せっかくだから2人で挑戦
昨日寝る前にセインから少しでもレベル上げをしたいから早めに集まろうとメールが来たから、朝食を済ませた後すぐにログインした。
パーティメンバーでログインしているのはうららさんだけで、セインはまだログインしていないけど集合時間までまだあるから問題ない。
うららさんについては、たぶん工房でしのぶさんの防具を作っているんだと思う。
「よいしょっと」
昨日は噴水広場でログアウトしたので、セインを待つために空いているベンチに腰掛けた。
ぼんやりと周りを見てると、朝早いにもかかわらずたくさんの人が歩いている。
殆どの人がパーティを組んでいるみたいで、今からどのエリアボスに挑むのか話し合っていたり、南に広がる海を探索する場合海賊軍艦に乗るべきか小舟で地道に行くべきかを話しながら港へ向かっている人達が多かった。
海賊軍艦ってなんだろう。
海賊で思いつくのは死に戻った時に会った人だけど、その人の船なのかな。
他にも装備について話している人もいれば、屋台通りの美味しいお店について話している人もいる。
ギルドの勧誘をしている人もいれば、僕と同じようにベンチの座りただ単に通る人を眺めている人もいた。
噴水広場を通るメルカトリア人は、そんな僕達を見て手を振る人や笑いかける人もいて、中には話しかけてそのまま談笑し始めた。
パーティを組むメルカトリア人もいれば、子供と遊ぶ人もいる。
みんな色々な楽しみ方をしているんだと思ったところで、僕がログインした場所の近くにセインが現れた。
「えっと……あ!爺!」
セインはパーティメンバーのログイン状況を確認したみたいで、少し空中に視線を向けた後キョロキョロと見回して僕を見つけて小走りでこっちに来た。
「おはよう!」
「うん。おはよう」
「私の準備はできてるけど、爺は?」
「問題ないよ。MPも満タンだしマナポーションもたくさんある。アイテムバッグにも余裕はあるよ」
「私も同じ!じゃあ行こっか!」
「そうだね」
念のため互いに準備ができていることを確認して北門へ向かう。
ハチミツの売却とポーションの補充は一緒にして、冒険者ギルドで魔力水を飲むところまでは一緒だったけど、その後は一時的に分かれたからアイテムバッグの状態まではわかっていない。
僕は普段から工房のアイテムボックスに預けているのである程度余裕があるんだけど、セインは冒険者ギルドの倉庫に預けているはずだ。
魔力水を飲んだ後クエストボードに来るまで時間がかかったから、たぶんその時に預けたんだと思う。
「クエストのターゲットになっているロックゴーレムってあの大きいやつだよね?私達が行った時に人が多すぎて戦えなかったやつ」
「そうだよ。それを10体だね」
今回受けたクエストはロックゴーレム10体の討伐と、北の鉄鉱山で30体のモンスターを倒す常時クエストだ。
ゴーレム坑道や地底湖も北の鉄鉱山の一部なので、いたずらモンキーやロックワームだけで30体倒してもいいし、リトルロックゴーレムやロックゴーレムにロックリザード、北の森に繋がっている鍾乳洞に出て来るブルースライム達でもいいみたい。
今回はロックゴーレムとリトルロックゴーレムを狙う予定だけどね。
「やっぱりこの人形がいると楽だねー」
「セインも精霊に守るように指示すればできそうだけどね」
「そう言われるとできそうな気がしてきた!やってみるね!ひょうちゃん私に近づいて来るモンスターを倒して!」
向かって来るブラウンラビットを倒す騎士人形を見ながらセインが言った。
セインの精霊も指示の出し方で同じことができそうなので伝えてみると、早速召喚していたひょうちゃんを指差して命令したんだけど……次に向かって来たブラウンラビットに何の反応もしなかったから失敗したんだと思う。
もしかしたら指を指す対象が間違っているのかと思って、セイン自身を指差してもう一度指示してもらったんだけど結果は同じだった。
召喚後は指示しなくても自動的に付いてくるし、指を指さなくても飛ぶ場所なんかは指示できるから守ってもらえそうなんだけど。
他の人のスキルだから条件がよくわからない。
「ダメみたいだね」
「だねー。スキルレベルが上がればもしかしたらできるようになるかもしれないけど」
「そうなんだ」
「うん。師匠は指を刺さなくても精霊に指示を出せるからねー」
師匠は動物型の精霊を使役する人だったっけ。
迎撃を騎士人形に任せて師匠や精霊の話を聞きながら北の鉄鉱山へ向かった。
その結果、スキルレベルが上がれば精霊に自我が芽生えることがわかった。
自我が目覚めると指を刺さなくても良さそうだよね。
芽生えた正確によっては指示を無視されるかもしれないけど、その時は指を刺せばいいのかな?
