種族解放クエスト発生
ネコミミに驚きつつも糸を切り終えた。
自由になったネコミミの男の子は伸びをした後、頭上で腕を組んで軽快に笑った。
「へへっ!改めてありがとうな兄ちゃん!俺はガウルって言うんだ!よろしく!」
「どういたしまして。僕はオキナ。よろしくねガウル君」
ガウル君が名乗りながら手を出してきたので、僕も握手をしながら応えた。
ガウル君はオープニングで見た獣人だと思うけど、手は普通の人とほとんど変わらない。
爪が尖っている程度だ。
サンダルのような物を履いているから足も確認できたけど、こっちも爪が鋭く尖っている。
目は少し釣り上がっていて切れ長の気の強そうな瞳で、鼻の横には左右3本ずつ猫のような髭が伸びている。
服装は麻のような材質で上は肘まで、下は脹脛を覆う長さなんだけど、両方とも土汚れか何かで茶色く汚れている。
ズボンのお尻より少し上の部分からは、ほとんどが黄色で所々に黒い線が入っている細長い尻尾が生えている。
髪の毛も黄色で所々に黒いメッシュが入っているね。
トラ猫なんだろうか。
「ネコミミかー」
「ネコミミですね」
「ネコミミ少年ですね」
「………」
「うがー!俺は猫じゃねぇ!虎だ!噛み付くぞ!」
うららさんの後ろに隠れたミヤビちゃん以外がネコミミだと言うと、ガウル君が牙を向いて手の爪を伸ばしながら威嚇した。
どうやらトラ猫じゃなくて虎らしい。
動物だったらよっぽどのことがない限り間違わないはずだけど、獣人だったらわかりづらいな。
何か見分ける物があるといいんだけど、ガウル君を眺めて見ても他の獣人を知らないからわからない。
「えっと、ごめんね」
「申し訳ありません」
「ごめんなさい」
「僕たちは獣人を初めて見たんだ。だから、間違えちゃったみたい。ごめんね」
「兄ちゃんは俺を猫って言ってないじゃん!……こっちこそ怒鳴って悪かった……」
僕も謝るとガウル君の耳がペタンと閉じて尻尾もシュンと垂れ下がった。
でも、次の瞬間には耳がピンと立ち、尻尾もゆらゆらと揺れ始めた。
「知らなかったのは仕方がないけど、虎と猫の見分け方は強そうに見えるかどうかだぜ!俺は強そうだろ?」
「ごめん。僕にはわからないや」
「えぇ〜?!爪とか牙とか強そうだろ?力もあるんだぞ!」
ガウル君は爪を伸ばしたり唇を引っ張って牙を見せた後、近くに埋まっていた岩を掘り出した。
その石はガウル君と同じぐらいの大きさだったんだけど、それを全く苦にすることなく片手で持ち上げ、更にダンベルを使って筋トレしているかのように上下に動かした。
「おぉー!すごーい!」
「だろ!猫の獣人だとこんなことはできないんだぜ!まぁ、その分あいつらは身軽だけどな!」
セインの驚きに気を良くしたガウル君は得意そうに胸を張った。
その間も岩を持ち上げたままなんだけど、どれぐらいの力があるんだろう。
それよりもそれだけの力があってニードルスパイダーに捕まったんだ。
「ガウル君はどうしてニードルスパイダーに捕まっていたんだい?」
「あー……えっと……大量のニードルスパイダーに囲まれて捕まったんだ……」
「そうなんだ。大変だったんだね。ここにはニードルスパイダー素材を取りに来たの?」
「違うぞ兄ちゃん!俺はこれを!……あれ?こっちか?……あれ?……ない……」
ガウル君はズボンのポケットに手を入れて何か探していたようだけど、見つからなかったようだ。
一度集めた物がいつの間にか無くなっていたことがショックだったようで、また耳と尻尾の元気が無くなった。
僕の予想ではガウル君の集めていた物を持っているはずだからすぐに元気になると思うけど、一応何を集めていたのか確認しよう。
「無くしたものは何かな?」
「パチパチドングリッチっていう木の実……。妹の誕生日に粉にした物を薄焼きにして出してあげようと思ったんだ。好物だから。でも、昨日ニードルスパイダーに追いかけられた時に全部落としたみたい……」
「そっか……」
僕が返事をしながら皆を見ると、やりたいことが伝わったのか頷いてくれた。
そして一斉にアイテムバッグを操作してそれぞれ拾ったパチパチドングリッチを取り出した。
「ガウル君の言ってるパチパチドングリッチはこれだよね?」
