蛇は意外と厄介
うららさんの鑑定の範囲まで近づけなかったので、蛇の名前はわからない。
名前からわかる特性があるかもしれないけど、無いものは仕方がないのでそのまま戦うことにした。
とは言っても多少気をつけることを話し合ったんだけど、毒があるかもしれないから噛まれないこと、締め付けられないように深入りしないこと、丸呑みにされないように気をつけることぐらいしか思いつかなかった。
戦い方はしのぶさんが蛇の注意を引いている間に、ミヤビちゃんが抑えにかかり、僕は騎士人形が前に出ない位置からハピネスとアザレアとラナンキュラスで攻撃して、誰かが傷つけばクローバーを向かわせる。
堅守の付与された鉄の腕も出しておいて、いざという時は身を守れるようにする。
うららさんは最初は鑑定した後蛇を縛ってみて、いけそうならそのまま拘束。
ダメだったらしのぶさんの足場作り。
セインは状況を見て属性付与を使うといういつも通りの内容に決まった。
何かをしようにも何も思いついてないから仕方ない。
「行きましょう」
「はい」
いつもと違う点を上げるとすれば、しのぶさんの後ろにミヤビちゃんラナンキュラスに守られたうららさんがいるくらいだ。
少しでも早く鑑定するために、僕の前を進んでいる。
「シュー……シュー……」
蛇のモンスターがこっちを見て舌をチロチロと出しながら、威嚇するような音を出している。
だけど、足を止めることなく進む。
「鑑定しました。シュートスネークです」
向こうの攻撃範囲に入る前にうららさんの鑑定ができたみたいで、襲われないようにするためか背中を向けずにジリジリと下がりながら名前を言った。
シュートスネーク……何かを吐き出してくるんだろうか。
だとしたら距離があっても気をつける必要がある。
しのぶさんも名前から同じことを考えたのか、シュートスネークの正面に立たないように木を飛び移りながら横に移動した。
だけど、シュートスネークの顔はしのぶさんを捉えて離さない。
その隙にミヤビちゃんが近づいていくんだけど、シュートスネークは槍の届かない高さの木に巻きついているからか、チラッと見た後は無視している。
「シロツキちゃん!トバリちゃん!」
ずっと見られているせいで近づくタイミングを見失ったしのぶさんの援護をするためか、シロツキとトバリを向かわせるミヤビちゃん。
僕も援護のためにラナンキュラスを飛ばした。
「ミヤビちゃん!シロツキ達に合わせてラナンキュラスアザレアで攻撃するから!」
「わかりました!私も槍スキルの新技を使います!」
「わかった!」
ミヤビちゃんと話をしながらしのぶさんを見ると、こっちを見て頷いた。
しのぶさんも合わせて突撃してくれると思うんだけど、さすがのシュートスネークも、自分と同じ高さを飛ぶシロツキ達は気になるみたいで、しのぶさんとシロツキ達を見回している。
ラナンキュラスだけ見られていないんだけど、ハピネス達と同様に人形が狙われづらいからか、あるいは体温がないからかな。
確か、蛇は匂いと熱で獲物を捉えるんだよね。
ラナンキュラスも服に匂いがついてるけど、生き物とは違う匂いだから反応していないのかもしれない。
「いきます!ストライクランス!えぇぇぇい!!」
「きゅー!」
「キュキュ!」
「く、クイックスラッシュ!」
「あ、突き抜ける槍!ランス!」
ミヤビちゃんが槍を逆手に持ち、声を出しながら全力で投げた。
投げられた槍はシュートスネーク体を掠めて通り過ぎると消えた。
シロツキトバリはミヤビちゃんの攻撃に合わせてブレスを吐いたり爪で攻撃したんだけど、しのぶさんと僕はミヤビちゃんの声に驚いて一拍遅れてしまった。
しのぶさんは新たに取得した短剣スキルで、セインによって火属性が付与された忍刀を振り抜く。
高速で斬り付ける技なんだけど、刃が赤く光っているせいなのか、通したところに赤い線が残って見える。
だけど、しのぶさんの攻撃は掠っただけで、ラナンキュラスの攻撃アザレアのランスは体を折り曲げて避けられた。
「シャー!!」
ミヤビちゃんの攻撃を始めとした連続攻撃を受けたり避けたせいなのか、シュートスネークは地響きを響かせながら地面に降り立ち威嚇してきた。