何となくのイメージだけど、口頭だとお願いになって指を指すと命令になってそうだよね。
「あれ?人が少ないねー」
「ん?あーそうだね」
北の鉄鉱山にあるゴーレム坑道入り口が見えたんだけど、いつもなら入り口から溢れている鉄の守護者への挑戦待ちの列がなかった。
近づくと通路内に並んでいるのはわかったんだけど、どうして少ないんだろう。
「他のエリアに行ったんじゃない?」
「その可能性はあるね」
ここは1番最初に解放されたから、その分挑戦した人も多いはずだ。
その人達はスキルオーブを手に入れたら別の場所に行くだろうし、それでも戦うとしたら1日1回ボーナス狙いか売るためだろうね。
僕ならそれをするよりも他のスキルオーブを狙ってエリアボスを倒しに行くけど。
「ねぇ爺。せっかくだから挑戦しない?」
「いいけど……2人で?」
「うん。爺はミヤビちゃんと2人で倒したんだよね?その時より強くなっているからいけるよ!」
「あー、そうだね。今はラナンキュラスもいるしやってみようかな」
ミヤビちゃんの代わりにラナンキュラスで貫通攻撃をすればいいし、何とかして腕をもぎ取ることができれば僕を狙わせることもできる。
セインの戦い方が鉄の守護者へ通用するかわからないけど、ノーダメージってことはないはずだし、効きが悪くてもリトルロックゴーレムを相手にしてもらえればいいと思う。
基本的に距離をとってショットとラッシュで攻撃してもらおう。
「ん?君達は3人で挑戦するのか?」
「はい。そうです」
「そうなのか……」
「どうかしたんですか?」
列に並んでしばらくすると、前のパーティの人に声をかけられた。
騎士人形も人数に数えられているけど、訂正する必要もないのでそのままだ。
「少し前に女の子が一人で並んでたんだ。他にも3、4人のパーティもちらほら見かけたからフルメンバーで挑まないのが流行ってるのかと……」
「そうなんですか」
この人のパーティは6人だ。
他の人達がフルメンバーじゃない理由はわからないけど、たぶん仲がいい人で集まった結果だと思う。
あるいは朝だから少ないとか。
1人の人はソロで楽しんでいるんだと思うけど、もしかしたら何か試しに来たのかもしれない。
僕なら新しく人形を手に入れても鉄の守護者で試そうとは思わないけど。
「お。今は1人の子が戦っているな」
「あれは……ゴーレム?」
「ゴーレムvsゴーレムだけど、あの子が乗っている方が格好いいー!」
通路を曲がってバトルエリアが見える場所に入ると、鉄の守護者と戦っている女の子がいた。
その子の周りには誰もいないけど、その子は鉄の守護者とは別のゴーレムに乗っている。
鉄の守護者は鉱石が寄り集まってデコボコしているんだけど、その子のゴーレムは綺麗に磨かれた黒い素材でできていて表面はツルツルしている。
形もキッチリと切り出されているので、強そうな印象を受ける。
大きさも鉄の守護者より少し大きいぐらいで、右手に大剣を、左手に大盾を持っていた。
今は鉄の守護者の大剣を盾で受けて、切り返したところだった。
鉄の守護者は二本の大剣を持っているんだけど、力任せに振るせいか攻撃後に隙ができる。
そこをうまく突いているので、もう片方の剣で防御されることはなかった。
周りにいるリトルロックゴーレムはゴーレムに乗った女の子に攻撃できないようだ。
女の子のゴーレムを攻撃してはいるんだけど、対して効いているようには見えないし、逆に攻撃したところを踏み潰されている。
「おぉ……」
「倒し切った」
「ノーダメかよ……」
少しすると女の子が鉄の守護者を倒した。
周りの声を聞く限り一度もダメージを受けなかったみたいだね。
僕が見てからでも一回もダメージを受けてなかったし、最初からあの黒いゴーレムを出していたのなら納得できる。
僕もあれぐらい大きな人形を作った方が良さそうだね。
そうすればみんなの盾にもできるし、いざという時持ち上げて守ることもできる。
仮に人形のパーツを全て作れるようになったとしても素材の問題が出てきそうだけど。
「爺。あの子も爺の人形の館みたいなスキルがあるみたいだね」
「そう見えるね」
女の子はゴーレムに乗ったままリトルロックゴーレムが沢山いるところへ向かったんだけど、ゴーレムが大きすぎたせいで通路を通れなかった。
どうするか見ていたらゴーレムから女の子が降り、少しするとゴーレムが消えた。
だから、セインの言う通り人形の館みたいなスキルがあるんだと思う。
代わりなのか1mぐらいの茶色いゴーレムを2体出していたからね。
あの茶色いのは土でできたゴーレムなのかな。
土なら拾いやすいし、数を作るための素材にはいいかもしれない。
あとで試してみよう。
「しゃー!行くぞー!」
「「「「「おぉー!」」」」」
女の子が奥へと消えたので、次のパーティが鉄の守護者へと挑戦する。
このパーティと次のパーティはHPバーを1つ減らしたところで、剣にやられてしまった。
その次は僕達に話しかけてきたパーティなんだけど、このパーティは堅実な戦い方で危なげなく鉄の守護者を倒した。
だけど、目的のものが出なかったのか、戻ってきて列に並び直していた。
「爺!頑張ろうね!」
「うん。前は任せて」
次は僕達の番だ。