フィッシュマンズ
しのぶさんを助けるために海に飛び込んだトバリを追ってミヤビちゃんも飛び込んで10秒ほど経つと、ボートの淵にビチャっと音を立てて何かが乗った。
それは魚のヒレが4つに分かれたもので、直後に魚の顔が上がってきてギョロリとこちらを見てきた。
「右に2匹!左に3匹!前と後ろに1匹ずつです!」
「僕が前と左に!」
「私は右と後ろだね!みーちゃんラッシュ!」
うららさんがざっと周囲を見回して登って来ようとしているフィッシュマンの数を確認した。
座っている場所とハピネス達の位置から前と左を選んだけど、船の周りにはまだ何匹か泳いでいるみたいなので、これを倒したら終わりというわけではないようだ。
ミヤビちゃんとしのぶさんも戻ってきていないし。
「うわぁ!びっくりしたー!」
前のフィッシュマンにハピネスを、左はアザレアとラナンキュラスを向かわせたんだど、その直後後ろからバチッという音と驚いたセインの声が聞こえてきた。
「大丈夫?」
「うん。ロックリザードと戦った時より放電の威力があったからビックリしただけ!問題ないよ!」
「わかった」
らいちゃんソードで切った時に発生する放電がお前より強かったらしい。
岩を切るのと濡れた魚を切るのじゃ電気の通りが違うんだろうね。
「ボール!突き抜ける槍!」
前のフィッシュマンにはハピネスを向かわせ、左の3匹にはアザレアのボールと放電する槍を構えたラナンキュラスを突撃させる。
ハピネスの右手から出ている剣は火属性なので効きは悪いはずなんだけど、一撃で倒せた。
よく考えるとここはヌシ釣りの森でいうステップボアが出てくるところなんだよね。
だから、水属性っぽいフィッシュマンに火属性で攻撃してもジュッという音に少しの煙とかすかにいい香りが出るだけで倒せた。
なので、スパークボールと突き抜ける槍を受けたフィッシュマンも同様に一撃だったし、ラナンキュラスが普通に突いても同じだった。
さすがに繰り糸を繋いで振り回し、それを海に叩きつけても倒せるとは思えないけどね。
「きゃっ!」
「うららさん!らいちゃんストライク!」
僕が担当した分を倒したので、追加で上がって来るフィッシュマンがいないか身を乗り出して確認していると、後ろからうららさんの悲鳴が聞こえた。
振り返ると水面から伸び上がったフィッシュマンに手を掴まれていたんだけど、セインがらいちゃんソードをそのフィッシュマン目掛けて放ったので、引きずりこまれることはなかった。
それどころかフィッシュマンを貫通して海面にらいちゃんソードが当たったことで、切った時よりも強い放電が発生して近くを泳いでいたフィッシュマン2匹を倒している。
「あ!爺危ない!」
「え?うっ」
セインに言われた瞬間、横から何かに叩かれた。
僕を叩いたのはフィッシュマンで、右のヒレを振り抜いた体勢だったので、ビンタしてきたんだと思う。
幸いダメージは少ないので、クローバーで回復するよりも倒すことを優先して、近くにいた騎士人形を向かわせる。
騎士人形で倒す場合2回切る必要があったんだけど、それよりも騎士人形が動くたびに船が揺れる方が大変だった。
「うわっ!今度はこっちか!」
騎士人形の操作に慣れていないので集中していたら、海に面した左腕をフィッシュマンに掴まれた。
海に引きずり込もうとしてくるので、ラナンキュラスを海面すれすれで飛ばし、槍で突いて倒した。
僕やうららさんを直接攻撃せずに海に落とそうとするのは、海中がフィッシュマンのホームグラウンドだからかな。
しのぶさんとミヤビちゃんも上がってこないし、同期操作を使ってラナンキュラスを飛び込ませるべきだろうか。
僕がハピネス達を連れて飛び込むより効果的なはずだ。
水中で駆け抜ける翼が使えたらだけど。
「何か大きな物がくるよ!」
ボートに上がってこようとするフィッシュマンがいなくなった。
