封殺!ハニーベア!
しのぶさんが見つけたハニーベアは以前見つけた子供が抱えるテディベアサイズよりは大きく、子供くらいあるらしい。
見た目もワイルドベア感は殆どなく、強いて言えば口から覗く葉が鋭く尖っているのと目つきが鋭いぐらいとのことだ。
容姿を聞いたセインが戦ってみたいと言ったので、今は作戦会議をしている。
近くにワイルドベアの気配はなかったみたいなので、いきなり強いモンスターと戦うわけじゃないけど、ハニーベア単体でも戦い方を決めてから挑みたい。
セインはハニーベアと戦ったことがないからね。
だから、ワイルドベアを呼ばせないように戦いたいんだけどいい案が浮かばない。
「ハニーベアを攻撃したら親が出てくるのはわかったけど、それって一回でも攻撃するとダメなの?」
「そこまではわからないんだ」
「そっか、なんとなくだけど体が大きいとそれだけ耐えてくれそうな気がするけど……」
セインにハニーベアとワイルドベアの関係について話したらいつ親を呼ぶのか聞かれたけど、攻撃をしたら呼ぶことがあるとしかわからない。
念のため掲示板も調べてみたけど誰も書き込んでいなかった。
セインの言ったように体が大きければ鳴くまでに攻撃できる回数が増えるかもしれないけど、試すのはちょっと……。
「鳴かないように攻撃したいなら顔を押さえ込んだりしたらどう?」
「押さえ込む……ミヤビちゃんできそう?」
このメンバーで押さえ込むといえばミヤビちゃんだ。
盾で顔を押さえつければいいと思ったんだけど、口が開いていたら声は出せるから無理かな。
「うーん。声を出させないようにするのは難しいと思います」
「だよね」
ミヤビちゃんも無理だと判断した。
他の方法だと僕が操って声を出さないように命令するかだけど、そうしたらミヤビちゃんとラナンキュラスの貫通攻撃をするしかなくなる。
それだと効率が悪い。
鳴く瞬間だけ操れたらいいんだけど、僕にそんな芸当はできそうにない。
鳴かれた後に糸がくっ付く未来が想像できた。
「うららさんの糸で口を縛ったりできないの?」
「どうでしょうか……。モンスターの口を縫うスキルはないですけど、首を狙って縛るのはできそうです」
僕の糸だと縛ってもダメージを与えづらくなることを伝えると、セインがうららさんの糸ならどうかと聞いてきた。
うららさんは首を縛ることはできるって言ってるんだけど、それって意図で首を締めるってことだよね。
あんまり見たい光景じゃないけど、確かにこれなら鳴かれることはなさそうだ。
「それでやってみます?」
「物は試しです。やってみましょう」
「私は賛成!」
「私もです!」
「ダメだったらシロツキちゃんとトバリちゃんのブレスでやっつけてもらいます!」
うららさんに続いて全員が賛成してくれたので、うららさんの糸で鳴けないようにして戦うことになった。
ちなみにしのぶさんがやるとしたら背後から近づいて首を搔き切る方法だったんだけど、これで声が出なくなるか微妙だったので候補から外れた。
でも、可能性はありそうだから、今度他のモンスターで試すことになった。
「こっちです」
しのぶさんの案内で進むと、ゆったりとした動いている黄色い塊がいた。
黄色いから後ろから見てもハニーベアだとわかる。
甘い香りもするし。
「黄色い……毛皮もふわふわじゃん……」
セインがハニーベアを見て少しテンションが上がってる。
でも、今見えてるのは手足とお尻なんだけど、ぬいぐるみっぽい顔を見たら攻撃できなくなるとかないよね。
「はにぃ」
ハニーベアは小さく鳴きながら周囲の匂いを嗅いでいる。
蜂の巣を探しているんだと思う。
それに、まだ子供だからだろうけど、結構大きい割りに高い声で鳴く。
「か、かわいい……」
周囲の匂いを嗅いでいるので、セインが横顔を見てしまった。
丸っこい顔だし、ワイルドベアのように口が大きく突き出ているわけではない。
あくまでテディベアを大きくして表情を整えただけなので、好きな人にとっては可愛いんだと思う。
僕はなんとも思わないけど。
「それじゃあやりますね」
うららさんの声に全員が頷く。
