ヌシとの戦い方
湖の守護者ことヌシと戦ための列に並んだ。
僕だけが並んで、他のパーティメンバーは周りに出ている屋台で食べ物を買って湖のほとりにあるオープンテラスのような場所で待つこともできたんだけど、戦うための打ち合わせがあるから全員だ。
別に僕だけ並んでも良かったんだけどね。
そして、湖の守護者を倒して『おいでよ!ヌシ釣りの森!』を解放したメンバーの中にいたしのぶさん主導で、湖の守護者との戦い方に関する話し合いが始まった。
「本来であれば釣り上げるか潜水して触れるかなんですが、私達にはミヤビちゃんがいます!なので、シロツキちゃん達におびき寄せて貰ったところを攻撃しましょう!」
「シロツキ達が水中で攻撃してもいいですよね?」
「ヌシに触れればいいので問題ないはずですが、どうせなら最初に大ダメージを与えたましょうよ!」
「それもそうですね」
宝箱のように触れる時に攻撃して大ダメージを与えることができれば、その後の行動を短縮できるかも知れないけど、水中でスキルを使ったことがないからどうなるかわからない。
上から水中に向かって攻撃してもいいけど当たらなければ一緒だし、当てやす法でいくことになった。
「1本目のHPバーの時は地上で戦います。半分を切るまでは胸ビレによるビンタと尾ビレによる回転攻撃がメインですが、離れている相手には水中で食べた物を含んだ水を吐き出してきます」
「湖の守護者は10mぐらいあるアロワナだけど、地上でも戦えるんだ……」
「それに、あの巨体から繰り出されるビンタや尻尾は攻撃力が高そうですね……」
しのぶさんの説明にセインとうららさんが呆然としている。
今戦っているパーティは水中の湖の守護者に地上からスキルを放っているけど、湖の守護者も負けじと顔を出して勢いよく水を吐いたり、水中から岩を放ったりしている。
その時に見える体やヒレの大きさを見ただけで、凄い勢いのビンタや尾ビレによるなぎ払いだとわかる。
ミヤビちゃんなら受け止められるのかな。
「ビンタは叩き潰すように、尾ビレは吹っ飛ばすように放ってきます。盾を構えていても叩き潰されたり吹っ飛んでいる人はいたので、ミヤビちゃんも注意してください。重い防具を装備している人でもバランスを崩しそうになっていましたし」
「わかりました!堅守を使うかシロツキちゃんに乗ることにします!」
ミヤビちゃんは竜騎士だから純粋な盾職よりも防具は軽いはずだ。
なので、ビンタはどうかわからないけど、尾ビレのなぎ払いは吹っ飛ぶと思う。
ミヤビちゃんもそれがわかっているからか堅守かシロツキに乗るようだけど、堅守で防げるのかな?
動けなくなる代わりにレベル×10HP分のダメージを向こうにするし、その値を超えていたとしても差分がダメージになるわけじゃない。
僕の堅守はレベル1だけど、10以上のダメージを一度だけ向こうにできるから、緊急時には役立つし、腕に能力入力した時は腕が動かなくなるだけで糸を使って振り回せたんだよね。
もっと活用した方が良さそうだけど、まだ戦闘中に余裕がないから意識だけしておこう。
「1本目のHPが半分になると飛び上がって降ってきます。今の所全員一撃でやられてますし、避けても地面が揺れて動けなくなったところをビンタされるので……頑張って離れてください!」
「わかりました!」
「えっと……」
「頭上に糸を張り巡らせてみますか?」
「僕は糸を木に繋げて縮めれば逃げることもできますけど……うららさんはできそうですか?」
「うーん……できなくはないと思いますが、やったとこがないのでできると言い切れないですね」
「そうですか……。一応糸で封じれるかやってみて、ダメだったら試してみましょう」
「そうですね」
しのぶさんの避けろというアドバイスに返事ができたのはミヤビちゃんだけだった。
しのぶさんはうららさんが張る糸で避けられるかもしれないけど、セインとうららさんは難しいと思う。
