スイングボアは眠らない?
SSAのアリーナ席から投稿!
ナイフオウルがばら撒いた羽は本体が光になったと同時に消えたので、ドロップしていなければナイフは手に入らない。
ハピネス達の手に丁度いいサイズだったので、できれば何枚か欲しかったんだけど、アイテムバッグを確認すると羽が4枚あった。
取り出して試しにクローバーのパチンコを持っていない手に握らせてみたんだけどサイズは丁度よかった。
だけど、握るところが芯のところなので細くて少し頼りない。
しのぶさんに聞いてみると、人が使う時は芯を覆うように持ち手をつけるそうだ。
なので、源さんに頼んでみようと思う。
工房のアイテムボックスを共有化すれば素材を送れるし、内容はメールで確認できる。
木でハピネス達の手を作ればサイズも測れるから、一緒に送ればいい。
断られたら回収するだけだしね。
僕は羽を手に入れたけど、他のみんなは骨と目玉だった。
セイン以外が骨で、細くて長い割に丈夫なそれは針として使え、数を揃えれば出汁をとるのにも使えるらしい。
セインが手に入れた目玉は食材らしいんだけど、手のひらの上に出したセインは嫌そうに顔をしかめている。
だけど、ミヤビちゃんは興味があるみたいでジッと見ていた。
シロツキ達も見ているから竜のおやつになるのかもしれないね。
「それじゃあ行きましょう!」
「何が出るんでしょうか?」
「掲示板によるとスイングボアが出るということは書かれていますね!他にはヒトツボシテントウという小さな虫のモンスターがいるそうです!」
「てんとう虫ですか?」
「そうみたいですね。スイングボアから逃げた先で急に降ってきたそうで、鑑定ぐらいしかできなかったみたいです」
「降ってくるということは頭上に注意ですね」
「そうですね!」
戦利品の確認が終わったので、僕としのぶさんを先頭にワイルドベアが生息するエリアに入った。
出現するモンスターについて調べるのを忘れて傷んだけど、いつの間にかしのぶさんが調べてくれていて教えてくれた。
スイングボアから1度逃げたので、できればリベンジしたいところだけど夜に戦うのは周りも見づらいから少し怖い。
音でわかるだろうけどいきなり気が飛んでくるかもしれないし。
ヒトツボシテントウに関しては情報がいきなり降ってきたことしかないから頭上に注意するとしか言えなかったけど、虫だから集団で襲ってきそうな気はする。
外見は甲殻に星が1つあるてんとう虫を想像しているんだけど、大きさはどれくらいなんだろうか。
2、30cmのてんとう虫だと可愛くない。
「止まってください。何かいます」
しのぶさんが後ろに向けて手を上げながら止まった。
しのぶさんの後ろから覗いてみても暗くて何も見えないし、音も聞こえない。
だけど、しのぶさんが言うからには何かいるんだと思う。
後ろでは、セインからナイフオウルの目玉をもらったミヤビちゃんがその目玉を包丁で二つに切り、シロツキとトバリに食べさせて少し盛り上がっていたけど、それも静かになった。
シロツキとトバリは口の中で目玉を転がして嬉しそうに味わっている様だけど、美味しいのかな。
僕は食べたいとは思わないし、セインも嫌そうに顔をしかめている。
だけど、うららさんとミヤビちゃんは平気そうだ。
「オキナさん。お願いしてもいいですか?」
「あ、はい。わかりました。人形の館、ハピネス、クローバー、ラナンキュラス収納。同期操作」
しのぶさんに言われて目玉のことを頭から追い出し、ハピネス達を収納してアザレアに意識を移した。
しのぶさんと一緒に先頭を進んでいたのはこういった時に人形で偵察するためで、アザレアを選んだのは光のマテリアルで周囲を照らせるからだ。
アザレアの魔法は機巧なので、唱えるといっても口に出さずなくてもいいから同期操作中でも使える。
これが普通の魔法使いだと口に出す必要があるから、それがモンスターに聞かれたら見つかるかもしれない。
