スケイルバード強襲
「あの巣を調べますか?」
「そうですね……。折角ですしやりましょうか。問題はとても高いところにあることですよね」
「えっと、シロツキちゃんに見てきてもらいましょうか?」
「いえ!ここは私が!地走り!」
全員で10m程の高さにある鳥の巣を見上げながらどうするか悩んだ結果、しのぶさんが気を駆け上がって行くことになった。
シロツキが調べても巣の中身を僕たちに説明することはできないから助かる。
シロツキ達がミヤビちゃん以外と意思疎通できればいいんだけどね。
「ひゃぁぁぁ?!」
シュタタタタと木を駆け上がって行ったしのぶさんが巣を覗き込むと、悲鳴をあげながら距離を取ろうと木を蹴った。
だけど、周囲の木よりも高い木だったので蹴って離れた先に別の木はない。
「うわぁぁぁ!!」
少し離れた木に落ちて行くしのぶさん。
ガサガサと音を立てながら葉っぱを散らし、最後には膝を曲げて綺麗に着地した。
「地走りのおかげで速度が落とせました」
「えっと、無事でなによりです?」
「ありがとうございます?」
しのぶさんは立ち上がって体についた葉っぱを手ではたき落とす。
落ちた葉っぱは積もっているのにも関わらず、はたいた葉っぱは少し空中を漂うとすぐに消えた。
耐久値が0になったのかな。
「それで、何を見つけたんですか?」
「えっと……、ちょっと気持ち悪い鳥……っぽいモンスターです」
「気持ち悪い鳥ですか?」
「はい。体は青いんですけど鱗がびっしり生えていました。羽は膜になっていて、体全体がヌメヌメで覆われているんです……ひぃぃ!」
モンスターの姿を思い出したしのぶさんが身を震わせる。
ヌメヌメした青色の鱗が生えた鳥。
ヌメヌメは産まれたてなのかな。
モンスターを想像しながら巣を見上げても1羽たりとも出てくる気配はなかった。
結構な至近距離でしのぶさんが悲鳴をあげたと思うんだけど、雛だとしたら戦えないのかもしれない。
「私も見に行ってもいいですか?」
「やめておいたほうがいいと思うけど……。気になるなら行ってもいいんじゃないかな」
「わかりました!シロツキちゃん自由な翼!」
しのぶさんの軽い忠告よりも怖いもの見たさなのか、ミヤビちゃんは大きくなったシロツキに跨り、巣を目指して飛び上がった。
うららさんは、そんなミヤビちゃんをみて苦笑しているから、別に見たいと思ってるわけではないようだ。
僕は少し見てみたい。
「わー!ヌメヌメしてます!鱗はツルツルしてそうです!……あ!オキナさんモンスターが来ます!巣にいるモンスターを大きくした鳥が4羽です!」
「わかった!ミヤビちゃんは降りて来て!」
「はい!」
巣の中にいるモンスターを見たわけじゃないけど、青い鱗に覆われた大きな鳥を想像した。
もちろんヌメヌメはない。
大きいということはこの巣で育成されている雛の親だと思うんだけど、この森はそういう関係が多い。
ハニーベアとワイルドベア、形は違うけどクイーンパラライビーとパラライビー達。
他にも何かを攻撃したらさらに強いモンスターが出てくるなんてことがあるかもしれない。
さしずめ『親子の森』かな。
「「「「ギュワッ!ギュワッ!」」」」
「うわぁ……」
「えっと……」
「ひぃぃぃ!」
「大きくなると気持ち悪いです!」
ミヤビちゃんが地上に戻ってくると同時に4羽の鳥が見えた。
しのぶさんの言う通りの外見をしていて、羽を広げた横幅は3mぐらいありそうだ。
ただ、ヌメヌメは消えていなかった。
産まれたての雛鳥がヌメヌメしているんじゃなくて、性質としてヌメヌメしてるのか。
ということはアレにも何かしらの効果があるってことになる。
気をつけないと。
「あの滑りに気をつけましょう!何かありそうです!」
「わかりました!」
「はい!」
「鑑定できました。スケイルバードです!詳細は倒さないとわかりません!」
見た目通り鱗鳥か。
わかりやすくていいけど、見た目はもう少しどうにかならなかったのかな。
うららさんの鑑定だけど、モンスターを初めて鑑定した場合は名前が見えるだけで、倒すことでどんどん情報が増えていくみたいで、特性や戦い方、弱点や耐性、生息地なんかが増えるらしい。
今は1羽も倒してないから名前だけだ。
「ギュワッ!」
「止めます!」
1番小さい……と言っても3mを少し下回ったぐらいのスケイルバードが翼をたたんだ状態で急降下して迫ってくる。
それをミヤビちゃんが前に出て、盾で受け止めようとした。
「え?!」
「きゃっ!」
「うららさん!」
ミヤビちゃんがスケイルバードの突撃を盾で受けたと思ったら、盾の横から飛び出してきて、後ろにいたうららさんに当たった。
