女子会?
生地の確認作業を終えたうららさんが満足そうな顔で席に着くと、それ待っていたかのようにゼロスリーさんがやってきた。
もしかしてずっと見ていたのかもしれない。
「オキナ様お待たせー。今日はたくさんおるなー。初めまして食堂とキッチンを担当してるゼロスリーです。よろしくお願いします」
ゼロスリーさんの挨拶に全員が返答したので話を続ける。
「今日はゼロスリーさんの料理を食べるために来ました。食材はどうすればいいですか?」
「腕によりをかけて作るでー!食材はこれに乗せてくれたらええよ」
コック服の袖をまくりながらポーズを決めたゼロスリーさんは、報酬を渡す時に使うお盆を机の上に置いた。
ここに食材を出せば所有権が消えるから、それにゼロスリーさんが触れればいいだけだ。
「ミヤビちゃんとセイン。出してもいい量の食材を机の上に出してもらえる?そこから必要な量だけこれに乗せよう。あ、お肉は僕が出すよ」
「わかりました」
「りょうか〜い」
ミヤビちゃんが小麦粉とキャベツっぽいものやジャガイモっぽい物にネギっぽい物など様々な野菜を取り出し、最後に何かの乳が入った瓶を出す。
セインもミヤビちゃんと同じ野菜から違う野菜、それに加えて魚も出した。
魚はビチビチと跳ねるので、慌てて取り出した水の入ったバケツに入れていた。
バケツは蓋がないから液状のもの以外を入れた状態で収納できなかったらしい。
意外と不便だね。
「これだけあればある程度の文字は作れるけど、調味料がないな〜」
「あ、あの、あります」
並べられた物を見たゼロスリーさんが調味料について指摘すると、ミヤビちゃんが塩と胡椒を取り出した。
だけど、ゼロスリーさんは微妙そうな顔をしている。
足りないのかな?
「塩と胡椒か……調味料2つやと少ないな。果物やお酒もなしやとシンプルな料理しかできへん。んー。オキナ様、500ゴールド出してくれたら調味料はウチのやつを使ってもええけど、どうする?」
「500ゴールドですか。なら出します」
アイテムバッグを操作して500ゴールド取り出した。
これで美味しくなるなら全然問題ない。
僕が出すことに納得しない人がいるなら1人100ゴールドで割ればいい額だからね。
「オキナさん。私達も払いましょうか?」
「いえいえ。これくらいいいですよ。それよりも、食材の費用をどうするかですね」
「それ計算するならオキナさんの分も含めます。いいですね?」
「わかりました。お願いします」
うららさんには勝てなかった。
何というか、ほわっとした雰囲気の中に逆らえない何かがある。
怒らせたらダメというよりも悲しませたらダメって感じかな。
「この中だと魚は無しでええよ。他の食材でシチューとサラダとパンやな。他に注文はある?ある程度のものやったら出せるで。もちろんお金と相談やけど。どうしても材料費はかかるからな」
「あの、甘い物が食べたいです」
「私も!」
「デザート!」
「私も食べられるなら頼みたいですね」
ミヤビちゃんが甘い物が欲しいと言ったら、僕以外の全員が賛成した。
どっちでもいいんだけど、これに逆らう勇気はない。
別に食べ物が増えるだけだし、あれば食べるからね。
「それじゃあ何か甘い物も作ってもらえますか?」
「お任せでええんかー。なら、追加で1000ゴールドもろてもええ?」
「はい。どうぞ」
追加で1000ゴールド出した。
人数で割ると1人200ゴールドだけど、これだとケーキは出てこないと思う。
『喫茶カモンカモン』と『ふぁんしーけーき』にあったケーキは1個7、800からだったはずだし。
「それじゃ作ってくるなー」
お盆に乗せた食材を回収したゼロスリーさんが食堂から出て行った。
そして、いつの間にかゼロワンさんも食堂へ来ていて、ゼロツーさんと入り口で並んでいたのが目に入ったんだけど、僕と目があったゼロワンさんが向かってきた。
「オキナ様。先ほど源さんが屋敷を後にしました。またメッセージでも送るそうですが、共有化したアイテムボックスに作った物入れたとのことです」
「わかりました。後で確認します」
源さんはさっきまで工房にいたみたいだね。
そして、作った物をアイテムボックスを通じて渡してくれるみたいなので、後で確認しよう。
依頼した物ができたんだろうけど、何ができたのかな。
「あと、ここにゼロファイブさん呼ぶことは可能ですか?」
「はい。可能ですがどういったご用件でしょうか?」
「うららさんに客室の鍵を渡したので説明してもらおうと思ったんです」
「それでしたら、食後に部屋を見ながらの方がいいと思います。如何でしょうか?」
「あー、そうですね。そうします」
「はい。それでは」
ゼロワンさんが入り口横にいるゼロツーさんの所まで下がった。
うららさんには鍵を渡しただけだから使い方の説明をしないといけないんだけど、せっかくここに来てるからゼロファイブさんに詳しく説明してもらおうと思ったんだけど、確かに部屋を見ながらの方がいいよね。
場合によってはうららさんだけ転移室から出てもらって、鍵を使って来てもらってもいいし。
それからしばらくの間、セインと認識を合わせるためにそれぞれの職業について話していると、料理が乗ったカートを押しながらゼロスリーさんが入って来た。
カートは複数あるみたいで、それぞれの給仕人形の前に置くと次々と運び入れる。
そしてカートを目の前に置かれた給仕人形達は、それぞれ担当した席へ料理を配膳する。
ちなみに、シロツキとトバリには焼いた肉が皿に盛られて出されている。
ゼロスリーさんを含めてゼロワンさんとゼロツーさんもシロツキ達をチラチラと見ている気がするんだけどどうしたんだろう。
入室禁止とかだったら何か言ってくると思うけど……触りたいのかな?
