精霊魔法使いとの違い
「精霊魔法使いですか?名前しか知らないですね!」
「名前を知っているんですね。僕は初耳でした」
列が進むのを待っている間にしのぶさんに聞いてみたんだけど、名前は知っているらしい。
理由を聞くと、キャラクタークリエイト時に表示されていたからだそうだ。
僕はしっかり見てないから全く馴染みがない。
セインも職業選択の時に☆3の精霊魔法使いについて調べたわけではないみたいだけど、職業クエストを出してくる師匠から教えてもらったそうだ。
精霊使いとの比較で度々出てくるらしい。
「それで、どうして精霊魔法使いの話が出たんですか?」
「さっきの花火みたいな魔法を使った時に威力が上がったんです。それがセインの属性付与に似てたから聞いたんです」
「なるほど!それで違いの話になったんですね!あ、列が進みますね」
「続きは入ってからにしよう!」
ようやく僕たちの番になったので岬に空いた穴に入る。
結構進みが遅かったんだけど、それは中の足場が悪いかららしい。
後から入ったパーティが足を滑らせたとかで、前を行くパーティにぶつかったみたいで、それがどんどん伝わって今は少し間隔を開けることになっている。
木工スキルを持っている人が、わざわざ立て看板を設置するぐらいだからよっぽどなんだと思う。
「うわー!薄っすらと輝いてる!」
「冷んやりしてます。それに足元が滑りやすいですね」
「これがぶつかった原因か……」
「みたいだねー。……うわっと!」
「うっ!……セイン。気をつけてね」
「ごめんねー。役得ってことで許して!」
「え?あー……うん……」
穴の中は薄っすらと青く光る岩でできた洞窟で、そこまで急ではないけど緩やかではない坂になっていて、洞窟の中の空気は冷やされているみたいで涼しい。
岩に触れると冷たくて気持ちいいんだけど、少ししっとりしているし、所々濡れていたりヌメヌメしている。
そのせいか、同じ岩でできている床は滑りやすくて、生えていたコケに足を取られたセインがバランスを崩して僕の腕に抱きついてきた。
そのせいで服越しに胸が当たったんだけど、結構分厚い生地越しなのに柔らかさを感じた。
これは事故だから警告とか来ないよね?
少し様子をみていたけど、特にメッセージは来なかったし、ウィンドウも表示されなかったから大丈夫なんだと思う。
僕から故意に抱きついたら警告受けるはずだ。
試すつもりはないけど。
「モンスターは出て来ないんだねー」
「そうだね。北の鉄鉱山もエリア開放でできたトンネルにはモンスターが出なかったし、そういうものだと思うよ」
「ヌシ釣りの森は新しく道が開いたりしていないので比較できません」
「へー、そうなんだ。じゃあさっきの続きを話すね」
モンスターが出ないなら入る前に話していた精霊使いと精霊魔法使いの違いについて聞いても問題はない。
とはいっても絶対に出て来ないという保証はないから警戒はしているし、足元も悪いから慎重に進む。
「簡単にまとめると精霊が使う魔法を使えるのが精霊魔法使いで、精霊そのものを使役できるのが精霊使いだよ」
「精霊使いは精霊を使役できるので精霊が使う魔法は問題なく使えますよね?」
「そうなんですけど、精霊は1人や1つに対して魔法を使うのに対して、精霊魔法使いは複数に対して魔法を使うことができるんです」
「なるほど。だから解放した魔法使いパーティは4人が一斉に強化されたんだ」
セインだとひーちゃんを武器に宿らせる必要があるけど、それは複数に使えない。
ひーちゃんがたくさんいれば別だけど、同じスキルは取れないからそんなことはできない。
ひーちゃん分裂できれば別かもしれないけど。
「そうだよ。でも、精霊魔法使いは自分に精霊を宿らせる必要があるから違う属性を同時に使えないんだ」
「火の属性付与をした後風の属性付与をするなら精霊を変えないとダメなのか」
「うん。でも私なら同時に色々な属性が使えるよ!」
