クイーンパラライビーの痺れ錫杖
クイーンパラライビーの素材は予備の分も含めて充分手に入ったので、森を抜けた先に広がる草原を目指して進むことになった。
草原の先に何があるか気になるし、向かうまでにワイルドベアなどの強いモンスターと戦うからレベル上げにもなる。
それに、ハニーベアのいるところを含めて戦ってばかりだから、色々な素材を集めてもいいかもしれない。
ワイルドベアが闊歩するような場所だから、珍しいアイテムもあるかもしれないし。
「ワイルドベアです。2頭いました」
ワイルドベアが生息する森に入った瞬間、しのぶさんの警戒に引っかかるものがあったらしく、ほんの少し先だけど偵察に行ってもらった。
その結果わかったのはワイルドベアが2頭いるということなんだけど、戦うか悩むところだ。
ワイルドベアが1頭だけなら油断しなければ負けることはないと思う。
もしも特殊個体だとしたら攻撃方法が変わったり、できることが増えるみたいなのでどうなるかわからないけど。
通常個体1頭だけでも多少苦戦するし、倒すまでにそれなりに時間がかかる。
2頭になったら片方を攻撃している間もう片方を抑えておく必要がある。
だけど、しのぶさんとミヤビちゃんは2人で抑えることはできても、1人だと突破されたり他の人を狙われたら対処できない。
つまり、片方を抑えてもらうと前衛がいなくなるということだ。
ハピネスとラナンキュラスを前衛と言い張ってもいいんだけど、モンスターは人形より人間を狙って来るからうまく抑えられるかわからない。
糸を2本繋げば何とかなるかもしれないけど、ハピネス達を無視されたら対応できないと思う。
「どうしますか?」
「片方を攻撃している間もう片方を抑えておく方法が思いつかないです」
「うーん。私とミヤビちゃんがそれぞれに向かって、オキナさんがサポートするのはどうですか?」
「2頭に対して分けて攻撃する自信がないです……」
1頭に4体で攻撃するのはまだできる。
相手の状態を見て誰を動かしてどの攻撃をするか選ぶだけだ。
それでも集中しないとダメなんだけどね。
でも、それが複数相手だと一気に難しくなる。
パラライビーのようなそこまで強くないモンスターや、岬の守護者が分裂している時ような動きが単調なモンスターだったら対応できる。
でも、ワイルドベアのような一撃の威力が高くて動きも速いモンスターが相手だと、片方に気を取られた隙に近寄られて一撃でやられると思う。
常に両方を視界に収めれるほど離れていればなんとかなるかもしれないけど、ワイルドベアの場合距離を開けていても一気に詰められてベアパンチだ。
あるいは突進の勢いそのままにタックルで吹っ飛ばされるかもしれない。
そもそも、二手に別れたしのぶさんとミヤビちゃんの動きを見て攻撃できる気がしない。
しのぶさんの方に防御のためのラナンキュラス、ミヤビちゃんの方に攻撃のためのハピネスという感じにしても……難しいと思う。
練習すればもしかしたらできるようになるかもしれないけどね。
「爺がさっき手に入れた杖で麻痺させればいいんじゃない?」
「杖っていうと『クイーンパラライビーの痺れ錫杖』?」
「うん、それ。麻痺するんだよね?」
「そうだけど、使えるかわからないんだよね」
「あー。確か魔力を流さないとダメなんだったよね。とりあえずやってみたら?」
「そうだね。やってみる」
ワイルドベアが麻痺することは、糸を増やしたラナンキュラスの突き抜ける槍で攻撃した時に知っているから問題ない。
それに、セインのおかげで気付いたんだけど、別にクイーンパラライビーの痺れ錫杖にこだわる必要はない。
クローバーの左手にチャージされているバッドステータスは10個全部が麻痺だから、こっちを使えばなんとかなるんじゃないかな。
それでも錫杖が使えるかは試すけど。
「繰り糸。おぉー」
アイテムバッグからクイーンパラライビーの痺れ錫杖を取り出して糸を繋げてみると、錫杖の先端が放電した。
糸を錫杖の柄の部分につけて錫杖を振ると薄い刃が飛んだし、振ている最中に引っ張ると急停止して玉が出たんだけど、どっちもMPを10消費した。
玉に関してはヨーヨーとかが伸びた時に引っ張るような感じだけど、振り抜くのとは違ってタイミングが難しい。
