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World Wide Wonderland –人形使いのVRMMO冒険記–  作者: 星砂糖
第1章 –World Wide(ログイン4日目)-
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すれ違わない理由

岬の守護者との戦闘待ちの列はゆっくりと進んでいる。

下り坂なので、もう少し前に進まないと先頭の様子は確認できないんだけど、さっきから誰1人戻ってこない。

全員が『洞窟水族館(おばけ入り)』に向かっているとは思えないんだけど、目の前の人たちは先頭に夢中みたいで声をかけづらい。


「誰も戻ってこないんですが大丈夫でしょうか?」

「みんな先に進んだとかですか?」

「他の場所ではボスから欲しいアイテムが出るまで戦い続ける人達もいます。なので、何組かは戻ってきてもおかしくないはずなんですが……」

「へー」


しのぶさんも気になったみたいだ。

セインはエリアボスとの戦闘は初めてなのでボスドロップについてはよくわかっていないらしく、しのぶさんから説明してもらっている。

初回討伐ボーナスで貰えるスキルが手に入るかもしれないと伝えたらやる気になったみたいだ。


そのスキルが何か掲示板で調べてみたけど、スキルはおろかボスの情報もなかった。

エリア開放掲示板には『情報をまとめているところなのでもう少し待ってほしい』と『うぃっチーズさん』が書き込んでいた。

攻略メンバーの1人だろうね。


「ということは全員負けている可能性があるんですね!」

「一部の勝った人が探索に向かっているかもしれませんけどね」


セインとしのぶさんがバトルエリアのある方へ目を向ける。

僕もみたところで列が動き出したの前へ進むと、ようやく中が見えるようになった。


バトルエリアはうっすらと青く輝く天井がドーム状になった広い空間で、所々に人が寝転べそうな水溜りがある。

数は10個もないんだけど、点在しているせいで気をつけていないと踏み込んでしまいそうだ。

見ただけだと深さもわからないから、この後戦う人を注意してみよう。

気にせず踏み込むなら浅いことはわかるし、距離を取ったり近づかなければ深い可能性があるからね。

バトル開始前に確認できるのが1番だけど……。


「あ。始まるみたい」

「あの火の玉がボスみたいですね」

「そうらしいですね」


ドームの中心よりやや向こう側に青いモヤを纏った人魂が浮いていた。

浜辺で戦った水の魔法を使ってくるモンスターより色が濃いし、大きい。

そのモンスターは靄を纏っているというより色のついた玉に近かったけど、岬の守護者は完全に人魂だ。

岬から飛び込んで亡くなった人の魂じゃないよね?


