洞窟の先
鍾乳洞を出てもブルースライムは出現したんだけど、どんどん出てくる頻度が下がり、出てこなくなった頃には周囲から水が減って普通の洞窟になった。
相変わらず暗さは変わらないけど、ジメッとした感じは多少マシになったかな。
「所々に草が生えてますね」
「キノコもあります」
しのぶさんとミヤビちゃんが壁際にランタンを向けると、足元に細い草やキノコが生えていた。
うららさんが鑑定した結果、草はただの雑草だったけど、キノコは食べることができるらしいので、大きいのを見かけ次第うららさんが摘むことになった。
消耗品の整理をした結果、アイテムバッグに1番空きがあるのがうららさんだったからだ。
「蝶々がいます!」
「でも、大きいね」
ランタンの明かりを頼りに洞窟を進んでいると、その光に誘われたのか2匹の蝶が飛んできた。
手のひらサイズだったら普通の蝶かと思えたかもしれないけど、残念ながら30cmはある。
人によっては近くで見るとちょっと気持ち悪く感じるかもしれない。
蝶は黒い体に白い羽で羽の先には産毛のような物が生えていて、それが光を反射させて薄っすらと輝いている。
モンスターじゃなければ幻想的な光景だったかもしれないだけに少し残念だ。
「鑑定しましたストリングバタフライです」
「バタフライは蝶ですよね。だとしたらストリングが特性だと思うんですけど、力強いとかでしたっけ?」
「それはストロングのことだと思います。ストリングは弦とか糸です」
うららさんの鑑定結果にしのぶさんがストリングの意味を聞いていた。
あんまり聞きなれない単語だったけど、糸だったんだ。
ということは、あの蝶が糸を吐いてくるってことなのかな。
「ミヤビちゃん気を付けて!その蝶は糸を吐いてくる可能性があるよ!」
「はい!わかりました!」
しのぶさんは既に横を通って後ろに回ろうとしていたけど、ミヤビちゃんは盾を構えてストリングバタフライと対峙している。
2匹とも動いているしのぶさんではなくドッシリと構えているミヤビちゃんを狙っているみたいだ。
「えいっ!」
「せやっ!」
ミヤビちゃんの槍に合わせてしのぶさんが背後から切りつけた。
だけど、ストリングバタフライはその両方を難なく避けた。
別々に狙ったからだと思うんやけど。
なので、僕もラナンキュラスを向かわせて援護することにした。
「はっ!せいっ!」
しのぶさんは両手に苦無を持って2連続で切りつけた。
結果、想定通りだったのかはわからないけど、1撃目を避けられ、2撃目で羽を切りつけることに成功した。
その結果うまく飛べなくなったのか、ストリングバタフライはフラフラと地面に降りた。
「うわぁ!ベタベタする!」
声をあげたしのぶさんの方をみると、ストリングバタフライを切った苦無から羽についた切り口まで白い糸が伸びていた。
切ったことで付着したんだと思うけど、あの糸が付いている間は苦無で切れそうにない。
羽を攻撃したら飛べなくなるけど、武器も使えなくなるのは面倒だ。
魔法で攻撃した方がいいのかもしれないけど、まずは近接戦闘でやってみよう。
「ミヤビちゃん胴体を狙って!ラナンキュラスで攻撃は合わせるから思いっきりね!」
「お願いします!やぁ!」
ミヤビちゃんの槍に交差するようにラナンキュラスに槍を突き入れさせた。
ミヤビちゃんの槍を避けたところだったので、ラナンキュラスの槍は避けられなかった。
槍は羽に当たったんだけど貫通しなかった。
それどころか、槍にストリングバタフライがくっ付いてしまった。
そのせいで大きなダメージが入らなかたし、羽には小さな傷しかつけることができなかったみたいで、こっちのストリングバタフライはまだ飛べるようだ。
「オキナさん!お姉ちゃん!糸をお願いします!」
「わかった!繰り糸」
「任せて!糸縛り!」
僕とうららさんが同時に糸を放つ。
うららさんはミヤビちゃんと戦っている方に、僕は両方に1本ずつ放った。
しのぶさんは糸で粘ついた苦無を捨てて、もう一本の苦無で攻撃しようとしていたけど、念のために援護したんだけど……必要なかったみたいだ。
苦無での腹で跳ね上げたところを火遁の玉を出すスキルで燃やして倒していた。
ミヤビちゃんの方は僕の糸を避けたけどうららさん糸に当たったみたいで地面に落ちていた。
