つかみ取りと水底に住む者
STが回復するまでどうやって時間を潰そうか考えてたんだけど、メッセージが来てたので確認することにした。
差出人はミヤビちゃんで、今日の20時ぐらいはどうかという内容だった。
僕は問題ないけどしのぶさんがどうかわからないから、しのぶさんに聞こう。
ミヤビちゃんにはもう1人にも聞いてみるって返事しておいた。
2人にそれぞれメッセージを送っていたらSTが回復していたので、もう一度潜ってみようと思う。
その前に水中でスキルが使えるか試すけど。
意味はないかもしれないけど、息を大きく吸って勢いよく潜る。
水中で目を開き、近くにあるキラキラ光る石に向かって指を指す。
「ごぼぼっごっぼぉ」
さすがに何も起きないと思いきや、指先から糸が出て石にくっ付いた。
水中でもスキルを使うことができるみたいだけど、STが大きく減る。
よく考えたら水中でも戦闘はあるだろうし、スキルが使えないと戦えないだろうし、おかしくはないのかな。
魔法の場合はMP以外にSTを消費するみたいだけど、元からST消費を消費するスキルはどうなるんだろう。
消費STが増加するんだと思うけど、そうなるとそういうスキルばかり持ってる人は苦労しそうだ。
まぁ、水中戦なんてそう頻繁にあるとは思わないけど。
「ぶはっ」
糸を付けた石を回収して減ったSTの回復を待つ。
メッセージも来てないから、やることがない。
だから、アイテムバッグから拾ったばかりの光る石を取り出して、この石を捨てるように意識して崖に投げ込んでみる。
これで、所有権が破棄されるらしいので、アイテムバッグに戻ることなく落ちて行くから、どれだけ深いかわかるかもしれない。
崖のギリギリに立って石を落とす。
思ったより速く落ちて行く石は……闇に飲まれた。
光がなくなったのか、どこかの隙間に入ったのか、あるいは生き物の陰に隠れたのかはわからないけど、少なくとも水面からは見えなくなった。
生き物だったらモンスターの可能性もあるから、潜るのは控えた方がいいかもしれない。
水中でスキルを使えるとはいえ僕だけで戦えるとは思えないし、相手がブラウンラビットレベルだとしても、水中で糸を付けて振り回すのは水の抵抗があるからうまくできない。
ハピネス達なら呼吸も不要だから同期操作でいけるかもしれないけど、最大潜行可能距離は25mだから、水底までたどり着けるかわからない。
もしたどり着けたとしても、光の届かない水底の暗闇の中で活動できそうなのはアザレアだけだ。
と言っても光の魔石に切り替えればなんとかなりそうって程度だけど。
僕もダメ、ハピネス達もダメとなると残ったのは腕だけだ。
糸を付けて沈めればいけるかな。
糸を伸ばしながら腕を下ろして、それ以上降りなくなったら指を使って移動すればなんとかなりそうだけど……。
人形というよりモンスターみたいな動きになりそう。
「繰り糸」
少し悩んだけど、とりあえずやってみることにした。
カシンの腕だと浮くかもしれないから鉄の腕を取り出し、糸を付けて崖じゃなくて足元に沈めてみた。
鉄だから動けないかもしれないと思ってたけど、糸のおかげで腕をまっすぐ上に上げれるから水底を引きずることなく動けそうだし、僕が引っ張るせいで全部の重さがかかってないから指先を立てて移動もできた。
カサカサと動いてるけど問題なく移動できるし、とりあえず光る石を見えるように握らせて崖から落としてみた。
魔力の糸がうっすらと光ってるおかげで、沈んでいってる様子もよくわかる。
これなら目印として握らせた石はいらなかったかもしれない。
引っ張られると糸をある程度伸ばすということを何度も繰り返していると、引っ張られなくなった。
どうやら崖からまっすぐ落とした底についたらしい。
さらに滝の方に進めばもっと深くなるかもしれないけど、とりあえず糸しか見えない状態だけど周囲を適当に掴ませて引っ張ってみる。
一気に糸を縮めて鉄の腕を回収すると、手には大きな白い貝があった。
貝に手で触れると光になったので、モンスターじゃなくてアイテムみたいだ。
これで、水底のアイテムは拾えそうだけど、見えないのが問題なんだよね。
