出航!
掲示板で必要な物を調べながら港に向かったんだけど、今の僕達に必要なものはなかった。
『操船』スキルはボートにも一応効果はあるけど、メインの対象はもっと大きな船を操るもので、スキルが無くてもメンバーと力を合わせれば操船することが可能だし、ボートに至っては流れに気をつけて漕ぐだけだ。
潮の流れを読むのは難しいけど、港にいる漁師に教えてもらうかガイドに雇うこともできるし、そもそも『南の孤島』までの流れはそこまで早くないらしい。
唯一テンペストバードが来た日は荒れていたようだけど、今日は晴れているし風も弱いので問題がなさそうだ。
道具に関しても魔石は手に入っていないので手で漕ぐことになるけどオールはあるので進むことはできる。
海を楽しむために釣竿に餌、投網などの魚を捕るための道具を持って行く人も多いみたいだ。
ただ、今のところ水着は無いらしいので、目下服飾関係の職人が素材探しに必死らしい。
水に透けたり耐久性に難のあるものでは弾かれるそうで、運営に問い合わせた結果『成功すればインナーと入れ替得ることができる』と返ってきているそうなので、職人達もやる気にみなぎっているらしい。
現在使える装備は『着ぐるみ型酸素内蔵潜水服』というよくわからない物しかないんだけど、馬や猫に犬や鶏といった一見ふざけた外見にも関わらず性能がいいようだ。
水中で活動するとスタミナが一気に減るんだけど、この服を着ているとそれが大幅に軽減され、尚且つ水中でもそれなりに動けるようで、水中のモンスターと戦うプレイヤー達は全員これを着ているみたいで防御力にも定評があるようなんだけど、そんな海中は見たくない。
ありがたいことに水中では優秀な反面地上ではポンコツになるようで、上がってからは脱いでいるので街中に着ぐるみの人達が溢れることはない。
水の魔石をいい感じに使うことで作った結果水の中での行動にボーナスが付いたと書かれていたんだけど、装備品としての耐久力と防御力を追求した結果こうなったらしい。
いい素材があれば薄型を作れるようになり、普通の潜水服を経て水着を作れると書き込んでいる人もいたんだけど、いつになるんだろうね。
別に水着が見たいわけじゃないんだけど、見たくないわけでもないし。
仮に見れる場所ができたら足を運ぶのは吝かでもないよ。
うん。
戦闘面では魚が飛びかかってくるみたいだけど遠距離攻撃できるメンバーがいれば問題ないみたいなので、僕のクローバーとアザレアとラナンキュラス、ミヤビちゃんのシロツキ達とセインの精霊達に、しのぶさんは火遁に加えて雷遁も覚えてきたそうなので十分対処できると思う。
「少し待っていてください。釣竿と餌を買ってきます」
「私は銛を買ってきます!」
「じゃあ投網を買ってくるよー!」
「私も投網を!」
港に着くと屋台形式で色々な道具が売られていて、うららさんが釣竿、ミヤビちゃんが銛、セインとしのぶさんが投網を買いに行った。
ミヤビちゃんの買う銛は槍扱いになるのかな?