3匹のフィッシュマンが周りを泳いでいるだけなので、セインが海中の様子を確認した。
海中から上がってくる大きな物と言われると首長竜が頭を過ぎったんだけど、流石にここにもいるとは思えない。
気になったので僕も覗き込んでみると、近くを泳いでいたフィッシュマンが空中に跳ねあげられ、大きな水柱と共に全身びしょ濡れのミヤビちゃんが出てきた。
倒されたフィッシュマンの光と水しぶきが合わさってとても綺麗な光景だ。
「しのぶさん!無事だったんですね!」
「ご心配をおかけしました!この通り、無事です!」
「よかったです」
反対側にはトバリに乗ったしのぶさんが出てきた。
しのぶさんのステータスプレートを見るとHPが2割ほど減っている。
ミヤビちゃんも1割ほど減っているから海中の戦闘は激しかったんだと思う。
「ミヤビちゃんもお疲れ様」
「はい!海の中にフィッシュマンが20匹ぐらいいたんですけど、あとはそこを泳いでいる2匹だけです!」
「わかった!セイン!」
「りょうかーい!らいちゃんラッシュ!」
残った泳いでいる2匹に対して、らいちゃんのラッシュとラナンキュラスが向かう。
それぞれ簡単に倒すことができたので、ようやく落ち着けるよ。
「海中はどうだったんですか?」
「息をしようとすると口の中に海水が入ってくるんですけど、苦しくはないですね。そのかわりSTがガンガン減っていきました」
フィッシュマンを倒し切り、しのぶさんとシロツキ達の警戒に何も引っかからなかったので、全員ボートに集まり回復と休憩を取ることになった。
回復はクローバーで行うので、ポーションとは違い口は塞がらない。
なので、うららさんがしのぶさんに海中のことについて質問し出した。
「STが無くなるとどうなるんですか?」
「HPが減り始めました。私のダメージの半分はST切れです」
「スキルは使えるんですか?」
「はい。ごぼごぼ言うだけなんですけど発動しました。もっとも私の場合は海中で使えるスキルが少ないんですけどね」
しのぶさんが使う忍術は火遁と雷遁だよね。
あとは武器スキルと暗殺術だけど、武器スキルはともかく暗殺術は水中で使えるんだろうか。
「なるほど。戦闘はし辛いですか?」
「そうですね。水の抵抗があるのでなかなか思うように動けません。なので、トバリとミヤビちゃんが来てくれなかったら厳しい戦いになるところでした。上に逃げようにもすぐに掴まれて戻されるので」
「なかなか凶悪ですね……。ミヤビちゃんはどうでした?」
「シロツキちゃんが動いてくれたので槍を構えているだけで倒せました!トバリちゃんもです!」
「なるほど。竜の方がフィッシュマンより速いわけですね」
しのぶさんは引き摺り込まれたあと複数のフィッシュマンに体当たりされたらしい。
両手に武器を持って振るも水中では思った速度は出ず、ギリギリで進路上に構えても手足のようなヒレを巧みに動かして回避され、それを追おうとしても速度の差で無駄になる。
ならばと浮上したら即座に足を掴まれて戻されたそうだ。
その点トバリやシロツキは水中でも高速で動けるようなので、フィッシュマンを追い詰めて倒している。
空を飛んだ時に風を軽減しているので、水中でも同じように魔法か生態のなす何かによって動けているんだと思う。
「今後は戦闘以外で水面に立たない方が良さそうですね……」
「戦闘中も相手によっては立たない方がいいと思いますよ」
というわけでしのぶさんが地走りを使うのは戦闘中だけということになった。
ボートの周辺を警戒するために足を揃えて先端に立ち、腕を組んで周囲を見回している姿は忍者っぽいんだけど、無理している感がある。
広範囲の警戒はミヤビちゃんが空から行ってくれるので、周囲に集中できることで海中への警戒もしやすくなったようだ。
移動もしなくていいからね。
そのまましばらく進むと、一度も戦闘することなく『南の孤島』に着いた。




