アイテムボックスの中身
夕飯のおろしトンカツを食べてからログインすると、うららさんだけログインしていた。
なんというか予想していたので驚かなかったけど、ちゃんとご飯食べているのかな。
「工房」
アイテム整理のために工房へ向かう。
みんながログインしたら食堂へ行くためにもう一度使うことになるんだけど、僕だけの用事は先に終わらせておきたい。
1人で転移すれば工房エリアだから、アイテムボックスまですぐなのもいい。
「お帰りなさいませ、オキナ様」
「ただいま、ゼロワンさん」
転移室を出るとゼロワンさんが待機していた。
「本日はお食事でしょうか?それとも作業でしょうか?」
「今回はアイテムの整理だけです。食事は後で人を連れてきてからにします」
「かしこまりました。うらら様が武具制作室にて作業中です。また、源さん様から『いくつかアイテムボックスの共有部分にアイテムを入れている』という旨と『鉄鉱石が余っているなら欲しい』という旨の伝言を承っております」
「わかりました。うららさんの邪魔をしたくないので声はかけなくていいです。源さんの伝言については内容を確認します」
「よろしくお願いします。それでは、人形制作室へ向かいます」
ゼロワンさんの先導で移動しつつメッセージを確認する。
源さんからは何も送られてきていないので、鉄鉱石も急ぎじゃなさそうだ。
ログインしているから、今掘っているのかもしれない。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
ゼロワンさんが扉を開けてくれたので入り、円卓に向かわず壁際にある装飾された箱に向かう。
他の部屋とは違うデザインだけど、使い方は同じだ。
「何これ……」
アイテムボックスの共有部分には源さんに頼んでいた物の中で入っていたのは木の盾に鉄でできたフレームを嵌めた物、鉄の盾で持ち手とは逆の防御側に棘が生えた物、ボーリングの玉サイズの鉄球に、それの棘付き版、鬼が持ってそうな棘付き棍棒だった。
選択してわかったんだけど棘付きの盾以外は中に石を入れてカサ増ししていて、性能そのままに耐久値が大きく減っていると書かれていた。
これで攻撃したら中の石が割れて耐久値が一気に減るんだろうね。
それでも中が空洞よりも重さが増すから、その分振り回して当てる時の威力が上がる……と思う。
後で試してみよう。
共有部分に入っていた武具を自分のアイテムバッグに入れ、手持ちのアイテムの中から普段使わない物を入れた。
鉄鉱石を少し共有部分に移動させておくのも忘れない。
流石にこれだけの物を作ってもらうとだいぶ消費しているはずだし。
幸いセインが拾った鉄鉱石をくれるから、1人で集めるよりも余裕があるからね。
「あ!え?なんで?……あー……テンペストバードか……」
アイテムボックスの中を確認していると、魔導ボートに使うことができる風の魔石(中)があった。
ログイン初日に戦ったレイドボスのテンペストバードの幼体を撃退した時に貰ったやつだ。
確か何かのボーナスだったと思うけど……発生者と回復で魔石を手に入れた気がする。
「これがあることを覚えて入れば孤島へ行くのが楽だったのかな」
とは言っても海中からの攻撃に少し苦戦したぐらいで、実際の戦闘では倒れるほどダメージを受けたわけじゃない。
風の魔石を使っていると漕ぐ必要がなくなるだけなんじゃないかな。
あるいは花クラゲの触手を振り切れるぐらい。
フィッシュマンやソードフィッシュのような海中を自由に移動できるモンスターからは逃げられない気がする。
なんとなくだけどね。
「アイテムの整理が終わったので一度戻ります」
「かしこまりました。うらら様はまだ工房にいらっしゃいますが、いかがいたしますか?」
ホールへ行った時に呼んでもらいます」
「では、特にお声がけはしません。それでは転移室へご案内いたします」
アイテムの整理もだけど、パーティメンバーが全員ログイン状態になったからだ。
うららさんが工房にいたままでも呼びに行けばいいから、セイン達を迎えに行く。
「行ってらっしゃいませ」
「行ってきます。すぐにホールへ転移しますけどね」
「お待ちしております」
ゼロワンさんに見送られてヌシ釣りの森へと戻る。
目の前の景色が森に変わったと同時にセインと目が合った。
何か兆しでもあったのかな。
「やっぱり爺だ!」
「なんで分かったの?」
「今爺が立っている場所に微かにだけど光が集まってきてたよ。街の噴水で死に戻った人とか、ログインしてきた人も同じだけど見たことない?」
「あー。あんまり記憶にないかも……」
言われると見たことある気がするんだけど、印象に残らない程度の光り方なのかな。
セインも微かにって行ってるし。
「そっか。ちなみに転移する時は光が弾けるよ」
「モンスターを倒した時と同じ感じ?」
「そうだねー。あれよりもう少し大人しめかな」
