たぶんエリアボス
セインが痺れハチミツを口にして麻痺したことで、改めて食べられるように処理していない痺れハチミツが危ない物だと認識した。
なので、以降のハチミツ採取は全員気をつけるようになった。
気をつけるといっても、ハチミツが手に付いたらすぐにセインがウォッシュを使うので。
そのおかげで僕達はハチミツの危険性をずっと意識し続けられた。
セインに無理せず後ろで待っててもいいって言ったんだけど、それはそれで負けた気がするのと暗い森で1人離れるのは嫌だということで参加している。
恥ずかしさからくる行動なんだろうけど、トラウマにならないことを祈っておこう。
「いっぱいになりました!」
「同じく!」
「私も終わりました」
「ウォッシュ!私はあと4つ〜」
「僕は……あと11個です」
「それじゃあ警戒しておきますね!」
「お願いします」
ミヤビちゃんを皮切りに、しのぶさん、うららさんが入れ終わった。
セインと僕はよくマナポーションをよく飲むので、その分空き瓶が多い。
しのぶさんに森の中の警戒を任せて、瓶にハチミツを入れる作業に戻る。
ハチミツを入れながら巣の方を見るとシロツキとトバリが飛んでいた。
どうやらミヤビちゃんと一緒に警戒してくれているみたいだけど、なぜか広場の真ん中を超えないようにそれぞれ左右に分かれて円を描くように飛んでいる。
その真ん中を表すように線を引いたとしたら、森と巣の切れ目になるので、シロツキ達にしかわからない何かがあるんだと思う。
近づくときは気をつけたほうがよさそうだ。
「おわった〜」
「もう少し待ってて」
「りょうか〜い。じゃあスキルレベルを上げる練習しとく。精霊召喚ひょうちゃん」
セインも終わったので、精霊のレベル上げという名の警戒に参加した。
セインは最初から召喚していたひーちゃん、ひかりん、もくちゃん、やみみんに加えてひょうちゃんを追加して、自分と僕を囲むように5方向に配置しているからね。
痺れハチミツ採取はポーションの空き瓶を渡して協力して入れれば早く終わるんだけど、それをするとうららさんから受け取った数とハチミツを売った数が合わなくなるかもしれないのでやらないことになった。
イベント終了と共にパーティを解散する予定で、その時に清算するんだけど、ハチミツはモンスターの素材と違って各自採取して街で売ることにしている。
つまり、うららさんからポーションをたくさん受け取っても、ハチミツを売ることである程度お金が返ってくるようになっている。
空き瓶へのポーションマナポーションの補充は各自でやるから、そのお金に当ててもいい。
うららさんが調べた結果、今はハチミツが出回っていないこともあって、ある程度の値段で取引されているから、十分元が取れるそうだ。
今は僕だけがハチミツを掬っているから頼んでも問題ないんだけど、さっき決めたことを即座に破るのもどうかと思うので周りを見ながらも手はしっかり動かしている。
もちろん、緊急性があれば仕方ないかもしれないけど、今のところ安全だからね。
むしろ危険な状況になったらハチミツの採取なんてせずに戦うか逃げるよ。
「終わったー!」
思わず声を出してしまうほどの達成感だった。
最後の瓶をアイテムバッグに入れて、代わりにラナンキュラスを取り出して糸を繋いで駆け抜ける翼を使って浮かべる。
続けてハピネスとアザレアを取り出して糸を繋ぎ、僕が抱えるんじゃなくてハピネス達を動かして肩に座らせた。
バランスを崩さないように服を掴ませることも忘れない。
最後にクローバーを出して糸を繋いで抱えれば僕の準備は終わりだ。
騎士人形に関しては特にやることがないので、たまに様子を見る程度にとどめている。
武器や防具が壊れそうになったら対処するつもりだけど、他に何をすればいいかわからないからね。
とりあえずここを離れたらウォッシュを使うことは確定しているけど。
「森側には何もないようですね」
「そうですか。あれ?しのぶさん普通に歩けてますよ?」
「はい。気を走る時に地走りを使ったんですけど、効果が残っているうちに降りたら立てたんです。そのままハチミツも走れました」
「応用力が凄いですね……」
木の表面や天井も走っていたから、ハチミツの上走れてもおかしくない……のかな?