それをミヤビちゃんが突いて倒そうとしていた。
「やぁっ!わぷっ!」
槍はストリングバタフライに突き刺さり、倒せなかったけどダメージは与えることができた。
その代わり突かれた衝撃で出たのか反撃なのかはわからないんだけど、糸を顔に浴びてしまった。
ミヤビちゃんのステータスプレートの横に斜線が引かれた目のマークが表示されたので、視界不良になったんだと思う。
「人形の館、クローバー来い!繰り糸!」
クローバーを取り出してミヤビちゃんの元へ向かわせ、着いたら安らぎと苦痛の左手でバッドステータスを取り除いた。
これで麻痺が3つに視界不良が1つだ。
そして、ミヤビちゃんを回復しているうちに、ラナンキュラスでストリングバタフライにとどめを刺しておいたので戦闘が終わった。
「さっきのブルースライムから面倒な敵が増えてきましたね!」
「そうですね。でも、僕はロックゴーレムの方がシンプルに戦える分楽ですね」
しのぶさんは面倒な敵と言いながらも嬉しそうだ。
たぶん、ロックゴーレムと違ってダメージが入りやすい体と思う。
僕は縛って倒しやすいからロックゴーレムの方がいいんだけどね。
「ここのモンスターは大きなダメージは受けませんよ?」
「受けるダメージで言えばこっちの方が倒されずらいかもしれないけど、囲まれたら凄いことになりそうだよ。いろんな方向から糸を吐かれたりして」
「うぅ……それは嫌です……」
ミヤビちゃんはここのモンスターの方がダメージを受けづらいからロックゴーレムよりいいと思っていたみたいなんだけど、糸でベタベタになると言ったら悩み始めた。
「とりあえずモンスターの特性は厄介ですけど、ダメージはそこまで大きくないのでもう少し進みましょう。特性があって強いモンスターが出てきたら引き返せばいいと思います」
「わかりました。うららさんも糸をよろしくお願いします」
「はい。お任せください」
うららさんの提案した基準で進むことにした。
この後もストリングバタフライが出てきたんだけど、繰り糸もうららさんの糸も結構な確率で避けられた。
なので、途中からはミヤビちゃんやしのぶさんが攻撃して、それを避けた隙に当てることにした。
そうすれば糸は当たるようになった。
繰り糸も1本で縛れたので、複数のストリングバタフライが出てきてもなんとかなった。
もちろんアザレアのストームを使って一網打尽にしようとしたんだけど、使おうとすると散開するので効率は良くなかった。
どうやら魔力を察知できるみたいで、アザレアの魔法の他にもシロツキ達のブレスや、ラナンキュラスの突き抜ける槍も察知された。
ブレスに関しては広範囲に放ったり、吐きながら軌道を変えたりして当ててたんだけど、僕はうまくできなかった。
まだまだラナンキュラスの操作は練習が必要だ。
ストリングバタフライの他にも20cmほどの傘に穴が空いたキノコのモンスターも出てきた。
このモンスターはスプラッシュマッシュという名前で、胞子を含んだ水を傘の穴から放出して攻撃してきた。
ただ、足が生えているわけではなかったので、遠くから魔法で攻撃するか糸で縛れば簡単に倒すことができた。
胞子を含んだ水は、受けるとステータスが下がるというもので、数値的には微々たるものだったんだけど、今のステータスになれたミヤビちゃんやしのぶさんは結構影響されていた。
例えば、しのぶさんはジャンプ力が落ちたせいでうまく壁をければかったり、後ろに回ろうとしたのに真後ろより少し手前で止まったりしていた。
ミヤビちゃんは重心がずれるみたいで、槍を振った時に体が流されたり、盾で攻撃する時に無理矢理振り抜いて転んだ。
クローバーで回復できたんだけど、回復するのが遅かったみたいで、今度は戻ったステータスに振り回されることも少しあった。
「あ!光です!出口かもしれません!」
全体的にダメージは少ないんだけど、落ち着いて戦えない洞窟を進んでいくと、曲がり角を覗き込んだしのぶさんが光を発見した。
警戒しながらも急いで向かうと外に出れた。
出れたんだけど……。
「ここはどこなんだろう……」
僕たちは大木の根元に空いた穴から出てきた。
なので、周囲には木がたくさん生えていて、花や木の実が地面に落ちている。
また森かぁ……。