精霊使いの攻撃方法を考える
騎士人形の剣に属性をつけるとダメージが大きく増えた。
なので、今度は精霊の体当たりを見せてもらうことにした。
パーティで行動するとはいえ、分断されたりして1人で戦わないといけない場合があるかもしれないからね。
「あ!赤いのいた!みーちゃん体当たり!」
セインが赤い甲羅だけが砂浜に出ている盾亀を指差すと、騎士人形の剣から青い玉が出てきて盾亀に向かって飛んで行った。
体当たりというよりただの接触に見えたそれは、よく目を凝らさないとわからないぐらいのダメージしか与えられていなかった。
弱点属性でこれだったら、確かに1人で戦うのは無理だね。
もう一度騎士人形の剣に水属性を付与してもらって、赤い甲羅の盾亀を倒した。
属性を付与するだけですごく威力が上がるのに、精霊の体当たりだと全然ダメージがないのは勢いのせいなのかな。
精霊の体当たりはポフッて音がなりそうなぐらいソフトだったし。
自分の武器に属性を付与すれば戦えそうだけど、スキルがなくても武器を持てることを知らないのかな。
「スキルを取らなくても剣とか持てるけど、それで戦おうとはしなかったの?」
「私の職業適性で武器は装備できないんだー。だから、精霊への指示も指でやる必要があるの」
「なるほど。ちなみに武器と防具が装備できない特性っていうと【武器装備不可】?」
「そうだよー。もしかして爺も?」
「うん。人形は道具扱いで、スキルを使って動かしてるんだ」
「へー。道具なら問題ないんだー」
抱いたままだったアザレアを弄るセイン。
セインは僕と同じ特性で武器を装備できないみたいなんだけど、本当に攻撃する方法がないのかな?
人形使いでも人形がない状態で戦えたんだから、精霊使いでもできそうなんだけど……。
「セインは職業クエストを受けた?」
「ん?ログインしたらメッセージが届いていたから受けたけど、それがどうかしたの?」
セインもメッセージで呼び出されたんだ。
僕はゼロワンさんのメッセージから工房に行った。
そこでハピネスを貰って戦い方を教えて貰ったけど、セインは教えてもらわなかったのかな。
「そこで戦い方を教えてもらわなかったの?」
「教えて貰ったけど、精霊のレベルが上がるまでは補助しかできないって言われたよ。やった練習も指をさした場所に属性付与をしたり体当たりさせただけだねー」
「そうなんだ」
1人で戦う方法はないのかな。
ゼロワンさんは糸でモンスターを振り回して叩きつける方法を知らなかったから、工夫すれば戦えると思うんだけど、その方法が思いつかない。
精霊ができることも属性付与と体当たりだけで、その体当たりは勢いが足りなくてダメージがない。
どうにかして勢いをつけれたらいいんだけど……。
例えば精霊を投げるとか。
ハピネス達を振り回して勢いをつけて投げるだけでダメージが上がったから、精霊で同じことができれば勢いのある体当たりができるんじゃないかな。
「精霊って投げてぶつけても大丈夫かな?」
「え?!いきなりどうしたの?!」
「あー、えっと、人形を操って戦う時に勢いよくモンスターに当てるとダメージが増えたんだ。だから、精霊の体当たりに勢いをつければダメージが上がるんじゃないかと思ったんだけど……」
「勢い……。やってみようかな。みーちゃん」
セインが呼ぶと騎士人形の剣からみーちゃんが出てきた。
もしかして水属性だから「みーちゃん」なのかな。
だとしたら火属性ならひーちゃん、
風属性ならふーちゃんになりそうだ。
セインはアザレアを左手で抱いたまま右手でみーちゃんを掴み、振りかぶって投げた。
投げられたみーちゃんは勢いよく飛んだけど、途中で減速してセインの手元に戻ってきた。
自分の意思で減速して戻ってきてるから、この方法だとダメそうだ。
もしかしたらステータスが上がったり投擲スキルがあれば上手くいくかもしれないけど、確証もないのにステータスポイントを割り振ったりスキルを取ってもらうのはダメだ。
そもそもステータスポイントやスキルポイント、スキルスロットが余ってるのかすら知らないけど。
