殺戮人形のハピネス
2017/4/15 13:39 ゼロワンとハピネスを間違えていたところを修正 徹夜後に書くのはダメですね。
2017/4/15 21:14 誤字修正
「繰り糸接続中は目が開いています」に変更
「キリングドール……ですか?」
僕がゼロワンさんから渡されたトランクケースには、赤いドレスを着た人形が入っていた。
大きさは60cmぐらいかな。
ゼロワンさんによると先代の人形使いが作ったキリングドールらしい。
初心者にずいぶん物騒な人形を渡してくれたよ。
「殺戮人形と書いてキリングドールと読みます。機巧人形の中でも対象を殺すことに特化した物です」
「待って!待ってください!殺戮人形やギミックドールなんて言われてもわからないですよ!」
殺戮だよ?
戦闘って書いてバトルならまだ分かる。
魔物と戦うんだからね。
それが殺戮だとイメージが変わる……もちろん悪い方にね。
頭の中ではブラウンラビット十羽を血祭りにした赤いドレスを着た人形が思い浮かんだ。
赤いドレスが血の赤とマッチしてるなんて思ってない。
「ご説明致します。機巧人形は様々な機巧を内蔵した人形です。料理人形として腕から包丁を出したり、救助用人形として、体内からロープを出す人形もあります」
「つまり、からくり人形ってことですか?」
からくり人形だと茶運び人形が思い浮かぶけど、ある意味ロボットもからくりだと思うから、総じて機巧人形と考えてもいいかもね。
「機巧という意味ではそう捉えていただいても問題ありません。様々な機巧人形の中でも対象の殺害に特化したものを殺戮人形と呼称しています」
「はぁ……なんでそんな物騒な物を僕に渡すんですか?戦闘用の人形はないんですか?」
モンスターを倒すという意味では殺戮人形でもいいかもしれないけど、周囲に見られることを考えたら遠慮したい。
できれば普通の人形がいい……。
この際さっきのデッサン人形でもいいから……。
「戦闘人形は、今のオキナ様では扱うことができません。練習用人形でもバランスを崩すのです。武具をつけた人形を動かせるとは思えません。そのため比較的扱いやすいサイズの中で、戦闘にも使える人形として殺戮人形をお渡しすることにしました」
「え?僕が練習用人形を動かす前から、この人形が入ったトランクケースを持っていましたよね?」
「はい。オキナ様が練習用人形を難なく動かせた場合は別の人形をお持ちするつもりでしたが、初めての人形操作ということで、難航すると予想していました」
「そうですか……」
戦闘人形は存在するみたいだね。
ゼロワンさん曰く、戦闘用のため装備品があるため僕には操作できないとのこと。
反論の余地がない……。
練習用人形でも綺麗にトランクケースを閉めることができない僕に、鎧を着たり、剣や槍を持った人形を動かすことなんてできるわけがない。
それを見越して殺戮人形を持ってきたゼロワンさんは凄いと思うけど、それはそれで悲しくなるね。
僕が人形をうまく操れないって見越してたんだし……。
「それでは殺戮人形ハピネスの機巧を使用してみましょう」
「え?待ってください。ハピネスってこの人形の名前ですか?」
「はい。そちらの殺戮人形の名前はハピネスです。製作者が名を刻むのは当然です。何か問題がありましたか?」
「え、あ、えっと……問題ないです」
ハピネスって確か幸せとかそういう意味だったと思うんだけど……。
相手から見るととどめを刺してくれるから、苦しまずに死ねて幸せとか?
先代はどういう意味を込めてこの名前を付けたんだろう。
「それではハピネスに繰り糸を使用してください」
「わかりました。繰り糸!」
トランクケースを地面に置いて繰り糸を使う。
糸が当たり淡い光に包まれたハピネスは、ゆっくりと瞼を開き髪と同じ紺色の瞳を見せた。
「っ?!」
ハピネスの瞳を見た瞬間、ハピネスの機巧が何かわかった。
正確には繰り糸を通してどう命令すればいいかがわかったと言えばいいのかもしれない。
コマンドのような感じだ。
「機巧人形は繰り糸を繋ぐことで、その機巧の使い方がわかるそうです。また、顔つきの人形に言えることですが、繰り糸接続中は目が開いています。接続の確認としても使用できます」
「目が開くのは仕様なんですね。わかりました。あと、ハピネスに内蔵されている機巧の使い方はわかりました」
「そうですか。それでは頭の機巧を使用してみてください。相手はそこに横たわっている練習用人形でお願いします」
「わかりました」
ハピネスにトランクケースから出るように命令して這い出させ、僕の前を通らせてトランクケースの上に覆いかぶさっている練習用人形に向けた。
ハピネスが僕の前を通った時に薔薇の香りがした。
服に香りづけでもしてるのかな?
気を取り直して、まずは1つ目の機巧『麻痺針』!
