決着とイエローネーム集団
中途半端に囲んで遠距離攻撃をすると、そこに対してのみ回転して攻撃を消し飛ばしてくるスイングボア。
囲んでいない時に真上から首を狙って落下攻撃をすると、尻尾を利用した縦回転で弾かれる。
なので、ハピネス達をスイングボアの後ろに回らせて、セインの精霊と挟み撃ちをするように攻撃することになった。
ハピネス達は放り投げれば距離を稼げるけど、セインの精霊に背後を取るように命令すると内容が長くなるから効率が悪いからだ。
攻撃のたびに「スイングボアの斜め右後方に回ってショット!」と言っていたらその間にやられてしまうよ。
振り回したハピネスを投げると、スイングボアが反応して縦回転の尻尾で迎撃しようとしたので、一度引き戻した。
最短距離を通すためにスイングボアの頭上を越えさせようとしたのが失敗だったみたいだ。
別にスイングボアに攻撃を加える軌道じゃなかったんだけど、スイングボアからすると自分に攻撃してくるハピネスが頭上を取ろうとしているように見えたんだと思う。
なので、今度は距離を開けて左右にハピネスとアザレアを投げ、ラナンキュラスは高く飛ばして、後ろに回らせる。
それも目で追っていたステップボアだけど、セインが精霊にショットを指示して気を引いてくれたので、問題なく回り込めた。
あとは一斉に攻撃して一回転させるだけだ。
しのぶさんが木に登り、ミヤビちゃんがシロツキに乗ってスイングボアの上を飛んでいることを確認してからセインを見る。
僕と目があったセインが頷いたので準備は良さそうだ。
こっちも問題ないので、セインに頷き返した。
「オキナさん!糸が!」
「え?」
僕よりセインの方が攻撃する時に口にする言葉が多いから、精霊に指示を出すのを合図にアザレアの魔法を撃とうと思っていたら、後ろで周囲の警戒をしていたうららさんが叫んだ。
言われてハピネス達に繋がる繰り糸を見ると、スイングボアが糸に向かって牙を振り下ろすところだった。
スイングボアを避けるように左右へ伸ばしていたけど、少し横を向かれるだけで牙の範囲内に入ってしまう。
幸い投げる時に糸を大きく伸ばしていたので、ピンと張っていないため、糸を上から叩かれただけではハピネス達に影響はない。
地面を叩いたことで巻き上がった土が少し邪魔なだけだ。
「緩めていたので問題ありません!セイン!やるよ!」
「うん!ひーちゃんショット!ひかりんショット!やみみんショット!もくちゃんショット!」
「ランス!」
前からセインの精霊によるショットが、後ろからはアザレアの魔法とラナンキュラスの槍にハピネスの炎が迫る。
クローバーは万が一のために僕の側でパチンコを構えているだけで、攻撃には参加させていない。
回復役と、もしもダメだった時にホラーモードにして麻痺させるためだ。
一回転にしろ半回転にしろ、回転直後は少し隙がある。
そこをうまく突けば麻痺を付与することはできると思う。投げている間に歌わせればいいからね。
麻痺しないモンスターだったら危ないだけなんだけど、その時は体勢を立て直される前に引っ張るつもりだ。
「ブギィィィ!!」
スイングボアは1鳴きすると尻尾を振り上げ、前足を軸に回転した。
この勢いなら1回転だ。
それはしのぶさん達もわかったようで、尻尾を振り上げたと同時にしのぶさんは木から飛び降り、ミヤビちゃんはシロツキに滑空させた。
トバリは周囲を見回し他にモンスターが来ていないことを確認すると、しのぶさんの後に続いて飛びかかった。
「ブゴォォ!」
「なっ?!」
「あ!」
だけど、予想外にスイングボアが1回転半してしまった。
ミヤビちゃんは背中を狙ってシロツキから飛び降りたので特に問題はなかったけど、首を狙っていたしのぶさんはお尻に忍刀を突き立てることになってしまった。
2人共飛び降りたから勢いはあったんだけど、クリティカルは発生していない。
高さが足りなかったのか、あたりどころが悪かったのかもしれない。