「え?あ!これだよ兄ちゃん!」
「これは外の草原からここまで来る間に落ちてたんだ。はいどうぞ」
「あ、ありがとう」
拾ったパチパチドングリッチを手渡すと、アイテムバッグに入れずにポケットの中に突っ込んだ。
アイテムバッグが一杯ならこうやって持つことができるみたいだけど、ガウル君がたくさんのアイテムを持っているとは思えない。
街にいるメルカトリア人は使えたから、何か特別な条件があるのかな。
「せっかく集めて貰ったけどちょっと足りなくなってる……。後少しだからすぐに集まり……あれ?」
「どうかした?」
全員から手渡した結果数が足りてないみたいだけど、それは手伝えば問題ない。
むしろ1人にしてまたニードルスパイダーに襲われる心配の方が強い。
だけど、ガウル君が気にしているのはパチパチドングリッチの数じゃないようで、鼻をヒクヒクさせて周囲の匂いを嗅いでいる。
「俺の匂いが消えてる……。これじゃあ帰れない!」
ガウル君の耳と尻尾がピンと張り、毛が逆立った。
相当焦っているみたいだ。
匂いが消えたのは雨のせいだろうね。
さて、どうしようかな。
「ねぇ爺。私達で送ってあげれないかな?」
「そうだね。ついでに足りないパチパチドングリッチも集めてあげたいね」
セインと僕の提案に、是認賛成してくれた。
ミヤビちゃんは無言ぜ頷くだけだったけど。
「ガウル君。良かったら僕達が君の住んでるところまで送ろうか?途中でパチパチドングリッチを集めるのも手伝えるし。どうする?」
「でも、迷惑じゃないか?」
「大丈夫だよ」
「わかった。よろしくな兄ちゃん!」
僕の提案をガウル君が了承した瞬間、ガウル君がパーティメンバーに入り、更に僕の目の前にウィンドウが表示された。
『種族開放クエスト:虎族の獣人を村まで送り届けろ
依頼者:システム
内容:迷子になった虎族の少年を村まで送り届けてください。
サブクエストとしてパチパチドングリッチの収集がありますが、こちらは未達成でも問題ありません。
サブクエストの達成率によって、種族間の友好度に影響があります。
ただし、死に戻りをした時点で虎族の獣人は強制的に村へと戻り、クエスト失敗となります。
報酬:新規キャラクター作成者「種族:虎族解放」
既存プレイヤー「種族:虎族化アイテム」or「擬似獣人化アイテム」
サブクエスト進行具合で報酬が増加
サブクエスト進行:60%
クエスト進行:0/1
※メインクエスト失敗ペナルティ:虎獣人との関係悪化。悪化してもその後のやり取りで関係修復は可能です』
えーっと……クエストの内容は理解できたけど、これって重要なクエストだよね。
僕達が死に戻りすることなくガウル君を村に送り届けた時点でプレイヤーが選択できる種族が増加。
パチパチドングリッチの収集率によって友好度にボーナスが付くようで、現時点で60%ということは、偶然ここにたどり着いてガウル君を助けた場合だと一から集めなければならなかったということだ。
そう考えるとると僕達は運が良かった方かも知れないんだけど、なぜかクエストの画面は僕にしか出ていなくて、残りのみんなはメッセージを開いて何か読んでいる。
なので僕もメッセージ開いたんだけど、ログインボーナスのメッセージの他にシステムからメッセージが届いていた。
要約すると日本サーバーのプレイヤーが獣人と接触してクエストを発生させたので、そのクエストの結果次第で種族が解放されるのとアイテムが貰えるから、そのプレイヤーと協力してクエストクリアを目指そう。
というものだった。
だけど、僕が受注したという事は書かれていなかったので、他のプレイヤーに助けてもらおうとしたら掲示板とかで募集する必要がある。
協力してって書くぐらい村まで送り届けるのは難しいのかな。
念のためナックル達に協力してもらうことを考えた方がいいのかもしれない。
死に戻りしないように先行してモンスターを倒してもらうとかね。
種族解放クエストは街から離れたところで獣人と遭遇し、お願いや契約を行うと発生します。
オキナは虎族と出会いましたが、他の種族もいます。
また、友好度はそれぞれのサーバー毎に分かれています。




