街中クエスト
地底湖を後にし、警戒しながらアーマーゴーレムと戦った小山の前を抜け段へと戻ってきた。
土人形使いの女の子は既にいなくなっていたので、戦闘しているパーティの邪魔にならないよう段を登りつつ、隙あれば石を拾ってアイテムバッグに入れていく。
ロックゴーレムが襲ってきてもセインが倒してくれると言ってくれたから石拾いに精を出したんだけど、結局戦うことはなかった。
続くリトルロックゴーレムが沢山いるところでは何度か戦闘になったんだけど、らいちゃんとふぅちゃんを剣にしてそれぞれ持ち、二刀流でセインが暴れた結果僕の出る幕はなかった。
ここでは拾うものが無いから少し暇だ。
他のリトルロックゴーレムと戦っている人たちは、パーティもいればソロの人もいるけど、特に目を惹く戦い方じゃなかった。
いつかの人形作りに役立つ何かがあれば嬉しかったんだけど、奇抜な戦闘をする人は中々いないか。
「外に出たら騎士人形に任せてもいい?」
「うん。ブラウンラビットだから問題ないよ」
バトルエリアに触れて向こう側へ移動し、街へと続くトンネルを進んでいるとセインが言ってきた。
ブラウンラビット相手に剣を使ってもオーバーキルだから、騎士人形に任せていいと思う。
できれば移動手段が欲しいけど、騎乗用の動物は高いし倒されたら終わりだ。
そういった生き物が必要な職業の人は大抵最初にもらってるので、街中には騎乗用の生き物を売っているお店があるんだけど中々売れていない。
僕の場合は移動用の人形を作るべきかもしれないんだけど、自分でフレームを弄って作らないとダメだから骨が折れそうだ。
先代の人形使いが残したレシピに載っていたらいいな。
「あ!もう街だー!」
「盛り上がっていたから早く着いたように感じるね」
「だねー」
散発的に襲ってくるブラウンラビットを騎士人形に任せながらセインと乗り物や人形のことを話しつつ歩いていると、気づいたら街が見えるところまで来ていた。
1番盛り上がったのはセインが乗りたい生き物の話で、ペガサスかイルカに乗りたいという夢があるらしい。
しかも、イルカはどこでも使えるのがいいみたいで、空中を飛べないとダメというこだわりもある。
終いには作ってくれと言われたけど、どう考えても作れる気がしないので拒否した。
流石に空飛ぶイルカは作れない。
だからといってペガサスが作れるとも思ってないけどね。
「まずはマナポーション補充?」
「うん。その後は冒険者ギルドでクエスト報告だね」
「りょうかーい。ついでにクエストを見て昼食まで時間潰す?」
「そうなるかな」
朝早くからログインしたので、昼食までまだ2時間以上あるから、何かパパッとできるクエストがあれば受けてもいいかもしれないんだけど、パーティメンバーのログイン状況を見るとミヤビちゃん以外ログインしているから合流してもいいかもしれない。
それぞれ何かやっているだろうから本当にやることがなくなった時の最終手段だけど。
「うーん。いいクエストがないねー」
「そうだね。たまにはのんびり街中を散歩する?」
「そうしよっか」
マナポーションを補充してから冒険者ギルドに向かってクエスト報告をした。
その後魔力水を飲んでMPを全回復してからクエストボードを見たんだけど、討伐クエストと納品クエストばかりだった。
納品クエストは手持ちやセインの倉庫に対象のアイテムがあったのでいくつかクリアした。
工房に行ってアイテムボックスに入っているアイテムを持って来れば2つクリアできる納品クエストがあったんだけど、常駐みたいなので今度にすることにした。
そして、他に集合時間までにクリアできそうなクエストがなかったので、散歩することになった。
集合したら戦うんだから、のんびり息抜きするのもいいよね。
「セインちゃん!いいところに!」
「ペトラさんどうしたんですか?」
セインの案内で表通り以外の道を歩いていると、お肉屋さんのおばさんに声をかけられた。
恰幅のいいおばさんは肉切り包丁を持った手でセインを呼んでいるんだけど、呼ばれたセインは躊躇することなく近づいていく。
街中でクエストを受けていた時に知り合ったんだろうけど、刃物を持った人に近づくのは少し怖いな。
「いま手が離せなくてね。これをフォンのところに持って行って欲しいんだけど……デートかい?」
「そうですよ!でも、大丈夫です!任せてください!」
「え?」
「本当にいいのかい?」
「はい!爺もいいよね?」
「あ、うん」
「そうかい?じゃあ、お願いするよ。報酬は後で渡すからね!」
「わかりましたー!爺行こ!」
セインはペトラさんから肉の塊を包んだ物を3つ受け取ってアイテムバッグに入れた。
配達クエストみたいなものだろうけど、時間はあるから受けるのは全然問題ない。
気になるのはデートを否定しなかったことだけど、無駄な問答を避けるためなんだと思う。
おしゃべり好きなおばさんみたいだし。
「こんにちはー」
「いらっしゃーい。あら?セインどうしたの?お買い物?」
セインに連れられて来たのは別の通りにあるフォン・ベーカリーという名前のパン屋で、中に入るとコックスーツに身を包んだ女性が出迎えて来れた。
この女性がフォンさんなのかな。
「いえ、ペトラさんからこれを届けてほしいと言われたので持ってきました!」
「あらベーコンね。早く持って来てくれて助かったわ。……それで、私からもセインにお願いがあるんだけど……いい?」
「内容によりますけど、多分大丈夫です」
「わかった。ちょっと待っててね」
フォンさん?はセインから受け取ったお肉を置くの厨房に持って行き、少しすると木で編まれた大きなバスケットと紙袋を持って戻ってきた。
今度はこれをどこかに運ぶのかな。
「このバスケットをそろそろ帰ってくる船に乗っている夫のアランドに届けてほしいの。これは報酬のパンよ」
「わかりました!」
「ごめんねー。夫が乗っているのはフィリップ号よ。報酬とは別で今度来てくれた時にサービスするからまた来てね〜」
「ありがとうございます!次は港だって!」
フォンさん?に見送られてお店を出た。
そして港へ向かいながら受け取った紙袋からパンを取り出し、僕とセインで分けた。
中に入ると2人分入っていたので遠慮なく貰ったんだけど、依頼自体は1人でできる内容なので、今度お礼がてら買い物に行こうと思う。
「美味しい!」
「うん。酸味の効いたソースが肉に合ってるね。パンには軽く塩が振られているから、肉の旨味とパンの甘みが引き立っているよ」
「だねー」
貰ったのは白くて柔らかいパンに切れ目を入れて、キャベツのような物の千切りと細かく切ったお肉を挟み、酸味のある白いソースがかかっているものでとても美味しかった。
これだけ美味しいパン置いているお店なら他のパンも美味しいはずだ。
近いうちに必ず行こう。
「おー。あの大きい船かな?」
「どうなんだろう。どこかに船名が書いてありそうだけど……あ、フィリップ号だからあれだね」
港に着くと周囲の漁船よりもはるかに大きな船が入港してくるところだった。
木造の船にはいくつも砲門が設けられ、マストは3本あるんだけど、そのどれもが畳まれている。
船の上にいる人が海面に向けて杖を構えているので、魔法を使って移動しているんだと思う。
船名は側面に金具で取り付けてあって、フィリップ・メルカトリア号となっていた。
メルカトリア王国所有の船なんだと思う。
港に停泊している漁船には『メルカトリア』の文字がないし、たぶん個人所有の船なんだろうね。
船が係留されるのを見届け、渡り板が掛けられるのを待ってから近づいた。
さて、アランドさんはどこかな。