一度アザレアをのボールを試してみようかな。
「|人形の館、アザレア来い。……おっと」
アザレアは水面より上に出て来たので、水没する前に何とか掴んだ。
僕自身が濡れてるからアザレアの服も少し濡れたけど、水中に突っ込むよりはマシだ。
アザレアは僕の前に出て来たから、掴まずにそのまま沈んでいたら崖下に一直線だった。
といっても5m沈めばアイテムバッグに入るだろうけど。
「繰り糸、魔法少女の杖・光」
糸を繋いで白い魔石に切り替え、メイスの先を崖下に向ける。
あとはボールを放って、その光を頼りに鉄の腕でアイテムを拾うだけだ。
放ったボールがモンスターに当たって戦闘にならないことを祈ろう。
「ボール」
アザレアのメイスから放たれた光の玉は、水面で弾かれることなく中に入っていった。
上から見ても問題なく周囲を照らせてる。
これなら鉄の腕の補助ができる。
鉄の腕を、光の玉を追うように沈め、その間に照らされた物を観察して目星を付ける。
貝やヒトデ以外にも色取り取りの珊瑚があった。
魚も銀系から青やオレンジのカラフルな色使いだった。
惜しむとすれば、ボールの照らす範囲がそこに行けばいくほど小さくなることだ。
今はほとんど見えなくなってる。
一応崖に沿って真っ直ぐ放ったので、後を追った鉄の腕はヒトデ以外にも珊瑚や青い鉱石など様々な物を取ることができた。
「ん?」
少しずつ横にずれながらボールと鉄の腕のセットでアイテム回収していると、収集している所よりもさらに深い所で何かが動いたように見えた。
しばらくジッとして様子を伺ったけど何も起きないし、同じ場所にボールを放っても何も見えなかった。
多分魚かモンスターだろうけど問題ないよね。
何度もアイテム回収していると少しずつ地形がわかってきた。
今アイテム収集している場所から先も崖になっていて、まだまだ先がある。
今は腕で探索する所に加えて、その先の崖下にもボールを放って、できるだけ広範囲照らしてる。
深ければ深いほど光が小さくなるから数で対応してみたんだけど、そこまではっきりと見えない。
それでも、何箱というか人工物みたいな物があったように見えた。
意を決して一段深いところに向けて鉄の腕を進ませながらボールを連射して視界の確保に努める。
「ん?今何か通ったような……」
連射してるボールの光が一瞬遮られたように見えた。
アザレアでボールを放つのをやめ、糸の放つ淡い光を注意深く見たけど、しばらく待っても何も起きなかったから探索を再開することにした。
何度も繰り返しボールを放って照らしてみると、箱だと思った物は大きな岩だった。
結構大きな岩だったから目印にしやすいと思うんだけど、岩のせいで周囲に何があるか見えない。
仕方ないから近場に生えていた蔦のような物の先に青い花っぽい塊がいくつか付いてる草を掴み、腕を引き上げる。
勢いよく引き上げて青い塊取れたら嫌なのでゆっくりと縮める。
「うわっ?!」
ゆっくりと引き上げていたらいきなり引っ張られて水中に落ちた。
いきなりの事だったので踏ん張ることもできず、一気に崖下に引きずりこまれる。
何に引っ張られてるかわからないけど、モンスターの可能性が高い。
だから、アザレアを離して僕だけが沈んでいく。
なぜか糸を切ろうと意識しても切れないので、このまま水中で戦うことになってもアザレアをうまく使える気がしない。
場合によってはアザレアが攻撃されるかもしれないし。
僕の手から離れたアザレアはすぐに光になって消えたから、数秒で5m離れたんだと思う。
一体何に引っ張られてるんだろうか。
周囲が暗くてよく見えないし、深くなるにつれてSTの減りが早くなったせいでもう残り少ない。
STが無くなった状態で水中にいたらHPが減るんだろうか。
何度も糸を切ろうとしても切れないので、逆に糸を出してみることにした。
他にやれることもないし。
「ごぼぼっごっぼぉ!」
たぶん鉄の腕にくっ付いていてるはずの糸から少しズラして糸を放つ。
繰り糸を使ってSTが0になり、それでもまだ足りなかったのかHPも減った。
そして、HPは今もジワジワと減ってる。
しばらくかかって糸が何かに当たり、一瞬で弾けた!