なったとしたら覚えた技とかも使えるんだろうけど、竜に乗って銛を構えるミヤビちゃん……微妙だ。
だけど、シロツキに跨って空を飛び、勢いよく海にダイブして水中で魚を突いて漁をする姿が浮かんだ。
イメージの中のミヤビちゃんは日焼けで黒く焼けているし、装備は草を編んだ野生的な物だった。
シロツキとトバリが湖に飛び込む姿を見ていたせいでこんな想像をしたのかな。
「お待たせしました」
「爺は何も買わないの?」
「うん。一度海に出てからやりたいことを考えるよ」
「ふーん。そっか」
釣りは嫌いじゃないけど、やるなら落ち着いてやりたい。
モンスターが出てくる海の上でのやり方もよくわからないし、投網も同様だ。
掲示板に『漁』スキルや『釣り』スキルを取らないでやる方法が書かれていたんだけど、やっぱりモンスターがでるせいで普通じゃないので今はやらない。
周囲にいる水生系モンスターをほとんど倒してから釣りや投網をしろって書かれていたけど、戦闘すれば魚は逃げると思うんだけど、モンスターがいなくなったから集まってくるんだろうか。
「よーし!準備もできたし行こう!」
「じゃあ向こうだね」
セインが勢いよく手を上げたけど、今いる屋台が出ている場所は漁船以上の大きな船が停泊する場所で、ボートに乗る場所はもっと端にある。
そこは桟橋がもう少し低く作られているためボートに乗り込みやすい。
その分下がる必要があるから階段が多いんだけどね。
「うぅ……揺れています……怖いです……」
「ミヤビちゃん頑張って」
「お姉ちゃん……手を繋いで……」
「ふふっ。はいどうぞ」
港の端にあった桟橋は漁船用の石造りではなく木で作られていた。
浮く素材を使っているからか波に揺られて上下していて、僕達全員が乗っても沈むことはなかったんだけど小さく揺れている。
ミヤビちゃんはそれが嫌みたいでうららさんと手を繋ぎながら桟橋を進む。
「ここに出します。……うぉっと」
桟橋では他のパーティもボートに乗り込む準備をしていたので、空いているスペースを探してボートを出した。
だけど、出した瞬間に波で向こうに行きそうになったので慌てて縁を掴んで引き寄せた。
周りを見てみるとどこも同じようにしていて、一部のパーティはボートの先端にロープを繋いで、力のありそうな重装備のメンバーに引っ張らせていた。
係留できそうな出っ張りがないからこうなるんだね。
「私が掴んでいるうちに爺も乗ってー」
「わかった。ありがとう」
セインとしのぶさんは普通に、ミヤビちゃんはうららさんに手を引かれながら恐る恐る乗り込んだ。
最後に僕が乗り込む時には、セインが桟橋を掴んでくれたので問題なく乗れた。
僕達後衛の力でも固定できるのは助かる。
「行きましょうか」
「出航ー!」
セインの掛け声でオールを回す。
6人乗れるといってもそこまで大きいわけじゃないので、今は僕が漕いでいる。
慣れてきたらそれぞれ持ち回りで漕ぐことになっているので、出来るだけコツを掴んでおきたいところだ。
「しのぶさん。交代します」
「任せてください!あのボートを追い抜きます!」
オールの板を海に入れる時の角度や、曲がる時にどちらに力を込めればいいかがわかればとりあえず進むことはできるようになった。
速度の出し方や波に対して船体をどう向けるかなど色々学ばないといけないことはあるけれど、漕ぐだけならできるようになったので、じゃんけんで決めた順番通り次のしのぶさんに交代した。
なぜか速度を出す気満々のしのぶさんだけど、言った通りすぐに前を進んでいたボートを追い抜いた。
僕としのぶさんではオールを漕ぐ時かかる力が違うので、それが速度にも影響したようだ。
流石にこのためだけにステータスを割り振るつもりはない。
「しばらく僕が漕ぎますね」
「お願いします」
漕ぎ手を一巡した結果、速度ではしのぶさん、小回りではうららさん、安定感では僕になった。
ミヤビちゃんは座ったまま両方同時に回すのが難しく立って漕ぐ必要があったんだけど、波に乗り上げるとバランスを崩してしまうので警戒に回ってもらった。
セインは左右同時に漕いでも右手に力を入れすぎてしまうみたいでまっすぐ進めなかったからだ。
しのぶさんに任せて速度を出してもいいんだけど、波に乗り上げると跳ねるせいでミヤビちゃんが怖がってしまう。
周りが入り組んでいるわけではないので僕が漕ぐことになった。
岩場だったり他のボートが密集している場所に出たらうららさんに交代。
モンスターに追いかけられたらしのぶさんに交代するつもりだ。
「あ!モンスターです!」
遠目に見える島に向けて進んでいると、警戒していたミヤビちゃんが側面に向けて指をさしながら言った。
仕事の関係上しばらく不定期更新になります。
今回の出張に関する仕事が新しく業務範囲になったので、書く余裕がなさそうです。