夜の森
森へ向かいながらブラックドッグリーダーのドロップ品を確かめたんだけど、全員毛皮だった。
しかも1人1枚しか手に入っていなかった。
取り出して確認したうららさんいわく、普通のブラックドッグより毛並みがいいらしい。
セインとミヤビちゃんも取り出して触り始めたので、僕としのぶさんも同じようにした。
だけど、普通のブラックドッグの毛並みを把握していないので、うららさん以外わからなかった。
「や、やっぱり朝までここでレベル上げしない?」
森に入る直前になってセインが足を止めた。
1人だけ離れたところで止まっているのは怖いからだと思う。
確かに森の雰囲気は夜になって不気味さが増していて、僕もそんなに好きじゃない。
月明かりは葉に遮られているにもかかわらず、なぜか森の中は薄っすらと青く光っているように見える。
これが苔や虫が光っているならわかるんだけど、パッと見ただけでは何が光っているのかはわからない。
「これ絶対出てくる!爺もこういうの苦手だよね!?行くのやめよう?」
「えっと、これはまだ大丈夫かな……」
薄っすらと光っているせいで不気味だけど、僕は真っ暗な方が怖い。
それに、どちらかというと廃屋とか墓地の方が怖い。
森は広いからいたとしてもそうそう出会わないよ!
「えぇ〜!」
「どうしましょうか。マナポーションが心許ないので、できれば戻りたいのですが……」
「うぅ……行くしかないですよね……。あ!作ればいいんじゃないですか?」
「素材と技術がないです」
「ですよねー」
セインはうららさんに説得されて項垂れていた。
夜の森という時点で怖くなると思ってなかったのかな?
たぶん、予想以上だったんだろうけどね。
「しのぶさん。夜の森には何が出るんですか?」
「ハニーベアやワイルドベアが出るところはわかりませんが、昼と同様に街側の大きい版が出てくるとしたらカゲザル、突撃コウモリ、ナイフオウルですね!昼にもいた雑草魂と痺れキノコもいます!」
「お化けはいないんですね」
「私は見たことないですね!」
セインの横ではミヤビちゃんとしのぶさんが夜の森に出るモンスターについて話していた。
その結果、ひとまずお化け系のモンスターがいないことがわかりセインも少し落ち着いたようだ。
真剣な表情で森を見つめながらひーちゃんを召喚して、ひかりんとの2体体制で照らすことしたみたい。
そのおかげで僕も安心できるよ。
しのぶさんによるとカゲザルは真っ黒で小さな猿で、他のモンスターと戦闘しているとどこからともなく現れるらしい。
突撃コウモリは羽を畳んで勢いよく突っ込んできてすれ違いざまにHPをドレインし、毒を与えてくることもあるようだ。
ナイフオウルは羽がナイフのようにくて硬いフクロウで、後ろを取っても首だけ回転させて見てくる上にナイフを飛ばしてくる厄介なモンスターと説明された。
暗殺術を取った後に最初に戦ったのがナイフオウルだったらしく、せっかく後ろを取ってもグリッと見られた上に手を切られ、一度離れたところに羽を飛ばして追撃してきてピンチになったことが原因で少し苦手になったそうだ。
せっかく取ったスキルが初戦の相手に通用しなかったら凹むよね。
「おばけはいないみたいです。頑張っていきましょう」
「うひゃっ?!え?あ、ミヤビちゃん……。そ、そうだね!さぁ行こう!すぐ行こう!」
話がひと段落したところで、ミヤビちゃんがセインの手を取った。
それに驚いたセインは、意地なのかわからないけど森へと進み始めたので、しのぶさんが警戒のために慌てて前に出る。
掲示板でハニーベアやワイルドベアが出てくるところがどうなるのか調べたかったけど、ここを掲示板を見ながら進む勇気はない。
なので、僕とうららさんは3人に続いて森へと入った。
「以外と暗いですね」
「外から見ると青く光ってたように見えたんですけどね」
中はそこまで明るくなく、入ってすぐランタンに火を点けることになった。
セインもランタンを点けたので、ひーちゃんとひかりん自体の発光も合わせて1人だけすごく明るくなっている。
これは流石にモンスターが寄ってくるんじゃないかな。
「セインさんだけすごく明るいです!」
