痺れキノコとカゲザル
ミヤビちゃんがセインと繋いでいた手を離して槍を取り出した。
手を離されたセインも戦闘になることがわかっているので、少し不安そうに顔をしかめるだけで済んだ。
空いた手を握ったり開いたりしているのは名残惜しいのかな。
「オキナさん。ハピネスで先行して焼いてもらえませんか?」
「焼こうにも見えてないと難しいんだけど……。あ、同期操作を使ってですか?」
「そうです。ハピネスちゃんなら麻痺しませんし、何かあっても解除すればアイテムバッグに戻りますよね?」
「そうです」
しのぶさんの提案通りだ。
ハピネスなら胞子の中に突っ込んでも麻痺することはないし、仮に胞子が服に付着してもアイテムバッグに入れたら取れるはずだ。
ゴーレム坑道で着いた土汚れとか取れていたからね。
さっき話に上がったカゲザルが乱入してきても、危なかったら同期操作を解除すればいい。
そのためには5m以上離れないとダメなんだけど、そこは最初に奥まで行けばいいから問題ない。
痺れキノコは胞子を飛ばし、それを吸って麻痺した相手に体当たりをしてくるモンスターだから、距離をとって左手に炎をで戦えば安全に倒せるはずだ。
「わかりました。やってみます」
「ありがとうございます!オキナさんの体は私達で守るので、じっくりキノコを焼いてきてください!」
「頑張ります。では、行く前にハピネス以外を収納しますね。人形の館、クローバー、アザレア、ラナンキュラス収納」
キノコをじっくり焼くって言われると、今から料理するのかと思うよね。
ある意味モンスターを料理するんだろうけど。
同期操作を使うと繰り糸が切れるので、ハピネス以外が無防備になってしまう。
だから使う前に収納したし、ここで同期操作を使えば戻ってきた時に人形の館を使う必要は無くなる。
僕の体が吹っ飛ばされたら別だけど。
「同期操作!」
準備ができたのでスキルを使う。
一瞬の暗転の後ハピネスの目線になったんだけど、この視線の高さで女性に囲まれるのはまずい気がする。
全員ズボンだけどジロジロ見るのは良くないのですぐに正面へ向けて走る。
振り返ると全員こっちを見ていたけどね。
騎士人形は僕の体を守るつもりなのか、ハピネスには着いてきていない。
なので、予定通り1人で焼き払いながら切りつけるよ。
胞子が舞っている場所に飛び込んでから両手を切り離す。
切り離された手は地面に落ちると光になって消えたので、すでに5mは離れたということになる。
消えたから良かったけど、消えなかったらどうすれば良かったんだろう。
片方だけでもあれば繋げることはできるけど、両手を一気に切り離したら蹴って転がすぐらいしかできなくなる。
今度からは片方ずつやることにしよう。
胞子の中を進んでいくと、ハピネス以上に大きいキノコ達が木の根元や幹に生えていたり、列を作って一歩進むごとに大きく伸び縮みをして胞子を飛ばしていた。
先制攻撃ということで左手から火を吹きながら列になっている痺れキノコに襲いかかる。
胞子が火を遮るということはなく、舞っていた胞子とともに1番近くの痺れキノコが炎に包まれる。
列の真ん中にいたキノコが突然燃え上がり、ゴロゴロと地面を転がることによって前後のキノコも少しダメージを受けた。
人形だとあまり狙われないのでここまで近づけたけど、自分より大きいキノコが火達磨になって転がっている姿は恐怖を感じる。
列のキノコが燃えたことで残りのキノコが向かって来て、木に生えていたキノコもプチプチと千切れて地面に落ちる。
一斉に向かってくるキノコの迫力も凄いんだけど、ほとんどが近づく前に燃え尽き、近づけたとしても右手の剣で切れば倒せた。
大きくなってHPが増えたとしても、元々そんなに強くないから何とかなる。
体が大きくなっておるから体当たりの威力も上がっているんだろうけど、当たらなければ問題ないし。
あれ?
