精霊召喚レベル3
セインと2人で段を降りる。
1番下には体長3m近いロックゴーレムがいるから、土人形使いの女の子がここまで降りて来てくれれば3mのロックゴーレムvs3mの黒いゴーレムという迫力ある戦闘が見れるんだけど、降りてくるつもりはなさそうだ。
ずっと上の方に出現する背の低いロックゴーレムを倒しているし。
下に行けばロックゴーレムが大きくなるのは、ヌシ釣りの森とワイルドベアが生息するエリアの向こう側でステップボアの大きさが違うような物なのかな。
森とは違って深くなればなるほどモンスターが強くなるとか。
そんなことを考えながら通路を通り、砕かれた岩でできた小山の横を進んで地底湖へと向かう。
地底湖について1番最初に目にしたのは、ロックリザードを捕食する首長竜だった。
水面から長い首を突き出し、高いところから勢いよく開けた口で襲いかかる。
ロックリザード達は逃げることすらできずに、咥えられた仲間が水中に引きずり込まれるところを見送った。
首長竜が水中へ戻ったことで地底湖の水が溢れる。
その水から逃げるように慌てて離れるロックリザードは、互いにぶつかり合いながら鍾乳洞へと続く段へと登るやつもいれば、ぶつかった衝撃でバランスを崩して地底湖へ落ちたやつもいる。
落ちたロックリザードはしばらく待っても上がってこなかったので、泳げないようだ。
「いきなりでビックリしたねー」
「そうだね。でも、今出てきたってことはしばらく出てこないはずだから、今のうちにロックリザードを倒そう」
「わかった。出てきた時は諦めるね!」
「あー。うん。そうだね」
仮に捕食されたら逃げることなんてできずに一撃のはずだから、セインの言う通り諦めるしかない。
地底湖に近づくつもりはないから大丈夫だろうけど。
「お?ひかりんのレベルが上がった!」
「おめでとう。何ができるようになったの?」
「ちょっと待ってね。精霊召喚ひかりん!」
気を取り直してロックリザードを倒していたら、10匹目でひかりんのレベルが上がったようだ。
レベルアップすると精霊は消えるので、セインが再度召喚する。
現れたのは腕だけ生えた球体から、足が生えて身体部分が細くなったひかりんだった。
足が生えたことはハッキリと分かるのに、身体や顔の部分はボンヤリとした何かで見えなくなっている。
まだ完成していないんだろうね。
「おぉ〜!足が生えた!綺麗な素足だー!ね!爺?」
「あー。うん」
言われてひかりんの足を見たけど細く、手触りは良さそうだった。
ても小さいから女の子だと思うんだけど、精霊に性別はあるのかな。
「何ができるようになったの?」
「えっとね、ひかりんソード!」
ひかりんがパッと光って1本のロングソードになった。
セインはその剣の柄を持ち、左右に振ったり突きを放つ。
その動きに合わせて光んソードは綺麗な光の軌跡を描いている。
「武器扱いにならないんだね」
「うん。そうみたい。とっても軽い上にひかりんが剣を振るアシストをしてくれてる感じだね」
「へー」
セインは僕と同じで職業特性に『武器装備不可』があるから普通の剣は持てない。
だから剣術スキルを取ることがないはずなので、そのためのアシストなんだろうね。
それに、セインが剣になった精霊を使っても大丈夫ということは、剣の形にした人形を用意すれば僕も近接戦闘ができるかもしれない。
剣の形をした人形がイマイチ想像できないんだけどね。
ハピネスのように手の先が剣ならまだ分かるんだけど、人形本体が剣だとしたら変形する感じかな?