モンスターを倒した時やPK集団を倒した時は結構な勢いで弾けたけど、流石に街中でそんな強い光は発生しないか。
パッと消えつつ光がチラチラ残るぐらいだろうか。
「オキナさん。お姉ちゃんはどこにいるんですか?」
「あー。ここに居ないってことは工房で作業しているはずだよ。今からご飯を食べに食堂へ行くつもりだから、その時呼んできてもらうよ」
「お願いします」
僕が工房を出る時点では作業中だったし、急いで客室へ行ったとしてもこの付近に出てくるはず。
移動してから客室へ行かれていたらわからないけどね。
「夕飯ですか!今日は魚にします!」
「私も〜」
「お魚いいですね!私もそうします!」
「準備は良さそうだね。工房!」
みんな魚を食べるつもりみたいで、話を聞いているだけで僕も食べたくなってきた。
海のモンスターや湖の守護者から魚を連想したのかもしれないけど、どっちも食材としては微妙な気がする。
「皆様いらっしゃいませ」
「「お帰りなさいませ、オキナ様」」
ホールへ転移すると、ゼロワンさんとゼロツーさんが出迎えてくれた。
ゼロワンさんもいるのはホールへ行くと伝えていたからかな。
「食堂でよろしいでしょうか?」
「お願いします。うららさんはまだ作業中ですか?」
「いえ、すでに食堂でお待ちです。客室へお戻りになられるところだったのですが、オキナ様が食堂へ向かうと仰っていた事をお伝えしました」
「そうなんですか。ありがとうございます」
まだ何か作ってるかと思っていたけど違った。
うららさんのことだから、パーティのログイン状態を見ながら生産していたんだろうね。
「お姉ちゃん!」
「ミヤビちゃん。皆さんもお揃いですね」
「お待たせしました」
「こちらが勝手に待っていただけですよ」
うららさんは何も注文せず待っていてくれたようで、隣ではゼロスリーさんが暇そうに欠伸をしていた。
人形でも欠伸をするんだ。
「ご注文はお決まりで〜?」
「「「「魚で」」」」
「あ、じゃあ私も魚で」
うららさん以外はすでに決めていたので、アイテムバッグからソードフィッシュの身を取り出す。
それを見たうららさんも同じアイテムを出したんだけど、ソード部分が折れただけなので普通の魚に見える。
それが5尾集まるとスーパーで売ってそうな光景になった。
「うーん。これならソテーとフライやな。1人500ゴールドや!」
全員が500ゴールド払うと、ゼロスリーさんは厨房へ向かった。
後は出来上がりを待つだけなので座って待っているだけなんだけど、今のうちに風の魔石(中)について話しておこう。
「ふーん。爺は覚えていたら使ってた?」
「たぶん」
「本当に?他に魔石(中)の使い道はないの?」
「使い道は……アザレアの杖だね。魔法を使うために魔石を組み込んでいるんだけど、魔法の力がなくなったら交換しないとダメなんだ。まだ、交換したことないけど」
「それを踏まえてボートに仕えた?」
「あー……使わないと思う」
「なら、いいじゃん」
風の魔石について話した結果、セインに言い負かされた。
これは僕個人が手に入れたものだから、使い方も自由にしていいと言いたいんだと思う。
余っていれば使ってくれって言ってきたかもしれないけど1個しかないからね。
しのぶさん達も同じ意見のようで、どうやったら魔石が手に入るか話し始めた。
「お待たせ〜」
しばらくするとゼロスリーさんが料理を運んできた。
バターの香る白身魚のソテーと、きつね色に上がったフライだ。
ソテーはバターが効いているんだけど、後に引かないようにレモンの様な物でさっぱりと仕上げているんだけど、胡椒のお陰でバターの味が引き立てられているし、鼻から抜ける柑橘系胡椒の香りが丁度いい。
お皿の淵に沿うように掛けられたソースにつけると、少し甘みを感じるんだけど優しい甘さなので味を損なわない。
付け合わせの茹でた人参の様なものと、包み焼いたかの様な玉ねぎの様なものもまた美味しい。
フライはシンプルに塩だけの味付けなんだけど、思った以上に衣がサクサクだった上に白身のフワフワ感がすごい。
さらにハーブの香りが口の中に広がって油っぽさをなくしている。
どうやら素揚げした魚を2枚重ねてから衣をつけて再度揚げたようだ。
魚が薄いからこその工夫だと思う。
「ごちそうさまでした」
「すっごく美味しかったです!」
「これはまた食べたくなりますね」
「私はソテーが好きです!」
「私はフライ!」
しのぶさんがソテー派で、セインがフライ派だった。
僕もどちらかといえばフライかな。
「お腹も膨れてので行きましょうか」
「だねー」
「それでは転移室へご案内いたします」
ゼロスリーさんにお礼を言ってから食堂を出て、ゼロワンさんに続いて転移室へ向かう。
この後はハチミツ採取だ。
「またお越しください。行ってらっしゃいませ。オキナ様」
「行ってきます」
本日2回目のゼロワンさんのお見送りで工房を後にした。