互いにとって嫌な再会
花畑に戻ってきた僕達は、少し休憩を挟んでから街へと戻ることにした。
さっき見たキングパラライビーについて掲示板で探してみたんだけど書き込みはなく、今いる花畑で大量のパラライビーに襲われて死に戻りするパーティが続出していることがわかっただけだった。
花畑とは逆の森側から行こうとしても大量のビーが出てくるらしく、花畑のように開けた場所ではないので戦闘中に接近されても気づかないらしい。
僕達もしのぶさんやミヤビちゃんに頼っているところが強いから同じようになると思う。
もう少し周囲に気を配ったほうがいいかもしれないけど、僕はハピネス達の操作で手一杯になるからなぁ……。
警戒用の人形が入ればいいんだけど。
「んー?」
「どうしたんですか?」
できるだけ周囲を見ながら森を進んでいると、しのぶさんが周りを見渡しながら首を傾げた。
セインも同じように見渡しているけど、特に何も見つからなかったようだ。
「モンスターの気配がしたとかじゃないんですけど、違和感があるんですよ」
「違和感ですか?」
「はい。なんというかそこにあるはずの物がない感じです。皆さんにはそういった現象はないですか?」
「僕はないです」
「私も〜」
「ないです!」
「ないですね」
しのぶさんしか感じていないみたいだ。
そうなると考えられるのは、しのぶさんだけ魔法や何か特殊な物の影響受けているか、普段使っているスキルに今までとは違う反応が出ているのかもしれない。
僕の予想では警戒スキルだと思うんだけど……。
「なるほど。そうなると隠蔽や気配遮断等のスキルですね」
「へー。隠蔽は何かを隠すスキルで、気配遮断はそれの気配版ですか?」
「はい。隠蔽は物を隠したり、ある程度のステータス偽造ができるだけではなく、気配を断つこともできますが、その部分は気配遮断よりも効果は低いですし、取得するには条件があります」
「汎用性が高そうですけど、条件となると……職業ですか?」
「いえ。隠蔽スキルの場合はイエローネームになることです。似たようなスキルは結構あるんですけど、これに関しては汎用性が高い分PK向けのスキルです」
「行動によって取れるスキルということは、その行動を助けるスキルになるわけですね」
PKをする事でレッドネームになるから街で活動しにくくなる。
それを緩和しつつも更にPKをしやすくするスキルか。
逆にPKに対抗するスキルとかもありそうだ。
「そんな感じです。ちなみに私の隠形は動かなければ効果が高まりますが、動くとバレやすくなるので完全に不意打ち狙いです」
「へー。そうなると気配遮断はある程度動いてもいいんですか?」
「そうなります。目の前にいる相手の気配が無くなるので、1対1でも使えます」
「自分の戦い方に合ったスキルを選ばないとダメということですね」
「そうです」
しのぶさんの場合はゆっくり近づくよりも待ち伏せなんだと思う。
もしかしたら天井裏に潜んで会話を盗み聞きする職業クエストもあったりするかもね。
「話を戻しますが、この違和感の原因が隠蔽の場合、PKをする人が近くにいる可能性が高いです」
「今まで倒してきたPKプレイヤーも使っていたんですか?」
マサムネちゃんと一緒にヌシ釣りの森で活動していたPKプレイヤーを倒していた時に出会っていそうだ。
逆に隠蔽スキルを使われていて気づかなかったのかもしれないけど。
「どうでしょうか。倒した相手のスキルリストを見れるわけではないので……。私の警戒スキルだとこちらに敵対する可能性が高い相手をある程度感知できますが、それも隠蔽されているとほとんど感じないと思います。スキルレベルが高ければなおさらです」
「なるほど。でも、違和感を感じたということは、しのぶさんの警戒スキルのレベルが相手の隠蔽スキルより高いからですよね?」
「たぶん、そうですね……。初めての感覚なので確証はないですし、相手が隠蔽を使っているPKプレイヤーではない可能性もありますけど」
「気配遮断を使って獲物を待っているだけかもしれませんしね」
