右手首から先が外れて、赤い剣が飛び出してきた。
あれ?
もしかして声が出てない?
まぁいいか。
魔道具は名前を言わなくても使えるし、それはこの時のためなのかもしれないね。
落ちた右手を僕の体に横に置いて周囲を見回してみた。
背が低いから、草が邪魔でほとんど見えないけどね。
右手を振って草を刈りながら周囲を動き回ってみた。
走る時の速度やジャンプの高さは、自分の体よりも速いし跳べた。
☆7相当のステータスを確認するためにメニューを呼び出そうとしても、何も出てこないからわからないんだけどね。
地面に横たわる体から少し離れて動かす練習をしていたら、一瞬視界が赤くなって、体の方のHPが減った。
体がダメージを受けたらわかるようになってるみたいだね。
急いで体まで戻ると、1頭のブラックドッグが僕の体を噛んでいた。
体を噛むのに夢中なのか、僕には気づいてないみたいなので、地面を蹴って一気に間合いを詰め、右手から生えてる剣を突き刺した。
「ギャン!」
一撃で倒せたし、今までで一番戦ってる感があって気持ちいいんだけど、体をどうにかしないとダメだね。
移動させれないかな。
ダメ元でお腹に手を入れて持ち上げてみると、問題なく持ち上がった。
これがステータスの差なのか……。
持ち上がったといっても、頭がギリギリ地面につかない程度だから、手と足は引きずってる。
幸いにもダメージは入らないみたいだけど、周りからみるとすごい光景だよね。
誰にもみられてないことを祈ろう。
あと、しのぶさんには同期操作のことは言わないでおこう。
色んなポーズを取らされそうだし……。
よく考えたら繰り糸でもポーズはできるよね。
ハピネス達にポーズを取らせたことはないけど、剣で突き刺す時に右手を出させたりはできるんだから、ポーズもできると思う。
今度練習してみて、うまくできたらしのぶさんに見せてみよう。
いいリアクションが返ってきそうだし、ちょっと楽しみだよ。
そんなことを考えながら自分の体を引きずって数歩歩いたところで、さらに2頭のブラックドッグが現れた。
もしかしてさっきの1頭の仲間かな?
体をゆっくりと下ろして、ブラックドッグに向き直ったんだけど、ハピネスの目線で見ると大きく見えるから少し怖い。
でも、こっちの方が強いはずだから、気持ちで負けないようにしないとダメだ!
なんとか気合いを入れて身構えると1頭が飛びかかってきたので、横に避けて開いたお腹を右手で切りつける。
一撃でHPバーが砕け散って光になった。
もう1頭はその光景を見ていたせいなのか動こうとしないので、一気に近づいて右手を突き刺した。
こちらも一撃で倒したので、これで戦闘終了だね。
ハピネス達を繰り糸を使って戦わせるのも面白いけど、これはこれで面白いね。
クローバーになれば回復ができて、アザレアになれば魔法で戦えるんだろね。
このスキルの使うタイミングが思いつかないんだけど、余裕があれば積極的に使っていこうかな。
まずは職業クエストのクリアを目指して、後47体。
まだまだかかりそうだね。
ふと左上を見るとMPが50を切っていた。
そろそろ同期操作を解除するべきなんだろうけど、どうやって解除するのかな?
ハピネスに移った時と同じように、スキルを使えばいいのかな。
人形の館も開ける時と閉じる時で2回使うし。
とりあえず試してみよう。
「!」
同期操作!
地面に倒れている僕の体を見ながらスキルを意識してみると、視界が真っ暗になった。
どうやらこれでいいらしい。
目を開けると目の前は草原だった。
どうやら無事体に戻れたみたいだね。
「よっと」
地面に手をついて起き上がると、ハピネスがこっちに体を向けて立っていた。
スキルを使った時のままだ。
すぐ近くに落ちていた右手を回収してハピネスに付ける。
「人形の館。ハピネス収納。人形の館」
MPも切れかけだし、街もすぐそこだからハピネスを収納してから向かうことにした。
チラホラと人も見えるし、しのぶさんみたいな人が居ないとも限らないからね。
とりあえず冒険者協会に行って魔力水を飲んでからクエストを見てみようかな。
次は北の山に向かってもいいかもね。
防具ができるまではあんまり遠出できないけど、北の山は東の森や西の海岸と同じような位置づけだろうから、今の僕でも攻撃さえ受けなければ大丈夫だよね。
ステータス(戦闘で消費)
名前:オキナ
種族:人族
職業:人形使い☆5
Lv:5
HP:103/140
MP:37/700
ST:114/114
STR:14
VIT:14
DEF:14
MDF:140
DEX:320
AGI:14
INT:280
LUK:50
ステータスポイント:残り18
スキル
〔繰り糸Lv:2〕〔人形の館Lv:2〕〔同期操作Lv:1〕〔工房Lv:2〕〔人形作成Lv:1〕〔自動行動Lv:1〕〔能力入力Lv:1〕〔自爆操作Lv:1〕〔〕
スキルスロット:空き1
スキルポイント:残り10
職業特性
通常生産系スキル成長度0.01倍
通常魔法使用不可
武器装備不可
重量級防具装備不可
装備
・武器1:装備できません
・武器2:装備できません
・頭:なし
・腕:なし
・体上:冒険者のローブ
・体下:冒険者のズボン
・足:冒険者の靴
・アクセサリー1:なし
・アクセサリー2:なし