女王蜂
忙しさが収まりません。(休日出勤中)
癒しがほしい。
巣が壊されたことで出てきたのか、3m程の大きな蜂は、周囲に槍みたいな先端が尖った棒状の物を持った蜂を4匹侍らしていた。
その槍蜂もパラライビーより大きく、体長は1m近くあった。
羽音が重なって少しうるさい。
「クイーンパラライビーとパラライスピアビーです!」
「見た目通りですね!火遁・旋風!」
うららさんが鑑定を使って名前を教えてくれたんだけど、しのぶさんの指摘通りそのままだ。
だけど、実力はパラライビーとは段違いみたいで、しのぶさんの放った渦を巻く炎を、パラライスピアビーが手に持った槍を回転させて防いだ。
「トバリちゃんブレス!」
「キュア!」
今度はトバリの黒いブレスがパラライスピアビーを襲う。
今度も回転させて防ごうとしたみたいだけど、ブレスの威力に押し負けたのか、あるいは槍を持った手に当たったのかはわからないけど、パラライスピアビーを吹き飛ばした。
トバリのブレスが直撃してもHPが6割ほど減っただけで倒せなかった。
といってもトバリのブレスがどれだけ強いかわからないから、パラライスピアビーの強さもわからない。
でも、少なくとも弱くはないと思うんだけど。
「任せてください!」
地面に転がったパラライスピアビーに向けてしのぶさんが駆け寄りながら苦無を投げる。
もちろん外れるかと思ったんだけど、今回は当たった。
多分偶然なんだろうね。
本人が走りながらガッツポーズしてるし。
ハチミツの影響を受けずに走るしのぶさん。
その手には次の苦無が握られていて、跳躍して木の側面を走ってパラライスピアビーの直上にたどり着くと、勢いをつけて落下した。
ハチミツの影響を受けなかったのは地走りの効果かな。
落下の勢いを利用して、パラライスピアビーに苦無を突き立てるしのぶさん。
深く刺さった苦無によってHPバーは砕け散った。
しのぶさんを見ていないで、僕も戦わないと!
「ストーム!」
「糸縛り!」
僕がファイアストームをクイーンパラライビーに向けて放つと同時に、うららさんが同じ方向に糸のついた針を投げた。
糸が燃えるかと思ったけど、パーティメンバーだからか問題ないみたいだ。
パラライスピアビーは槍を回転させて弾き、クイーンパラライビーは羽を大きく動かして風を生み出して吹き飛ばした。
ファイアストームはクイーンパラライビーにだけ当たったんだけど、ほんの少ししか減ってなかった。
「やぁ!」
「突き抜ける槍!」
シロツキに乗ったミヤビちゃんがクイーンパラライビーの後ろに回っていたので、ラナンキュラスも逆側から向かわせていた。
ファイアストームとうららさんで注意を引こうとしたんだけど、直前で1匹のパラライスピアビーに気づかれた。
気づいた1匹はミヤビちゃんの槍に自分の槍を叩きつけるように交差させて、鍔迫り合いに持ち込んだ。
だけど、その体勢だとシロツキの顔が近くにある。
シロツキはパラライスピアビーの体に噛み付くと、下に引っ張った。
そのおかげで迫合いが崩れて、ミヤビちゃんの槍がパラライスピアビーの顎下にスッと突き刺さり、クリティカルエフェクトが発生する。
少しHPが残ったけど、ダメ押しの一捻りでHPバーが砕け散った。
これでパラライスピアビーは残り2匹だ。
ラナンキュラスの槍はクイーンパラライビーに直撃したんだけど、甲殻が硬すぎるのか少し傷がついただけだった。
もちろんHPはそこまで減っていない。
「オキナさん危ない!」
「え?ぐっ!」
次の攻撃方法を考えていると、うららさんが叫んだ。
それと同時に何かに吹っ飛ばされたのか、浮遊感と共に視界が真っ暗になった。
以前ステップボアに吹っ飛ばされた時は視界が黒くなることはなかったんだけどね。
「オキナさん大丈夫ですか?!」
「え?あ、はい。大丈夫です」
HPを見ると「1」だった。
視界が黒くなった時のHPは見てなかったけど、もしかして……。
「オキナさんはハニーベアの攻撃でやられたんです。なので、私が『天使の涙』を使って復活させました。ポーションかクローバーちゃんで回復してください」
「わ、わかりました」
僕が混乱しているのがわかったのか、うららさんが教えてくれた。
今いる場所から考えると、うまいことうららさんの近くに飛ばされたみたいだ。
「人形の館、クローバー来い。えっと……」
「オキナさん!ラナンキュラスちゃんはここです!」
「ミヤビちゃんありがとう!繰り糸!」
アザレアは僕が攻撃された広場の縁、クローバーは僕の目の前だったけど、ラナンキュラスが見当たらなかった。
クイーンパラライビーを攻撃した後だったから空中に浮かばせてたんだけど、僕がやられた後ミヤビちゃんが回収して、持っていてくれたらしい。
僕がやられると繰り糸は解除されるから、魔法を使うたびに手元に戻していたアザレアはともかく、ラナンキュラスはハチミツに落ちる可能性があった。
でも、ミヤビちゃんのおかげでベタベタにならなくてよかった。
