ウォークウッド
足が出てきた木のモンスターは、ゆっくりと近づいてきた。
ただ、その巨体のせいで一歩が大きいし、地面が揺れる。
そのせいで一瞬動けなくなるのがとても厄介だ。
「1度距離をとりましょう!ここはあいつの腕の範囲です!」
「今ならミヤビちゃんの落ちた穴に入れるんじゃないでしょうか!」
うららさんに言われてミヤビちゃんが盾を構えていた所を見ると、確かに穴が空いていた。
これでミヤビちゃんが地下に落ちたのは確定したけど、ここに飛び込んだほうがいいのかな。
合流することを考えれば飛び込んだほうがいいんだろうけど、根っこで迎撃されるかもしれない。
「では、私が!」
しのぶさんが空いた穴に走っていった。
もしかしたら根っこが出てくる前に飛び込めるかもしれないけど、そうなるとこのモンスターの注意を引いてもらえないから、僕とうららさんが攻撃を受ける可能性が上がる。
僕とうららさんだと一撃すら耐えれる気がしないよ。
念のため盾として使うために、堅守を付与した鉄の腕を出しておこう。
「あ!根っこで穴を塞がれました!戻ります!」
しのぶさんが穴に近づいたことで飛び込もうとしていることがバレたのか、穴を塞ぐように根っこが出てきた。
今は根っこが足になっているからどうやって出したのか気になったんだけど、どうやら一時的に足先にあたる根っこを地面に突き入れて生やしているみたいだ。
足を引き抜いても根っこは残ったままで、モンスターはこっちに近づいてきている。
もしも根っこを生やすのに足を突き入れる必要があるとしたら、歩いている間なら生えてこないかもしれない。
そうなると穴を塞ぐ根っこを燃やせば入れるかもしれないけど、どれだけ生やされたのかわからない。
燃やしてもその先に根っこがあったとしたら、追加で燃やすのが間に合わず塞がれそうだ。
だけど、やってみる価値はある。
「ランス!」
しのぶさんがこっちに戻ってきているので、その横を通るように穴を狙って火の槍を放つ。
槍は塞いでいる根っこに当たって、それを弾けさせたんだけど、その奥には越えた根っこ以外に無傷の根っこがあった。
やっぱり、複数の根っこで塞ぐよね。
洞窟まで落ちるということは、結構な深さがあるはずだから、それを表面だけ塞いだだけだとすぐに突破されてしまうからね。
そして、また足を突き入れて根っこを生やしたことで、穴を塞いでいる根っこが元どおりになった。
「うららさん。ミヤビちゃんと合流するためには、あのモンスターを倒すしかないようです」
「そうみたいですね。ただ、歩いている間は根っこが生えてこないことと、穴の根っこ燃やすとすぐに塞ごうとすることがわかったのは大きいです。これを利用すればうまく戦えるかもしれません」
「そうですね。あえて穴の方を燃やすことで、根っこを出させることで攻撃を与える隙ができますね」
「はい。できるだけ早く倒しましょう。それと、鑑定が終わりました。このモンスターの名前は『ウォークウッドです」
「わかりました」
歩く木か……。
そのままだね。
てっきりトレントというモンスターだと思ってたんだけど、違うみたいだ。
「では!やりましょう!火遁・玉!火遁・旋風!」
「はい!ランス!ストーム!突き抜ける槍!」
「糸縛り!糸縛り・雁字搦め!糸縛り・地抜い!糸縛り・縫い合わせ!」
合流したしのぶさんの合図で攻撃を開始した。
巻き起こる火属性攻撃の嵐と、その間を掻い潜って幹に向かっていくラナンキュラス。
うららさんは複数の糸を投げていろんな縛り方でウォークウッドの動きを止めようとしている。
糸縛りで腕のような枝先を縛り、雁字搦めで腕の根元を縛る。
地抜いで根っこを地面に縫い付け、縫い合わせで腕と足の間を糸で結んだ。
ミヤビちゃんの元へ急ぐために全力で動きを阻害しようとしている。
うららさんの糸はすぐに千切られたけど、それでも数秒動きを止めることはできていた。
なので、その隙にラナンキュラスはウォークウッドまでたどり着くことができ、雷を纏った槍を幹に突き入れた。
「ボォォ!」
「動けない!何で?!」
ウォークウッドが吠えて、ラナンキュラスを腕で叩こうとしてきた。
避けるためには後ろに戻せばいいだけなので、糸を通して命令してたんだけど、後ろに下がろうとするだけで、その場から動いていなかった。
次は命令せず糸を短くして引っ張ってみたんだけど、そうすると理由がわかった。
どうやら刺した槍が抜けないらしい。
円錐状なのに抜けないということは、ウォークウッドが何かしているんだと思う。
例えば締め付けているとか。
とりあえず今のままだとラナンキュラスが攻撃を受けるので、槍から手を離して移動させた。
ウォークウッドの体に槍が突き刺さったままだけど、何でアイテムバッグに入らないんだろう。
手放してるけど、モンスターに刺さったままだからかな?
