リッチだけどお宝じゃない?
徐々に強くなる雨の中を進んだけど、ムーンライトゲッコー以外見つからない。
しかも、そのムーンライトゲッコーですらそこまで遭遇しないので、宝探しをしながら進むことになった。
それもほとんど見つからなくて、たまに野菜や花の種が落ちているんだけど、どうしてここにあるんだろう。
鳥系モンスターが運んだり、風で飛ばされたんだろうか。
「あ!ドングリが落ちていました!」
宝探しを使おうとしたら、前を歩いていたミヤビちゃんがいきなりしゃがみ込み何かを掴んだ。
ドングリみたいに帽子を被った木の実だけど、表面の色は青いし白い水玉のようにポツポツと模様が入っている。
何より普通のドングリと比べると3倍ぐらい大きい。
何ドングリなんだろう。
「お姉ちゃん。これ……」
「えーっと……。これはパチパチドングリッチよ」
「パチパチドングリッチ?」
アイテム名は『パチパチドングリッチ』らしいけど、パチパチドングリの高級品という意味で『リッチ』なのかな。
ただ単にそういう名前の可能性もあるけど。
「ちょっと待ってください。一旦入れて……アイテムバッグから選ぶと……出ました!」
ミヤビちゃんがパチパチドングリッチをアイテムバッグに入れ、それを選択することで表示されるウィンドウを渡してくれた。
鑑定したうららさんの方にも同じウィンドウが出ていたんだけど、うららさんは自分で読んでいる最中だ。
『名前:パチパチドングリッチ
説明:パチパチドングリの中でも味に深みのある物。
皮の表面にある白い粒が多い方がパチパチする。
使用方法はパチパチドングリッチを割り、中の身をすりつぶして使う。
飲み物に使えばシュワシュワとした舌触りが楽しめる。
粉をモンスターに使えば怯ませることができるかもしれない。
普通の人には食べられない硬さなので、投げつけてもダメージを与えることができる。
先端が尖っているのでその部分を当てるととても痛い』
説明文が長いのは鑑定した結果だ。
鑑定前を見ていないけど、『硬い木の実』ぐらいしか書かれていないと思う。
それにしても予想通りパチパチドングリのリッチ版だった。
パチパチドングリ自体は炭酸の粉を作るための物みたいだけど、知らないうちに炭酸ジュースを飲んでいるから割と出回っているんだと思う。
リッチ版はどうなんだろう。
そもそも味に深みのある炭酸がよくわからない。
爽快感が違うとかなのかな?
他にも粉にしてモンスターに投げつけると怯ませることができるみたいだし、粉にしなければ硬い木の実のままだから投げつけてもダメージを与えることができるようだ。
クローバーのパチンコで射出したら大ダメージになったりしないかな。
当たった衝撃で砕けて、飛び散った粉で怯ませることができればもっといいんだけど、硬い木の実が勢いよく当たった時店で生き物なら怯みそうだ。
「これはお宝なの?」
「どうなんだろう。リッチだからお宝だと思うけど」
「宝探しを使って入れば光ったのでしょうか?」
「たぶん?この先に落ちていれば使ってみるよ」
「お願いします」
光らなければお宝じゃなくてただの採集アイテムだからね。
普通では見つけづらい物を光らせるだけだし。
「それで、これはどうしたらいいですか?」
「ミヤビちゃんが持っていていいと思うよ。この中で料理をするのはミヤビちゃんだけだし、何なら工房に行ってゼロスリーさんにジュースを作って貰うのもありかもしれないよ」
「クローバーちゃんの弾にはしないんですか?」
「鉄球があるから大丈夫だよ」
ミヤビちゃんが僕にパチパチドングリッチを向けてきたけど、鉄球を見せて断った。
なんだかんだでほとんど使っていないんだけど、それを言えば源さんに作ってもらった大きな鉄球とかもそうだからね。
もう少し戦い方を工夫しないと。
「またありました」
「それじゃあ使うね。宝探し…………光らないね」
「そうですね。ということは採集アイテムなんでしょうか?」
「ドングリ単体で落ちているのが気になるけど、鳥が運んだものかもしれないからね」
リッチという名前だけどお宝扱いではなかった。
拾うと僕が拾うとドングリと表示されていて、説明文も『硬い木の実。先端が尖っているので当てると痛い』と書かれているだけだ。
僕は鑑定したウィンドウを見たけど、鑑定したアイテムは手にしていないからだね。
「こっちは光ったけど、花の種だったー」
「私の方でも見つけましたが同様に光りませんでした!」
