段の変わり具合と水に吸い寄せられたみーちゃん
鉄鉱石を取り終えた後来た道を引き返してリトルロックゴーレムがたくさんいるところに戻った。
すると、ちょうどツルハシを持った集団が近くを通ったので、セインがこの先を通れるようにしたことと採掘ポイントがあると伝えた。
それを聞いたツルハシ集団はお礼を言って奥へと向かった。
去り際に段へ行くなら気をつけろと言われたんだけど、何かあったのかな。
地底湖に気をつけろだったらフルレイドボスについてだと思うんだけど、ロックゴーレムのところで何を気をつけるんだろう。
「これはすごいな……」
「戦場かな?」
段のところに出たら、至る所でロックゴーレムと戦闘が行われていた。
1段につき最低1体のロックゴーレムがいて、多いところだと3体いるところもある。
そんなロックゴーレムに対する人達も大勢いて、色んな魔法名やスキル名が聞こえてくる。
他パーティと戦闘状態になっているモンスターに攻撃しても、戦闘対象のパーティリーダーの許可がないとダメージを与えられない制限のおかげで獲物の取り合いにはなっていないみたい。
それでも流れ弾でPK判定を受ける可能性もあるはずだから、慎重に戦っているのはわかる。
ロックゴーレムが倒されると、倒されたところの段の端にロックゴーレムが降ってきた。
とは言っても岩がバラバラに降ってきて、それがくっついてロックゴーレムになっているだけだから格好良くはないんだけどね。
「素材が集めづらいな」
「採掘ポイント付近で復活しないみたいだから何とかなりそうだけど?」
「あそこに落ちている白い石も拾いたいんだ」
「あー……あそこは戦闘が激しいから通りづらそうだね〜」
僕が指差した場所では3体のロックゴーレムと戦う6人パーティがいた。
その下でも拾えるけど、そこにもロックゴーレムと戦うパーティがいる。
戦闘している中に入ると流れ弾で攻撃を受ける可能性があるし、そんなことになったら戦闘の邪魔をした上で相手がPK判定になるはずだ。
当たり屋プレイなんてしたくない。
それにしてもどうしてこんなに増えたんだろう。
ここに来るプレイヤーが増えたからモンスターも増えたんだろうか。
それぞれで戦う場所が分かれてるから経験値を稼ぐにはよさそうだ。
とりあえず今回は端にある採掘ポイントと、その周りで拾える程度の白い石を拾いながら一度も戦闘をすることなく段を降りきった。
それでもセインのおかげで白い石は3マス分埋まったけどね。
セインは降り切ったら今回手に入れた鉱石と石を全部渡すと言って取引を申し込んできた。
当然断ったんだけど、レベルを上げたことやパーティに誘ってくれたことへのお礼と、これからもよろしくという意味も込めてだと言いながら押し切られたよ。
そこまで言われたら拒否できないよね。
「それで、これからどうする?このロックゴーレムでレベルを上げる予定だったよね?」
「うーん。とりあえず奥へ行こうか。ロックゴーレム以外にも倒しやすいモンスターはいるんだ」
セインにはロックゴーレムまでしか説明していなかったので、ロックリザードと地底湖、フルレイドボスについて説明しながらロックアーマーゴーレムのいた所へとつながる通路を進む。
セインは地底湖が気になるみたいなんだけど、下手なことしてフルレイドボスと戦闘になるのは嫌だから地底湖に近づかないようにと念を押した。
渋々だけど納得してくれて良かった。
僕のやられ方を聞いたら気の毒そうな顔で心配してくれたし、たぶん大丈夫だよね。
ロックアーマーゴーレムと戦った場所には少し石が増えていたけど、戦うにはまだまだ足りない量だった。
足りていたとしてもあの特殊なゴーレムがいないとダメなんだけど、石が溜まればまた出て来るんだろうか。
何となくだけど出てきそうな気はする。
セインに石の山とロックアーマーゴーレムについて説明しながら地底湖へと進む。
