工房でログアウト
ボールタイガーが消える前に痺れ針を回収して、ハピネスにセットした。
セインは機巧が気になるみたいで、僕の手元をジッと見ていた。
その間にそれぞれがボールタイガーから得たアイテムを調べていたんだけど、僕とセインは何もなし。
うららさんとミヤビちゃんが皮で、しのぶさんが尻尾だった。
うららさんの鑑定の結果、ボールタイガーから取れた皮には衝撃耐性という効果がついてることがわかった。
効果がよくわからなかったんだけど、どうやら物理攻撃の中で殴打などのダメージを減らす効果があるらしい。
その代わり斬撃や刺突に関しては普通にダメージを受けるみたいだけど。
だから、ミヤビちゃんとラナンキュラスの槍を突いた時は避けたけど、振った時は受けたんだね。
そういえば、しのぶさんが吹っ飛ばすために忍刀で切った時は切った跡が付いてた。
ダメージはよく見てなかったけど、槍で叩いた時より多かった気はする。
ということは、今度遭遇した時はラナンキュラスじゃなくてハピネスで攻撃すればいいのか。
さっきの様子だと鳴いたらブラウンホーンラビットのが来るかもしれないから、そっちはラナンキュラスで対応しよう。
アザレアとクローバーをどう使うかはその時次第だけど、僕は弱い方を先に倒して強いモンスターとはじっくり戦いたいタイプだから、たぶんブラウンホーンラビットをアザレアで狙うと思う。
クローバーのパチンコはハピネスの攻撃を当てるための牽制として撃てばいい。
ボールタイガーの尻尾は特に効果がないみたいだけど、説明文に『アクセサリーにすれば幸運を呼ぶことがあるかもしれない……。効果は人それぞれ。』と書かれていたので、うららさんが尻尾を使ってアクセサリーを作ることになった。
だけど、尻尾はそれなりに長いのでどういった物を作るか悩んでいる。
付け尻尾や腕輪という案が出たけど、最終的にゼロツーさんに相談することになった。
僕よりうららさんの方がゼロツーさんと話してるんじゃないかな。
確認も終わったのでこれからどうするか話し合った結果、可能であればもう少しボールタイガーの素材が欲しいといううららさんの意見もあり、ブラウンホーンラビットを狩りつつ探すことにした。
少し離れたところにいくつかの群れがあるので、運が良ければすぐ見つかるかもしれない。
というわけで、近くのホーンラビットの群れに向かう。
「いませんでした」
「そうだね。ここよりもっと東にいるのかもしれないね」
「あー。たまたまはぐれてこっちに来たとか?」
「そういうのもあるかもしれないね」
ホーンラビットの群れと6連続で戦ったけどボールタイガーはいなかった。
後になってシロツキやトバリに空から探してもらえばよかったと思ってミヤビちゃんのお願いしたんだけど、それでも近くの群れにはいなかった。
セインの言う通りはぐれた個体だったのかもしれない。
そこまで強くなかったし、アーマーゴーレムのような特殊なモンスターではないとは思うけど……。
「そろそろ街に戻りますか?」
「え?あ、この時間ではミヤビちゃんの夕食には間に合いません。どうしましょうか……」
後ろでしのぶさんがうららさんに帰るか確認したら、うららさんが慌てた後困ったように笑った。
確かにもうすぐ日は落ちるので夕飯の時間は近いから、今から街に向かってもいつものログアウトの時間には間に合わない。
思えば岬の守護者を周回した後に東に来たから、移動だけでも結構時間を使ってる。
どこでもログアウトできるし、ログインしたらログアウトした場所からだけど、ログインする時間がずれると戦闘中だったり、仲間が死に戻りをしているかもしれない。
時間を合わせてログインすることにしたとしても、何か用事ができるかもしれないから、できれば安全な場所でログアウトする方がいいと思う。
近くに洞窟とかがあればいいんだけど……。
あるいは木の上とかモンスターの来づらい場所がいいよね。
工房ならどうだろう。
ログアウトできるか聞いた覚えはないんだけど、工房まで道が続いてるはずだしできると思う。
「工房でログアウトしても問題ないか聞いてきてもいいですか?」
「できるのでしょうか?」
「できると思います。工房はここからだいぶ東ですけど行けるようになっているはずです。なので、ログアウトしてもフィールドや街中でログアウトしたことと変わらないと思います」
工房へ入るには僕がスキルを使うか、うららさんに渡している鍵を使う必要があるけど、転移室から出るのはバラバラでいい。
源さんに鍵を渡す前は僕が先に出たからね。
だから、僕のログインする時間がずれたとしてもみんなは外に出ることができる。
「それでしたら全員で行きましょう。もしも無理だった場合は時間を合わせてログインすればいいです」
「みんなもそれでいいですか?」
しのぶさん達は了承してくれた。
ミヤビちゃんも時間に気づいてから少しソワソワしていたけど、解決策が見えたからか落ち着いているようだ。
「では、少し時間をください。ハピネス達を収納します」
「わかりました」
「人形の館、ハピネス、クローバー、アザレア、ラナンキュラス収納」
ハピネス達を収納した後、騎士人形もアイテムバッグに収納する。
セインも横で精霊を送還している。
ハピネス達置いて行ったとしてもアイテムバッグに入るだろうけど、精霊がどうなるかはわからないし、わざわざ試そうとも思わない。
何か変なことが起こっても嫌だからね。
精霊の怒りを買うとか。
「行きましょう。工房」
全員で工房の玄関ホールに転移した。
すぐ近くにゼロツーさんが控えていたので早速聞こうと思ったんだけど、今になってログアウトが通じるのか気になった。
別の言い方がわからないので聞くしかないんだけどね。
「ゼロツーさん。工房の中でログアウトした場合ってどうなるのかわかりますか?」
「ログアウト……というと冒険者の方々が休息のために特別な場所に移動することですね。はい。可能です。戻って来られた場合は工房になります」
問題なくできるらしい。
よかった。
ミヤビちゃんも小さく息を吐いていたし、うららさんの顔にも笑顔が戻った。
ゲームのし過ぎで夕飯に間に合わなかったら怒られてできなくなるかもしれなかったけど、これなら安心だ。
それにしても、メルカトリア人や自動人形から見ると、ログアウト中の僕達は特別な場所に移動していることになっているんだ。
僕達からするとここが特別な場所なんだけど、ここから見ると確かにそういう風に映るかもね。
「ミヤビちゃんの宿題は大丈夫?」
「はい!朝のうちに今日の分はほとんど終わっています!あとは絵日記があるんですけど、これはすぐに終わります!」
「そうなんだ。何を書くの?」
「今日はボールタイガーを書きます!」
ミヤビちゃんが胸の前で量拳を握って気合を入れた。
もしかしてここ数日の絵日記は全部W3のことだったりするのかな。
確かに書くことには困らないと思うけど。
「それでは1時間半後に集合で、遅れたとしても30分は待つということでいいですか?」
「僕は大丈夫です」
「私も問題ありません」
「私も!」
「うん!大丈夫だよお姉ちゃん!」
うららさんの提案で1時間半後に集合することになった。
街まで戻るとしたら間に合わないけど、今体だと少し早いから余裕をもたせたんだろうね。
返事を聞いたらうららさんはログアウトして、ミヤビちゃんも続いた。
うららさんは早く済ませたあとは生産するつもりだろうし、僕も人形のパーツを作ろうかな。
セインとしのぶさんもメニューを操作しているし、僕もログアウトしよう。
「「お疲れ様です。オキナ様」」
ログアウトを選択する瞬間、ゼロワンさんとゼロツーさんの声が聞こえた。