少し離れていたところから見ていたセインには、僕の宝探しで光った物が見えたようだけど、落ちていたのは花の種だった。
僕達と少し離れたところで同じように宝探しを使っていたしのぶさんと、それに同行したうららさんの方でもパチパチドングリッチはあったみたいだけど光らなかったみたい。
やっぱり採集アイテムなんだ。
パチパチドングリッチが宝探しに反応しないことがわかってもやることは変わらず、宝探しをしながら進み、時々ムーンライトゲッコーと戦った。
その結果、全員がパチパチドングリッチを拾うことになったんだけど、こんなに落ちているものなのかな。
やっぱり渡り鳥等が落として行ったか、これを生み出すモンスターが通ったのかもしれない。
「硬っ」
「え?どうして噛んだの?」
「いやー。ステータスが上がっていたら食べられるかもしれないし?」
「そのために振ったの?」
「いや、レベル1の頃よりは増えてるし、街中のクエストで物を運ぶ時に楽になっていたからね〜」
「そうなんだ。でも、無理みたいだね」
「うん。ちょっと凹んだ気がするけど、噛み砕くのは無理かな〜」
セインが拾ったパチパチドングリッチをジッと見ていたんだけど、いきなり噛んだ。
鑑定した結果通り噛み砕けなかったみたいだけど、僕の向けてきたパチパチドングリッチは若干凹んでいるように見える。
歯が当たった場所かな?
「爺、これいる?」
「え?!いや、いらないけど……」
「そっかー」
噛んだパチパチドングリッチを眺めていたセインがそれを差し出しながら聞いてきたんだけど、欲しいって言ったらどうするつもりだったんだろう。
セインのニヤリとした表情からいつものイタズラだとわかっているし、仮に受け取ったとしたらそのことで更に弄られてしまう。
そもそも受け取るつもりはないけど。
「もしオキナさんがいるって言ったらどうしたんですか?」
「んー?あげるよ。だけど、その後爺はやっぱり変態だったんだね!って言うかな」
「やっぱりって……」
ミヤビちゃんがセインに聞いたんだけど、やっぱり変態ってどういうことだろう。
まぁ、セインのことだから僕を弄るネタとしか思っていないだろうけどね。
「あのー……。少し聞きなることがあるんですが、よろしいでしょうか?」
「え?あ、はい。大丈夫です」
「お姉ちゃんどうしたの?」
僕達のやりとりを見ていたうららさんが苦笑いを浮かべながら遠慮がちに声をかけてきた。
「このパチパチドングリッチを拾った場所を考えていたのですが、そうすると森の方へ向かっている気がします」
うららさんは僕達が出てきた所とは違う森、遠くに見える大きな山へと続く森を指差しながら話す。
確認のためにマップを出しておおよその位置を指でなぞると、確かにうららさんの言った通りだった。
「私はこの辺りを走り回っていましたが、落ちていませんでした!見つけられなかっただけの可能性もありますが……」
「何というか多少蛇行しつつも森へ向かっている感じ?あるいは森から出てきたのかもしれないけど」
「セインさんの言う通り出てきた可能性もありますね。クヌギのモンスターでしょうか」
全員でマップを見ながら確認すると、波線のようになるけど山の麓から草原へと線で結べた。
モンスターが出てこないので、しのぶさんは少し離れたところで宝探しを使っていたけど、その辺りにはパチパチドングリッチがなかったらしいので、出てきたのか向かったのかはわからないけど。
「調べますか?」
「それなら一度街へ戻ってマナポーションの補充をしましょう。痺れハチミツも売る必要があります」
「そうですね!行くとしても準備をしてからにしましょう!どんなモンスターが出て来るのかわかりません!」
「半分ぐらいハチミツになっているから、戻るのに賛成〜」
「私もです」
聞いた結果街へ戻ることになった。
草原に出てから戦闘することが少なくなったけど、何本かマナポーションは使っているし、セインと同じようにハチミツで満たされた瓶もある。
それに、しのぶさんの言う通り初めて入る森なら準備はしっかりしておいた方がいいと思う。
「今から戻ると森へ行くのは明日になりますよね?」
「そうですね。イベントが始まる前の様子見で入るぐらいでしょうか」
「それぐらいでいいですよね」
最後に全員で森をチラッと見た後、来た道を引き返して街へと向かう。
あの森にはどんなモンスターがいるんだろう。




