岬の下
精霊召喚スキルが全てレベルアップした事で、セインの精霊全部に腕が生えた。
腕が生えたことでラッシュとショットができるようになっただけではなく、物も持てるようになっていることがわかった。
しのぶさんがどこまで指示できるのか気になってセインに聞いたけどわからなかったので、物は試しと近くに落ちていた貝殻を拾わせたことで判明した。
これなら精霊に武器を持たせることもできるかも知れないけど、手のひらサイズの精霊武器を持つためには、常に拳を大きくする必要がある。
試しにハピネスに持たせていた鉄の剣をセインに渡し、それをひーちゃんに持たせてみたんだけど違和感しかなかった。
剣の柄が赤い拳に握られた状態で浮いていて、本体の球体の殆どが柄拳に隠れている。
つまり、握られた拳しか見えない状態剣が浮いているんだけど、その拳も普通の色じゃないせいでホラーにしか見えなくなっている。
しかも、この状態で攻撃しても火属性が付与されているわけじゃないから、強力な一撃が放てるわけじゃない。
更に、魔力を使い切るかセインが送還すると、剣はその場に放置されてひーちゃんだけ消えたので、剣を返してもらってハピネスに持たせる。
どうやら手に持った物ごと召喚できるわけじゃないらしい。
これができたら僕の人形の館みたいにアイテム保管場所としてみ使えるのに。
「うーん。物を持たせて戦わせるより、普通にラッシュやショットをした方が強いね」
「ですね。腕を生かすとしたら高い所にある物を取ったり、トラップを動作させたりでしょうか?」
「あー。トラップは思いつきませんでした。2体召喚してロープを持たせれば縛ったりできるかも知れませんね〜」
物を持って戦うことはできなかったけど、それでも物を持てるということだけで色々できることが増える。
トラップに関しては簡単な物しか作れないけど、それでも相手を翻弄できるだろうからやってみる価値はあると思う。
そのためにはいろんな仕掛けを考えて、それに必要な物を買わないとダメだけど。
でも、とりあえずこれだけは渡しておこう。
「セイン。これをあげるよ」
「ん?あー!ロープだ!」
ミヤビちゃんと北の鉄鉱山に向かう時に買って使わなかったロープを渡した。
使う場面はあったんだけど繰り糸で対応できたからね。
セインは受け取ったロープをひーちゃんとみーちゃんに持たせると、ピンと張ったり浜辺に突き出た岩を縛った。
使うタイミングが難しいけどできなくはなさそうだ。
試しに僕の足に引っ掛けてもらったんだけど、1体だと力が弱かったんだけど、2体ずつで引っ張られるとバランスを崩した。
これなら片方を輪っかにして、モンスターがその上に立った瞬間に上に引っ張れば捕えることができるかもしれない。
「すごいですね。使い方を工夫すれば色々な仕掛けができるかもしれません」
「でも、普通に攻撃した方が良くないですか?」
「相手を待ち伏せる時とかには役立ちますよ。できることが増えるのはいいことです」
「確かにそうですね!わかりました!罠とか色々調べてみます!」
しのぶさんの言葉に納得したセインは、色々な罠を調べてできそうなものを精霊を使ってやってみることにしたらしい。
一応僕としのぶさんも色々提案しようとしたんだけど、今の精霊だと複雑なことはできそうにないので、槍を持って空から落とすとか、柔らかい物や匂いのきつい物を頭に落として注意を逸らすぐらいしか出なかった。
どっちもしのぶさんの案なんだけど、出どころはお化け屋敷らしい。
僕には出せないわけだ……。
「せっかく爺からロープを貰ったけど、ここのモンスターには使えないね〜」
セインがロープを丸めながら言った。
試しに人魂にロープ引っ掛けてみたんだけど、表面が滑ったように見えるほとんど簡単に抜けられた。
試しに属性付与でロープに属性を付けてみると引っ掛けられた。