お尻でも十分痛そうなんだけど。
「ブガァァァ!!」
「くっ!」
「わっ!」
お尻に攻撃を受けたスイングボアはさっきみたいに伏せることがなかったので、そのまま牙を振ってしのぶさんとミヤビちゃんを襲った。
しのぶさんは跳びながら忍刀で防ぎ、ミヤビちゃんは飛び掛かるのをやめたトバリに回収され、空中でシロツキに乗せられた。
しのぶさんに少なくないダメージがあったけど、牙を振り切ったスイングボアは隙だらけだった。
「救済と安らぎの調べ!」
すぐにクローバーを放り投げ、空中で機巧を使ってホラーモードにし、着地と同時に安らぎと苦痛の左手を使った。
付与すること3回目でようやく麻痺させることができた。
あと少し遅かったら、スイングボアが戻した牙に当たりそうだったので引っ張るところだった。
その時は後ろに隙ができるだろうから、ハピネスの麻痺針を放つつもりだったけどね。
「いまです!ランス!ランス!ランス!」
「はっ!やっ!せいっ!はぁ!」
「剛槍!竜爪割り!」
「ひーちゃんショット!ひかりんショット!やみみんラッシュ!もくちゃんラッシュ!」
「糸縛り・雁字搦め《がんじがらめ》!糸縛り・糸玉!」
ラナンキュラスは飛び上がった勢いを利用して槍を突き出し、ハピネスは炎を噴射しながら右手で切る。
アザレアの魔法の合間にクローバーのパチンコも放つ。
しのぶさんはパラライソードも使ってスイングボアを切りつけ、ミヤビちゃんは両手で突くスキルの後、続けて飛び上がって槍を叩きつけるスキルを使った。
セインの精霊もショットやラッシュで攻撃して、うららさんは麻痺が解けた時に少しでも動きを阻害したいのか、糸を投げた。
「倒した!」
麻痺が解ける前にHPバーが砕け散ったので、声を上げることなくスイングボアが光になって消えた。
戦闘時間はそこまで長くなかったけど疲れる戦いだった。
みんな一息付きながら、それぞれポーションやマナポーションで回復している。
警戒はシロツキとトバリまかせだ。
「この後はワイルドベアとハニーベアの親子だよね?」
「そうだけど……どうしますか?」
セインに聞かれたんだけど、今の状態で戦うのはあまり良くなさそうだったので、うららさん達に話を振った。
HPやMPは回復すればいいけど、ワイルドベアを2頭同時に戦うのは、今の僕達には荷が重いんじゃないかな。
精神的な疲れが原因で。
「私は大丈夫ですよ!」
「私もです!」
「アタシも大丈夫!」
「私も問題ありません」
全員問題なかった。
もしかして1番疲れているのは僕なのかな。
寝ているなら無理に戦わずに先へ進んでもいいと思うんだけどね。
「わかりました。行きましょう」
しのぶさんと一緒に先頭を進んでワイルドベアの親子が寝ていた場所へと向かう。
しのぶさんの警戒に引っかかる方へ進めばいいんだけど、正確な場所を知っているならその方が楽らしい。
反応があればそっちに注意を割いてしまうので、1つでも気にしなくていい物があると随分変わるそうだ。
「止まってください。この先で戦闘しているみたいです。ワイルドベアの親子と……6人組ですね」
「ということは別のパーティが寝ているワイルドベアの親子を見つけたということですね」
「ですね」
他のパーティ戦っているなら諦めるしかないけど、もしもワイルドベアが勝った時のために少し近づくことになった。
そして、戦闘している人が見えた。
「あ。全員名前が黄色いです」
「警告を受けているかPKをする人が隠蔽スキルを使っているということですね。全員ということはPKだと思いますが」
ミヤビちゃん戦ってい人を見た瞬間名前が黄色で表示されていると指摘した。
しかも全員なので、しのぶさんのいう通りPKをする集団の可能性が高い。
これ以上近づいて襲われるのも嫌なので、即座に離れる事にした。
幸い気づかれていなかったようで、離れてからしばらく経っても近づいてくる気配はなかった。