反省会
マサムネちゃんとの対戦に勝ったんだけど、何で開始は『fight』で勝ったら『勝利』なんだろう。
『winner』でいいんじゃないかな。
と思った瞬間『勝利』の文字が『winner』に変わった。
読みたい文字で見えるんだ……。
ということは僕にとっての対戦開始の合図は『fight』だったんだね。
マサムネちゃんだと『始め』になるのかな。
目の前に倒れている沢山の木から現実逃避をしていると、目の前に横たわっているマサムネちゃんの体が光り、砕け散ったHPバーが元に戻り始めた。
マサムネちゃんの横に転がった刀身が折れた刀も光り、周囲に散った破片を集めて元に戻るし、奥にたくさん倒れてる木も光から破片を吸い込むように集めて元通りになる。
想像していたのと違うんだけど……。
何で逆再生のように戻るんだろう。
パッと戻せばいいのに。
クローバーやハピネスの服も逆再生で元に戻るし、ラナンキュラスも同じだ。
元に戻るラナンキュラスを見ていると、破片が集まった体はくの字に曲がってヒビが入っていた。
そして、ヒビが直りながら体が普通の体勢になった。
殴られてヒビ割れながらくの字になって、その後破裂したみたいだね。
マサムネちゃんはスキル名を2つ言ってたから、最初のスキルで殴って、次で破裂させたんだと思う。
確か『浸透撃』と『破砕』だったはず。
今度からこのスキル名を聞いたすぐに鏡写しの盾を使いつつ、人形を手元に寄せよう。
ラナンキュラスが狙われるとは限らないし、そもそも出してるかもわからない。
それに、間に合うかもわからないけど壊されるよりはマシだ。
人形を手元に寄せてる間にラナンキュラスがカバーに入れるかもしれないからね。
『マサムネから対戦が申し込まれました。』
え?
ウィンドウが表示されたから目を通したら、またマサムネちゃんから対戦を申し込まれた。
当の本人は寝転がったまま顔だけこちらに向けてメニューを操作してる。
もちろん拒否だ。
『マサムネから対戦が申し込まれました。』
また申し込まれたので、拒否。
『マサムネから対戦が申し込まれました。』
しつこいなぁ。
よっぽど悔しいんだろうけど、拒否。
『マサムネから対戦が申し込まれました。』
「これ以上申し込むならブラックリストに入れるよ」
「うぅ……。ごめんなさい……」
拒否を選んでもマサムネちゃんから挑まれなかった。
ブラックリストに登録したとしても離れたら解除するつもりだったけど、反省してくれたからブラックリストに入れることはしないでおこう。
もし諦めずに挑んできてたら問答無用で入れてたけどね。
「うー!負けたー!悔しいですー!!」
マサムネちゃんは子供のように腕や足をジタバタと振ってからピタッと止まった。
これは昔からの癖で、負けた後いつもこうなるんだよね。
しばらく暴れたら満足するのか吹っ切れるんだけど、それまでに声をかけたらすごい勢いで愚痴を話すから、僕とナックルの中では落ち着くまで放置することになってる。
「ふぅ……ちょっとスッキリしました」
マサムネちゃんは刀を掴んで足の勢いだけで起き上がった。
そして、気づいたら周囲にしらたま達がいた。
マサムネちゃんの対戦依頼を断ってる間に復活していたらしい。
「じゃあ、反省会しましょうか!」
「反省会?」
「はい!せっかく対戦したんです。気づいたところは教え合いましょう!」
「別にいいけど……どんなことを言えばいいの?」
僕は格闘技をしているわけじゃないからマサムネちゃんの悪い所なんてわからない。
しいて言えばしつこい所かな。
まぁ、それも仲のいい人にしかやらないから許せるんだけどね。
「そうですねぇ……。人形を同時に操るのに慣れてないところと、あの黒い技を使うタイミングが悪かったと思います」
「なるほど。そういう事を教え合うんだね。えっと、4体操作何だけど、ラナンキュラスを手に入れたのはついさっきだからまだ慣れてないんだ。マサムネちゃんに襲われたのも操作練習してた時だし」
「うっ……その点はすみません……」
別に責めてるわけじゃないし、結果として対戦のおかげでハピネスとクローバーの腹部機巧が使えたから感謝してるんだけど、負けたショックで落ち込んでるマサムネちゃんには毒だったみたいだ。
いつもなら明るく返してくるのに。
「別に怒ってないよ。対戦のおかげで色々成長できたから感謝してるくらいだし」