まぁ、縛ったところで攻撃するのが面倒なので、これなら最初から属性付きの攻撃で倒しにかかった方が楽だ。
これでワイルドベアの腕を封じれたりすればとても便利なんだけど、ワイルドベアは僕より力がある上に重いだろうから上手くいかないと思う。
精霊のレベルが上がればできるようになるのかな。
「ん?あの人達みんな同じ格好をしているよ!何かの集まりかな?」
「あれは……全員魔法使いに見えますね」
続けて人魂を倒していると、街の方から真っ黒なローブに身を包み、身の丈を超える長い杖を持った6人組がやってきた。
しのぶさんの言う通り魔法使いだけのパーティに見えるけど、魔法使いで固める意味なんてあるのかな。
「パーティスキルの為みたいだけど……どういう効果なんだろう」
「忍者は機動力と隠密性の向上ですね」
「へー。精霊使いは数が少ないからまだどんなスキルかわかってないんだよね〜」
パーティスキルというと、同じ職業の人が1パーティに4人以上いる場合発動する尽きるだったっけ。
僕には関係がないから忘れていた。
職業の特性に合ったステータスがアップする効果らしいから、魔法攻撃力や詠唱速度が上がってるのかな。
そうまでして戦いたい相手がわからないけど、もしかしたらエリアボスと戦うのかもしれない。
しばらく魔法使いのみのパーティらしき集団は、目の前に現れる人魂を魔法で簡単に倒しながら進んでいく。
一発一発の威力や大きさだけじゃなく、発動までの詠唱速度が短くなっていた。
これには流石の人魂達もたまらなかったのか。四方八方にちっていった。
その後は何事もなかったかのように奥へと進んで行った。
魔法使い達が向かった先には岬があるんだけど、上の道を進まず崖下を目指しているようだ。
これは引き潮の時に洞窟が現れるのかもしれないという予想が当たったのかな。
魔法使いっぽい6人組が崖の下に着くと、そのまま飲み込まれるように消えて行った。
崖にのところに洞窟があるのか、そこ向こうに道があるのかはわからないけど、迷わずに進んだから何かがあるということはわかってるんだと思う。
一度エリアボスと戦って負けたから対策を練ってきたのかな。
気になったセインが行こうとしたんだけど、崖の方は水が満ちていた。
濡れることを覚悟すれば進めるので海に入り崖沿いに進んだんだけど、どんどん水位が上がってきたので断念した。
この周囲しか水位は上がってないから、この先に何かがあるのは確定だと思う。
エリアボスか特殊なトラップかな?
水が増えたことで流れが生まれて進みづらくなったし、無理やり進んだ先がエリアボスとのバトルで入れなかったら流されてしまいそうだなので戻ってセインに話すことにした。
「そっかー。なら仕方ないね」
「私が地走りで崖を走ってもいいんですけど、結局は入れなかった一緒なので諦めましょう」
「そうですね。さっきの魔法使いパーティがエリアボスを倒してくれたら入りやすくなるはずなのでそれを待ちましょうか」
「そうですね」
僕としのぶさんは納得したんだけど、セインはまだ気になっているみたいで、崖の方をチラチラと伺っている。
「もしさっきの人達が無理だったら私達が挑戦できるのかな?」
「あの水が下がれば探索はできるかも知れないけど……」
魔法使いパーティが通っていったところはすでに水没していた。
水がなくなってもどこに消えたのかわからないので、消えた場所を探すことから始まる。
仮にエリアボスだったとしても、3人で倒せるかわからないから、できればミヤビちゃん達がいるときがいい。
「セインはどうして行きたいの?」
「え?だってエリアボスかも知れないんでしょ?最初に倒せばスキルが確実に貰えるじゃん」
「初回討伐ボーナスですね」
「たぶんそれです!」
なるほど。
確かにあの先にエリアボスがいたとしたら、初回討伐ボーナスが貰えるチャンスだ。
水位が下がったら行ってみてもいいかも知れないけど、お化けじゃないことを祈っておこう。




