雨は森の中も変える
明日に備えて街に戻ることにした僕達は、宝探しをしながら進んだ道を戻り始めたんだけど、徐々に雨脚が強くなってきだした。
さっきまでポツポツとパラパラの間ぐらいだったんだけど、このままどんどん強くなりそうだ。
ゲリラ豪雨とかになる可能性もあるのかな。
色々考えるとエアアーマーのおかげで濡れないとはいえ、土砂降りになる前に森に入ったほうが良さそうだ。
その気持ちは全員同じみたいで、先頭のしのぶさんが少し駆け足になったのを止めることなく追いかけた。
「あー。ハピネス達がグショグショだ……」
「あ〜。これは脱がしてから絞って乾かすしかなさそうだね〜」
雨が強くなるにつれて結構な速度で走っていたんだけど、ブラックドッグリーダーやムーンライトゲッコーには遭遇せずに済んだ。
だけど、木の陰に入ってから見たハピネス達がグショグショだった。
ラナンキュラスは金属鎧がメインなのでそこまでじゃないけど、残りの3体は服の色が濡れて濃くなるだけではなく、服や髪がペタリと肌に張り付いている。
エアアーマーを使っても僕にしか光の膜は発生しないので、ハピネス達がこうなるのは考えればわかることだったね。
濡らさないためには人形の館かアイテムバッグに収納するしかないんだけど、そうなると僕が戦えなくなる。
天候によって戦えなくなるのは良くないから、何か対策を練る必要がありそうだけど……能力入力ぐらいしか思いつかない。
濡れなくなるとか、一気に乾かすアイテムとかないかな。
色々調べたいことはあるけど、とりあえず今は濡れたハピネス達をどうするかだ。
まずは今の状態を確かめよう。
「重っ。やっぱり水を吸うと重くなるね。体が小さいからそこまでじゃないけど、いつもの感覚で持つとビックリするよ」
「あー。靴の中にも水が入っているねー」
どれだけ濡れているか確認するためにハピネスを持ち上げたんだけど、結構重さが増していた。
だけど、繰り糸で動かしてみると、増えた重さを感じさせないほどの動きができた。
性能のおかげかもしれないけどこれは助かる。
今すぐ絞ってもすぐに濡れるだろうし、乾かす方法もない。
思いついたのはハピネスの左手から火を出して、その周りに服を置いて乾かす方法だけど、人ならいざ知らず服とかの道具は燃えそうだから試す気になれない。
なので、とりあえずこのまま進むことになった。
「それにしても、髪が張り付いたハピネスちゃん達はいつもと違った可愛らしさがありますね!」
「そうですね!いつものふんわりとした感じもいいんですけど、なんというかいつもより綺麗です!」
「水で張り付いている分シルエットがしっかり出てくるので、それが大人な雰囲気を出しているのでしょうか」
しのぶさん、ミヤビちゃん、うららさんが歩きながらハピネス達を観察する。
さっきから水を吸ったせいなのか、妙に元気な雑草魂としか遭遇しないので余裕ができたからだ。
ヌシ釣りの森近くの雑草魂と比べると大きいので、体力は多いし葉っぱのビンタを食らうと少しダメージを受けるけど苦戦することはない。
そして、そのまま大きなモンスターが出てくるエリアを抜けてハニービー達のエリアへと入ったんだけど……ここも雨のせいか何も飛んでいない。
木の上の方に絡みついているシュートスネークや、団子のように固まって眠っているワイルドベア達は見かけたんだけど、スイングボアにも遭遇しなかった。
このまま戦闘なしで抜けられそうだと思いながら進んでいたんだけど、花畑の近くに来るとしのぶさんが片手を上げて僕達後続の動きを制した。
「何かいます……。この声は、カエルのようです」
全員で耳をすませると、微かに「ゲコゲコ」といった音が花畑の方から聞こえてきた。
早く戻るつもりだったけど見たことがないモンスターかもしれないので、花畑へ向かうことになった。
「音の正体はあれですね!」
「カエルさんです!けど、凄い形ですね」
「少し距離がありますが、なんとか鑑定できました。スパイクフロッグだそうです」
花畑は雨で半分近く水没していた。
根腐れとか起きそうなんだけど大丈夫なんだろうか。
その花畑に発生した水溜りの中に、水色のカエルがいた。
大きさは20cm程なんだけど、背中に1、2cmぐらいのトゲがたくさん生えている。
うららさんの鑑定の結果スパイクフロッグという名前だとわかったけど、背中のトゲが原因だよね。
「見える範囲には1匹しかいませんが、少し離れた水溜りに数匹います。戦いますか?」
