足元グニグニ
食事を終えた僕達は湖を後にして森に入った。
ポーションの空瓶が欲しい僕とセインが積極的にパラライビーやステップボアを倒しながら進んでいるんだけど、セインのマナポーション消費数がすごいことになっている。
召喚時に分け与えたMP分指示を出せば消えるんだけど、ソードとストライクを使うと消える量に調整したらしく、ステップボア達をオーバーキルしながら即座に減ったMPを回復している。
ストライクを放っても消えない量を分け与えた時と比べると、手元に戻さずに召喚でし直せる分早い。
そのせいで僕が消費するMPが繰り糸の継続消費しかないんだけどね。
アザレアの魔法を空撃ちすればいいのかもしれないけど、それはちょっと気がひける。
音でモンスターの注意を引くかもしれないし、当たりどころによっては木が折れたり土が抉れてしまうから、あまりよろしくない。
だから、クローバーとハピネスに糸を2本繋いで消費を早めている。
ラナンキュラスとアザレアだと、とっさに攻撃した時にやりすぎてしまうかもしれないからね。
「少し先にハニーベアとワイルドベアの親子がいました。どうしますか?」
「今に私達なら大丈夫じゃないかな」
「そうですね!セインさんのソードストライクで先制すればワイルドベアに大ダメージを当てられます!」
「なら、戦いましょう。うららさんもいいですか?」
「はい。問題ありません」
「決まりですね!こっちです!」
森の深いところに入ってすぐしのぶさんが偵察に出てくれた。
その結果ハニーベアとワイルドベアの親子を見つけたんだけど、セインとミヤビちゃんが戦いたそうにしていたので挑むことにした。
「あそこです」
「はにぃ……」
木の陰に隠れながらハニーベアとワイルドベアの様子を伺った。
ハニーベアは蜂の巣を見つけることができていないようで、周囲の匂いを必死に嗅いでいた。
親のワイルドベアはハニーベアを見守りながらも周囲に気を配っているようで、鋭い目を周りに向けている。
「それじゃあやりますね。みんなソード、ストライク!」
「ガァァァァ!!」
「はにぃ?!」
9本の精霊剣がワイルドベアに向かって飛んでいく。
警戒していたからか、飛んでくる剣に気付いたワイルドベアが腕を振って剣を弾こうとした。
だけど、9本同時に射出されているので弾けたのは3本だけ。
残りの6本はワイルドベアの体に突き刺さり、近くにいたハニーベアが驚いて動かなくなった。
「隙ありです!首刈り!」
「ランス!」
「ハニーベアは任せてください!糸縛り・雁字搦め!」
「シロツキちゃんとトバリちゃんも頑張って!」
「きゅー!」
「キュキュ!」
たった一度の攻防でHPの半分近くを失ったワイルドベア。
そこにパラライソードと忍刀を持ったしのぶさんが上から落ちてきて、首の裏を切りつける。
僕はアザレアでランスを放ちながら予め突き抜ける槍を発動していたラナンキュラスを突っ込ませる。
うららさんは狼狽えているハニーベアを糸で縛り上げたんだけど、口も塞ぐように巻きつけているので叫んでもう一頭の親を呼ばれることはない。
シロツキとトバリはワイルドベアに攻撃して、ミヤビちゃん本人は縛られたハニーベアを倒しに向かう。
「ふぅちゃん、ちーちゃん、やみみんソード、ストライク!」
「グルゥ……」
「ムミィー!」
セインが最初に弾かれた精霊に対してもう一度ストライクを指示した。
すると、セインの元へと戻ろうとしていた精霊達が再度剣になり、その場からワイルドベアに向かっていく。
背後から突き刺さった3本の剣がトドメとなって、ワイルドベアが倒れた。
口を塞がれたハニーベアのくぐもった叫びが聞こえたと思ったら、直後にミヤビちゃんの槍が突き刺さって光になって消えた。
口を塞いでいなかったらもう一頭の親を呼んでたんだと思う。
「セインさん凄いです!」
「それほどでもあるけどね!」