攻撃が当たったお腹は、ヌメヌメで少しテカテカしている。
ガンッという音もしたので、盾に当たってないわけではないと思う。
そうなると、分泌された滑りが原因かもしれない。
「えい!あれ?!」
「せい!くっ!滑ります!」
「ストーム!」
うららさんをクローバーで回復させつつ、アザレアで土のストームを放ち、ラナンキュラスで突いた。
合わせてミヤビちゃんも槍で、しのぶさんは苦無で攻撃した。
だけど、うまくいった攻撃はストームだけだった。
ラナンキュラスとミヤビちゃんの槍は刺さったと思った場所から横にズレ、しのぶさんの苦無は刃が立たずに腹で叩くことになった。
しのぶさんの攻撃は若干ダメージが入ってたけど……。
「どうやら切ったり突いたりする攻撃に耐性があるみたいです!」
「もしかしたら殴る攻撃も滑るかもしれません」
しのぶさんの指摘に追加する。
苦無の腹も滑っていたのが見えたからだ。
ボクシングでも顔にワセリンを塗って滑りを良くして、少しでもダメージを減らそうとするぐらいからね。
「そうなると……飛膜と口を狙えばいいですね!」
「いや!しのぶさんは火遁で攻撃!ミヤビちゃんは螺旋槍で攻撃してみて!うららさんは糸で縛ってみてください!突き抜ける槍!ストーム!」
「了解!火遁・旋風!」
「はい!螺旋槍!」
「わかりました!糸縛り!」
しのぶさんが苦無を投げようとしたので慌てて火遁を使うように言った。
アザレアのストームは問題なくダメージを与えれていたので、ヌメヌメは物理限定だと思う。
ミヤビちゃんとラナンキュラスは貫通攻撃だ。
ラナンキュラスは雷を纏うからダメージが入ると思うけど、ミヤビちゃんの槍は回転しているだけだから滑るのかな。
ヌメヌメが防御という判定なら貫通するはずだけど。
クローバーで回復したうららさんには、いつも通り糸を投げてもらう。
多分滑って刺さらないと思うけど、うまく縛れたら攻撃のチャンスだ。
「クギャッ!」
「うぁ!」
ストームとしのぶさんの火遁は問題なく当たり、少なくないダメージを与えた。
ラナンキュラスもそうだ。
だけど、ミヤビちゃんの攻撃はやっぱり滑り、うららさんの糸も流された。
そして、スキルを使って硬直しているミヤビちゃんに体当たりしてきたので、避けれなかったミヤビちゃんの鎧にヌメヌメが付着した。
シロツキ達は守るために爪を使った攻撃や噛みつきをしたんだけど、爪は滑るし噛み付いたら口の中にヌメヌメが入った。
そのせいでシロツキ達は一時的に動けなくなっている。
「繰り糸!」
うららさんの糸は物理的なものなのでダメだけど、僕の糸は魔法の糸だから問題ないはず。
そう思って1本飛ばしたけど、くっ付いてすぐに千切れた。
本数不足だ。
「繰り糸!、繰り糸!」
アイテムバッグから石の右腕を2本取り出して糸を繋ぎ、片方の腕で戦っているスケイルバードに、もう一本の腕で上から様子を見ている1羽に放った。
「ギュワッ!」
「ギュッル?!」
戦っていた方はしのぶさんとミヤビちゃんが攻撃した隙に、上から見ていた方は攻撃されると思ってなかったのか避けることなく当たった。
そして、即座に地上に降りるように命令して、みんなに攻撃してもらった。
しのぶさんは変わらず火遁、ミヤビちゃんは口や飛膜を狙い、うららさんも飛膜を地面に縫い付けて固定した。
そのおかげで、腕から放ってる糸を切ることができたので、残りの2羽も縛ろうと思ったんだけどいつの間にか逃げられていた。
更に木の上にあった巣も無くなっている。
巣を持って逃げたんだろうね。
「よし!終わりです!」
「やりました!」
「お疲れ様です」
「攻撃力はそこまで高くないですけど、あのヌメヌメが厄介でしたね」
しのぶさんとミヤビちゃんが、それぞれスケイルバードの口を攻撃して倒した。
うららさんがダメージを受けたけど、1/3ぐらいだったし、ミヤビちゃんだと1割も減ってなかった。
4羽同時に来られたらきつかったはずだけど、なぜか1羽ずつだった上に2羽は逃げた。
何かしらの習性があるんだろうね。
「そうですね。やっぱり早く魔法が使える人を探さないと厳しいですね」
「ですね。準備が整うまでは東に行くのは断念したほうがいい気がします」
「私もそう思います」
僕とうららさんの中では、魔法使いが仲間になるまで東に進むのは無くなった。
今の構成だと僕の負担が大きいから助かる。
「しのぶさんミヤビちゃんもそれでいい?」
「大丈夫です!」
「はい!」
2人も異論はないようなので、来てすぐかもしれないけど、ヌシ釣りの森へ戻ることにした。
魔法使いを探す方法は、道中考えよう。