どうやって作ればいいか全く想像できないので、すぐにやるとしたら指先が刃物状の曲がらない腕を作るぐらいだ。
曲がると振れないからこれで合っていると思うけど……作れるのかな。
「やっ!はっ!っと!ひかりんスラッシュ!」
「おぉー」
素振りを続けるセインが叫ぶと、振った先に光り輝く斬撃が飛んだ。
その斬撃は岩に当たると弾けて消えたんだけど、岩に斬りつけた跡が残った。
剣を使えるようになったとはいえ後衛職だから、あまり使うことがなさそうだと思ったけど、これなら離れたところから攻撃できる。
「まだあるよ!ひかりんストライク!」
今度は突きを放ちながらだったんだけど、突きが飛ぶのではなくひかりんソード自体がまっすぐ飛んで行った。
ひかりんスラッシュが当たった岩に突き刺さったんだけど、剣の1/3ぐらいめり込んでる。
結構な威力があるけど、いちいち突く必要があるなら相手によっては当たらないんじゃないかな。
「毎回セインが振ったり突いたりするのは面倒そうだね。それが全精霊分となると余計に」
「あー……えっとね。さっきは私が持っていたけど、持たなくてもスラッシュストライクは使えるし、剣形態でもラッシュやショットは使えるよ」
「え?今までの技も使えるの?」
「うん。あ、でも剣形態だと属性付与はできなくなるよ。使うためにはひかりんノーマル!これで元の姿に戻さないとダメ」
ひかりんノーマルで手足の生えた状態に戻った。
ソードで剣状態に、ノーマルで通常状態になるなら、今後のレベルアップでなれる形状が増えそうだ。
剣の次は盾かな。
それに、剣状態で今までの体当たりやラッシュができるのは大きいと思う。
さっきのストライクを見たところ、突き出した方向に一直線で突っ込んでいったから、手に持たない場合は指定した場所に突っ込んでいくんだと思う。
その点体当たりやラッシュは相手を追いかけて攻撃していたから、剣が追いかけてくることになる。
しかも追いつかれたら切られるんだから、凄くいい攻撃手段が増えたんじゃないかな。
今は1本だけどしばらくしたら他の精霊もレベル3になるだろうし、そうなると複数の剣で相手を追い詰めることができる。
それに、持たなくていいなら『みんなストライク』で剣状態にしている精霊を一気に突っ込ませて大ダメージも狙えそうだ。
「ひかりんスラッシュ!ひかりんストライク!」
今度は手に満たない状態でスラッシュとストライクを使ったセイン。
スラッシュはその場で縦に回転して斬撃を飛ばし、ストライクは予想通り指定した場所に向かって一直線に飛んでいった。
「あれ?ひかりん?戻っておいでー。おーい!」
「動かないね。MP切れなら消えるはずだけど、どうしたんだろう」
地面に突き刺さったひかりんはそのまま動かなくなった。
周囲にロックリザードはいないけど警戒しながら近づくと、遠目ではわからないほどにプルプルしていた。
どうやら深く突き刺さって抜けなくなったようだ。
「ノーマルに戻せば一瞬なんだけど……爺抜いてみてくれる?」
「え?どうして?」
「私以外の人でもソードは使えそうなんだけど、レベルアップ時の説明に書かれてなかったから試したいんだー。だめ?」
「いや、別にいいけど」
無理だったとしても弾かれて少しダメージを受けるだけだからね。
「それじゃあやるよ」
地面に突き刺さったひかりんソードの柄を掴んでみたけど特に何も起きない。
戦うために持っているわけじゃないせいかもわからないので、引っこ抜いて振るまで気が抜けない。
「よっと……抜けた。このまま振ってみるね」
「うん。お願い」
少し力を加えただけで抜けたので、そのまま振ってみた。
問題なく振れたけど、念のため近くにあった岩に振り下ろしてみた。
それでも弾かれなかったので、僕でもソード状態になった精霊は持てるようだ。
だけど、アシストされている感じはしないので、セインにどういう感覚だったか聞いてみたんだけど、なんとなくどう振ればいいかわかったらしい。
うん。
やっぱり、僕にはアシストが効いてないね。
「スラッシュ!ひかりんスラッシュ!」
ダメ元で言ってみたけど、やっぱり発動しなかった。
あくまでひかり属性の特殊な剣を持っているだけだね。
剣を扱う職業だったら戦いに役立てるかもしれないけど、僕には無理だ。
「ひかりんスラッシュ!」
「うわっ?!」
セインが言うと僕の手からひかりんソードが離れ、空中で一回転して僕の目の前に向けて斬撃を放った。
回転したせいで目の前に剣が迫ったから思わず声が出てしまった。
「あはは!ごめんごめん!」
「いやー。ビックリした」
「爺のおかげで他の人で剣が持てることがわかったよー。ありがと」
セインがひかりん剣のままふよふよと漂うひかりんを掴みながらウィンクしてきた。
僕も剣を振るという体験ができたからよかった。
あとはこのスキルをどこまで活かせるかだけど、まずは他の精霊もレベルを上げないとね。