「うーん。僕が人形を手に入れる前でも戦えたしその戦い方は職業クエストを担当している人も知らなかったから、、精霊使いでも同じようなことができるかもしれないんだけど……」
「自分で戦い方を考えたの?」
「うん。人形がなかったからね」
「どんな戦い方なの?」
「やって見せるよ。繰り糸」
この戦い方は説明するより見せた方が早い。
少し遠いけど緑の甲羅が見えている盾亀に向けて糸を放つ。
1本の糸で問題なく縛れたので、短くして土の中から引っ張り上げる。
手元に来た勢いを利用してそのまま振り回し、岩に叩きつける。
ちょうどお腹からぶつかったので1撃で倒すことができた。
「さっきの糸をアザレアに繋げば動かせるんだ。こんな風に。繰り糸」
「わっ!動いた!」
セインの腕の中でアザレアを動かす。
といっても杖を上下に降らせたり、足をぱたつかせる程度だけど。
「その糸でモンスターを縛ることができれば同じように操作できるんだけど、それを知らなかった僕はさっきみたいに地面や岩に叩きつけて倒してたんだ。それを職業クエストの担当者に伝えたら驚かれたけどね」
「へー。だから私にもそういった戦い方があるかもってことだね」
「そういうこと。何か思いつくことはない?」
「うーん……。指をさして動かす時に勢いをつけるぐらいかな。名前を呼んだ精霊が指をさした相手に対して指示したことをしてくれるんだけど指示しなかったら指先で待機するんだ。前にした時は指先でくるくる回して遊んだだけなんだけど、回る時に勢いはあった気がする……」
「試してもらってもいい?」
「いいよ〜。みーちゃん」
投げられた後ふわふわと戻ってきたみーちゃんが、セインの立てた人差し指の先に寄ってきた。
そのまま指をくるくると回すと後を追うようにみーちゃんも回り出す。
僕が糸を通してハピネス達を振り回しているのと同じ感じだね。
セインの場合は糸がないし、振り回されている精霊に意思があるけど。
「勢いはあるね」
「だね。あとはこのまま……体当たり!」
セインがくるくると回した勢いそのままに、遠くにいる盾亀に向けて指を振る。
みーちゃんは勢いよく飛び出し、減速することなく盾亀に向かっていく。
この勢いならダメージがありそうだと思った瞬間、みーちゃんが水の玉に覆われた。
そして、そのまま盾亀に当たり、纏った水が弾けた。
「えっと……今のは?」
「体当たりする時はその精霊の属性を纏うんだけど、勢いがついたからたくさん纏ったんじゃないかなー」
「威力のない体当たりの時も纏ってたの?」
「そうだよ!威力がなさすぎてわからないかもしれないけど」
盾亀のHPは1割近く減っていた。
甲羅の色は赤だったので弱点を攻めてこのダメージだ。
そう考えるとそこまで威力はないのかもしれないけど、工夫すればもっと効率よく攻撃したり、威力をあげれるんじゃないかな。
やり方はわからないけど。
「爺ありがとう!これで私もモンスターにダメージを与えられるよ!」
「どういたしまして。パーティで行動していてもセインの近くにモンスターが出てきたり、分断されるかもしれないからね。戦えるようになって損はないよ」
「だねー。あとはもっと威力をあげたり、連続で攻撃できるように頑張るよ!」
「そうだね。とりあえずあの盾亀をセイン1人で倒してみて。危なくなったら助けるから」
「わかった!」
返事をしたセインはみーちゃんを操りながら赤い甲羅の盾亀を攻撃した。
いざとなったらアザレアに糸を繋いで魔法で攻撃するつもりだ。
「やったー!倒せた!爺見てくれてた?」
「見てたよ。おめでとう」
「ありがとう!でも、爺のおかげだからね!」
何度も攻撃しているうちにコツをつかんだみたいで、体当たりした精霊をもう一度体当たりさせる時に指を振り下ろすだけで勢いよく攻撃できるようになった。
これによって、一々手元で勢いをつける必要がなくなり、飛ばす時も回転させる必要がなくなった。
飛ばしたい方向に指を振るだけでいいから、複数の精霊を召喚して連続で体当たりさせることも可能らしい。
なんにせよこれでセインも戦えるようになったから、属性付与も合わせて強力な戦力アップになった。