とは言っても警戒するに越したことはない。
ハチミツを汲んだりキングパラライビーと相対している間に、さっき見かけたイエローネーム集団が僕達を追い抜いて待ち構えているかもしれないし。
気配遮断を使って獲物を待っている普通に人だったら笑い話で済むからね。
「とりあえず気をつけながら進みましょう」
「ですね!」
僕としのぶさんの話を後ろで聞き、それぞれスキル一覧を開いて盛り上がっていたセイン達も頷き、歩き出す。
セイン達の会話は誰にどのスキルが似合うかという会話だったけど、最終的に人形に付与する能力は何がいいかという話になっていた。
スキルスロットが大量に必要になるということを除いて、セインが推していた低コストで取得できる各種スキルをふんだんに詰め込んだ千手観音みたいなものを作ればいいということで落ち着いた。
想像すると最初は無しだと思ったんだけど、複数の人形を同時に操るより、1体の方が見る場所が少なくなるからありかもしれない。
どちらにせよ、スキルを使うタイミングで混乱しそうなんだけどね。
他にも火魔法のスキルを付与した竜の人形とか、風魔法を付与した鳥の人形、水魔法を付与した魚の人形など、色々提案されながら森を進んでいく。
「気をつけてください。方向はわかりませんが、狙われています」
「わかりました」
「シロツキちゃんとトバリちゃんはわかる?」
「きゅー」
「キュキュー」
話す内容が人形からそれぞれが欲しいスキルに変わり、少ししてからしのぶさんが全員に伝えた。
ミヤビちゃんがシロツキ達に聞いたけど、2頭とも申し訳なさそうに鳴きながら首を振った。
どこから狙われているかわからないので、いつもより密集して進んでいく。
モンスターと遭遇しないのが不思議だけど、夜だから活動している数が少ないのかもしれない。
あるいは虫や鳥のモンスターが頭上にいるのかも。
そう思って見上げると、少し離れた木の上で矢を構えた緑の服を着た男がいた。
男が引き絞っている矢は僕達の方を向いているので、しのぶさんの言った狙われているというのはこれが原因だと思う。
「斜め右の木の上です!」
「っ!バレた!」
男は構えていた弓を放ち、木から飛び降りる。
しっかりと狙っていたのか、僕に向かってまっすぐ飛んできたけど、ラナンキュラスを動かして盾で防ぐ。
甲高い音を立てて地面位落ちた矢は半ばから折れ、光になって消えた。
アイテムバッグに戻る時と同じ消え方だけど、壊れた場合は戻らないので相手の矢が1本減ったことになる。
「なんでバレてんだよー」
「隠蔽だけでアレは無茶だって言ったでしょ!」
「さっさとやるぞ」
弓を持った男を囲むように左右から剣を持った男性、杖を持った女性、声からすると男性の全身鎧で剣と盾を人が現れた。
「全員イエローネームで……す……」
「ミヤビちゃんどうしたの?」
目の前の攻撃してきた弓の人とその仲間を見たミヤビちゃんが固まった。
人見知りが出たとしても誰かの後ろに下がるミヤビちゃんが固まるなんて……もしかしてミヤビちゃんと出会った時にPKしてた人?
あの時はハピネスを操るのに夢中だったから、なんとなくの記憶しかないんだけど、少なくとも人数が足りてない。
斧を持った男の人と、杖を持ったヒーラーみたいな人がいたはずだ。
「爺!後ろ!」
「っ?!」
「なっ!シールドか?!」
セインに言われて振り向きざまにアザレアの拒絶の壁を使った。
背後に迫っていた斧はアザレアの出した壁で止まり、振り下ろした男の人が驚いていた。
その後ろには十字の付いた杖を持った女の人もいた。
「あー!その人形!」
「あ?!なんだよ!知ってるのか?」
「お前を股下から燃やしたやつだよ!」
「あの時のか!」
弓を持った人が僕の方に乗ったハピネスを見て叫ぶと、剣を持った人が驚きつつも睨みつけてきたんだけど、少し内股になっていた。
よく見ると弓の人も全身鎧の人も、後ろにいる斧の人も少し内股だった。
トラウマになっていそうだけど、自業自得だよね。