深い深い森
花畑を後にした僕達は、また進路を東に設定して進んだ。
花畑から離れるほどビー系のモンスターとの遭遇率は減ってきてる。
ただ、他にモンスターが出てこないから戦闘回数も減ってるんだよね。
東に進むという点ではスケイルバードやクローククロウと戦った道に近いんだけど、マップを埋めるために少し北に進路を取っているせいなのかもしれない。
ヌシ釣りの森からほとんど真っ直ぐ東に進むとクローククロウに遭遇して、さらに先に進むと背の高い木が生えていてクローククロウの巣があったりする。
そこから先はまだ行ってないけど、花畑はクローククロウとスケイルバードに遭遇した場所を線で結んで、その中心点を北に伸ばした位置にある。
そこまで大きく離れているわけじゃないけど、モンスターの勢力で分布がガラッと変わってくるんだろうね。
そう思いながら進んでいたら、スケイルバードと遭遇した高さの木が生えてい流場所に出た。
マップで確認したけど前回の場所とは違っていた。
前の場所から比べると少し東寄りなので、円形に広がっているのかな?
だとしたらここからが別のエリアになるのかもしれないから気を引き締めて行ったほうがよさそうだ。
改めて見ると木の背は高くなっているけど、木々の間はさっきまでの森と比べると広くなっている。
まるで大きな生き物が通るための道のようだ。
もしかしたらワイルドベアの生息地に入ったのかもしれない。
ちょうどいい横幅だからね。
他にも同じように体の大きなモンスターがいるかもしれないけど。
「木が高くなったせいで更に暗くなった……」
「セインさん大丈夫ですか?」
「うん。まだ、明るいしひかりんもいるからね……」
背が高い木のせいで暗くなった森は、セインにとって怖さが増したみたいだ。
ミヤビちゃんに心配されたけどひかりんを手元に寄せることで落ち着いたみたいだ。
さすがにここを明るくする方法はないから、我慢してもらうしかないかな。
いや、明るくする方法はあるか。
「セイン。これを使って」
「んー?ランタン?」
「ないよりマシでしょ?」
「うん。ありがとう……」
アイテムバッグからランタンを取り出し、火を点けてから渡した。
暖かい光が辺りを照らしたんだけど、少し先は見えないからあまり改善してなさそうだ。
一応もう1つ案があるけど、そっちはどうなるかわからないんだよね。
やるだけやってみるけど。
「人形の館、アザレア来い。繰り糸。魔法少女の杖・光。マテリアル」
アザレアを取り出して糸を繋ぎ、光属性の魔石に変えてマテリアルを使った。
マテリアルは攻撃に役立たないけど、セットしている魔石の属性に関する現象を発生させる魔法だ。
雷属性の時は杖の先から放電されたけど、その状態で殴っても特に何も起きなかったんだよね。
でも、今は戦闘中じゃないし光属性なら周囲を明るく照らしてくれる気がする。
だから使ってみたんだけど……ランタンとあまり変わらなかった。
色が違うくらいで照らしている範囲はほとんど同じだ。
糸の数を増やせば明るくなるかもしれないけど、このために本数を増やすのはちょっと違うかな。
それでも、アザレアを先行させることで少し先が見えるようになったからよかった。
セインも先が照らされることで安心したみたいだし。
「何か来ます!」
「前に出ます!」
アザレアが照らしてる範囲より先で警戒していたしのぶさんが声をあげて戻ってきた。
それを見たミヤビちゃんが前に出て盾と槍を構える。
「ガァァ!」
しのぶさんが示した方向から来たのはワイルドベアだった。
ただし、今まで見た中では1番小柄だった。
それでも2mは余裕であるんだけどね。
「ワイルドベアです!」
「やっぱりエリアが変わってたんだね」
「みたいですね!火遁・玉!」
「グルゥ!」
走ってきたワイルドベアの顔に、しのぶさんの火の玉が直撃した。
そのせいで走っている方向がズレたワイルドベアは、僕達の横を通って木にぶつかって止まった。
「反撃を受ける前に倒しましょう!」
「わかりました!」
「繰り糸、ランス!」
しのぶさんとミヤビちゃんがワイルドベアに向かって駆け出す。
僕はアザレアにだけ糸を追加して2本にした。
今はクローバー以外を出しているんだけど、ハピネスは横から切らせて、ラナンキュラスは周囲を飛ばすことで牽制に使うつもりだ。
ラナンキュラスのランスは少し大きくなり、槍先が鋭くなっていた。
見た目で攻撃欲が上がっているように見えるけど、魔法の槍先が鋭くなっても意味はあるのかな?