どうやらこっちにはあまり人が来ていないようで、行く先からは地底湖に滝の水が落ちる音しか聞こえてこない。
遠くで戦っているかもしれないけどね。
「うわー!!すごーい!!」
地底湖を見たセインは大興奮で思わず駆け出そうとしたみたいだけど、少し離れたところにいたロックリザードに気づいて足を止めた。
ナイスロックリザード。
あのままだったら地底湖まで走っていきそうだったから、ハピネス達を投げて止めないといけない所だった。
もう一度地底湖のフルレイドボスについて説明して、地底湖から離れたところにいるロックリザードを狙って移動した。
やっぱり話しただけだとフルレイドボスの恐怖は伝わってないみたいなので、戦闘しながら地底湖の様子を見て、ロックリザードを捕食するところを見せようと思う。
実物を見たらわかってくれるよね。
ロックリザードとの戦闘はアザレアの魔法によって苦戦することはなかった。
弱点が風属性ということもあって、ロックリザード自身の土属性をセインが強化すると更に簡単に倒せたし、ラナンキュラスの貫通攻撃が優秀だった。
騎士人形の剣を風属性にすれば戦力になったのもある。
モンスターは基本的にプレイヤーを狙うので、僕やセインに向かってきたロックリザードを横から切ってくれる。
それで怯んでくれるから続けて攻撃がしやすいし、アザレアなら魔法を連射できるのですぐに倒すことができる。
そのおかげでしばらく戦っているとセインのレベルが1つ上がった。
「そろそろ別の精霊もレベル上げたいから呼ぶね!精霊召喚みーちゃん!」
ずっとロックリザードに付与するためのちーちゃんと、騎士人形に付与したふぅちゃんだけだったけど、追加でもう1体召喚したセイン。
2人で戦っていると指示を出す限界が3体だったから余裕を見て2体にしていたんだけど、ふぅちゃんはずっと剣に付与したままだから出しても問題ないと思う。
ふぅちゃんの魔力が切れたら再召喚したり付与する必要があったけど、今はだいぶ慣れているからね。
「あれ?!みーちゃん?!」
「え?」
召喚されたみーちゃんはスーッと地底湖へと向かい、そのまま水に溶けるように水中へ沈んでいった。
セインは何の指示も出してないんだけど、どうしたんだろう。
そういえばちーちゃんも岩を退ける時勝手に動いていたよね。
セインはちーちゃんが何か見つけたとは言ったけど、そこに対して指示を出してなかった。
そうなるとみーちゃんの意思で水に入っていったことになる。
「みーーーちゃーん!戻っておいでーーー!!
「セイン。一応離れておこう」
声を張り上げて呼びかけているセインの手を引いて地底湖から距離をとった。
セインの声は水中に入ったみーちゃんに聞こえてないのか、あるいは聞こえていて無視しているのかもしれない。
使役されている精霊だから無視はないと思うけど。
それよりもみーちゃんが向かったことでフルレイドボスとの戦闘にならないかが気になる。
なったとしたらバトルエリアが展開されるだろうから、その時はすぐに段のところに戻るつもりだ。
幸いみーちゃんは精霊だからMPが尽きれば送還されるし、例え攻撃を受けて倒されても召喚し直せば問題ないらしいし。
ロックリザードがいない岩陰でしばらく待っていると、水面の一部が少しだけ水色に光ったかと思うとみーちゃんが飛び出してきた。
球体から伸びている手で何か板のようなものを持っているんだけど、それが何なのかわからない。
「みーちゃん!んー?何これ、くれるの?」
セインの元まで戻ってきたみーちゃんは、手に持っていた板をセインに突き出した。
その板の上には僕がつかみ取りでゲットした石も乗っていた。
人形作成で選択したら、加工にすごくMPを消費するアイテムだ。
「これ……鱗?」
受け取ってアイテムバッグに入れた板を取り出して眺めていたセインが呟いた。
見せてもらったんだけど、鱗だった。
たった1枚でセインの手を覆い隠すほどの鱗を持った生き物は1体しか知らないよ……。




