しのぶさんと街へ
蜂を倒した後も、しのぶさんの索敵の元森を進む。
しのぶさんは索敵に引っかかるモンスターに対してとりあえず苦無を投げるんだけど、蜂以降一回も当たってない。
蜂に当たったのもマグレだから、実質一回も当たってないのと変わらないと思う。
挙げ句の果てに苦無を投げた後すぐに飛び出し、腰につけた小刀で切りつけたり、火の玉を出して倒していた。
忍者といえば苦無を投げるイメージがあるから気持ちはわかるんだけど、どうせならスキルで当てられるようにしたらいいと思う。
見つけたモンスターに苦無を投げて一撃で倒せたら格好いいけど、今のしのぶさんを見てると悲しくなる。
努力が実ることを祈ってく。
それに、投擲は残念だけどそれ以外はとても頼りになりそうなんだよね。
索敵もそうだけど、身体能力がすごい。
一度の跳躍だけで木の上に登ってるし、枝足場にして別の木に飛び移ったりもする。
攻撃も強くて、木の上からモンスターに向かって落下の勢いを利用して叩きつけたり、近接戦闘でボコボコにしてる。
どう考えても投擲を練習するより体術を練習するべきだと思う動き方だけど、僕が言っても仕方ないから投擲以外で頼りになることだけ覚えておこう。
「もうすぐ森を抜けます」
「わかりました」
ステップボアが出てくるところから離れていったので、森を抜けるまでに遭遇したのは蜂のモンスターが6匹だけだった。
その全てをしのぶさんが倒したんだけど、苦無を外してから高速で接近。
そこから2、3発殴って倒してた。
ちなみに草のモンスターは無視したよ。
「それじゃあ木工所に行きましょう。今は木の子さんが居ますね」
「キノコさんですか?」
「はい。木の子供で木の子さんです」
木工所を見ると、僕に木材がないと教えてくれた人だけになっていた。
「木の子さん!」
「お。しのぶさんと……さっきの……木が欲しい人だな」
「はい。お願いがあって来ました」
「お願い?わかってると思うが、こんな短時間で木は入ってきてないぞ」
見た所、樵っぽい人は戻ってきてない。
まだ海賊に連れていかれたままなんだね。
「はい。それはわかってます。僕が手に入れた木を加工して欲しいんです」
「手に入れた木?樵には見えないが……武器で倒したのか?」
「そんなところです。そのせいで綺麗に折れてないですけど」
ステップボアは武器じゃないし、ラナンキュラスも……武器じゃないよね。
方法を説明する必要はないから濁したけど問題ないよね。
追求されたら言ってもいいけど。
「わかった。とりあえず物を見たいから1本出すか、取引で渡してくれないか。それと、要望通り加工できない場合は買い取ってもいいぞ」
所有権を移すには取引か手渡し、あとは魔道具を使う方法だけど、ここに魔道具はなさそうだ。
そうなると手渡しか取引だけど、僕が木を持てるわけがない。
だから取引一択になる。
一度地面に出したらもう一度収納するのが面倒だから最初から取引でいいかな。
離れたら勝手にアイテムバッグに戻るのはわかってるけど、収納のために移動するのも変な感じがするし、どうやって入れたのか聞かれるかもしれない。
「それじゃあ、とりあえず全部取引で渡すので確認してください。使えなかったら返してもらえればいいので」
「わかった。それじゃあ取引だ」
木の子さんから取引を申し込まれたので、承認して木を22本選択した。
ステップボアをぶつけて折ったのも、ラナンキュラスの槍や駆け抜ける翼で切った木も一纏めになってたから、選択するのが楽だった。
「22本か。なかなかやるな」
取引画面を見て木の子さんが感心してくれた。
現物を見ても変わらないかな?