まぁ、しのぶさん機動力が活かせるならなんでもいい。
「何か大きいのが来ます!」
森側の淵に沿った探索を終えたので残った巣の方に近づいたら、しのぶさんの警戒に引っかかったみたいだ。
寝ていたクイーンパラライビーも首をあげて歯をガチガチと鳴らし始め、周囲をパラライソードビーが飛ぶ。
何が起きるかわからないので様子見のため動かないでいると、巣の奥から大きな物体が飛んできて、広場の真ん中より巣に寄った場所に降り立った。
それはクイーンパラライビーよりも巨大な蜂だった。
「キングパラライビーです!」
うららさんが鑑定した結果だ。
キングパラライビーは5mぐらいありそうな巨体で、人が持つなら両手を使わなければならないほどの太くて長い両手剣を、左右に1本ずつ片手で持っている。
体の大きさに加えてその武器を持っている重さのせいなのかホバリングはせず、針の生えた尻尾のように節が別れた部分と太い足2本で立ち、上半身をしっかりと起こして頭に乗った王冠がかろうじて見える角度で僕達を見下ろしている。
後ろにいる2匹のクイーンパラライビーや、その周辺にいる護衛のビーも同じくこっちを見ているだけだ。
攻撃されれば応戦するか逃げるかの判断ができるけど、見られているだけなので迷う。
下手に動いたことで攻撃されるかもしれないけど、今のところ敵対していなさそうだしね。
「襲ってきませんね」
「シロツキちゃんとトバリちゃんが巣の近くに近づかなかったのはこれが理由なんでしょうか?」
「僕達が近づいたら出てきたし、その可能性はあるね。シロツキ達なら大丈夫かもしれないけど、僕達だとダメな気がするよ」
しのぶさんは武器を構えながら僕達の前に出て、ミヤビちゃんもそれに続きながら会話を続ける。
キングパラライビーが出てきたのはシロツキ達が飛んでいた場所まで僕達が進んでからなので、たぶんハピネス達や騎士人形が真ん中を越えても大丈夫そうだけど、試した結果戦闘になるのは嫌だからやらない。
「うーん。てことは王様はエリアボスになるの?」
「近づかないと戦闘にならないとしたらありえるね」
「ふーん。一夫多妻制なんだね」
「あー。まぁ、そうだね……」
キングパラライビー1匹に対してクイーンパラライビーが2匹だからね。
こんなことを言いつつもセインはしっかりと警戒しているし、うららさんと一緒に後ろに下がり始めた。
僕もコートの裾を引っ張られたので、同じように下がる。
「エリアボスだとしたら今なら逃げれると思います回復アイテムも残り少ないはずですし、一度戻ることを提案します」
「私は賛成!今の私たちだと勝てそうにないよ!クイーンパラライビーと戦うだけでも苦労するのに!」
「セインの言う通りだね。僕も逃げたほうがいいと思う」
少なくともクイーンパラライビーを簡単に倒せるようになってからじゃないとダメだ。
しかも、後ろの巣には沢山のビーがいるから、戦闘中に乱入してくる可能性は高い。
もっと範囲攻撃ができるようになってからじゃないと対処できないと思う。
「ミヤビちゃんとしのぶさんも撤退でいいですか?」
「はい!」
「大丈夫です!」
2人は返事をしながらこっちに向かってきた。
ミヤビちゃんはシロツキを反転させ、しのぶさんはゆっくりと下がりながら。
僕達が逃げる意志を見せたからか、キングパラライビーは構えを解き剣先を地面に向ける。
そして上半身を沈み込ませ、勢いよく上げたと同時に跳んだ。
ハチとは思えないほど発達した足から生み出されたジャンプは、背中の羽を忙しなく動かして滑空することで巣の向こう側に行けるほど高い。
それを呆然と見ていたら、着地したであろうキングパラライビーが巣の向こうから顔を出してきた。
また巣へ向かえば飛んでくるんだろうけど、あいにくそれを確かめるために戻るつもりはない。
何度も繰り返せば襲われそうだからね。
僕はマップにマーカーを設定してからゆっくりと下がる。
キングパラライビーの顔が巣の向こうへ消えたのを確認してから振り返り、花畑へと向かった。