命令するとハピネスが口を開き、喉の奥から針が射出された。
スコッという音と共に針は練習用人形に刺さった。
相手を痺れさせて動けなくするための機巧だけど、練習用人形は生物じゃないので効果はわからない。
「お見事です。『麻痺針』はハピネスの首裏を開くと現れるシリンダーにセットするもので、一度に6本まで装填できます」
「麻痺針はどこで手に入りますか?」
「ハピネスが入っていたトランクケースの中に30本あります。それ以上は制作する必要があります。作り方は『武具作成室』にある本をご覧ください」
「作らないとダメなんですね」
「はい。人形の必要物を揃えるのもマスターの役目です」
結局生産しないとダメなんだ。
まぁ必要物は作るけど、売るために作るかはまだわからない。
近いうちに作り方を確認しに行く必要ができたね。
必要な素材を把握しておく必要もあるし。
「それでは、続けて右手の機巧をどうぞ」
「わかりました」
2つ目の機巧は『右手に剣を』だ。
命令した瞬間ハピネスの右手首からカシュッと音が鳴り、手首が落ちて赤い両刃の剣が現れた。
不意をついて突く事ができそうだし、斬り合うこともできそうだね。
「右手の剣は紅灼鋼と呼ばれる火山地帯で取れる素材から作られており、斬りつける際に火で焼く事ができます。練習用人形を切ってみてください」
「はい」
ハピネスに右手で斬りつけるように命令すると練習用人形に近づき、手を上にあげて振り下ろした。
うまく練習用人形の垂れ下がった左腕を切りつけることができた。
刃が当たった瞬間少し火が出たので、練習用人形に刻まれた切り口は少し焦げていた。
「右手を戻す際には刃を収めてからにしてください」
「わかりました」
機巧を意識して刃を収めてから、拾った右手を持ってハピネスに近づく。
やっぱり、ハピネスから薔薇の香りがする。
ハピネスの右腕を取り、右手を嵌め込んで動かして取れないか確認した。
うん。
問題なし。
「それでは続けて左腕の機巧をお願いします」
「はい」
ハピネスから距離を取って左腕の機巧『左手に業火を』を使う。
右手に剣をと同じように、左手の手首が取れて赤い銃口のようなものがとび出た。
ハピネスは左腕を誰もいない空間に向け、銃口から直線上に火を放った。
2mぐらいの火が出てるんだけど、ガンガンMPが減っていったので慌てて止めた。
「問題なく起動できましたね。その機巧は魔道具です。オキナ様のMPを使用して火を放つことができます。『麻痺針』を飛ばすのにも魔道具を使用しています。使用時にMPを消費しているはずですが、お気づきになられていないようですね」
「麻痺針でも消費してたんですね。気づいてませんでした。それにしても魔道具ですか……」
名前からすると魔法を使える道具って感じだ。
MPさえあれば使えるなら人形使い向けのアイテムかもしれない。
MPは豊富にあるからね。
「人形使いは制限により通常の魔法は使えませんが、MP消費することで込められた魔法が起動する魔道具は使用することができます」
「魔道具は魔法を封じ込めた道具ってことですか?」
「封じ込めるというより刻み込むという表現の方が正しいです。道具に魔法陣を刻むことで作成できますが、1つの道具に1つの魔法しか刻めません。また、強力な魔法陣を刻むためには、素材の大きさ、質も比例していきます」
「なるほど。人形の機巧にするには大きさの問題が出てくるんですね?」
「その認識で問題ありません」
人形を巨大にすれば強力な魔道具を内蔵できるかもしれないけど、そんな人形を作れるかどうかもわからないし、人形に合わせた魔道具が手に入るかもわからない。
それに、大きな人形をうまく操る自信もない。
この考えは無しかな。
「それではハピネスの最後の機巧ですが、ここでは使用しないでおきましょう」
「服が破けるからですか?」
「それもありますが替えのスキンが無いのです。替えの服は、同じものが3着トランクケースに入っていますので着せ変えれば済むのですが、スキンの替えや修復素材が無いため、使用後のケアができません」
「なるほど。スキンの素材を手に入れてケアができるようにしてからか、緊急時以外には使用しない方がいいわけですね」
「その通りです」
最後の機巧は『愛の抱擁』という名前で、抱きついたハピネスの体から大振りの刃が7枚出てきて相手を貫くものだ。
両肩、両脇腹、両腰から同じ大きさの鎌のように湾曲した刃が1枚ずつ。
お腹から1番大きい刃が1枚出てくる。
最初は体に不釣り合いな刃がどこから出てくるのかわからなかったけど、ゼロワンさんの説明を聞いて納得できた。
刃はハピネスの体に埋め込まれた魔道具から出てくるようなので、皮膚替わりのスキンと服が破けるらしい。
破れた服やスキンの修繕は人前でやりたく無いから、もし使ってしまっても、修繕は工房でやろう。
まぁ今はスキンを修繕する素材がないみたいなので、使わないけどね。
「ハピネスの説明は以上で終了です」
「わかりました。こんな高性能な人形を頂けるとは思ってませんでした。ありがとうございます」
「問題ありません。先代の人形使いからの指示でもあります」
「そうなんですか…」
多分、人形使いの職業についた人が戦いやすいように対処した結果なんだろうけど、ありがたくいただくことにしよう。
この後、もう一度機巧を使用して消費MP調べた。
・麻痺針:消費MP5
・右手に剣を:消費MP0
・左手に業火:消費MP3(1秒あたり)
・愛の抱擁:消費MP不明
麻痺針はもったいないから回収した。
ステータス(操作練習でMP消費)
名前:オキナ
種族:人族
職業:人形使い☆5
Lv:1
HP:84/100
MP:184/500
ST:110/110
STR:10
VIT:10
DEF:10
MDF:100
DEX:300
AGI:10
INT:200
LUK:50
ステータスポイント:残り10
スキル
〔繰り糸Lv:1〕〔人形の館Lv:1〕〔同期操作Lv:1〕〔工房Lv:1〕〔人形作成Lv:1〕〔自動行動Lv:1〕〔能力入力Lv:1〕〔自爆操作Lv:1〕〔〕
スキルスロット:空き1
スキルポイント:残り10
職業特性
通常生産系スキル成長度0.01倍
通常魔法使用不可
武器装備不可
重量級防具装備不可
装備
・武器1:装備できません
・武器2:装備できません
・頭:なし
・腕:なし
・体上:冒険者のローブ
・体下:冒険者のズボン
・足:冒険者の靴
・アクセサリー1:なし
・アクセサリー2:なし