「え?感謝ですか?」
「うん。消耗が激しくて使えなかった技を使えたからね」
「そうなんですか。それは良かったです!」
マサムネちゃんが元気になった。
服と人工スキンの消耗が激しいから嘘じゃないし、機巧が使え良かったのは本当だからね。
「うん。だからありがとう。それで話を戻すけど、黒い技ってマサムネちゃんの伸びた剣を消した黒いモヤのことだよね?」
「そうです!鬼殺しを消したあの黒いのです!あれは視界を遮るので使うタイミングには注意した方がいいですよ。私がスキルを使う前からあの羽の生える子が空中で静止してたんです、ただの的でした」
「あー。マサムネちゃんの攻撃に気を取られていたからね。今度使うときは注意するよ」
迫ってくる刃を防ぐことに意識を向けてたから、ラナンキュラスの操作どころかハピネス達の操作も忘れてた。
目の前に危機が迫ってたからそれに集中しちゃうのは仕方ないと思うんだけど、それだと人形使いとしてダメだと思う。
これは練習あるのみだ。
まずは4体同時操作に慣れないと。
「大きいのはこれぐらいですね。他にも分散した後の押さえ込みが甘いとか、オキナさん自身が棒立ちになっているのはマズいとかですね」
「仰る通りです……」
しらたまが脅威だから糸で縛ろうとして失敗。
その後他のテイムモンスターに糸を放つこともせず焦ってた。
もしもいちごやチョコ糸が付けば、ハピネスやアザレアで簡単に倒せたかもしれないし、あるいは糸が付いて動けないモンスターを放置してしらたまの方に来させることで、僕への注意を散らせたかもしれない。
そうすれば離れることもできたし、しらたまじゃなくてマサムネちゃんの方に向かわせれば攻撃を当てられたかもしれない。
そもそも操作に慣れてないラナンキュラスを向かわせたのも間違いだったかもしれない。
考えることが多い……。
「次はオキナさんからです。私に何かありますか?」
「うーん。最初からしらたま達と一緒に戦わなかったのはどうして?」
「あー。それは私の暴走です……。抑えきれなかったので飛び出しちゃいました」
「そうなんだ……」
コメントしづらい。
そこまで戦いたかったんだろうけど、その気持ちはわからないし。
「一斉に襲われてたら対処できなかったと思うんだ」
「たぶんそうですね。しらたまに翻弄してもらってる間に、私が切って終わりだったと思います」
開幕早々しらたまに迫られたら慌てて全員向わせそうだ。
そうなると僕は無防備になるからマサムネちゃんに切られて終わりだ。
「あとは最後の攻撃を避けなかったことかな。ステータスが低下しているとはいえマサムネちゃんなら避けられたよね?」
「そうですねぇ……。ギリギリ避けられたと思います。でも、そうしたらチョコを守れないじゃないですか。まぁ、結果として守れませんでしたけど」
マサムネちゃんがクローバーの魔砲を切ろうとしてたのはチョコを守るためだったのはわかってるけど、結果として負けたら意味ないと思うんだけど、テイマーとしては我慢できなかったんだろうね。
僕もハピネス達が壊されるか死に戻るか選択するなら死に戻るだろうけど、それはハピネス達を修理できないからだし……。
「最後の攻撃を避けられてたら僕は負けてたよね?」
「うーん。どうでしょうか。人形に囲まれたら負けてたかもしれませんよ?まぁ、全力で抵抗したはずですし、槍と同程度の攻撃だったらステータスが下がっていても捌けたと思います」
「そうなると普通の攻撃は当てる自信はないから負けてたと思うよ」
マサムネちゃんはクローバーの魔砲全MPを消費する機巧だって知らないから、あれを避けられたら人形を動かせないから攻撃できないんだよね。
動かすためにはマナポーションを飲む必要があるけど、たぶん飲む前にやられる。
対戦中のマサムネちゃんが飲みことを許してくれるとは思えないし。
「そうですか。あ。もう1つ反省点がありました」
「まだあるんだ」
「はい。しのぶちゃんに人形が増えたことを伝えてないですよね?」
「え?しのぶさんに?うん。まだ伝えてないね」
そういえば新しい人形が増えたら連絡してくれって言われてたっけ。
手に入れたばかりだし、近いうちに会うからいいよね。
「なぜですか!!」
「うわっ?!」
いつの間にか背後にしのぶさんが居た。