クローバー、アザレア、ラナンキュラスに糸を繋いで、一度で元に寄せてクローバーで回復する。
その間に周囲を確認しよう。
パラライスピアビーはミヤビちゃんとしのぶさんそれぞれに1匹ずつ付いてる。
ミヤビちゃんはシロツキに乗りながらだけど、巧みなコンビネーションで押してるし、しのぶさんの方にはトバリがいて、タイミングを合わせて援護してる。
どっちも大丈夫そうだ。
クイーンパラライビーはワイルドベアよりのハニーベアが攻撃しているんだけど、巨体に似合わず機敏な動きで爪や噛みつきを避けている。
クイーンパラライビーはお尻に針があるし、手に錫杖のようなものも持ってるんだけど避けるだけで反撃しない。
パラライスピアビーがいる間は攻撃しないのかな。
と思ったら錫杖からスパークボールが放たれて、ハニーベアに直撃した。
どうやらクイーンパラライビーは魔法で攻撃するみたいだ。
「どうしましょうか?」
「とりあえず、パラライスピアビーを倒しましょう」
ハニーベアが広場を迂回してまで僕を攻撃してきた理由はわからないけど、クイーンパラライビーを積極的に狙ってくれてるみたいだから任せよう。
まずは、ミヤビちゃんとしのぶさんが戦っているパラライスピアビーを倒す。
「わかりました!糸縛り・雁字搦め!」
「繰り糸!」
うららさんがしのぶさんと戦っている方に針を飛ばしたので、僕はミヤビちゃんと戦っているパラライスピアビーに糸を2本飛ばした。
だけど、糸はくっ付いてすぐに千切れた。
どうやら2本じゃ足りないらしい。
ロックゴーレムと同じぐらいの強さなら3本は必要になる。
なので、石の右腕をアイテムバッグから取り出した。
左腕だと2本しか出せないからね。
ちなみにしのぶさんの針も、パラライスピアビーの甲殻に弾かれたみたいで、刺さっていなかった。
「次は関節を狙います!糸縛り・雁字搦め!」
「繰り糸、繰り糸!」
しのぶさんはもう一度針を投げた。
今度は関節を狙うらしい。
刺さりそうな気がするけど、槍で弾かれないかな。
僕は石の腕に糸を付けて、さらに糸を放った。
一度にできないのは不便だけど、こればかりは仕方ない。
自動人形ならお願いするだけで済むんだろうけど。
「あ!オキナさんありがとうございます!」
「トドメはお願い!」
「わかりました!えい!」
3本だと縛れたので、空中で固まったパラライスピアビー。
そのままだと落ちてしまうので、その場で飛ぶように指示を出すと羽を動かしてくれた。
あとはミヤビちゃんがトドメを刺すだけだ。
「せいっ!」
「やりましたね!」
「はい!うららさんのおかげです!」
しのぶさんの方も終わったみたいだ。
消える前のパラライスピアビーは、糸でぐるぐる巻きにされていたので、関節を狙った投擲はうまくいったみたいだ。
「ギギィ……。ギィ!」
「はにぃ?!」
パラライスピアビーが全員倒されたからか、突如声をあげたクイーンパラライビー。
そして、手に持った錫杖をハニーベアに叩きつけて吹き飛ばした。
「ギギギギィ!」
「っ!鏡写しの盾!」
吹き飛ばしたハニーベアは放置して、こちらに向けて錫杖を横に振るクイーンパラライビー。
距離があるにも関わらず振られた錫杖に嫌な予感がしたので、ラナンキュラスに盾を構えさせて前方に移動させた。
「はにっ!」
「うわっ!」
直後、放射状に雷が走りハニーベアが焼かれた。
ラナンキュラスの盾にも当たったので、一部の雷が跳ね返ったけど、そこまでダメージはなかった。
とは言っても今までで1番ダメージがあったけど。
ミヤビちゃんはシロツキに乗っているので、高く飛んで回避。
しのぶさんは木に飛び乗ったので当たらなかった。
うららさんは僕の後ろだったから問題ない。
「ギィ!」
「鏡写しの盾!がっ!」
クイーンパラライビーは防がれたと今度は錫杖を縦に振ってきた。
もう一度鏡写しの盾を使って、ラナンキュラスに構えさせたんだけど、今度は上から雷が落ちてきた。
盾を正面に構えていたから、防げなかった。
「ぐっ……」
そして、僕は雷の影響で麻痺した。
うららさんがアイテムを取り出そうとしたけど、クローバーとは糸で繋がっていたので、安らぎと苦痛の左手で麻痺を取り除いたあと、慈愛と救済の右手で回復した。
一撃でやられなかったのは良かったんだけど、8割減ったのには焦った。
防御力といいクイーンパラライビーは強すぎる気がする。
ボスエリアも出てないからボスじゃないみたいだけど、十分ボスクラスだと思う。
クイーンパラライビーは落雷が有効だとわかったのか、もう一度使うために錫杖を振り上げる。
来るのがわかっているならラナンキュラスで受け止めれるはず。
「ガァァァァァ!!」
瞬間、何かの鳴き声と共にクイーンパラライビーが視界から消えた。
横を見ると、クイーンパラライビーと同じぐらいの大きさの、毛むくじゃらの何かがクイーンパラライビーを抑え込んでいた。