「あれは人じゃない……よね?」

「だね」

「魚と貝と亀と蟹に……虫ですね。イソギンチャクみたいな物もいます」


次に戦う6人パーティの代表で、剣と盾を持った人が岬の守護者に触れると青いモヤが勢いづいた。

それを合図に剣と盾の人が仲間の元へと下り構えた。

勢いづいた青いモヤは周囲に飛び散り、それぞれしのぶさんが口にした形になって冒険者と対峙する。

どうやら浜辺や海のモンスターになるみたいなんだけど、どれも姿がハッキリとしていない。

魚に至っては先端が尖っていることがわかるんだけど、空中に浮いているし。

それに、ぼんやりながらも奥が透けて見えるので実体はなく、物理攻撃に対する耐性は全員持ってると思う。


「行くぞー!」


剣と盾の人が突っ込み、弓の人がそれを援護。

源さんと同じような大きなハンマーを持って腰には小さなハンマーをいくつも吊り下げている人と、手の甲に鉄板がついたグローブを付けた人が剣と盾の人の後を追う。

まっすぐ進む前衛を避けるように杖の人が魔法を唱え始め、ハープを持った人が歌いだす。


ハープの人から波紋が広がると、それを受けたパーティメンバーの体が膜のようなものに包まれて体のキレが増した。

強化魔法のようなものらしい。


剣と盾の人は魚に盾を向けながら蟹に斬りかかる。

ハンマーの人は亀を、格闘家のような人は虫に向かい、貝には矢が射られ、イソギンチャクにはスパークランスが向かう。

ハープの人は戦えないのか剣と盾の人が2体を相手にしているけど、それ以外は1人1体だ。

分散して戦ったほうがいいのかな。


だけど、魔法以外のダメージはほとんどなかった。

ダメージがないわけじゃない。

でも、盾で殴ったり剣で切っても(こた)えた様子はなく、少しだけ受けたダメージを気にすることなく反撃してくる。

亀はハンマーで殴られたせいで距離が開いたため反撃していないけど、同じくダメージは少ない。

虫は格闘家の人の周囲を飛び回って攻撃を避け続けているし、貝は放たれた矢を器用に挟んだことでダメージを受けていなかった。


当たり前だけど海岸で戦ったモンスターと同じ形だけどより強い。

剣と盾の人も海岸の適正レベルより上のはずなのにどんどんHPが減っていく。

格闘家の人も同じだ。


ハンマーの人だけ弾きとばすことで距離を稼いでいるからかそこまでダメージはない。

だけど、亀は複数の属性を使えるみたいで苦戦していた。

今の姿からは甲羅の色が見えないからどうなるのかと思っていたけど、倒されたモンスターの怨念だとしたら全部の色が混ざっていてもおかしくない。

その結果複数の属性を使えるようになっているわけだ。


貝のモンスターは矢を挟んでダメージを無くすことが条件反射になっているみたいで、釘付けにできている。

イソギンチャクは魔法を受けてどんどんHPが減っているので、時間さえかければ倒せそうだ。

そうすれば他の人の援護ができるはずだ。


それに、ハープの人が複数の歌を奏でて強化が終わったのか、楽器をかきならすことで衝撃波を生み出して攻撃に参加したので、虫のモンスターが上手く飛べず格闘家の攻撃を喰らいだした。

奏でた歌の中には継続的に回復するものもあったみたいで、前衛のHPは徐々に回復している。

ハープの人は回復職も兼ねてたんだ。


このまま堅実に戦えばいけると思ったんだけど、さすがにエリアボス。

その考えは甘かった。

イソギンチャクと魚がすごい勢いで水溜りに飛び込んだかと思うと、別の水溜りから魚が飛び出し、イソギンチャクの触手が伸びてきた。


魚はハンマーの人に突き刺さった後、ふわりと後ろに下がってまた水溜りに消える。

イソギンチャクの触手は、水溜りから離れていた魔法使いの足に巻きつき、水中に引きずり込もうとする。


「させるか!」


剣と盾の人が蟹を盾で吹っ飛ばして振り返り、魔法使いの足に絡みついた触手に剣を叩きつけた。

一瞬千切れた触手は、即座に繋がり再度引っ張る。

繋がるのを邪魔するように矢も飛んできたんだけど、刺さったままでも繋がってしまう。

それにも負けず剣を振っても有効打にはならなかった。


だけど、引きずられながらも魔法を使うことで触手を吹っ飛ばし、なんとか逃れることに成功した魔法使い。

そのまま剣と盾の人に守られながら魔法を使うことになった。


触手や魚の攻撃に晒されたせいで徐々に減るHP。

ハープの人がポーションを使って回復させるんだけど、その間にハンマーの人や格闘家の人がダメージを受ける。


そして、徐々に回復が間に合わなくなり、最初に格闘家の人が倒れた。

次に格闘家の人を回復するために駆け付けたハープの人が倒れ、ハンマーの人、弓の人の順で倒されてしまった。


後に残された剣と盾の人と魔法使いには、水の入った亀と蟹と貝の攻撃も放たれるようになり、もはや反撃する隙すらなかった。

亀は自ら顔だけ出して魔法を使い、蟹はハンマーのようなハサミで岩を殴って飛ばし、貝は鉄砲水を撃ってくる。


剣と盾で必死に防ぎ、後ろからポーションを叩きつけられて回復していたけど、ついに剣と盾の人が倒れる。

そして迫る猛攻をどうすることもできずに魔法使いも倒れ、全員が光になって消えた。


それで戦闘が終わったと判定されたのか、バトルエリアが解除され、元の場所に人魂が浮かび上がる。

さっきまで戦っていたモンスターはバトルエリアの解除と共に一瞬で消えた。


「やはりダメだったか……」

「どれから攻撃してもある程度ダメージを与えると水に入るからなぁ……」

「物理の効きが悪いのも大きいぞ」

「一層の事無理やり羽交い締めにでもするか?貝や蟹なら上手くやればできるんじゃないか?」


前で見ていた人たちが対策を話し合っている。

どうやらイソギンチャクから狙う必要はないらしい。

どれを攻撃してもある程度ダメージを与えると水に入るのか……。

水を凍らせるとか熱して入れなくできればいいんだけど、それはできる気がしない。

そうなると水中戦になるのかな。

ハピネス達なら呼吸を気にせず戦えるだろうけど、見えないと操作できないし、同期操作(シンクロアクション)を使える場面じゃない。

このままだと僕たちも同じ結果になりそうだ。


しのぶさんとセインにも聞いてみたけど、いい案は浮かばなかった。

クリアしたのが魔法使いパーティだから、アザレアがポイントだと思うんだけど……。

ストームで範囲攻撃かなぁ。


そんなことを考えているうちに僕達の番になった。

それまでの人達は誰もクリアできず死に戻った。

全パーティ前衛と後衛をバランスよく組んでいて、時には魔法使いがいないパーティもあった。

そのパーティはダメージをほとんど与えることなく負けたんだけどね。


僕達がドーム状の空間に進むと後ろから3人ということに驚いた声が聞こえてきたけど、僕達の戦いを見たらもっと驚かれそうだ。

でも、今は目の前の戦いに集中しよう。

後のことは起きてから考える!


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