なんとなくだけど、ステップボアをぶつけて折った木や、ラナンキュラスの槍で倒した木は品質が悪くなってそうなんだよね。
綺麗に切り倒したのと、重いものをぶつけて折ったのだと切断面が違うし、そうなると木への負荷も変わると思う。
そこはプロの目で判断してもらうしかないけど。
「よし、確認するぞ」
取引を終えると、木の子さんがアイテムバッグから木を取り出し始めた。
アイテムバッグから出てきた木を即座に両手で持って、どんどん並べていく。
木工は力仕事だからか、生産職なのに僕より力があるね。
「これは……斧じゃねぇな。ハンマーか?いや、もっと質量のある物で折ってるし、多い。お、これは斧以上に綺麗に切れてるな。これは穴が空いてるな。槍か?」
木の子さんは検分しながら出していってるんだけど、槍と質量のある物っていうのは当たってる。
綺麗に切れてるのはラナンキュラスの駆け抜ける翼だし、穴が空いてるのはラナンキュラスの槍。
質量があるのはステップボアだ。
「確かこれぐらいに切ればよかったんだよな?」
「そうですね。このぐらいのサイズです」
「なるほど」
木の子さんが手で長方形を示してきたので、アイテムバッグからカシンの木材を取り出してみせる。
すると木の子さんが指をカシンの木材に当てて、サイズを確かめた。
納得してるし大丈夫そうだ。
「受け取った木材は質が悪いのが多い。その木片は数を減らして質を上げるか、それとも質を落として数を増やすかなんだが、どうする?」
腕の素材にするなら数でいいと思うんだけど、質が悪い素材ばかりあっても嫌だ。
どれくらい取れるか聞いてから決めよう。
「1つの木からどれだけ作れますか?」
「そうだな……。質なら5、数なら10ってとこだ」
「じゃあ質でお願いします」
22本あるから110本になる。
腕1つに3つだから、右腕の作成数は達成できるね。
質のいい腕を作っておけば左腕や、その先を作った時にそのまま使えると思ったから質にした。
「わかった。それと相談なんだが、加工費を安くする代わりにいくらか木を譲ってくれないか?」
「何本必要ですか?」
「1本から割引、5本で無料だ。ただし、無料にする場合はあの切り口は綺麗なやつも含めてくれ」
木の子さんはラナンキュラス翼で切った木を指差してる。
ラナンキュラスの翼で切ったやつだ。
今はお金に困ってないけどいつ必要になるかわからないし、無料になるならいいかな。
別に木で人形を作らないとダメってわけじゃないし。
石で作ってもいいからね。
「わかりました。あの木を含めて5本渡すので無料でお願いします」
「助かる!期限はあるか?普通にやれば明日の朝にはできてると思うが……」
「急いでないので明日の朝できていればいいですよ。昼前には取りに来ます」
「わかった。それじゃあ連絡するためにフレンド登録しておきたいんだが、大丈夫か?」
「はい。問題ないです」
木の子さんからフレンド申請が来たから、即座に承認した。
これで何かあっても連絡がもらえるようになった。
「それでは、よろしくお願いします」
「あぁ。完成したらメッセージは入れるからな」
「はい」
「木の子さん頑張ってください」
「おう。しのぶさんもな」
木の子さんと別れて街へ続く道へ向かう。
後ろから木を切る音が聞こえてきて、さらにその音を隠すように大きな水の音も聞こえてきた。
どうやら主と戦ってる人がいるようだ。
「今更ですけど、しのぶさんがこのまま街へ行って大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですけど、どうしてですか?」
「開拓メンバーとして作業とかあると思ったんですけど」
「あぁ。戦闘組はもう殆どやることがないんですよ」
「そうなんですか」
「はい。今は開拓メンバー以外も訪れるようになりました。なので、モンスターに対する警戒人手を割かなくても何とかなるという結論にもなりました」
「確かに人はたくさんいますね」
今も森へ向かうパーティとすれ違ったところだし、湖の周りにも2、30人はいた。
これならあの辺に出てくるモンスターが来ても問題ないと思う。
ステップボアが来たとしても下手にすぐに倒されるはずだ。
「森をでましたね。ブラウンラビット達は無視して進みますよね?」
「そうですね。戦う必要はないです。素材が必要なわけでもないです」
しのぶさんが僕に確認してきたので、ブラウンに用はないことを伝えた。
用があるとしたらしのぶさんだと思う。
苦無投げの練習とか。
もしそんなことを言い出したら引っ張っていくけどね。