限界高度25m
武器を拾わせたラナンキュラスを木の前に立たせる。
機巧の確認をしたいんだけど、アザレアみたいに殴るだけの武器じゃないからちょっと練習しておきたいんだよね。
なので、槍の構えなんてわからないから、ミヤビちゃんの構えを見よう見まねで取らせる。
左足を前に出して肩幅よりも開いて半身にさせ、重心を前に移動させる。
左手で持った盾を肘を曲げて体を守るようにして、右手で持った槍を肘を引いて、腰より少し上で構えさせる。
とりあえずこれでいいかな。
次にミヤビちゃんの戦闘を見ることがあればじっくり見させてもらおう。
もちろん事前に許可は得るよ。
右足で蹴り出して右腕を突き出すと、槍が木に当たったんだけど刺さらずに弾かれた。
威力も全然出てなかったし、当たった時の音はガンッだったし、突いたというより叩いたという感じだった。
突くにはどうすればいいのかな。
ミヤビちゃんの戦い方を思い出そうとしてるんだけど、攻撃する時の動きまでは覚えてない。
確か螺旋槍ってスキルを使った時は、抉り込むように腕を内側に捻ってたし、肩や背中、足も動いてた気がする。
そういえばナックルもパンチを放つ時は全身を意識してるって言ってた。
確か、攻撃で使う部分から離れたところを1番最初に動かして、筋肉が引っ張られたことで他の部分が連動して動くから、無駄と負荷が少なくて威力の乗った攻撃ができるんだよね。
腕や肘だけだと相手を怯ませる程度の弱攻撃、腰や背中を使ってダメージを与える中攻撃、足も使って勢いをつけたりするとトドメの強攻撃って覚えた思い出がある。
ナックルの説明だと筋肉の動きを説明されてよくわからなかったし……。
この考えでいくと、さっきの攻撃は腕だけでやったから弱攻撃だ。
次は肘や肩を意識して、捻り込むように突き出せばいいはず。
「おぉ……」
やってみると木に穴が空いた。
人形には筋肉はないけどパーツは繋がってるから、連動して動く。
それに、最初とは違って僕の頭の中にこう動かそうというイメージができてるのも大きい。
人形は指示を出せばその通りに動くんだけど、動きをイメージできてなかったら指示が不十分になる。
ハピネスの剣やアザレアのメイスは単純だから僕でも想像できたからうまく動かせたんだろうけど、槍はそうはいかなかった。
槍を持った時の動きなんてイメージできないから、結果としてただ手に持った槍を前に突き出しただけになった。
けど、これからは違う。
ちゃんと槍を使う時のイメージをもって操作するからね。
次は同じ木に助走をつけて槍を突き刺してみた。
すると、2つめの穴が空いた木がゆっくりと倒れはじめ、ある程度傾いたところでバキバキと音を立てながら倒れた。
ラナンキュラスがいればステップボアがいなくても木を倒せるね。
あとは盾を持った左手を振り回して攻撃を弾く練習をしたり、咄嗟に盾を構える練習をしたあと、ステップを使って移動させたりした。
これで、とりあえずの攻撃と防御の動きは把握できた。
次は機巧だ。
まずは右手に持った槍の機巧『突き抜ける槍』だ。
突き抜ける槍は消費MP10で、槍を伸ばして雷を纏わせる。
この状態で攻撃すれば突いたダメージに加え雷属性のダメージも与えることができる。
しかも、防御無視。
相手が離れていても突けば雷だけが迸ってダメージを与えることができるらしい。
ただし、この攻撃は防御無視じゃないみたいだ。
あくまで突いたり叩いたりした時に雷を纏っていると防御無視になるみたいだから、硬い敵を遠くから一方的に攻撃するのは無理だ。
「突き抜ける槍」
正面から見ると2重だった槍の内側が伸びて、長さが1.5倍ぐらいになった。
元からラナンキュラスより長かったけど、今は僕の身長ぐらいある。
しかも、伸びた直後から雷を纏っていて、青白い稲妻が槍の周囲をバチバチと飛んでいる。
解除方法は一度攻撃するか時間経過なので、何もないところに向けて槍を横薙ぎに振ってみたところ、槍から雷が出て槍が元の長さに戻った。
これが遠距離攻撃をする時の動きだね。
試しにもう一度スキルを使って、今度はなぎ払いではなく突きを出させた。
すると槍の穂先が向いてる場所に雷が放たれ、槍が元の長さに戻った。
突くと一直線、薙ぎ払うとその軌跡に合わせて放射される。
威力は突きの方があるらしいけど、乱戦時には薙ぎ払いが便利そうだ。
次は左手に持った盾の機巧『鏡写しの盾』。
最低消費MP10で、盾の表面が消費したMPの分だけスキルや魔法を跳ね返すようになるんだけど、ここだとそういうモンスターがいないから試せない。
そもそも魔法はともかくスキルを使ってくるモンスターはいるのかな。
殆ど対人用な気がする。