反時計回りに進みながら痺れキノコを倒していると、僕のHPバーが減った。
ハピネスの耐久値を示すバーの横に僕のHPバーがあるんだけど、減ったのはハピネスではなく僕の方。
つまり、本体が攻撃を受けているということだ。
減ったのは少しだったけど、しのぶさんの警戒やミヤビちゃんの守りを突破するぐらいだから、離れたところから攻撃されたか数で攻められたんだと思う。
しのぶさんとミヤビちゃんだけでなく、少ないけどうららさんとセインまでダメージを受けているし。
まだ胞子は舞っているけど、正面と左前方の痺れキノコは倒し切った。
戦った場所の胞子は多少減っていると思うけど突っ切るには不安がある。
もしも逃げるとしたら前にストームを放ちながらがいいかもしれない。
そんなことを考えながら同期操作を解除した。
「やぁぁ!!」
「うわっ?!」
元の体に意識が戻った目の前には、僕に槍を突き刺してくるミヤビちゃんがいた。
座ってから同期操作を使ったので、後ろに仰け反ることしかできなかった。
だけど、ミヤビちゃんの槍は顔の横を通って背後へ突き抜け、僕に当たることはなかった。
「ウギャッ!!」
槍が突き刺さった鈍い音と何かの悲鳴が聞こえた。
振り返ると真っ黒い毛玉が地面を転がっているところだった。
どうやらこの毛玉から守ってくれたみたいだね。
「ご、ごめんなさい!」
「大丈夫だよ!当たってないし、いきなりスキルを切ったこっちが悪いから!」
それに、当たっても吹っ飛ぶだけでダメージはない。
仮に当たっていたとしたらもっと謝りそうなので、ミヤビちゃんのこと考えるとこれでいいんだと思う。
「はぁ!せやっ!火遁・玉!火遁・旋風!」
「ふぅちゃんラッシュ!もくちゃんラッシュ!ひかりんショット!ひーちゃんショット!」
「糸縛り・糸玉!糸縛り・雁字搦め!」
「きゅ!」
「キュゥア!」
僕の周囲ではしのぶさん達がが戦っていた。
セインは明るさ確保のためかひかりんとひーちゃんを手元に残して戦っているし、シロツキ達はうららさんが縛って動けなくしたモンスターから攻撃している。
騎士人形も近づいてくる黒い毛玉を攻撃しているんだけど、近くに寄ってくる毛玉を攻撃するので手一杯のようだ。
みんなが攻撃している相手は全て黒い毛玉で、周囲を見るとまだ15匹以上いる。
体調は20cmほどでハピネス達より小さく、短い黒い毛で覆われている。
目は黄色くて大きく、口からは尖った牙が見えた。
どうみても毛が黒い猿なので、これがカゲザルなんだと思う。
「しのぶさん!こいつらを倒せばいいんですよね?」
「はい!これがカゲザルです!周りに落ちてあるものを投げてくるので注意してください!」
「わかりました!クローバー、アザレア、ラナンキュラス来い!繰り糸!」
アイテムバッグからハピネスを出しながら、残っている人形の館からクローバー達を取り出し、ハピネスを含めて糸を繋いだ。
ハピネスとアザレア、クローバーとラナンキュラスでカゲザルを狙っていくよ。
アザレアの魔法とクローバーのパチンコで牽制したところに、ハピネスの斬撃とラナンキュラスの槍で攻撃する。
カゲザル達はすばしっこいので距離がある攻撃は避けるんだけど、避けた後の隙が大きいのでそこを突けば攻撃を当てることができる。
カゲザル自体の攻撃力が少ないこともあって、クローバーでちまちま回復するだけで十分戦える。
たまに石を投げてくることもあるけど、気づいた誰かが声を上げるとミヤビちゃんかラナンキュラスで防ぐことができた。
それでも何回か当たったけど、やっぱりダメージはそこまでない。
途中、痺れキノコを持ってきたカゲザルもいたんだけど、投げられる前にハピネスで切ると、その時に出た少量の胞子を吸い込んでカゲザルが麻痺した。
少し可哀想な気がしたけど、そのままハピネスでトドメを刺した。
しばらく戦った結果、そこまで苦戦することなく倒せた。
最初にダメージを受けたのは、陽動で何匹かきてしのぶさんとミヤビちゃんがそれに対処している時に攻撃されたからだそうだ。
最初から痺れキノコを使われていたら危なかったかもしれないね。
クローバーやポーション、マナポーションで回復した後は、反省点を洗い出しながら森を進む。
同期操作は便利だけど、連携が取りづらくなるのが問題になった。
声を出せないけど音は聞こえるから、できるだけ離れないようにしたらどうかと言ってみたけど、それだとスキルの持ち味を殺してしまうと言われた。
結局、誰かがダメージを受けていることに気づいた時点で解除することで落ち着いた。
明日、明後日と水樹奈々さんのファンクラブイベントに参加するので、体力が尽きた場合更新できないかもしれません。
いつも更新しないかもと書きながら更新しているので、そういう芸風だと思ってもらってもいいかもしれません。
更新しなかった時の予防をしたいだけなので。




