数の力
行きとは違い南から森に入っても、大きなステップボアや成長しすぎた雑草魂と遭遇した。
この2体はただ大きくなっただけなので、しっかりと見ていれば攻撃は避けられる。
いきなり足元から雑草で絡め取られるのは無理だけど……。
そんな大きく成長したモンスターの森を抜けると、次はワイルドベアの出てくる背の高い木の森に入る。
シュートスネークやワイルドベアもいいけど、できれば1度くらいスイングボアと戦いたいと話しながら進んでいるんだけど、一向にモンスターに出会わない。
しのぶさんの警戒はそこまで広範囲じゃないので、気配をつかめなければモンスターのいる場所に迎えない。
シロツキ達に飛んでもらっても木の上からだとあまり効果がないし、低空を飛ばすと万が一見つかった時が怖い。
なので、地道に探すしかない。
「あ。リスです」
街に向けて歩いていると、ミヤビちゃんが肩に乗せれるサイズの茶色いリスを見つけた。
そのリスは前足をあげてこっちを見ていた。
モンスターかと思ったんだけど、しのぶさんが反応していないので違うはずだ。
そういえばこういった小動物はどういう扱いになるんだろう。
街中に犬や猫、小鳥なんかもいたけど深く考えてなかった。
さすがに人以外の全ての生き物がモンスターってわけじゃないと思うけど。
「うららさん。ああいった小動物ってどういう扱いなんですか?」
「こちらを襲ってこない生き物はモンスターではないので経験値になりません。ですが、倒すと素材を得ることができます」
リスに向かって千切ったパンを投げるミヤビちゃんを見ながらうららさんに聞いてみた。
リスは投げられたパンのカケラを手に取ると、即座に食べていたし、それにつられたのかどんどん増えていく。
ミヤビちゃんの手では追いつかなくなったみたいで、しのぶさんもパンをちぎって投げるのに参加した。
パンは勢いをつけずに投げているので、変なところに飛んではいなかった。
「襲ってこない生き物ということは、牛や馬なんかもそうなるんですか?」
「はい。牛や馬倒せば牛肉や皮が手に入ります。ですが、牛なら牛乳を得れるので倒すことはあまりしないと思います。厳密には牛に似た別の生き物ですけどね」
「わかりました。ちなみに小動物を操る職業はあるんですか?」
「はい。調教師というらしいです。モンスターはテイムできませんが、パーティ枠を使わずに複数の動物を操れるそうです」
「なるほど」
ミヤビちゃんにとってのシロツキ達と同じだ。
テイマーやサモナーは自分以外の5枠が最大使役数だけど、枠に囚われないということはそれより多く使役できるということだ。
大量の犬や猫に襲われるのかな。
牛の突進を受け続けることもあるかもしれない。
数の力は凄そうだ。
その点は人形使いも似てるんだけど、1人で何体も操るのは難しいし、両手で10体が最大のはず。
全部が自動人形だったら同じようなことができるんだろけど、まだまだ先の話になる。
「あ!またリスがいます!」
「ミヤビちゃん。あれはモンスターですよ」
「そうなんですか。確かにここから見ても大きいですね」
調教師などの使役系職業についてうららさん達と話していたら、ミヤビちゃんがまたリスを見つけた。
そ別に駆け出そうとしたわけじゃないけど、しのぶさんが遮るように前に出て止めた。
そのリスは結構遠くにいたんだけど、さっき近くで見たリスと同じぐらいの大きさに見える。
つまり、体が大きいということだ。
小動物と言えないぐらいには。
「遠くて鑑定できません。どうしますか?」
「戦ってみますか?スイングボアよりかは戦いやすそうですし」
「やってみましょう。素材も気になります」
「私もいいですよ!素早そうですし、ブラウンホーンラビットと戦う時の経験になりそうです」
「私もいいよー!」
「がんばります!」
相談の結果戦うことになったけど、ミヤビちゃんはさっき餌をあげたリスを大きくしたモンスターと戦うために、いつもより気合を入れている。
