石は切るより叩くに限る
しのぶさんを先頭に、僕、源さんの順でどんどん低くなっていく通路を進む。
ここは段に通じる場所だけど、前に通ったままだったら瓦礫があるはずで、その下にリトルロックゴーレム達がいるはずだということを伝えたらこの順番になった。
斥候として忍者のしのぶさんが先頭で辺りを警戒。
気づかれたら飛び出して注意を引くか、急いで後退することになってる。
真ん中の僕はラナンキュラスを追加で出して、ハピネスとラナンキュラスに糸を繋いだ状態で、しのぶさんの後をついて行く。
ラナンキュラスを出した時は源さんがジロジロ見てた。
といってもラナンキュラスというよりランスや防具部分を見てたんだけど、特に何もいうことなく離れた。
鍛治師として気になったのかな。
僕が真ん中にいるのは、しのぶさんが飛び出した場合駆け抜ける翼で援護できるのと、同じように後ろの源さんにも援護ができるからだ。
それに、糸を追ってこない限りラナンキュラスが狙われるだけで、僕が襲われる可能性が低くなるのもある。
以前ハピネスに同期操作した時の話をしたらこうなったんだ。
後衛だから攻撃を受けないようにするのは仕方ないんだろうけど、できるだけラナンキュラスに攻撃が当たらないように集中するよ。
いざという時は避けるより盾を使うようにするし。
そして殿は源さん。
通路を進み始めたら後ろから倒し漏れていたのかこの先に進みたいのかはわからないけど、リトルロックゴーレムが3体襲いかかってきた。
話してる途中に現れたから、背中を向けていた源さんは1番最後に気づいたんだけど、振り返りながら放ったハンマーの一撃で3体一気に倒したんだ。
だから、いきなり後ろから襲われた時のために1番後ろになってもらった。
この順番で通路を進み、崩れた岩山があるところまで来たんだけど、そこには何もなかった。
リトルロックゴーレム達が岩を運んだのかもしれないね。
他の人が通ったにしては綺麗さっぱり岩がなくなってるし。
「ほう。ここか。確かに所々に採掘ポイントがあるな」
「わかるんですか?」
岩がなくなっていたので特に問題なく段の場所に出たんだけど、源さんには採掘ポイントが見えるらしい。
採掘スキルなんだろうけどね。
「採掘スキルを持っとるからな。これがあれば採掘ポイントがわかる上に、いい素材も出やすくなるし道具の消耗も減る。生産職なら必須だ」
「なるほど。鍛治師なら必須ですね!」
採掘スキルは思ったより便利だった。
場所がわかるだけでなく取得できるアイテムや消耗にも影響するなんて。
僕も人形を作る上で何か取るほうがいいのかな。
取るにしてももう少し人形作成に慣れてからだけど。
ただ、源さんは生産職のわりにハンマーの火力が高すぎる気がする。
まぁ、鍛治師は筋肉質なイメージがあるし、源さんの腕は筋肉がすごいから見た目通りと言えばそうなんだけど、見た目は関係ないよね?
「それで、あれがロックゴーレムか」
「あれは大きいですね」
段の場所に出たところで、ロックゴーレムが視界に入った。
3段目と4段目、あと7段目にもいるね。
源さんはホームラン宣言するようにハンマーの頭をロックゴーレムに向けて確認し、しのぶさんはジッと目を凝らしていた。
源さんは本当にホームラン打ちそうな筋肉だから、違和感があるとしたら服装ぐらいだ。
「そうです。リトルロックゴーレムを投げてくることもあります」
「そうか。それは気をつけておく。とりあえずここには発掘ポイントがない。降りて行くしかないな」
「そうなると戦闘は避けられませんね」
「そうだな。始めてもいいか?」
源さんが僕に聞いてきた。
一応リーダーは僕だし、この場所を知ってるのもこの中だと僕だけだからかな。
とりあえずダメージを受けたらクローバーを出すとして、まずはアザレアの魔法なしでやってみようかな。
しのぶさんと源さんもいるし。
「はい。やりましょう」
「まずは手前のロックゴーレムですね。任せてください。今度こそ!」
「あ!」
しのぶさんが苦無を投げる。
これは3段目のロックゴーレムを狙ったら4段目に当たって2体同時に戦うことになるパターン?!
