西エリア開放
崖の下から戻った後は、人魂のようなモンスターを相手に戦闘を続けた。
ダメージが少ないのでそこまで苦戦はしていないけど、色々な属性で攻撃されるので下手に属性付与ができないセインは、召喚している精霊への指示で忙しそうだ。
「ひーちゃんショット!みーちゃん体当たり!もくちゃん動きを止めて!ひかりんラッシュ!やみみんショット!」
もっとレベルを上げると声に出さなくても指示が出せるようになるみたいなんだけど、それが何レベルかは教えてもらえていないらしい。
師匠に指で示すことなく動物型精霊に体当たりや属性付与をするところをお手本として見せてもらったと言っていた。
一応パーティで戦う以上は出来るだけ口にした方がいいと伝えると納得してくれたので、レベルが上がって無言で指示が出せるようになっても必要なことは口頭で指示すると言ってくれた。
口で説明しただけで納得してくれたんだけど、念のためとしのぶさんに言われてアザレアの魔法を使って実演したことで更に納得してくれた。
「マスター系の職業はパーティを組むのにクセがあります。後ろからくる人形や精霊の数が多いので、パーティ人数以上の手数になります。前衛からするとタイミングが取りづらくて最初は混乱するんですよ」
僕とセインの戦い方は特殊だから、しのぶさんは慣れるまで探り探りで戦っていたらしい。
ミヤビちゃんはシロツキ達が自由に攻撃するのですぐに対応したみたいだけどね。
ミヤビちゃんは槍を使うので少し離れたところから攻撃できる。
なので、ハピネス達を視界に入れた状態で戦うようにしているらしく、それを聞いたしのぶさんはヒットアンドアウェイで距離を取りながら戦うようにしたことで対応したそうだ。
手数を減らして2人に合わせた方がいいか聞いてみたんだけど、2人とも純粋なアタッカーじゃないので今の方がいいと言われた。
ミヤビちゃんは盾を構えて様子を見ながら攻撃するし、シロツキに乗った時は迎撃されないように注意を引いた方がいいみたい。
しのぶさんは速さで圧倒するので相手の注意を引いたり、こっちの攻撃に合わせて攻撃する方が安全に戦えるんだって。
少なくともできることが増えて、手数が増えないうちは今のままでいいということだ。
なので、手数が増えたらその時に話し合うことに決めた。
具体的には人形が増えた時や自動人形が作成できるようになった時、セインの精霊が強力な魔法を使えるようになった時だ。
そんなやりとりをした後、休憩を挟んで次も人魂と戦うか更に奥の岬に上がるか話していると、その岬が爆発した。
爆発といっても炎が巻き上がるようなものではなくて、地面が砕けて周囲に撒き散らされるというものだ。
なので、僕たちを含めた浜辺にいた人に土が降り注いだ。
大きな岩は落ちてこなかったみたいなのでダメージはなく、頭や体に土が少し付いただけなんだけど、一体何が起きたんだろう。
土属性の魔法でこんなのがあるのかな。
そんなことを考えているとメッセージが届いたので確認した。
『本メッセージは日本サーバーのプレイヤーに対して送信されています。
プレイヤーによって日本サーバーの【西の岬らへん】にある【洞窟水族館(おばけ入り)】が解放されました。
岬から地下へと続く穴が開き、内部にある水性モンスターが出現する洞窟が解放されました。
洞窟水族館(おばけ入り)ではアイテムの採取のほか、エリアボスの【岬の守護者】との戦闘が可能です。
※【西の岬らへん】【洞窟水族館(おばけ入り)】は解放したプレイヤーが設定しました。
今後メルカトリア人の認識や、クエスト上の表記は設定された名称になります。』
西のエリアが解放されたんだけど、名前が気になる。
西の岬『らへん』と洞窟水族館『(おばけ入り)』のところだ。
岬にあるんだから『らへん』はいらないと思うんだけど、中にいる人からするとどこに開くかわからなかったからなのかな。
『おばけ入り』に関しては水辺だからということで無理やり納得したんだけど、考えると洞窟水族館も聞きなる。
