セインのナインソード
他の精霊もレベルを上げたいけど、先にひかりんソードの威力を確かめたいということで、ロックリザードと戦うことになった。
セインが。
なぜかソード状態のひかりんを遠隔で操るのではなく、右手にひかりんソードを持って1匹だけのロックリザードに近づいて行くセイン。
僕には「危なくなったら助けてくれてもいいけど、まずは1人でやらせて」といつになく真剣な表情で言ってきたので止めなかった。
ワイルドベアの防具もつけているし、ロックリザードの攻撃なら一撃で死ぬことはないと思う。
仮に死んだとしても復活アイテムの『天使の涙』は持っているし、いざとなればロックリザードを繰り糸で縛るだけだ。
「やぁー!はっ!てぃ!えーい!」
セインなりの気合を入れた掛け声と共にひかりんソードを振る。
冷静に対処しているからか、ロックリザードが繰り出してきた腕や尻尾に当てることができているし、4回切っただけで2割ほど減っている。
後衛のステータスで物理攻撃した割には結構ダメージを与えられていると思う。
「たぁ!やっ!ひかりんスラッシュ!」
カン、カン、ズバッという感じでスラッシュを決めたセイン。
スラッシュは浮かせて使うと縦にしか放てないけど、持っていれば剣の角度に沿って放つので、横向きに放つこともできる。
横に大きく広がったスラッシュが当たると、ロックリザードのHPが3割ほど減ったので、倒すならスラッシュ4回でいいね。
「ひかりんストライク!」
スラッシュを受けて少し怯んだロックリザードだけど、噛み付こうと口を大きく開けて勢いよく迫る。
そこに向けてセインが突きを放ちながらストライクを使った。
「うわっ!」
セインの手からひかりんソードが射出される。
勢いよく手から離れることに慣れていないのかセインが声をあげたけど、ひかりんソードはそんなことを気にせずにロックリザードの開けた口にクリティカルエフェクトを発生させながら突っ込んでいき、背中から剣先が突き出て止まった。
そんな状態でHPが残っているはずもなく、ロックリザードは光になって消え、ポフっとした剣が落ちたとは思えない様子でひかりんソードが地面に転がる。
「動い威力だねー」
「そうだね。次は最初にストライクを使ってもいいんじゃない?」
「それで口の中に入ったままになるのは嫌だから却下!」
力強く否定された。
確かに口の中に刺さっても倒せなかったら取り出すのに苦労する。
倒せば取り出せるとはいえ積極的にやりたくないのはわかる。
「とりあえず他の子達もレベル3にしたいんだけど、爺にお願いがあるの」
「ん?」
「ロックリザードを繰り糸で縛ってくれない?」
「別にいいけど、それがスキルレベルを上げるのにどう影響するの?」
「スキル一覧で見るとSP消費になっているから、スキルを使用していれば上がるはずなんだけど、何となくレベル2で覚えたスキルをたくさん使った方が良さそうなんだ。ー。だから、ロックリザード的にしようと思って」
「わかった。いいよ」
人形作成も新しく作れるようになったパーツを作ることが条件になるから、新しく覚えたスキルの方がレベルが上がりやすそうというのはわかる。
それが使った回数なのか、相手に与えたダメージ量なのかはわからないけど、試して見る価値はあると思う。
消費MPが凄いことになりそうだけど、そこはハピネス達の接続を切って対処しよう。
ロックリザードならラナンキュラスがいれば対処できるからね。
「おぉ!ひーちゃんとやみみんが同時だー」
ロックリザードを縛ってひかりん以外を召喚して、みんなラッシュを連続で行った。
するとひーちゃんとやみみんがすぐにレベルアップした。
この2体はよく使っていたからね。
その後はふぅちゃん、もくちゃん、みーちゃんの順で上がった。
だけど、あまり使っていなかったちーちゃん、ひょうちゃん、らいちゃんはなかなか上がらない。
ダメージが入らないからかはわからないけど、他の精霊は上がったからこのまま続ける。
縛ったままじわじわとダメージを与える戦い方で倒した数が7匹を超えた頃らいちゃんのレベルが上がり、さらに1匹倒してちーちゃん、ひょうちゃんのレベルが上がった。
これで全部の精霊がレベル3になった。
「さっそくみんな出しして使ってみるねー」
レベルが上がるたびに数が減っていたので一度全員召喚する。
全ての精霊がひかりんと同じく足が生えて身体や顔にそれぞれの属性を表す色のモヤを纏っている。
色が違うぐらいで全部同じように見えるけど、逆に言えば色というわかりやすい差があるせいでパッと見ただけだと何かの意匠で揃えられた芸術品のようにも見える。
レベルが上がることでこの後どうなるか楽しみだ。
「みんなソード!」
セインが言うと一斉に剣になる。
形は全部同じロングソードだけど、それぞれ刃から自分の属性のエフェクトを出している。
ひかりんはキラキラとした光の粒子を微かに散らしていただけなので綺麗なだけだったけど、ひーちゃんは軽く火を吹いているし、らいちゃんはバチッと放電している。
もくちゃんに至っては刃から木の芽みたいなものが生えているんだけど、邪魔にならないのかな。
「よっ!はっ!とっ!」
セインは剣にした精霊を周りに浮かべたり、刃を外に向けて自分の周りで回転させたり、円状に並べて背中に背負って遊んだ。
その後は自分の手が届く範囲に並べて、一振りごとに持ち替えるという変わった素振りをしたんだけど、精霊によるアシストのせいか見応えがあった。
振ることで描かれる軌跡も相まってとても幻想的だった。
「それじゃあ戦ってみるね」
「がんばって」
一通り振り回したので、今度はロックリザードとの実戦で剣の特性を確かめることになった。
ひかりんでは分かりづらかったけど、らいちゃんだったら感電させることができ、ひーちゃんであれば火傷を負わせることができるようだ。
ひかりんはアンデット系のモンスターに強いらしく、やみみんは天使や妖精などの聖属性のモンスターに強い。
もくちゃんに至っては相手の体内に種を植え込んで、中から体を縛ることができるんだけど、やられた側からすると溜まったものじゃない。
ただ、他の魔力に弱いらしく、切られた所の近くを魔法が通過しただけで枯れてしまうみたいで、種が割れていたらすぐに対処されてしまう。
種だけに……とセインがドヤ顔で言ってきた。
「うーん。ロックリザードだと分かりづらいね」
「そうだね。それに、剣だと余り成功しなさそうなイメージがある。あくまでおまけじゃないかな」
「切ることができるからねー。状態異常が発生したら御の字ってぐらいかー」
精霊の剣を使って3匹倒したけど、状態異常は1度も発生しなかった。
僕の予想だと精霊の力を切ることに特化させた結果状態異常が発生し辛くなったんだと思う。
ラッシュやショットでも状態異常はほとんど発生していないから、攻撃に使う時点確率は下がっていそうだ。
レベルが上がると状態異常にするためのスキルを覚えそうだけどね。
「あと少し試させてね。みんなスラッシュ!」
ロックリザードを半円状に囲み、一斉に斬撃を飛ばす。
1発で3割減る攻撃が9回分集まるわけなのでロックリザードに耐えられるはずもなく光になって消えた。
それはストライクも同じで、9本の剣が一気に突き刺さる様は見ていて可哀想になった。
「よし!大体わかったし戻る?」
「そうだね。思ったより消費したから、一度街に戻って補充しよう」
「りょうかーい」
ロックリザードを縛り続けていたので結構な数マナポーションを消費したし、何度も精霊召喚を使ったセインの方が激しく消費している。
これ以上ここで消耗するのも嫌なので、街へ戻ることにした。