「これだけ明るいと逆にモンスターが来ない気がします!」
「明るいのが苦手なんですか?」
「勝手なイメージです。夜に強いモンスターは光に弱そうなので」
先頭を進むしのぶさんとミヤビちゃんが、真ん中にいるセインの光具合を見て話している。
確かに明るすぎると目がやられてしまいそうで、逆に近づいて来ないかもしれない。
まぁ、どちらにせよ近づいてきたら戦うだけなんだけどね。
「うわっ!」
森の中なので木の根が飛び出ていたり石が転がっていたりするんだけど、なぜか周囲が1番明るいセインが躓いた。
ただの根っこに躓いただけなので良かった。
これが雑草魂だったら球根が飛び出てきて攻撃してくるし、呼応するように周囲の雑草魂全部飛び出してくるからね。
密集地だったら10体を超えることもあるみたいなので、そこまで強くないのに面倒だ。
「気をつけてね」
「うん……」
一度躓いたことで吹っ切れたのかセインの足取りはいつも通りになり、少し前かがみになってキョロキョロとしていたのも落ち着いた。
と思ったんだけど、どうやら前を歩くミヤビちゃんの頭頂部と足元を見ることのしたようで、視線がきになるミヤビちゃんがチラチラと振り返っている。
「あの……手を繋ぎましょうか?」
「え?いいの!?」
「はい。その方が気が紛れますよね?」
「うん!ありがとう!」
視線に耐えられなくなったのかミヤビちゃんがセインに提案した。
その結果、ミヤビちゃんが槍をアイテムバッグに入れ、空いた手をセインと繋いだ。
ミヤビちゃんの攻撃手段が1つ減ったけど、その分シロツキとトバリがやる気になったようで、2頭共2人の周囲を飛び回ってしっかりと警戒しているし、アイテムバッグメニューを開いたままにしていつでも取り出せるようにしている。
「爺!爺!」
「ん?」
「ミヤビちゃんのお肌がスベスベでもちもち!」
「あ、うん……。よかったね」
「うん!」
それを僕に言われても困るし、当のミヤビちゃんは苦笑している。
だけど、セインの気も紛れたみたいで、今度はちゃんと自分で周囲を確認しながら歩き始めた。
「爺も怖かったら手を繋いであげるよ?」
セインに余裕ができたからか、僕に空いた手を向けきたけど断った。
いざ中に入ってみると怖くないし、流石に恥ずかしい。
「止まってください!痺れキノコの胞子が舞っています!」
しばらく進むとしのぶさんが手を上げて僕達を止めた。
しのぶさんの視線の先にはうっすらと青く光っている中に、キラキラと黄色に光る粉が飛んでいた。
近くに痺れキノコが群生しているようだ。
「ここを通らないといけないわけではないので迂回しましょう。戦っても問題はないと思いますが、カゲザルが来たら面倒です」
「わかりました」
痺れキノコの胞子が待っている近くで別のモンスターとは戦いたくないので、しのぶさんの提案に反対する人はいなかった。
別に急いで街に戻らないといけないわけでもないので、少し迂回するように移動する。
誰かがログアウトすることになっても、工房でやればいい。
「ここも痺れキノコですね。もう一度迂回します」
移動した先にも痺れキノコの胞子が舞っていて、さらに迂回するとそこにも痺れキノコがあった。
僕達を囲むように行く先に現れ、挙げ句の果てに来た道戻っても胞子があった。
痺れキノコが動き回っている証拠だ。
「夜だと活発に動くとは聞いていましたが、ここまでとは思ってませんでした」
「そうなんですか?」
「はい。昼間はそこまで動かないんですが、なぜか夜になると移動して先々で胞子を撒くらしいんです。私は木の上を通っていたので痺れキノコとはあまり戦闘をしていないんです」
「そうなんですか」
確かに胞子はそこまで高く舞っていないので、木の上を移動していたのなら気づきづらいと思う。
「戦うしかないですね」
「ですね」
「そうなると、まずは胞子をどうにかしないとダメですね」
アザレアのストームとセインのふぅちゃんで吹き飛ばせるといいんだけど、ダメだったら麻痺消しクローバーで頑張ろう。
仮に僕が麻痺しても繰り糸さえ繋いでいれば動かせるからなんとかなると思う。