念のためにやめておくか聞いたんだけど、モンスターは別だから大丈夫だと言われた。
確かに遠くから見ても顔つきは可愛くない。
むしろ少し怖いくらいなので、さっきのリスとは別物だ。
「鑑定しました。投擲リスです」
「投擲ということは何かを投げてくるんですね」
「そうだと思います」
「クルミでしょうか?」
「他の木の実かもしれないね」
盾を構えたミヤビちゃんの後ろでうららさんを交えて話す。
しのぶさんは木の上に登っていつでも飛び出せるように警戒していて、セインは精霊を召喚中だ。
精霊のレベル上げのためにできるだけ数を出すように戦い方を変えたらしい。
「動きます!」
ジッとこっちを見ていた投擲リスが急に動き出した。
丸めていた尻尾を自分の前に振り、そこに手を突っ込むとクルミのような物を出してきた。
そして、それを両手で勢いよく投げてきた。
「ヂュッ!」
ミヤビちゃんの盾に当たったのでダメージはほとんど無かったんだけど、それを見た投擲リスが舌打ちのように鳴いた。
でも、投げた結果に怒るということはそこに集中しているわけなので、気配を消して近づいたしのぶさんには気づいていなかった。
「っ!」
忍刀の先を下に向けながら木から飛びりるしのぶさん。
気づかれていない状態での真上からの一撃は投擲リスの背中に直撃し、クリティカルエフェクトを撒き散らせた。
それでもワイルドベアが生息しているところのモンスターなので、HPは3割ほどしか減っていなかった。
体が大きいだけはある。
だけど、クリティカルを受けて大きく怯んだ隙にミヤビちゃんとシロツキ達が向かい、それに合わせてハピネス達も向かわせたので体勢を整えられる前にできるだけ削った。
これでHPが残り3割まで減った。
「ヂュヂュ!」
一旦距離をとった投擲リスは、尻尾から赤と茶色が混ざった石を取り出し、跳躍した後地面に叩きつけた。
すると砕け散った石から甲高い音が鳴り響いた。
「気をつけてください!何かが複数近づいてきます!」
しのぶさんとミヤビちゃん達で投擲リスにとどめを刺したんだけど、どうやら手遅れらしい。
さっきの石で仲間を呼んだみたいだ。
「ヂュ!」
「ヂュヂュ!」
「「「「「「「「ヂュン!」」」」」」」」
全部で10匹の投擲リスが現れた。
しかも、全員すでに木の実手に持っているので、いつでも投げることができる。
幸い後ろからは来ていなかったので、セインとうららさんを僕の後ろに移動させる。
「拒絶の壁」
アザレアでMP200の壁を作った。
僕も壁の後ろにいるけど、糸は壁を迂回しているから操作に問題はない。
ミヤビちゃんも僕達を気にせず戦えているし。
木の実の雨を壁やラナンキュラスの盾で受けながら、ハピネスとアザレアで投擲リスを攻撃していく。
騎士人形も近くにいる投擲リスを狙って動いていて、武器にはセインが属性を付与してくれているのである程度のダメージを与えれている。
ただ、騎士人形は繰り糸で強化されていないので鎧に傷が付き、ところどころ凹んでいた。
時間があるときに源さんに見てもらったほうがいいかもしれない。
さすがに人形作成で鎧を修理するのは無理なはずだし。
直らなければ別の鎧を作って貰えばいいからね。
壁の範囲に気づいた投擲リスが、壁を超えてから投げてくるなど色々あったけど、なんとか倒すことができた。
なんだかんだで数で攻めるモンスターだからか、一発の威力が低かったことが救いだ。
だけど、いくら威力が低いとはいえ6匹の投擲リスが投げた木の実を同時に食らうと死にかけた。
しかも1個はセインにクリティカルヒットしていたので、全部直撃していたら確実に死んでる。
セインもクリティカルヒットで死にかけたけど……。
何にせよ勝てたから良かった。
それに、数で押される怖さもわかったから、とてもいい勉強になった。
だけど、この数は遠慮したい。
多くても6匹でいい。




