人形作成依頼
PK集団は消えると同時に少なくないアイテムをばら撒いていったので、しのぶさんとシロツキ達に経過を任せて拾うことにした。
素材はハニーベアやワイルドベアに加えてスイングボアもあったけど、食料は干し肉や焼き魚といった前と同じものばかりだった。
お金は1人当たり2000ゴールドずつ割り振れるぐらい落としてくれていたので、少し懐が暖かくなった。
「誰か来ます!」
集めたアイテムの確認をしていると、木の上に登っていたしのぶさんが叫んだ。
シロツキとトバリはしのぶさんが見ていると確認すると他の方向に目を向けてた。
それでも気になるようでチラチラと見ているけどね。
「敵やないで!攻撃せんといてや!」
少しして現れたのは街で見かけるメルカトリア人と同じような格好をした中学生くらいの女の子と、キリッとしたメイドさんだった。
どこか見かけたような気がするけど、メイドに関しては工房にいる自動人形が原因かもしれない。
あと、たまに街中でも見かけるし。
女の子は両手を軽くあげて手のひらをこっちに向けながら近づいてくる。
敵意がないことを示しているみたいだけど、手を使わないスキルが使えるかもしれないから油断はできない。
何よりメイドさんは普通にスタスタと歩いている。
「2人ともレッドネームです!」
「レッドやけど!戦うつもりはないで!」
ミヤビちゃんが名前を見て叫んだけど、女の子が即座に戦うつもりはないと言った。
レッドネームってことはタイミング的にさっきのPK集団の仲間の可能性が高い。
僕達が疲弊したところを襲ってこなかったから本当に戦うつもりはないのかもしれないけど、それはただ単に近くにいなかったのが原因かもしれないので信用しづらい。
「まぁ、いきなりレッドネームが現れて戦うつもりはない言うても信じられへんやろうけどな」
「ですね!」
「せやろなー。わかった!ここで止まって要件を伝えるわ!」
女の子は警戒して前に出たしのぶさんとミヤビちゃんから5m程離れたところで止まった。
そしてあげていた両手のうち左手だけはそのままに、右手で僕を指差してきた。
音をつけるならビシッて感じだね。
「用があるのはそこの兄ちゃんや!」
「僕?」
「せや!自分や!」
PKをする人から狙われるようなことは、さっきの人たちぐらいだと思うんだけど……。
もしかして☆5職業と戦いたいとか言うつもりなのかな。
「それで肝心の用なんやけど、その人形を売って欲しい。無理ならウチに人形を作って!お願い!」
女の子はパンッと手を合わせて僕を拝んできた。
人形を売って欲しいってハピネス達のことだろうけど、問答無用で却下だ。
人形を作ることも今の僕ではできないから受けることはできない。
それに、人形を手に入れてどするつもりなんだろう。
飾るつもりなのかな?
