草原のゴーレム?と実験
工房から草原に戻ってきたので、うららさんと源さんに客室の鍵を手に入れたという内容のメッセージを送った。
2人ともログインしていなかったけど、メッセージを見たらすぐに来そうだ。
僕はそれまで何をしようかな。
思いつくのは実験だから、とりあえずやってみることにした。
「人形の館、ハピネス来い。繰り糸」
アイテムバッグから騎士人形を取り出して周囲の警戒を任せた後、ハピネスを取り出して糸を接続した。
この辺りのモンスターが相手なら騎士人形で十分だから問題ない。
アイテムバッグから工房レベルアップの鍵やスキルスロットオーブが乗っていたクッションを取り出し、ブラウンラビットの毛皮を地面に敷いてから、その上に置く。
そこにハピネスを座らせてみると丁度いいサイズだった。
これを人形の館に設置しよう。
他に使い道も思いつかないし。
ハピネスを立ち上がらせてクッションを回収。
もちろんブラウンラビットの毛皮も忘れずに回収した。
ロックゴーレムと戦うために坑道へ行こうかと考えていると、メッセージが届いた。
うららさんか源さんだと思って開いてみるとセインだった。
内容はパーティに参加できることの喜びとお礼だった。
あと、集合時間より早く合流したいとも書かれていたので、12:30に集合して屋台で何か食べようと返した。
セインは知らない人の中に入っていけないタイプなので、いきなりミヤビちゃん達と同じ場所に集合するのに抵抗があったみたいだ。
学校でも仲のいい人以外がいると途端に喋らなくなって愛想笑いを浮かべるんだよね。
それでも聞かれたら答えるし、必要なことであれば喋るから、後は時間が解決してくれるはず。
僕がセインとミヤビちゃん達の間にはいれば大丈夫だと思う。
「ん?ゴーレム?」
北の鉄鉱山へと続く道に戻ろうと歩き始めると、鉄鉱山からこっちに向かってくる大きな物が目に入った。
それは、岩が組み合わさってできたずんぐりとした体に短い手足の茶色いゴーレムだった。
ちなみに顔らしき部分は小さな石で作られているので表情は固定だと思う。
草原に出てくる特殊なモンスターかと思って警戒していると、土煙を上げながら急停止して僕の目の前3mぐらいのところに止まった。
この距離なら騎士人形が反応するはずなんだけど、チラチラと顔を向けつつも特に何かする様子はなかった。
もしかしてモンスターじゃないのかな。
近くで見るとロックゴーレムとは作りが違うことがわかる。
高さは2mないぐらいで体は球体に近い。
ロックゴーレムは岩を無理やり繋げて動いていた感じだけど、このゴーレムは形を整えられているように見える。
特に表面は丁寧に削ったのかツルツルだった。
一応何かされても対処できるようにゴーレムと僕の間にハピネスを移動させ、いつでも繰り糸を放てるように警戒する。
見た目はロックゴーレムより弱そうだけど、リトルアイアンゴーレムみたいに小さいけど強い可能性があるから気をつけないと。
まぁ、小さいと言っても僕よりは大きいんだけどね。
「驚かせてしまったみたいで申し訳ないです!怪しいものではありません!」
「え?」
ゴーレムから女の子の声が聞こえてきたと思ったら、ゴーレムが両手を上げた。
手が短いから抱き締めようとする人ぐらいしか広がってない。
声からすると子供だと思うんだけど、どこにいるんだろう。
というか、ゴーレムが走っていたら怪しいものだよね。
「本当、ごめんなさい!それでは!」
「あ、はい……」
ゴーレムは手を上げた状態で僕を中心に円を描くように移動する。
90°ほど移動したところでペコリと頭を下げた後、街へ向けて走り出した。
そのお陰で背中が見えたんだけど、誰かが座ってるということはなかった。
そうなると中に人が乗っていた可能性が出てくるんだけど、子供だったら入れると思う。
そして、プレイヤーの乗り物だったらモンスターじゃないから騎士人形が動かないのもわかるんだけど、ゴーレムを乗り物にするってどういうことなんだろう。