プニおさんに繋いだ時は千切れただけなのに、弾けるってプニおさんより強いモンスター?!
『繰り糸のレベルが4になりました。左手中指から糸が出せるようになります。スキル使用時に伸ばしている指から出ます』
繰り糸のレベルが上がった。
これでダブルピース状態で糸を出せるけど、今空いてる3本を放っても効きそうにない。
できればこの状況を抜け出せる何かが欲しかった。
『繰り糸のレベルが5になりました。右手薬指から糸が出せるようになります。スキル使用時に伸ばしている指から出ます』
え?!
今レベル上がったばかりだけどもう1つ上がるってどれだけ強いモンスターなんだ?!
残りHPが半分を切った。
ステータスバー視線を向けるついでに水面を見上げたけど、遥か先に光を反射して煌めいてる水面が見えた。
絶対に助からない距離だ。
諦めて切れない糸を短くしていく。
どうせならモンスターを見て死にたい。
糸を短くするとさらに深くなり、糸の光しか見えなくなった。
そしてさらにHPが減る速度が早くなる。
このままだと見る前に死ぬんじゃないかな。
どうせだし、やれるだけやってみよう。
「ごぼぼっごっぼぉ!」
4本の糸を同時に出す。
そしてHPが1桁に突入する。
糸はすぐ近くで弾け、その光で相手の一部が見えた。
竜だった。
長い首と大きな角。
ヒレのようなものも見えた。
その竜は僕を見ると口を開けて水を吸い込んで、僕を引き寄せる。
と同じぐらいの牙が見えたと思ったら、それが迫ってきて視界が真っ暗になった。
少しの痛みと共に僕のHPが消し飛んだ。
そして一瞬見えたウィンドウ。
『フルレイドバトルに失敗しました』
ステータス
名前:オキナ
種族:人族
職業:人形使い☆5
Lv:9
HP:180/180
MP:910/910(10)
ST:118/118
STR:18
VIT:18
DEF:42(24)
MDF:180
DEX:340
AGI:18
INT:365(5)
LUK:50
ステータスポイント:残り26
スキル
〔繰り糸Lv:5〕〔人形の館Lv:3〕〔同期操作Lv:2〕〔工房Lv:2〕〔人形作成Lv:1〕〔自動行動Lv:1〕〔能力入力Lv:1〕〔自爆操作Lv:1〕 〔衣装替えLv:1〕 〔|堅守Lv:1〕
スキルスロット:空き0
スキルポイント:残り9
職業特性
通常生産系スキル成長度0.01倍
通常魔法使用不可
武器装備不可
重量級防具装備不可
装備
・武器1:装備できません
・武器2:装備できません
・頭:なし
・腕:なし
・体上:なし
・体下:なし
・足:なし
・アクセサリー1:なし
・アクセサリー2:なし
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竜は鉄の腕を食べようとしただけなので、引きずりこまれた時点ではフルレイドバトルは発生していませんでした。
オキナが糸をぶつけた時点で発生したのですが、ウィンドウに気づくとこともなくやられてしまい、失敗の画面だけ目に入りました。
薄っすらと光る糸、光る玉に照らされる黒い腕。
疑似餌です。
釣竿ごと持っていかれたパターンです。
そもそも一撃でHP殆どを持っていくロックゴーレムがいたフィールドのさらに先のフィールドですし、解放された北の鉄鉱山のアイアンゴーレムですら他の冒険者は苦戦しています。
そんなフィールドを更に下へと進んだので、適正レベルに全く届いていません。
でも、こういうのも冒険ですよね。
 