しのぶさんの確認に全員が頷いて返した。
雨の日にしか出てこないモンスターみたいだし今のうちに戦っておきたい。
もしも素材が良かったら離れたところのスパイクフロッグも倒すだろうね。
「ゲコ……」
「気づかれました!」
「口が膨らんでいます!何か出してきそうです!」
しのぶさんとミヤビちゃんが近づいていくと、スパイクフロッグがこちらを向いて口を膨らませてきた。
シロツキに乗ると大きく動く必要があるので、遠くのスパイクフロッグに気づかれる可能性が高くなる。
そのため地走りを使って移動するしのぶさんの後ろをミヤビちゃんが追いかけたんだけど、その時に出た足音で気づかれたんだと思う。
水溜りだからバシャバシャという音が鳴ってしまうのは仕方がない。
「うわっ!」
「舌ですけどトゲが付いていました!」
「出している間は背中のトゲがなくなっていましたね。あの舌を口の中に入れることで背中が隆起したんでしょう」
スパイクフロッグ口から何かを放った。
狙われたしのぶさんはそれを剣で弾いたんだけど、即座にスパイクフロッグ口の中に戻っていった。
僕はしっかりと見えたわけではないんだけど、近くで見ていたミヤビちゃんは舌だと判断し、スパイクフロッグを観察していたうららさんは舌を出している間のスパイクフロッグについて教えてくれた。
どうやら舌の先にはコブがあり、それには背中に生えていたトゲと同じような物があったらしい。
そして、舌を体内に入れている間は背中にトゲが出てきて、舌を振り回している間は無くなっていることがわかった。
「はっ!せいっ!」
「やぁー!」
スパイクフロッグが再度口を膨らませたが、しのぶさんの方が早かった。
舌を放つ前に2連続で斬りつけて怯ませる。
だけど、即座に反撃に移ったスパイクフロッグは、背中のトゲをしのぶさんに向けて飛びかかった。
そこにミヤビちゃんの槍が突き刺さり、クリティカルエフェクトを撒き散らしたかと思うと、HPバーが砕け散って光になった。
HPはそこまで多くないみたい。
どうやらスパイクフロッグは離れている時は舌で、近い時はトゲを向けて体当たりしてくるようだ。
舌の範囲外から魔法で攻撃すれば簡単に倒せそうだけど、その時は飛びかかりながら舌を伸ばしてきそう。
「舌の先端にあるコブが意外と固くてビックリしました!」
「体を突いた時も固かったです!」
「コブが武器であり防具であるモンスターなんですね」
「はい。もしかしたらあの舌で絡め取ってくることもありそうですよ!」
「ジャンプ力も凄かったです!さすがカエルさんです!」
「あの大きさのカエルが勢いよく迫ってくるのは嬉しくないね〜」
僕達のところへ戻ってきたしのぶさんとミヤビちゃんに戦った感想を聞いた。
まとめると近接戦闘をするカエルという感じだね。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
「どうしました?」
「スパイクフロッグの素材をもう少し集めたいのです。コブは私では活用できませんが、皮は伸縮力があって撥水効果もあるようです。これがあればカッパのようなマントを作れるかもしれません」
「雨の中活動するんだから水には強いってことですね!」
「わかりました。近くのスパイクフロッグを倒しましょう」
「次は私も出るよー!」
「ありがとうございます」
うららさんのお願いを聞いてスパイクフロッグを倒すことになった。
今度は僕とセインで遠くから攻撃を加えてみたんだけど、気づいていない時は直撃、気づかれた後だと跳んで避けられた。
だけど、セインの場合は精霊が追尾するのでこっちに来るまでに当てることができ、当たった隙にアザレアの魔法を放ったりラナンキュラスで攻撃することで倒すことができた。
その後は複数同時に戦ったんだけど、一気に舌を伸ばされるのがとても厄介だった。
正面からくる舌を受けると横からムチのように振るわれるし、高く跳んだスパイクフロッグがコブを叩きつけるように伸ばしてくることもあった。
ミヤビちゃんが盾を構えていると、盾ごと体に舌を巻きつけて引っ張ろうとしてきたんだけど、これは巻きついた瞬間にセインが倒すことで少しダメージを受けるだけで済んだ。
そして、合計7匹倒したところで周囲からスパイクフロッグがいなくなった。
なので、手に入れた皮をうららさんに集めて渡した後、攻撃を受けて消えたエアアーマーをかけ直してから花畑を後にした。