同時に複数の属性を操れるけど、属性付与は1つにしかできない精霊使いと、複数を対象に属性付与できるけど同時に1つしか属性を操れない精霊魔法使いか。
こうしてみると精霊魔法使いは完全にパーティ向けだね。
仮にショットが使えるとしても同じ属性でしか攻撃できないし、それなら複数の属性魔法が使える魔法使いを仲間にすればいい。
強みは精霊にしかできない魔法だろうし。
その点セインは最初こそソロで戦う方法がわかってかったけど、今はソロでもある程度戦えるようになっている。
ショットで四方八方から撃ち抜いたり、左右からのラッシュは見ていてモンスターが可哀想に思えるぐらいだった。
直接動かす必要がない分、僕より強いんじゃないかな。
ソロ同士で戦ったら負けそうな気がする。
数でも負けてるから、精霊がハピネス達を抑えている間に僕をラッシュでボコボコにすればいいからね。
言ったら試しにバトルすることになりそうだから言わないけど。
「パーティ向けの精霊魔法使いと、ソロでも戦える精霊使いという感じですね!」
「そうです!師匠もそう言ってました!」
しのぶさんも同じことを考えたようだ。
セインも師匠から同じことを聞いていたらしいので、ピンとこなかったらこれを説明してくれたんだろうね。
「後はですね……精霊を使役する場所によって影響を受けるのが精霊なのか本人なのかという違いもあります!」
「それはどういうことですか?」
「えっと……見せたほうが早いです!精霊召喚ひーちゃん!精霊召喚みーちゃん!」
セインがひーちゃんみーちゃん召喚する。
ひーちゃんはいつもより赤い輝きが頼りなく、球体も少し小さくなっている。
逆にみーちゃんはいつもより青い輝きが強く、球体も大きい。
周りがジメッとしているから水の精霊が強くなって、火の精霊が弱くなっているんだ。
「なるほど。これが精霊魔法使いの場合、精霊を宿している本人に影響するんですね」
「そうです!まぁ基本的にその場に合わせた精霊を使うはずなので弱体化を選ぶことはないと思うんですけど、覚えてる属性の関係上そうなることもあり得ます」
確認が終わったので、セインはひーちゃんとみーちゃん付いてくるように指示を出した。
弱まっているけど属性付与は問題なくできるらしく、ショットやラッシュの威力低下と、各スキルの消費MPが増えるらしい。
これが、もっと水の気配が濃い場所や海の中だと召喚できなくなることもあるそうだ。
海の中で火の精霊を出すのは場違いだからそうなっても仕方ない。
「他には精霊を使役するからこそできることがあります。体当たりやラッシュもそうですし、精霊に探索をお願いしたり周囲の警戒もしてもらえます!」
「精霊自身が戦える強みですね」
「強くなればかなり遠くまで精霊を飛ばすこともできるようになるので、私の代わりに素材集めをしてもらったり、料理を手伝ってもらうこともできるんです!師匠は火の精霊の上で料理を作ってました!」
「それは……見たら反応に困りそうな光景ですね!」
「そうなんですよ!しかも、普通に美味しいんです!」
セインとしのぶさんの話が盛り上がり始めた。
周囲を警戒しつつも耳を傾けていると、精霊使いはとても自由にできる職業だということがわかる。
僕も自動人形を作れるようになれば素材集め頼めるだろうし、料理はゼロスリーさんにお願いできる。
僕セインが組めば引きこもりプレイなんてこともできるかもしれない。
絶対にやらないけどね。
「あ。列が見えてきましたよ」
途中セイン僕が何回か転んで少しダメージを受けたけど、モンスターと遭遇することなく先に入った人達に追いついた。
この列は先に空いている穴に続いていて、その穴の目の前にバトルエリアできていた。
この道を引き返すパーティがいなかったから、まだ1パーティ目が戦っているのかな。
あるいは別の道に進んだのかもしれないけど。
なんにせよしばらく待てば岬の守護者との戦いだ。