「さっきみたいに攻撃を弾かれた後にもう一度指示を出して再度攻撃することができるなら、精霊をどこかに潜ませて不意をつくこともできるの?」
「できると思うけど、指示する時に声を出すから結局バレるんじゃないかな」
「あー……たしかに」
せっかく足元に隠していても、相手を指差して命令する必要があるから対処される可能性はある。
それが精霊使いのことを知っている人が相手だったら簡単に防がれそうだ。
ストライクと言った時点でその場から離れることができれば、追いかけてくる剣を弾くだけになるし。
「ワイルドベアが来る気配もありませんし、行きましょう」
「きゅ!」
しのぶさんとシロツキの先導で花畑を目指す。
途中一頭だけで行動していたハニーベアや色々な武器を持ったパラライビーの集団と遭遇した。
武器持ちのパラライビー達は、正面から迫る精霊剣を弾くことができたんだけど、セインが即座にラッシュや剣にせずストライクを使ったので、反撃を受けることなく倒せた。
パラライビーでも弾けるぐらいだから、もっと遠いところに行くなら工夫が必要になりそうだ。
「花畑に着きました!」
「やっぱり綺麗ですね」
花畑に着くとミヤビちゃんが駆け出し、うららさんが花の採取を始めた。
僕とセインはマナポーションを飲みながら採取を手伝い、しのぶさんはシロツキと周囲の警戒をしながら奥の様子を見に行った。
僕達の周りを警戒するのはトバリの役目になっている。
「皆さん!奥のハチミツが溢れている森で誰かが戦っています!バトルエリアも出ているので、以前見た大きな蜂だと思います!」
「爺行こう!」
「うららさんは大丈夫ですか?」
「はい。私も気になります。ミヤビちゃんも行きましょう」
「うん!」
うららさんがいつの間にか花の採取をしていたミヤビちゃんに声をかけ、しのぶさんが待つ森の入口へと向かう。
「うわぁ〜。やっぱりベタついて歩きづらくなるね〜」
「この状態で戦闘はしたくないですね」
森に入ると足元に広がったハチミツでベタつき、木の根に気をつけないといけない森の中がさらに歩きづらくなる。
一歩進むごとに足が引っ張られるような、あるいは重い物がくっついているような感じがする。
「それじゃあさっき覚えたスキルを使ってみますか?」
「だねー」
「「「エアアーマー」」」
覚えたばかりのスキルを使うと、体の表面を薄っすらと光る膜が覆ったんだけど、セインとうららさんの表面に膜は見えないので、自分にだけ見えるものなんだと思う。
もしかしたら水中では見えやすくなるかもしれないけど。
「おぉ!ベタつかない!」
「ですが、感触が普通の地面とは違いますね」
「なんというか……グミ?ゴム?踏ん張れない訳ではないんですけど、ちょっと違和感がありますね」
エアアーマーを纏ってハチミツを踏んでもベタつかなかった。
だけど、踏んだ感触はしっかりしたものではなくグニグニとしていて、少し沈む。
使わないよりは断然マシなんだけどね。
「しのぶさんは地走りですか?」
「そうです!地面と同じように動くためのスキルなので、ハチミツの上でも問題なく走れます!」
そう言ったしのぶさんはハチミツの上で飛び跳ねたり、軽く走ったりしてくれた。
エアアーマーと違って動きやすそうだ。
「私はシロツキちゃんに乗ります!」
「ミヤビちゃんはその方がいいよね〜」
ミヤビちゃんはエアアーマーを使わずにシロツキに乗った。
大盾を持っているとはいっても竜騎士だから、地に足つけて戦うよりも竜に乗る方がいいはずだ。
幸いエアアーマーのおかげでさっきより動きやすくなっているから少しは動けるし。
エアアーマーの残量が分かりづらいけど、それはこの後膜がどうなっていくか観察すればいい。
そんなことを考えながら進んでいくと、たくさん蜂がいた広場近くまで来たんだけど、しのぶさんの言った通りバトルエリアが広がっていた。
レイドとは書かれていないから1パーティだけで挑む普通のエリアボスだ。