もしかしてアレはキャラクタークリエイトでステータスを見せてもらった土人形使いの能力なのかな。
仮にさっきのゴーレムがスキルで作られだものだとして、人が乗れるゴーレムを作れるということは頑張ればもっと大きなロボットアニメのような物も作れるのかな。
それに、土人形使いで人が乗れるゴーレムを作れるとしたら、人形使いでも同じようなことができるかもしれない。
巨大な人形を繰り糸で操作するのは楽しそうなんだけど、使い所がなさそう。
大きいモンスターと戦う時や、どこかの拠点を攻める時なら使えそうだ。
それに、名を刻んで入れば人形の館で出し入れができるはずだから、持ち運びに苦労することはないと思う。
ただ、必要な素材がとてつもなく多くなりそうだから現実的じゃない。
だけど、さっきのゴーレムサイズか、僕の体に付けるような物なら作れるかもしれない。
少し考えてみたんだけど、僕の体を覆う程度だと難しいと思う。
仮に僕の腕を中に通せるパーツを作ったとしても、装着しただけだとただの木や石や鉄だから簡単に動かせるわけがない。
繰り糸で操作する必要があると思う。
自分の腕を動かすに命令が必要なのは面倒だなぁ……。
そうなると糸が放たれる指先は覆えないし、ハピネス達に糸を繋いだ状態で腕のパーツを僕につけたとしたら、ハピネス達を引っ張ったりすることに影響が出そうだし、そもそも接近して戦いたいとは思わない。
せいぜい繰り糸を接続することで硬くなったパーツを使って防御できればいい。
そう考えると、別に腕じゃなくて盾でいい気もしてきた。
素材にさえこだわればただの板でもいいかもしれない。
別に無理してパーツを使って僕を強化する必要はないと思う。
乗るならロックアーマーゴーレムぐらい大きく、防ぐだけならシンプルで動きを阻害しない物にするつもりだ。
ただ、装着する物を考えている時に思ったんだけど、着ている服に糸を繋いでも防御力が上がるんじゃないかな。
何となくのイメージだけど、人を操るとしたらその人の肌に糸を繋がないといけない気がする。
武器や防具に糸が当たれば、それを引っ張れるようになるだけで、それを装備している人は操れそうにない。
それでも、武器や防具を手から奪ったり、バランスを崩すことができるかもしれないし、それができただけでも十分役立つんだろうけどね。
「繰り糸」
早速、着ているワイルドコートに糸を放ってみた。
すると予想通りワイルドコートだけが光に包まれたんだけど、服なのでハピネス達のように命令しても動かすことはできない。
引っ張ることはできるから、勢いさえあればバランスは崩せるだろうし、腕のところに糸を繋げることができれば攻撃の軌道を反らせるはずだ。
僕の腕でタイミングよく当てられるかはともかくとして……。
人の声を発したゴーレムを見ただけなのに色々思いついたせいで、結構な時間が経ってしまった。
周囲を見るとチラホラと人通りが増え始めたので、周りから見ると自分の服に付いたゴミを取ろうとしているように見えたかもしれない。
近づかないと糸が繋がってることには気づかないだろうし。
覚えた技を使うつもりで北の鉄鉱山に向かおうとして気付いた。
ロックゴーレム相手だと体の一部を引っ張ってバランス崩す練習ができないことに。
この技は、相手が武器や防具装備している前提になり、ゴーレム坑道だとせいぜいツルハシを持っているリトルロックゴーレムがいるくらいだ。
ちなみに攻撃を加えたら分離する腕はノーカウント。
さすがに対戦を申し込んでまで試したいわけじゃない。
これからどうしようかな。
マップを埋めるためにトンネルを通らずに北の森に向かうのもいいかもしれない。
山を登って別の道で降りるか、地上を迂回するかだけど、やるとしたら迂回かな。
テンペストバードに襲われるのは嫌だからね。
移動に特化した球体に手足を生やしただけの先頭ができないゴーレムです。
できて体当たりぐらいですね。