と思ったらどちらにも当たらなかった。
もちろん7段目にも当たっていないし、地面に当たって少し跳ねてから消えた。
投げた直後は攻撃と判定されてるけど、勢いがなくなったらただの道具になるから、5m以上離れてるせいでアイテムバッグに入ったんだと思う。
「しのぶは投げるのが下手なんだな。わしに任せろ」
源さんがアイテムバッグから片手で持てる小ぶりなハンマーを取り出し、振りかぶって投げた。
クルクルと回転しながら飛んだハンマーは、3段目のロックゴーレムに直撃した。
しかも、背中に当たったんだけどめり込んでる。
この場合は5m以上離れてるけど消えないんだね。
確かにめりこんでる部分を攻撃すればダメージが上がりそうだし、状態異常みたいなものなのかな。
ちなみに4段目のロックゴーレムには気づかれてない。
「ふん!少ししか減っとらんな!」
「行きます!」
「駆け抜ける翼」
源さんはハンマーを持ち直してロックゴーレムに向かって走る。
すでに腰だめに構えてるから横薙ぎに叩きつけるつもりだね。
源さんの言葉通りロックゴーレムのHPは5%ぐらいしかない減ってなかった。
そして、しのぶさんは地走りを使わずに正面から向かっていく。
ここは天井が高いし、壁が遠いから仕方ない。
正面から近くのは危なそうに見えるけど、しのぶさんの速さならロックゴーレムの攻撃は受けないと思う。
僕はツルハシを持ったハピネスを振り回しつつ、ラナンキュラスを飛ばす。
ラナンキュラスはハンマーを持って走る源さんを抜き、しのぶさんも抜いたので、そのまま攻撃する。
「突き抜ける槍!」
槍が伸びて放電を始める。
バチバチと音を立てる槍を、ラナンキュラスの飛ぶ勢いのままロックゴーレムに突き立てる。
ロックゴーレムはラナンキュラスの飛行速度に全く追いついていなかったので、簡単にわき腹に刺さった。
刺さったところから電気が走り、周囲を白く照らした。
「やっ!」
しのぶさんはロックゴーレムの体を足場に駆け上がり、そのまま飛び上がって落下の勢いで苦無を突き刺す。
ただ、リトルロックゴーレムより硬かったのか、刃先が少ししか刺さらなかったみたいで、即座に飛び降りて距離をとった。
「ぬぅん!」
ロックゴーレムがラナンキュラスとしのぶさんに注意を向けてる間に源さんが近づき、横っ腹にハンマー叩き込んだ。
お腹に響く音を立てながら、ロックゴーレムの体勢が崩れて地面に転がる。
音に反応したのか、4段目のロックゴーレムがこっちに向かい始めたけど、今までの攻撃で4割減らせているから、来るまでに倒せると思う。
「突き抜ける槍!」
ハピネスを投げつつラナンキュラスで突く。
源さんもハンマーを何度も振り下ろしロックゴーレムをボロボロにしていく。
表面の岩はヒビが入ったり砕けたりしていた。
「くっ!硬い!」
しのぶさんは苦無を両手に持って倒れたロックゴーレムを何度も切りつけてるんだけど、攻撃するたびに火花が散って弾かれてる。
しのぶさんの近くにハピネスが飛んできてツルハシをたたき込む。
それを見たしのぶさんは苦無を手首の裏にセットすると、アイテムバッグからツルハシを取り出してロックゴーレムき叩きつけた。
少し削れてたから、苦無で攻撃するより効率は良さそうだ。
「終わりだぁ!」
源さんが勢いよくハンマーを叩きつけるとHPバーが砕け散った。
何とか4段目のロックゴーレムが来る前に倒せた。
「しのぶ。これを使え。坊主もだ」
源さんは片手で持つには少し大きなハンマーを取り出してしのぶさんと僕に向けてきたので、しのぶさんと僕は普通に受け取った。
「それで攻撃しろ。ツルハシよりダメージが入るぞ。それに、ヒビが入った場所は脆くなってる。攻める場所はそこだ」
「わかりました」
「ヒビが入った場所ですね!」
僕はハピネスからツルハシを回収してハンマーもたせた。
しのぶさんは普通に持ってるから、いつでも攻撃できるね。
こっちの準備が整ったら4段目のロックゴーレムが3段目に飛び乗ってきた。
その体にはいつの間にか4体のリトルロックゴーレムがくっ付いていた。