仮にPKに使われるとしたら作れたとしても売りたくはない。
「作れないし、今ある人形も売るつもりはないね。そもそも人形を何に使うの?」
「ギルドに飾るねん!……と言いたいところなんやけど、ウチの戦力強化やな」
「戦力強化?」
人形を操れるんだろうか。
繰り糸は人形使い特有のスキルだと思っていたんだけど、条件が合えば使えるようになるのかもしれない。
もしもそうだったら、スキルを取得する条件を教えてもらう代わりに売るのもありなんだけど、あいにく売れる人形はないんだよね。
「うーん。まぁええか。ウチは無職なんやけど、専用スキルに玩具術っていうのがあるねん。これを使えば剣をおもちゃに変えて攻撃力や耐久値に特殊効果が弱くなる代わりに剣術スキルがなくてもそれなりに振り回せるようになるねん」
「おもちゃにすることによって扱いやすくなるという感じでしょうか?」
「そんな感じやな。でな、その玩具術は使う対象に意思がなかったら職業専用スキルでも使えるねん。だから、兄ちゃんを探しててん」
うららさんが確認した内容に女の子が同意して、さらに人形を求めている理由を教えてくれた。
女の子の言う通りなら人形に玩具術を使えば操作できそうな気がするし、これに関しては僕がこのスキルを覚えてないから信じるしかない。
ここで嘘をついてまで人形を手に入れようとしていたらどうしようもないけどね。
「理由はわかったけど、今はまだ作れないし売れる人形がないことに変わりはないよ」
「今はまだ?いつか作れるようになるん?」
「あ……。えっと、まぁそうだね。いつになるかはわからないけど……」
「ふーん。ならフレンドになってぇな!作れるようになったら言い値で買うで!」
「うーん。でも、作ったらPKに使うよね?」
「使わん!と言いたいけど使う可能性はある!まぁ、兄ちゃんが使うなっていうならPKには使わんという約束をしてもええで!信じるかどうかは兄ちゃん次第や!」
人形を作れるようになってこの子に売ったとして、それがPKに使われたら襲われた人に何か言われるかもしれないと思ったんだけど……。
よくよく考えたら普通に武器を売るのとそこまで変わらない気がするんだよね。
その物が剣か人形かという違いなだけで。
PKに使われることを知っていて売れば何か言われても仕方がないかもしれないけど、PKに使わないと言われて売っても使われる可能性はあるから、売るたびに考えていたらきりがないことだと思う。
まぁ、今の場合は個人的に言われているだけだから、この子を信用するかどうかということになるんだけどね。
「ウチとフレンドになっておけばPK関連の情報を聞くことができるかも知れへんからお得やで!困ったことがあったら調べることもできるし!な!登録だけでもしとかへん?」
「うーん……。わかった。フレンドにはなるよ。でも、人形を作れるようになっても売るかどうかは別だからね?」
「今はそれでええよ!でも、作れるようになったら教えてな!」
「わかった」
女の子かフレンド申請が届いた。
名前はサキだった。
勝手なイメージだけどPKする人は変わった名前をつけているイメージがあるんだけど、ふつうの名前だった。
「よろしく兄ちゃん!」
「こちらこそ。もう一つ気になっているんだけど、どうしてこんな場所で接触してきたの?」
「んー。街中やと騎士に追われるねん。PKプレイのせいやから自業自得やねんけどなー!あはは!」
サキちゃんは両手を頭の後ろにやりながら笑った。
騎士に追われる女の子か……どこかで見た気がする。
確か海沿いの屋台通りに向かう時だったっけ?
あの時にぶつかりそうになった女の子はよく覚えてないんだけど、その後にメイドさんに声をかけられたんだよね。
「何か?」
「いえ、どこかで会ったかなと……」
僕が見ていることに気づいたメイドさんが冷ややかな視線を向けて来た。
この言い方だとナンパしているような言い方だけど、そんなつもりは全然ないよ。
「お会いしたことはあります。お嬢様を追いかけている時にですが」
「やっぱりですか。逆方向に戻られてましたよね?」
「はい。あの時はお嬢様が北上したので別の道から合流しました。ただ単に追いかけるだけでは捕まえられないこともありますので」
「そ、そうなんですか」
あの時のメイドさんだった。
ということはサキちゃんとも面識があるはずなんだけど、メイドさんに説明されてもピンとこないらしい。
どうやらよく騎士に追いかけられているせいで、僕と同じような目に遭う人が結構いるみたいだ。
だからぶつかりそうになった全員を覚えてないんだろうけど、なんとなくメイドさんは覚えてそうな気がする。
確証はないけど。
「それじゃあ用も終わったしウチらは帰るわ!あ、ちなみにやけどさっき兄ちゃん達と戦ってた奴らはウチとは関係ないからな!」
「失礼致します」
サキちゃんが森へと走って行き、メイドさんが後を追った。
元気いっぱいなサキちゃんと違って、メイドさんは森の中なのにとても静かに歩いている。
何かスキルを使っているのかな。
「なんというか……凄かったです」
ミヤビちゃんがポツリ呟いた。
確かに勢いは凄かったね。