体が小さくて軽いのもあって、移動してもそこまで音を立てないのもいい。
「オキナさんの体は任せてください」
僕の体の前で盾を構えるミヤビちゃんに杖を持っていない左手を振り、みんなから離れてしのぶさんが示した方へ進む。
今回は痺れキノコと戦うわけじゃないから、残してきた体がカゲザルに狙われる可能性は少ないはずだ。
そもそも別のエリアに入ったから来ないと思っているんだけど、ワイルドベアはハニーベアのために移動するからないとは言えない。
戦闘さえしなければ来ないんだろうけど、ジッとしていても他のモンスターに襲われるかもしれないし。
さっき同期操作を使って襲われたばかりだから嫌な考えが頭をよぎるけど、それを振り払って進む。
僕のHPが減ったら解除してすぐに戻ると決めたからだけど。
しばらく進むと何か聞こえてきた。
唸り声のような感じだけど、それにしては唸り続けているわけではなく、一定のリズムで聞こえてくる。
身長が低いので、マテリアルの明かりで周囲を照らしてみても何も見えない。
なので、音のする方向へ進んだ。
少しすると茶色い物体を見つけた。
木の茶色とは違う汚れでいるそれは、毛玉だった。
ボールタイガーの茶色版かと思ったけど、尻尾は丸くて短い。
その物体の周りをマテリアルの光が届く距離を空けて周ると、正体がわかった。
丸くなって寝ているワイルドベアだ。
ワイルドベアは自分の頭をお腹で抱えるかのように丸まって寝ていた。
しかも、それが奥にもう1つあり、間には黄色い何かもあった。
黄色いのはハニーベアで、ワイルドベアとは違って丸くならず、背中を毛玉に預けるように座って寝ていた。
こう見ると完全にテディベアだ。
寝ているワイルドベア2頭に挟まれているということは、この2頭は夫婦でハニーベアはその子供だと思う。
よく聞くと唸り声のような寝息は2つ分聞こえるし、さらに2頭と比べて高い音がワイルドベアの寝息に紛れている。
しのぶさんが感じた気配はこの3頭のものなのかな。
念のためもう少し周りを確認しようと振り向いた瞬間、少し離れたところにスイングボアが見えた。
もしも声を出せることがあれば小さな悲鳴が上がっていたと思う。
スイングボアはマテリアルの光が気になるのかこっちを見ているからね。
あるいは後ろにいるワイルドベアとハニーベアの親子を見ているのかもしれない。
寝ているせいで無防備なので突進を受けたら一気に蹴散らされるだろうし、ハニーベアは耐えられないと思う。
マテリアルの光が届く範囲にいるので、アザレアとの距離は近い。
それでも尻尾を振っても当たらない距離なので、逃げるなら今だと思う。
「ブゴッ」
「ガァ……」
同期操作を解除するタイミングを計っていると、スイングボアが鳴いた。
それに応えるかのようにワイルドベアが小さく鳴いたんだけど、それを聞いたスイングボアは踵を返してマテリアルの光が届かないところへ消えていった。
モンスター同士で通じる何かがあったんだと思うけど、どういうやりとりをしたのかわからない。
ワイルドベアも顔を上げることなく鳴いた後、もう一度寝たようで唸り声が再開されている。
よく考えると僕がスイングボアに気づいた時点でワイルドベアの寝息も聞こえなかった気がするけど、スイングボアのインパクトでよく覚えていない。
さすがにここまで近づかれたらワイルドベアもスイングボアに気づいたんだろうけど、逆に考えるとアザレアでは起きないということだ。
狙われにくさが原因なのか、もしかしたら相手にならないと思われたのかもしれない。
考えていても仕方がないので寝ているワイルドベア親子を放置して周りを探索した。
すると、またスイングボアに出会った。
さっきのスイングボアなのかはわからないけど、今度もジッと見てくるだけだったのでたぶん同じ個体だと思う。
どうすればいいかわからないので、一度同期操作を解除して戻ることにした。