倒せば回収できると思うけど、無くなったら怖いので、倒す前にどうにかして取り戻そう。
「突き刺す攻撃はやらない方が良さそうですね!」
「そうですね。だとしたら……人形の館、ハピネス来い!繰り糸!」
ハピネスを取り出して糸を繋げる。
右手の機巧は火属性の剣だし、左手は火を放てる。
火が弱点に見えるウォークウッドには最適だと思う。
ただ、接近させないとダメなので、集中する必要があるけど。
ラナンキュラスを近くに戻して、念のため鏡写しの盾を使う。
その間にハピネスを振り回して勢いよく送り出した。
空中にいるときに両手を切り離し、腕をアイテムバッグに収納するのも忘れていない。
「糸縛り!糸縛り・縫い合わせ!」
「火遁・玉!」
ハピネスに合わせて2人が援護してくれた。
うららさんの糸で稼働班にが縛られ、そこにしのぶさんの火の玉が当たることで燃え広がり、攻撃の手が緩む。
そのおかげで枝にあたることなくハピネスを最短距離で近づかせることができた。
マナポーションを飲みながら、ハピネスに左手で火を吹き付けさせながら右手で切らせる。
幹が太いので接近していれば簡単に火を当てることができる。
右手で切ったところも赤い線が入り、湯気のようなものが出ているから、効いてるんだと思う。
HPは……まだ7割も残っていた。
洞窟の根っこを攻撃した時よりも多く攻撃したはずなんだけどダメージが少ない。
根っこが弱点なんだろうか。
でも、末端が弱点というのはどうにも違和感がある。
それでも攻撃するしかないけど。
「ダメージが少ないですね」
「ですね。根っこが弱点なのか、あるいはラナンキュラスの槍を抜けなくしたことで硬くなったんでしょうか」
「どうなんでしょう。何が原因かわかりませんけど攻撃は継続するしかないですね」
「そうですね」
うららさんもダメージが少ないことに気がついたので僕の予想を話したけど、反応はイマイチだった。
うららさんは糸を放ちつつ穴の根っこをジッと見つめ始める。
「あの根っこはウォークウッドの物ですけど、すでに切り離されているようです。なので、あの根っこを攻撃してもダメージはありません」
「そうなんですか!だったら、洞窟の入り口を塞いだ時もダメージは無かったんでしょうか?」
「生やす瞬間はダメージがあるかもしれないので何とも言えませんね」
「あー。切り離すまではダメージを受けるかもしれませんね」
「はい。その可能性は十分にあると思います」
もしも根っこが弱点だとしても、そこを攻撃するためには今出ている根っこを攻撃して誘うしかない。
その時は歩行が止まるから、別で攻撃しやすくなるんだけど……。
ん?
ウォークウッドの踵部分が下に尖っていて、1歩踏み出すたびに地面に突き刺さっている。
もしかして、あそこから地中のミヤビちゃんに根っこを伸ばしてる?
そして、それをミヤビちゃんが攻撃してダメージを与えている?
何となくの思いつきだけど、ありえそうだ。
シロツキとトバリのマーブルブレスを受けたとしたら、大ダメージを受けるはずだからね。
これは、確かめる必要があるかもしれない。