「鏡写しの盾」
とりあえずMP10だけで発動してみた。
ラナンキュラスの持っている盾の表面にはガラスのようなものがはめ込まれてて、その奥にある2つの羽のマークが見えるようになっていたんだけど、機巧を発動したらガラス部分が鏡になって見えなくなった。
この鏡の部分で跳ね返すみたいだから、淵で受けても効果はなさそう。
そして、一度発動すると何かを跳ね返すか、収納するまでは発動しっぱなしみたいだ。
まぁ、継続して消費するわけじゃないからいいけどね。
次は口の機巧『神に仇なす者への裁き』なんだけど、これも使えない。
消費MP10で口から正面に向けて、裁きの言霊という名の光の玉を出して、当てた相手の強化状態を逆転させるんだけど、これもここでは練習できない。
強化するモンスターがいないし。
なので、この機巧は使う相手が出てくるまで保留にする。
最後は腹部機巧『駆け抜ける翼』なんだけど、使うと背中のスキンが破けるんだよね。
MP50消費で背中から白い羽を生やして飛行可能になる。
しかも、その羽は刃にもなっているみたいで、すれ違う瞬間に当てれば切ることができるから、飛び回りつつ槍で突いて、さらに羽で切れば相手を翻弄できる。
でも、スキンが破けるんだよね。
同期操作を使えば僕が飛べるし。
誘惑がすごい。
ハピネスは体から刃を生やし、クローバーは全MPを消費して強力な一撃を放つ。
アザレアはテンペストバードの時に使った周囲のMPを吸収。
どれも同期操作を使った状態で使いたい機巧じゃないんだけど、ラナンキュラスは違う。
空を飛べるってことは、普段とは違う目線で色んな景色が見れるからね。
「駆け抜ける翼」
誘惑には勝てなかった。
ラナンキュラスの背中から方ほうの翼だけでラナンキュラスを覆えるほど大きな翼が左右1枚ずつ生えた。
ただ、もふもふじゃなくてツルツルとした感じで、厚みも全然ない。
鳥の翼を想像してたんだけど、魔力で生み出されたせいか横から見るとすごく薄い。
この薄さで相手を切るんだろうけど。
「あれ?」
ラナンキュラスを飛ばさそうと翼を動かしたんだけど、飛べないどころか少しも浮かなかった。
翼を動かして飛ぶんじゃないのかな。
試しに浮かぶように命令してみるとふわっと浮かび上がった。
翼は攻撃用で飛行には関係ないのなら、ただ空を飛ぶ魔道具を付ければ良い気がするんだけど、何かコンセプトでもあったのかな。
神やヴァルキリーなんて名前のついてる機巧があるから、天使をイメージしてるのかもしれない。
「おぉ……。スパッと切れた」
ラナンキュラスの翼を木々にぶつけてみると、いとも簡単に切れた。
さっきまでの苦労はなんだったんだろう。
ただ、切ったことで消費したのか翼が少し小さくなった。
飛んだり浮かんだりしている間は小さくならないから、攻撃すると消費するみたいだ。
装備品でいう耐久値だね。
飛行速度は結構速くてシロツキ達と同じか少し遅い程度で旋回もしやすい。
急停止もできるからシロツキ達よりトリッキーな動きができると思う。
翼を出して高速で動きながら槍で突いたり、盾で守ったりするのがラナンキュラスの戦い方だと思う。
モンスターの出るフィールドに入ってすぐに翼を生やして、それ以降攻撃に使わなければずっと飛んだ状態で戦える。
そうすればラナンキュラスの起動力を活かせると思う。
ラナンキュラスの方針が決まったので次だ。
「同期操作」
目の前に浮かべたラナンキュラスにスキルを使うと、一瞬視界が明滅した後、目の前に崩れ落ちる僕の姿が映った。
立ったままスキルを使ったから当然だね。
空を飛びたい気持ちが強くて、座ることを忘れてた。
まぁいいや。
それに、同期操作を使った時点で糸が切れるから、もう一度|駆け抜ける翼を使わないといけないかと思ったんだけど、翼は消えてなかった。
糸が切れると人形達は動かなくなるし、機巧も止まるはずなんだけど、同期操作は例外なのかもしれない。
MP50分得したと思っておこう。
早速飛んでみると、思った方向に飛べるし旋回も急停止も思いのまま。
ラナンキュラスの体だからか妙に軽いし、風の感触も心地いい。
結構な速度なんだけどね。
高さは同期操作の限界距離の25mまでしか飛べなかったんだけど、それでも森を上から見れるてとてもいい景色だった。
ただ、少し先に一面焼け焦げたところがあったんだけど、あそこで大きな戦闘でもあったのかな。
もしかしたらボスモンスターがいるかもしれないから近づくつもりはないんだけど、少し気になる。
森の生き物が森を燃やすとは思えないからプレイヤーだと思うんだけど、ジッと見てても焼けた木ぐらいしか見えない。
何だったんだろう。




