僕達のパーティ限定高難易度イベント開始!
パチパチドングリッチを探しに移動し始めたんだけど、ガウル君は僕の隣を歩いている。
その顔は不機嫌なのを隠そうともしていない。
人見知りなミヤビちゃんを除いた全員がガウル君の耳や尻尾を触りまくったのが原因なんだけど、もう少し起こるのが遅かったら僕も参戦するところだったとは言えない。
「お。見っけ!」
「こっちにもありました!」
前を歩くセインとしのぶさんがパチパチドングリッチを見つけた。
今はガウル君がパチパチドングリッチを拾った場所を探すために森を進んでいるんだけど、途中に落ちていることから考えると道はあっているのかもしれない。
これがガウル君の落としたものだと仮定すればだけど。
「ガウル君に聞きたいんだけど、アイテムバッグは使えないの?」
「アイテムバッグ?カバンを持ってると戦いづらいから持ってないぜ!」
「実際のカバンじゃなくてこういうのなんだけど」
「パチパチドングリッチを取り出したアレか〜。気にはなってたけど、俺の住んでいる村でそんなことできる奴はいないなぁ……。なぁなぁ兄ちゃん。それって俺も使えるようになるのか?」
「それは……僕達では教えられないし、使えるようになるのかはわからないんだ。ごめんね」
「そっか。まぁ使えたら便利そうだってぐらいだし、別にいいさ!」
セインとしのぶさんがパチパチドングリッチを渡すために近づいてくるだけで毛を逆立てるガウル君。
なので、僕経由で渡しているんだけど、その時にアイテムバッグについて聞いてみた。
その結果使えないどころか知らなかったんだけど、種族解放クエストをクリアすれば使えるようになるんだろうか。
そうじゃないと新しく獣人で始めた人達はアイテムバッグが使えない状態でプレイすることになる。
そういう縛りだとしたら流石に酷すぎる。
僕の予想では交流が始まることでアイテムバッグがガウル君の村に伝わるんだと思ってる。
プレイヤーだけじゃなくてメルカトリア人もアイテムバッグは使えてたから、何かしらの伝達方法がありそうだ。
ガウル君も今すぐ使えないことに不満はないみたいだから、早いところパチパチドングリッチを集めて村へ連れていってあげよう。
「この辺は見覚えがある!……気がする……」
「わかった。周りにパチパチドングリッチが落ちてないか調べよう」
ニードルスパイダーを倒しながら進んでいると、ガウル君が周りの風景を見て反応した。
この辺りにパチパチドングリッチが落ちていたら、ガウル君が来た方向がわかるかもしれないので、周囲を探索することにした。
来た方向がわかれば、ガウル君がパチパチドングリッチを集めていた場所に向かえる……はず。
ガウル君はパチパチドングリッチを集めた後にニードルスパイダーの大群に襲われて逃げたからね。
「見つからないな……あ」
「ん?爺何かあった?」
「いや、これ……」
僕が指差した先にはウィンドウが浮かんでいるんだけど、問題はその内容だ。
『イベント開始時間5分前です。
参加・不参加を選択してください。
制限時間が超過した場合、不参加になります。
残り4分52秒
※本メッセージはパーティリーダーに送信されています。参加選択時のパーティでイベントに参加します。』
ウィンドウにはイベントへの参加確認メッセージと、参加不参加のボタンがあった。
「おー。みんな集合してくださーい!」
「セインちゃん何か見つかった?」
「どうしました?」
「……」
「兄ちゃん何があったんだ?」
セインの号令で全員集まったんだけど、ミヤビちゃんはガウル君が近くにいるから無言だし、そのガウル君はセインに声をかけずに僕に聞いてきた。
「もちろん参加ですね!」
「そうですね。ミヤビちゃんも大丈夫?」
「うん。大丈夫だよお姉ちゃん」
「私も参加だけど、この場合ガウル君はどうなるの?」
「パーティに入っているから参加することになる……と思う」
「兄ちゃん、イベントって何だ?」
ウィンドウを見ガウル君が聞いてきたんだけど、どう答えればいいんだろう。
クエストは仕事として……別の場所に移動することと、時間の流れについては説明しづらいなぁ。
うーん。
とりあえず言って、質問に答える形にしよう。
「仕事かー。3日間働いても、3日経っていないのはよくわからないけど俺も手伝うぜ!」
「まぁ、ガウル君の強さなら大丈夫だと思うけど……」
「へへっ!まぁな!それに、大群に襲われたらキツイからなぁ……」
クエストの説明と戦闘の評価を聞いたガウル君の尻尾は、機嫌よく揺れたり元気が無くなったり忙しい。
それでもイベントに参加してくれると言ってくれたのは助かる。