まぁ、言ってくるまでは気にしなくてもいいよね。
それよりも今は目の前の料理が大事だ。
「じゃあ食べましょうか。いただきます」
「「「「いただきます」」」」
全員に料理が配膳されたので、挨拶をして食べ始める。
メニューはウサギ肉を使ったクリームシチューとふっくらと焼かれたパンに酸味があるけどほんのりと甘いフルーツソースのかかったサラダだった。
あとお水。
全員が無言で食べるぐらい美味しくて、しかも、HPの最大値が20増える効果が付いた。
ステータスアップした料理はシチューだけだったけど、他の料理も食材にこだわれば効果がつくんだと思う。
そうなると複数の効果が付いて戦いが有利になりそうだ。
極力料理を食べることにしよう。
「シチューでHPが20増えました」!
「美味しくてステータスが上がるなんてすごいですね!」
「これはいいですね」
「はー、すごい。こんな場所を知ってるなんて爺やるね!」
全員がステータスアップしていることに驚いていた。
セインはここが僕のスキルで来た場所だということはわかっているみたいだけど、僕の拠点扱いだとは思っていなかったのでこの機会に説明しておいた。
説明すると工房も見たいし、屋敷の探検もしたいと言われたけど、それはもう少しレベルが上がってからにしてもらった。
今はすぐ見終わってしまうからね。
「デザートはミルクプリンやでー!」
食事を終えると給仕人形がお皿を下げて、小さな皿に乗った白いプリンを出してきた。
そして、紅茶も淹れてくれる。
さすがに今回はしのぶさんも緑茶ではなく紅茶だった。
そしてデザート食べながら紅茶を飲むことで始まる女子トーク。
うららさんが工房について話し、やがてハピネス達の話になった。
セインは聞く側に回っていたんだけど、ハピネス達の話が出るとクローバーとラナンキュラスを見たことがないので僕に出すように言ってきた。
「人形の館、ハピネス、クローバー、アザレア、ラナンキュラス来い」
なので、要求通りに出してあげた。
目の前が机だったのでどこに出るか少し心配だったけど、机の上に座った状態で出てきた。
そして、即座に人形を持って行こうとしたのでハピネスだけはアイテムバッグから取り出した腕を付けてから渡した。
ハピネスはミヤビちゃん、アザレアはしのぶさん、クローバーとラナンキュラスはセインが持って行ったのでうららさんだけ手ぶらだ。
しばらくクローバーを眺めたセインは、クローバーをうららさんに渡してラナンキュラスを観察し始める。
他の2人は人形の匂いを嗅いだり、色々ポーズを取らせて遊んでいる。
そして、セインが満足したら全員が人形を膝の上に置いて普通に会話を始めた。
うららさんはゼロツーさんを呼んで刺繍トーク。
ミヤビちゃんはゼロスリーさんと料理トーク。
しのぶさんはゼロワンさんから源さんが工房で作業を始めたことを聞いて、何を作っていたのかを熱心に聞いている。
セインはそんなミヤビちゃん達を眺めつつも話を聞き、楽しそうにしている。
しばらくするとゼロワンさん達との会話が終わったのか、次はログイン3日間で何をしていたのかとか、今後の予定や7日目に開催予定のイベントについて話し始める。
僕抜きで。
女子トークに混ざるつもりはないから全然いいんだけど、ゼロスリーさんがニヤニヤしながら僕にクッキーの入った箱を渡してきて、肩をポンポンと叩いてから後ろに下がった。
えっと、これでも食べて頑張れってことかな。
空腹は無くなって程よい満腹感はあるけど、それ以上にはならないのでクッキーを齧りながら女子トークが終わるのを待つ。
最後にセインがそれぞれに近づいてフレンド登録をしながら何か話して終わった。
話す時に僕の方をチラッと見ることがあったんだけど、多分関係性とかそういったことを話したんだと思う。
なんにせよ、この女子トークのおかげでミヤビちゃんセインも仲良くなれたようだし良かった。
これで戦う時に連携しやすくなるはずだ。