そして、間髪入れずにミヤビちゃんに向かって飛びかかった。
「堅守!」
盾を構えながら堅守を使ってダメージを0に抑えたけど、今のミヤビちゃんは槍を持っていない。
と思ったら盾でシュートスネークを抑えながら右手でアイテムバッグを操作して槍を取り出した。
「やぁ!」
槍を持ったと同時に突き入れるミヤビちゃん。
だけど、シュートスネークは体を折り曲げて避ける。
「今行きます!はぁっ!」
木から飛び降りた勢いを利用して忍刀を突き立てようとするしのぶさん。
だけど、これも体をくねらせる事でスペースを空けられて避けられる。
「くっ!」
地面に突き刺さった忍刀を抜き、即座に切りつける事で少しダメージを与えることができたけど、威力のある攻撃は当たっていない。
地面に折りてきたので鉄の剣を持ったハピネスも向かわせたんだけど、ラナンキュラスの槍を含めてほとんど避けられる。
単発の攻撃が避けられるなら範囲攻撃だ。
シロツキ達のブレスは当たってたから、さすがにこれ避けられないと思う。
「ストーム!」
「シャー!シャー!」
「んー!アンカーシールド!」
さすがに避けられなず光の竜巻に呑まれるシュートスネーク。
怒りの声をあげながら抜け出そうともがいているところをミヤビちゃんのアンカーシールドで動きを止められた。
「少ししか持ちません!」
巨体ゆえの力なのか、徐々に押し返し始めるシュートスネーク。
それでも動きは鈍くなっているのでしのぶさんやシロツキ達が攻撃を加える。
ハピネスとラナンキュラスも同様に攻撃させ、どうにかHPを半分近くまで減らすことができた。
「シャ!」
「きゃっ!」
「ぐっ!」
「きゅー?!」
「キュ!」
このままの勢いで倒せるかと思ったんだけど、さすがにそうはいかないみたいで、長い体を利用した薙ぎ払いでハピネスとラナンキュラスを含めた全員が吹き飛ばされる。
ハピネスとラナンキュラスは糸のおかげか見た目からダメージは見えないし、即座に復帰できたけど残りのみんなはそうはいかない。
しのぶさんは地面を滑りつつも勢いを利用して立ち上がったけど、ミヤビちゃんとシロツキ達は遠くに倒れている。
HPはしのぶさんが1番減っているのでクローバーを投げて回復しようとしたけど、ポーションで回復するみたいで手で止められた。
「はっ!……ぐぁ!」
しのぶさんはポーションを飲みながらシュートスネークに飛びかかり、攻撃しようとしたんだけど尻尾で迎撃されて飛びかかる前の場所に戻された。
さすがにHP減り過ぎたのでクローバーを投げたけど、このままだとシュートスネークに近づけないまま終わりそうだ。
「繰り糸」
ダメ元で糸を放ったけどすぐに光になって消えたから、シュートスネークを操るのは無理だ。
牽制のためにボールを撃っても避けられるし、ストームを使っても飛び退かれてほとんど当たらない。
ハピネス達で四方を囲んでも小さいせいで上を通られて逃げられるから、僕だけだとうまく攻撃を当てられない。
「糸縛り・雁字搦め《がんじがらめ》!」
ハピネス達でミヤビちゃん達の復帰の時間を稼いでいると、うららさんがシュートスネークに対して糸を放った。
最初の猛攻のせいで縛るタイミングを逃してしのぶさん用の足場を作っていたけど、それもひと段落したみたいだ。
「シュ?!」
うららさんの放った糸は、うまくシュートスネークの体を縛ることに成功した。
鱗の出っ張りにうまく引っかかっただけでなく、腕や足がないせいでうまく外せないらしい。
だけど、そこは蛇。
首を大きく後ろに向けて、絡まった糸に噛み付いて引き千切った。
だけど、糸にかかりきりになっているので、ハピネスやラナンキュラスの攻撃が当たるようになった。
ミヤビちゃん達も復帰して攻撃に参加しようとしているし、しのぶさんももう少しで全快だ。
「爺!ハピネスちゃん達を下がらせて!」
セインに言われて、とっさにハピネス達を下がらせると、糸から脱したシュートスネークが体を大きく振り回した。
下がらせなかったらまた直撃だったし、同じくセインの声を聞いて止まったミヤビちゃんもまた吹っ飛ばされていたと思う。
一筋縄ではいかないね。
名前のシュートに関するところもまだ見てないし。