これなら玉を出すならぶつけた方がいいと思う。
「できたね!」
「これならいけるかもしれませんね!」
「一発で麻痺させれるとは限らないので、クローバーの機巧も使いますね」
セインとしのぶさんは嬉しそうだけど、麻痺させるためには攻撃を当てる必要があるし、当たったとしても確実に麻痺するわけじゃない。
だから、クローバーも一緒に使う。
「あの怖くなるやつですか?」
「うん。麻痺が10回分溜まってるからね。これも使えばなんとかできると思う」
ミヤビちゃんが聞いてきたけど、ニコニコしているから本当に怖がっているわけじゃないね。
使ってる僕ですらホラーモードだと思ってるぐらいだから、機巧名を知らない周りからするとこうなるよ。
「オキナさんの糸なら刺繍魔法も使えますね」
「そうですね。今度試しましょう」
「はい。それ用に簡単なものを刺繍しておきますね」
この錫杖と刺繍された魔法陣が同じ扱いかはわからないけど、試してみる価値はあると思う。
もしも使えたら僕の攻撃手段が増えるから、協力は惜しまない。
「それじゃあ行きましょう!まずは私が不意打ちするので、そのワイルドベアにミヤビちゃんとセインさんも攻撃してください。オキナさんはもう1頭を麻痺させてください。うららさんは糸を張った後バブルシャワーを液体にしてワイルドベアの足元に撒いてください」
しのぶさんの案に全員が頷いて返した。
僕はあくまで足止めなので無理にダメージを与える必要はないんだろうけど、ワイルドベアが麻痺した時のためにハピネスとラナンキュラスの糸は2本にしておこう。
あわよくば倒せるかもしれないからね。
「はっ!」
「ガァ?!」
「ガルゥ!」
全員の準備が整ったので、しのぶさんが木から飛び降りてワイルドベアの首筋に火属性が付与された忍刀を突き立てる。
クリティカルでも1割程しか減ってないのには、さすがと言うしかない。
「やぁー!」
「きゅー!」
「キュ!」
「そこ!」
すかさずミヤビちゃんとシロツキ達が飛び出して、攻撃を受けて怯んでいるワイルドベアに攻撃する。
僕もクイーンパラライビーの痺れ錫杖を、ワイルドベア目掛けて振り下ろした。
「グルゥ!」
「くっ!なら……救済と安らぎの調べ、安らぎと苦痛の左手」
「ガッ?!」
痺れ錫杖の放電している場所が当たっても麻痺しなかった。
だけど、錫杖と同時に近くへ投げていたクローバーを向かわせながらホラーモードにして麻痺を付与した。
準備をした時点で糸は繋いでいるんだけど、さすがに歌わせるとバレてしまうので機巧の使用は今になったけど、なんとか麻痺させることができた。
あとは、麻痺が解けるまでできるだけダメージを与えるだけだ。
しのぶさん達の方へハピネス達を向かわせれたらよかったかもしれないけど、麻痺の解けるタイミングを見逃さないようにしないといけない。
だから、僕ができる援護はアザレアの魔法だけだ。
ワイルドベアの攻撃をミヤビちゃんが盾で受け、隙をついてしのぶさんが切りつけていると、向こうのワイルドベアも麻痺した。
よく見てみると、しのぶさんは右手に忍刀を持ち、左手でパラライソードを持っている。
不意をつくときは1本だけだったので戦っている最中に取り出したのか、どこかに挿していたんだと思う。
2頭とも麻痺しているうちに、うららさんがワイルドベアの足元にシャボン液を撒いた。
僕が抑えていた方のワイルドベアの麻痺が先に解けたんだけど、シャボン液で滑ってバランスを崩した。
この隙にもう一度クローバーで麻痺を付与しながら痺れ錫杖で殴ったけど麻痺しなかった。
それでも起き上がるまでにもう一度やると、痺れ錫杖で殴った時にもう一度麻痺した。
さすがに連続で麻痺させ続ければ耐性ができるよね。
2度目の麻痺が解ける前にしのぶさん達がワイルドベアを倒し、その後HPが3割を切ったもう1頭を全員で攻撃して倒した。
ハピネスとラナンキュラスだけでだいぶ削れたので、アザレアも一緒だったらもしかしたら倒せたかもしれない。
2本の糸を繋いだ状態で行う攻撃と麻痺のコンボはえげつない。
うららさんが撒いたシャボン液も地味に活躍したから、今後はもっと積極的に使ってもいいかもしれないね。