セインも一緒に頷いているから、可愛いくても攻撃するのは問題ないみたい。
「糸縛り・絡め」
うららさんがスキル名を小さく呟き、スキルに従ってしのぶさんが針のついた糸を投げる。
糸がハニーベアの首の横を通り過ぎた瞬間、うららさんが糸を引っ張る。
引っ張られたことで針が弧を描き、繋がった糸がハニーベアの首に巻きつく。
「はにぃ?!」
そして糸が3周したところで手元の糸を上にあげることで針を引っ掛けて外れなくした。
後はうららさんが引っ張るだけでハニーベアの首が締まる。
「は…にぃ……」
「ちょっと可哀想になってきた……」
「ですね……」
セインとミヤビちゃんが首を締めている原因の糸を外そうともがくハニーベア見て呟いた。
うららさんとしのぶさんは割り切ってるのかわからないけど、躊躇うことなく締めてるし、忍刀を抜いて、いつでも切れるようにスタンバイしてる。
僕はモンスターを倒す相手と認識しているから問題ない。
「いきます!」
「私も!」
「ひかりん!体当たり!」
しのぶさんとミヤビちゃんが飛び出してハニーベアに向かう。
セインは2人の後ろから光属性の精霊を勢いよく放った。
しのぶさんとミヤビちゃんは、うららさんの糸を切らないように攻撃する。
首を絞められたことで徐々にHP減らしていたハニーベアだけど、攻撃を受けたことで大幅に減る。
そこにセインの精霊も当たったんだけど、この攻撃はそこまで減らない。
「くっ!攻撃しづらい!」
苦しさからかがむしゃらに腕をふるハニーベアのせいで、しのぶさんは近付きづらいようだ。
ミヤビちゃんは少し距離を開けて槍で突いているので特に苦戦していない。
セインの精霊は命令回数を迎えたのか、一瞬大きく光ったかと思うと消えた。
僕も出しておいたハピネスとラナンキュラスで攻撃しようと思ったら、しのぶさんが勢いよく突っ込んで忍刀を突き刺した。
どうやらタイミングを計っていたようだ。
そのしのぶさんの攻撃でHPバーを砕け散らせたハニーベアは光になって消えたんだけど、最後まで鳴くことはなかった。
うららさんの糸のおかげだ。
これならハニーベアだけど倒すこともできるし、ワイルドベアを呼んでほしくなるまで封じることもできる。
ワイルドベアが来たらすぐに倒せる状態まで減らしておけば同時に相手をする必要はなくなる。
まぁ、ワイルドベアが2頭同時に来る可能性もあるけど。
「糸で首を絞めるのは有効でしたね」
「ですね。これならしのぶさんが喉を攻撃しても大丈夫なんじゃないでしょうか」
「そうかもしれませんけど、一回切っただけで使えなくなるんでしょうか?それだったら、今後魔法を使って来るモンスターが出てきても喉を狙えばいいだけになりますよね」
「確かにそうですね」
今回の場合ずっと縛っているから声を出せないだけであって、一度喉に攻撃をした程度ではすぐに治りそうな気がする。
できて魔法の詠唱を止めたり、別のモンスターへの指示を止めるぐらいじゃないかな。
一回攻撃しただけで魔法が使えなくなったら、そういうのが得意なモンスターとの戦いが楽になりすぎるし。
「ワイルドベアが来ないようにできるのならハニーベア楽に倒せますね」
「首を絞めているせいで動きも悪いです」
「これってほとんどのモンスターに有効なんじゃないですか?」
「そうですけど、動いているモンスターの首を狙うのは難しいです。今回はこちらに気づいてなかったので不意打ちで成功しましたが、これが戦闘中だとよくて別の場所を縛れるかですね」
しのぶさん達が感想を言い合いながら戻ってきた。
確かにモンスターを地面に縫い付けるだけで戦いやすくなるのに、首を絞めることでさらに動きが悪くなった。
だけど、うららさんの言う通り、ただ縫い付けるだけじゃなくて巻きつける必要があるから、途中で抵抗されたらすぐに抜け出されそうだ。
そもそも首に当てるのが難しいらしいけど。
「じゃあ行きましょう」
ハニーベアを初めて見たセインの感想を聞きながら、しのぶさんの先導でさらに東へ向かう。
全員ハニーベアよりハピネス達の方がいいそうだ。
喜べばいいのかな?