洞窟の左右に水槽があって、そこに水性モンスターとおばけが漂っているのを想像したけど多分違うはずだ。
これなら襲われる心配が水槽を抜けてきそうなおばけだけになる。
洞窟の所々に水場があって、そこに水性モンスターが生息しているんだと思う。
その他に物理攻撃に耐性のあるおばけ系のモンスターが出てくるって感じかな。
水場という相手の得意フィールドで戦わないとダメな水性モンスターとおばけが同時に襲ってきたらどうなるんだろう。
どっちも魔法で吹き飛ばせそうな気がするけど……。
だからさっき魔法使いパーティが向かったのかな。
「私達も行きますか?」
しのぶさんに言われて岬を見ると、この辺で戦っていた人達が一斉に向かっていた。
もちろん全員ってわけじゃないけど、半分以上は向かってる。
今行けば岬の守護者と戦うのに並ぶ必要がないから気持ちはわかる。
「3人で行けるんでしょうか?」
「とりあえず行ってみて、無理そうなら後日ミヤビちゃんとうららさんと一緒にリベンジでいいと思うよ。早く行かないと並ぶことになるし!」
鉄の守護者ことアイアンゴーレムはミヤビちゃんと2人で倒したけど結構苦戦したから少し心配だ。
だけど、セインはやる気に満ちた目で僕としのぶさんを見てくる。
これは断れないね。
「セインの案で行きましょうか」
「ですね」
「やったー!ありがとう!」
喜ぶセインを連れて砂浜から出て岬を目指す。
崖の上なので意外と距離がある。
「岬にできた穴からだれかが出てきたようです」
「みたいですね。入ろうとした人達が道を空けてます」
岬の地下へと続く穴は見えないけど、そこに入ろうとしている人の列が見えたところで、その列が2つに割れた。
そして、その先にある穴から魔法使いパーティが出てきくるのが遠目でもわかった。
魔法使い達は杖を掲げながら出てくると、空に向けて4人がファイアボールを放ち、1人がキラキラとした回復魔法の光を散らし、残りの1人が何かをすると魔法の威力が上がってファイアボールが大きくなった。
そして響く歓声。
エリア解放パフォーマンスなのかな。
楽しそうでいいね。
歓声の後は並んでる人に色々聞かれているみたいで列が進まなかったんだけど、しのぶさんが話を聞くために先頭の方へ行ってくれたので、セインと2人で列に並んだ。
「魔法を同時に撃つと見応えがあるね」
「だね〜。もっと人数を集めてやれば花火みたいなイベントができるかもね〜」
「そうだね」
人数が増えればレイドスキルが使えるはずだから、さらに見応えが良くなるかもしれない。
そういえば途中で威力が上がったのが属性付与に似ていたけど精霊は見えなかった。
パーティに入ってないと見えないとかがあるのかな。
「セイン。さっきのパフォーマンスだけど、最後の方にファイアボールの威力が上がったよね?」
「うん。大きくなったね」
「あれってセインの属性付与と一緒?精霊はパーティメンバーにしか見えないとかあるの?」
「ううん。精霊は全員に見えるはずだよ。姿は薄くすることはできるけどね。こんな風に……ひーちゃん隠れて」
セインが言うとひーちゃんの色が薄くなって、向こう側が見えるようになった。
消える瞬間を見ていたのでわかるけど、戦闘中だと気づかなさそうだ。
これを使えば不意をつ突けると思う。
「それに、精霊使いが使う属性付与は精霊1体につき1りだから、一度に4人強化できないよ」
「だったら属性付与以外の強化ってこと?魔法攻撃力上昇とか」
「属性付与だと思う。たぶんだけど、あの魔法使いパーティに精霊魔法使いがいたんだと思う」
「精霊魔法使い?それはセインの精霊使いとどう違うの?」
響きから考えるとセインの方が強そうだ。
精霊魔法使いは精霊が使う魔法が使えて、精霊使いは精霊そのものを使役できるイメージが湧いてきた。
「違いは結構あるんだけど……。あ。列が動き出したから、続きはしのぶさんと合流してからにしよ!」
「え?あ、うん。わかった」
セインに引っ張られて動き出した列についていく。
しのぶさんも気になっているかもしれないから、2人同時に説明した方がいいよね。