僕も周囲の木に糸を伸ばして縮めれば逃げられるかもしれないけど……全然やってないからとっさに逃げるのは難しいと思う。
うららさんにも勧めてみたけど、縮めるところが難しそうなんだよね。
僕だと縮むように意識すればいいんだけど、うららさんは実物の糸だから手繰り寄せるしか距離が縮まらない。
咄嗟に糸を放つことはできても、引っ張りながら逃げているうちに湖の守護者が落ちてくると思う。
セインに至ってはそういった移動手段がないからお手上げだ。
「と、とりあえず湖の守護者が飛び上がったら全員散りましょう!」
「了解!」
対処法を必死に考えていたセインが勢いよく返事した。
僕とうららさんもシンプルに逃げた方がいいんだろうけど、できることはやることになった。
僕達の火力だとそこまで飛ぶことなく1本目を削りきれるはずだからね。
「えっと……、HPを1本削ると湖の守護者は水中に戻ります。釣り上げない限り地上には戻ってこないので、水中で戦うか上からスキルを放つか、今のパーティみたいに攻撃してきたところを狙うかですね」
守護者が水を吐きに出てきたところをスキルで攻撃した方が良さそうだけど、守護者の攻撃を受ける前提になる。
避けてから攻撃しようとしても、守護者は水を放ったら即座に戻っていってるからね。
「あの水の威力はどのくらいですか?」
「守護者の直接攻撃とは違ってそこまでダメージはなかったはずです。少なくともビンタを受けて倒されなければ耐えられます」
「わざわざビンタを受けてまで確認したくないから、当たった時のダメージによってクローバーを動かしますね」
「爺はどっちかというとMだから受けてきてもいいんだよ?」
「いやいや、魚に叩かれる趣味はないよ」
「えむ?」
「もう少し大きくなったらわかるわ……」
「うん」
セインのせいで変な空気になった。
ミヤビちゃんが興味を示す前にしのぶさんに目配せして続きを促そう。
「水を吐く以外にも水面から顔を出してアゴで叩き潰す攻撃もあります!なので、基本的に少し離れて戦います!」
「ミヤビちゃんはシロツキに乗って飛べばいいから近くてもいいかもしれないね」
「そうですね!湖の守護者が飛び上がる高さがわかれば危険も少ないと思います!」
「わかりました!このあと戦う人達を参考にします!」
しのぶさんはやけに早口で説明してくれたけど、何とか話題を変えれた。
ミヤビちゃんは言ってすぐに湖へと目を向けて、今戦っているパーティや湖の守護者を観察し始めた。
「最後に2本目のHPが半分になった時なんですが、勢いよく横方向に飛び出してきて地上にいる人間を丸呑みにしてきます」
「それも一撃ですか?」
「いえ。食べられたことでダメージもあるんですが、食べられた後水中で吐き出され、何度も体当たりを受けることで連続してダメージを受けます」
「水中に引きずり込んでくるんですか……」
「そうなんです。私達が倒した時はタンク役が飲まれたんですけど、水中で倒されてしまいまして……復活させるのに苦労しました」
たしかに水中で倒されたら厄介だね。
浮くかどうかわからないし、たとえ浮いたとしてもそこまで行くのに時間がかかる。
漁師や釣りスキルがあれば引き寄せられそうだから、僕とうららさんの仕事かな。
「その時はどうやって復活させたんですか?」
「湖の守護者を釣り上げて引き付けている間に、水中を漂っていた仲間を釣り上げました」
「な、なるほど」
「浮いていれば地走りで駆けつけれるんですけどね」
ミヤビちゃんは装備の重さ的に沈みそうだけど、僕達はどうなんだろう。
コートだし沈みそうな気がする……。
できるだけ食われないようにするか、水中で吐き出されたらすぐに繰り糸を使って抜け出さないとダメだね。
「ざっくり説明するとこんな感じですが、私達なら大丈夫ですよ」
「そうですね」
「たしかに」
「勿論!」
「頑張ります!」
しのぶさんの言葉にそれぞれ返す。
しばらく待って夜の帳が下り始めたところで僕達の番になった。




