泡のスキルオーブ
岬の守護者が居なくなった空間は、水溜りの水が天井に反射して綺麗だった。
心なしか全体的に明るく、雰囲気が柔らかく落ち着いた感じになってるんだよね。
入口側には僕たちが倒したことでどうやって戦うか話し合っているパーティでザワザワしている。
早く移動して次のパーティが戦えるようにしないと。
「人形の館、ハピネス、クローバー、アザレア、ラナンキュラス収納」
僕がハピネス達を収納すると、セインも精霊を送還した。
あとは騎士人形をアイテムバッグに入れて入口まで戻りながらリザルトを確認する。
当然のことだけどリザルト画面には『初回討伐ボーナス』はなかった。
手に入ったアイテムは魚や海藻などの食材系と、ブラストシェルの貝殻にシールドトータスの甲羅(赤)などの魔物素材だった。
1日1回ボーナスも食材だったので、今度工房へ行った時にゼロスリーさんに渡そうと思う。
「食材と素材ですね」
「食材……料理スキルがないので作るのも面倒なので売るだけですね!」
「売りますか?工房でゼロスリーさんに渡せば何か作ってくれるかもしれませんよ」
「そうでした!」
「しのぶさん!料理スキルがなくても焚き火に当てるだけで焼き魚は作れますよ!」
「あー、それはいいですね。雰囲気も良さそうなので今度夜にでもやってみます!」
手に入ったアイテムについて話しながら入口まで戻ると、岬の守護者が復活したので次のパーティが入っていった。
こっちをチラチラ見ていたけど、何か聞きたいことでもあったのかな。
僕たちが話していたせいでタイミングが合わなかったみたいだけど。
「私はスキルオーブ無しです」
「僕もです」
「えっと……これかな?【泡】のスキルオーブ」
「おぉー!セインさんおめでとうございます!」
「やったねセイン」
「これがそうなんだ!やった!」
僕としのぶさんには出なかったけど、セインにスキルオーブが出た。
セインは早速使うみたいで、周りで待っている人達もジッと見ていた。
この後手に入るかもしれないものだから気になるよね。
必要じゃなければ取らないという判断もできるし。
「それじゃあ使ってみるね!水泡!」
スキルの詳細を確認したセインがスキル名を言うと、ピンと立てた人差し指の先からうっすらと青いシャボン玉のような物が出てきた。
それはふわふわと浮かび、ゆっくりと地面に落ちて割れた。
これだけ?
「次は気泡!」
今度も同じようにシャボン玉が出てきたんだけど、色は黄色がかっていて、地面に落ちず天井へと登って割れた。
水泡は重いから落ちて、気泡は軽いから上がるというわけだと思うけど、どっちにしても使い道がわからない。
「なるほど〜」
「使い道がわからないスキルだね」
セインは納得しているけど、周囲の人たちも僕と同じ感想のようで首を傾げていたり、パーティ内で挑戦するか話し合うところもあった。
もっとバブルシャワーとか泡の壁を作るものかと思ったんだけどね。
「今のは中に何かを入れて上や下に運ぶスキルで、人に使えば水泡なら水中でしばらく活動できるし、気泡なら少し高いところでも登れるみたい。泡で包む相手によって消費MPが変わるから移動でガンガン使うのは難しそうだけどね〜」
「物を運んだり移動する時のスキルなんだ」
いまいち使い所がわからないけど、水中探索とか足場のない高いところに登る時は便利そうだ。
僕達のパーティだと高いところであればしのぶさんが探索できるし、ミヤビちゃんならシロツキ達、僕とうららさんは糸で登れる。
水中を探索する時用かな?
多用できないのは人に使う時の消費MPが激しいのが原因なんだけど、僕が使えばセインよりは運用できるね。
取れるまで戦うかと言われたら遠慮したいところではあるけど。
「他にもバブルシャワー!バブルウォール!ウォッシュ!があるよ」
バブルシャワーでセインの手のひらから無数の泡がブクブクと放たれ、壁や天井にモコモコとくっ付いた。
しばらくするとプチプチと弾けたんだけどダメージはないらしく、目くらましか滑りやすくすることができるらしい。
モンスターにも有効だけど、人間相手の方が役に立ちそうだ。
バブルウォールは目の前に泡の壁が発生するんだけど、この泡が魔法に強いみたいで通過した魔法の威力を減らす効果があるそうだ。
だけど物理攻撃には弱いので、横から振り抜くように攻撃されると散ってしまう。
これも時間経過でプチプチと消えていった。
最後のウォッシュは武具についた汚れを取るためのスキルで、泥汚れや油汚れも取れると言った瞬間、並んでいる人の中で料理をする人たちから歓声が上がった。
汚れた武具や食器はアイテムバッグに入れても綺麗にならないから、汚れは自分で対処する必要がある。
それを、ウォッシュ一発で綺麗にできるんだから、とても効率が良くなるはずだ。
僕の装備も耐久値が減って所々ボロボロだし、地面を転がったりしたせいで土汚れもあった。
だけど、セインにウォッシュを使ってもらったら一気に綺麗になった。
それを見たしのぶさんも使ってもらったんだけど、黒装束のせいで分かりづらかった。
「今覚えているのはこれくらいだね!」
「Lv1にしては色々できますね」
「攻撃というより補助タイプだからかもしれないですね」
周りの人達も感心したように見ていて、結局誰も列から離れることはなかった。
むしろ一部の人たちは気合が入っているようだ。
リザルトについて確認も終わったので、地上に戻る前に今戦っている人達を見たんだけど、6匹に別れたモンスターに苦戦しているようだった。
戦っているのは話しかけたそうにしていた人達で、編成は前衛が3人と魔法使いと回復職の5人だった。
もしかしたら僕達の誰かにパーティに入って欲しいとお願いをしたかったのかもね。
すでに戦っているから確かめようがないんだけど、交渉するにしても後ろが詰まっていたからどのみち厳しかったと思う。
仮に参加してもグダグダになって終わりそうだし。
「それじゃあ行こうか」
「うん!」
「そうですね」
岬の守護者とのバトルエリア後にして来た道を登る。
途中で倒したのか聞かれることがあって、倒したと答えるとボスの情報とかどうやって倒したのか聞かれたんだけど、教えてもあまり参考にならなかった。
3人で倒せるぐらい特殊な職業の集まりだからね。
それでも精霊魔法使いや普通の魔法使いには情報提供を感謝されたし、中には呪術師や結界師なんて変わった職業の人からも声をかけられた。
呪術師は相手にバッドステータスを与えて攻撃を通りやすくでき、結界師は指定した空間にダメージを与えることができるので物理攻撃減少とは無縁だそうだ。
いろんな職業があるね。
「ようやく出れた〜!」
「たくさん話しかけられたので少し疲れました」
たくさんの人に話しかけられたので、外に出るのに思ったより時間がかかった。
セインは出たら伸びをしているし、しのぶさんは目がげんなりしている。
岬の守護者と戦うより話す方が疲れた気がする。
人が変われば何度も同じことを話さないといけなかったのが少し辛かった。
「ですね。僕はもう少ししたらログアウトするつもりですけど、街に戻って解散しますか?」
「私はもう少し続けるので、ここで別れます」
「私はログアウトするから爺と一緒に街へ戻る予定!」
「わかりました。それではまた明日」
「はい。また明日」
「さようなら〜」
しのぶさんはもう少し続けるみたいなので、ここで別れることにした。
僕とセインの2人で街に戻ったけど、道中のブラックドックは、剣に属性付与してもらった騎士人形が倒してくれた。
特に問題なく街まで戻れたので、僕とセインはログアウトした。