もしも参加したくないと言われた場合は僕達がイベントに参加しないか、ガウル君とのパーティを解消することになるんだろうけど、解消したら種族解放クエストは失敗になると思う。
村まで連れて行かないと言うようなものだし。
「それじゃあ参加を選択しますね」
「うぉ?!」
ガウル君に説明していたので参加表明がギリギリになったけど、問題なく参加ボタンを押せた。
そして視界が白く塗りつぶされた。
いつもと同じような転移なんだけど、初めて経験するガウル君は焦ったみたいで咄嗟に僕の腕を掴んだことがわかった。
「うわっ!でっかい水たまりだ!うわっ!ペッ!辛い!なんだこの水?!」
「えぇ〜。いきなり小舟の上?あー。あの島が目的地かな。他に行く先もないし漕ぎまーす」
「では私は警戒を」
「ペーパーウェイト押さえられた羊皮紙と細長い箱が6つずつありますね」
「シロツキちゃん達にも警戒してもらいます。あ、ここに真ん中に青い石が埋め込まれていて、周りに魔法陣が描かれた板もありました!」
転移した先は小舟の上で周囲は海、船首の向いている先には大きな島があった。
小舟とは言っても僕とセインが貰った魔導ボートよりも広く、6人が余裕を持って座れている。
シロツキやトバリ、ハピネス達も小舟に乗っても余裕があるくらいの大きさだけど、魔石をはめ込む場所はなく、オールで漕ぐ必要がある。
ガウル君は海を初めて見たのか興奮しっぱなしで、手を伸ばして掬った海水を飲んで悶えている。
セインは島に向かってオールを漕ぎだし、しのぶさんが船首に立って警戒を始めた。
その間にうららさんが魔法陣の書かれたペーパーウェイトで押さえられた羊皮紙の束と綺麗な装丁が施された木箱を見つけ、ミヤビちゃんも魔法陣の描かれた板を見つけた。
ミヤビちゃんが見つけた方は持っても何も起きなかったけど、うららさんがペーパーウェイトに手を触れた瞬間、羊皮紙と共に光になって消え、僕達それぞれの目の前にウィンドウが表示された。
『イベントクエスト:蓄魔石に魔力を集めよう
依頼者:メルカトリア王国冒険者ギルド本部
内容:各街を繋ぐために膨大な魔力が必要です。
皆様には蓄魔石を5つ配布しますので、目の前にある魔力溢れる大きな島で魔力を溜めてください。
採取で使用するアイテムは蓄魔石が収納されている木箱を開封すると同時にアイテムバッグに収納されます。
ただし、アイテムバッグに空きがない場合、周囲に出現します。
・蓄魔石への魔力の溜め方
1.蓄魔石をアイテムバッグから取り出した状態で戦闘を行いモンスターを倒す。
2.蓄魔石をアイテムバッグから取り出した状態で生産活動を行う
3.他パーティと戦闘を行い、MPを消費させる
4.魔力溜まりに蓄魔石を設置し、時間経過で溜める
5.蓄魔石を島にある魔石に触れさせ、魔力を吸収する
・注意事項
1.本イベント中のプレイヤー同士の戦闘ではプレイヤーキル扱いにならず敗北してもアイテムをロストしません。
2.パーティ全員が力尽きた場合、小舟にある魔法陣の描かれた板の元へと戻りますが、アイテムバッグに収納している場合、【破壊不可・アイテムバッグ収納不可・接岸後移動不可】の小舟が復活ポイントになります。
3.デスペナルティは通常の1/10です。
4.クランハウスへの移動などの空間移動系アイテム、スキルは使用できませんが、短距離移動は可能です。
5.イベント参加者専用の掲示板が利用可能です。
参加報酬:スキルオーブ
達成報酬:???⁇(個数、種類は進行度によって変動)、サーバー内達成度報酬、サーバー内ランキング報酬
状況:0%』
要約するとモンスターを倒したり生産をしながら島を探索して魔力を集めるってことだね。
プレイヤー同士の戦闘でも溜まるみたいだけど、これは避けたい。
このイベント中の死に戻りでも種族解放クエストが失敗になるかわからないからね。
僕としては大丈夫な気がするんだけど、それをわざわざ試すつもりはない。
だから、僕達は一度も全滅できないということになる。
「着いたー!」
考えている間にセインが砂浜に小舟を着けてくれたので、木箱を開けて蓄魔石を取り出した。
とりあえず1つをポケットに入れて、残りは箱に入れたままアイテムバッグに収納した。
セイン以外は1つ持った状態で、セインだけ僕のお願いを聞いてもらって2つ持っている。
同時に持つ数で溜まる速度が変わりそうだから、早めに検証しておきたい。
「うぉっ。揺れてる?」
「大丈夫。しばらくすれば治るよ」
船から降りたガウル君はちょっとの間フラついていたので、治り次第移動を開始した。
まずは降りた周辺の調査からだ。
全滅した場合ガウル君のクエストは失敗になります。
戻り先が魔法陣か獣人の村かという違いです。