当たった時に散るエフェクトは豪華になっていたから、威力は上がってそうだけど……。
「属性付与」
「キュー!」
「精霊召喚、ひーちゃん。属性付与!」
セインがワイルドベアに光属性を付与した瞬間、トバリが闇属性のブレスを放つ。
そして、続けて火属性の精霊をしのぶさんの忍刀に付与して攻撃力を上げた。
「糸縛り!」
うららさんは周囲に糸を張り巡らせて、しのぶさんの足場を増やしていく。
これを使えばしのぶさんが高速で動きながら切りつけることができるようになる。
一撃の威力よりも翻弄することに重きを置いた戦い方なんだけど、源さんのおかげ火力も上がった上にひーちゃんが付与されているので、以前に比べると格段に威力が上がっている。
「ふぅ……。やはりワイルドベアは強いですね」
「はい。一撃が痛いです」
「それに、瞬発力もあるので、油断すると抜かれてオキナさん達に攻撃が届くこともあります。もう少し効率よく戦えるといいんですけどね」
「もう少し抑え込む技を使ってみます。ですが、大きくなると厳しいかもしれません」
「難しいですね」
しのぶさんとミヤビちゃんが反省をしながら近づいてくる。
今回のワイルドベアは体がそこまで大きくなかったからか、HPがそこまで多くなかった。
それでも一撃受けるだけでしのぶさんは半分近くダメージを受けるし、ミヤビちゃんが押さえ込んでも力ずくで抜けられることがあった。
抜けた後のワイルドベアは僕達後衛を狙ってきたんだけど、ギリギリで間に合ったラナンキュラスのおかげで、ワイルドベアの爪が僕に掠るだけで済んだ。
それでも6割減ったから、直撃していたら一撃だったかもしれない。
全員が回復を終えた後、もう少し探索するとまたワイルドベアに見つかった。
次は僕が1回倒されたけど、しのぶさんが攻撃を受ける回数が減ってきていた。
動きを観察した結果少し慣れたらしい。
その次に向かってきたワイルドベアでは、1度も後ろに通すことなくワイルドベアを牽制していた。
しのぶさんの指示でラナンキュラスを動かしたり、糸を1本にしたアザレアで魔法を放ったり、ハピネスの火炎放射を顔面に浴びせるなど色々したけどね。
そして、3頭のワイルドベアに襲われたことで、わかったことがあった。
ワイルドベアはセインが持っているランタンの光を目印に襲いかかってきていた。
3頭目のワイルドベアは、2頭目を倒してすぐにやってきたんだけど、その時のターゲットがワイルドベアが迫ってくる方向に近いしのぶさんやミヤビちゃんではなく、1番遠いセインだ。
迫り来るワイルドベアに驚いたセインが手に持っていたランタンを放り投げると、ワイルドベアがランタンに向けて突っ込んで行ったんだ。
その結果ランタンは壊れたんだけど、それ以降はいきなり襲われることはなかった。
4頭目は匂いを嗅いでこっちに気づいたんだけど、視認するまで襲ってこなかったからたぶん合ってると思う。
セインには気の毒だけど、ミヤビちゃんのランタンやラナンキュラスのマテリアルを使うことは禁止されて進むことになった。
そのせいでセインは常に誰かの後ろに張り付くことになったんだけど、その役目は後衛の僕かうららさんが中心だ。
別に服を引っ張られて動けなくなるわけじゃないからいいんだけどね。




